問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

APhO の問題を発展させる(1)

著者:柚木芹香

APhO の4題を改題し,装置の限界を調べます.交流と薄膜の測定には第14〜17・23・27章を使います.双極子と光子の散乱には第5〜8・13・22・29章を使い,相対論の式も問題文に示します.

総合演習 65

APhO 2003 第1問(改題) ★★★★☆

交流測定で容量と内部抵抗を分ける

未知素子を容量 C と一定の直列内部抵抗 r≥0 で表します.外部抵抗 R=1.00×103Ω を直列接続し,実効値 Ve=6.00V の正弦波で駆動し,外部抵抗の実効値電圧 VR,e を測りました.電圧計の負荷と配線のインダクタンスは無視します.

ω(rads−1)

1.00×103

2.00×103

4.00×103

VR,e(V)

4.04

4.97

5.32

交流電源,外部抵抗 R,未知素子の内部抵抗 r と容量 C を直列につなぐ.電源の実効値は V_e=6.00 V,外部抵抗は R=1.00×10³ Ω である.電圧計は外部抵抗 R だけに並列接続し,実効値 V_{R,e} を測る. 交流電源,外部抵抗 R,未知素子の内部抵抗 r と容量 C を直列につなぐ.電源の実効値は V_e=6.00 V,外部抵抗は R=1.00×10³ Ω である.電圧計は外部抵抗 R だけに並列接続し,実効値 V_{R,e} を測る.
  1. 複素振幅を使い,VR,e の式を導け.Y=(Ve/VR,e)2,x=ω−2 を使う直線化を示せ.

  2. 両端の値から r,C を求め,中間の値を予測せよ.r=0 の模型も検討せよ.

  3. ω=2.00×103rads−1 で外部抵抗を交換する.外部抵抗の平均電力を最大にする条件と電力を求め,電源と比べよ.

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考え方

集中定数回路を仮定し,傾きと切片で容量と損失を分ける.

  1. V(t),I(t) を V^eiωt,I^eiωt の実部とする.V^=2Ve,X=1/(ωC) とおけば

Z=R+r+1iωC=R+r−iX,I^=V^Z,VR,e=RVe(R+r)2+X2.

従って Y=A+Bx,ただし A=(1+r/R)2,B=1/(R2C2) である.

  1. 表の両端を1,3と書くと,B=(Y1−Y3)/(x1−x3),A=Y3−Bx3.代入して A=1.20973,B=9.95935×105s−2 で,

r=R(A−1)≃1.00×102Ω,C=1RB≃1.00×10−6F.

中間の電圧は 4.9678V で表と合う.r=0 では切片1となり,両端を説明できない.

  1. 交換後も R と書く.D=(R+r)2+X2,Ie=Ve/D より PR=Ve2R/D.微分すると

dPRdR=Ve2r2+X2−R2D2,R∗=r2+X2.

微分は正から負へ変わる.R∗≃5.09×102Ω,PR,∗≃2.96×10−2W.容量の周期平均の仕事は0で,電源は内部損失も含め PR+Ie2r≃3.54×10−2W を供給する.配線長 ℓ,寄生インダクタンス Ls に対し ωℓ/c,ωLs/|Z| が十分小さいことが条件である.

総合演習 66

APhO 2002 第3問(改題) ★★★★☆

干渉縞で分子の付着障壁を測る

気体分子の付着で,屈折率 n=1.50 の一様な膜を作ります.気体圧力 p と基板温度は一定,気体温度 T は変更します.分子質量は m=5.00×10−26kg,1個あたりの膜体積は Ω=3.00×10−29m3 です.膜に向かう法線速度 vz>0 が mvz2/2≥Ea を満たす分子だけ付着します.再蒸発,表面拡散,気体の枯渇は無視します.

気体の数密度は ng=p/(kBT),法線速度の確率密度は

F(vz)=m2πkBTexp⁡(−mvz22kBT).

真空波長 λ=600nm の光を垂直入射させると,隣り合う反射極小の間隔は,T1=300K で Δt1=40.0s,T2=600K で Δt2=4.00s でした.空気,膜,基板の順に屈折率は大きく,多重反射と吸収を無視します.kB=1.38×10−23JK−1,1eV=1.60×10−19J とします.

法線速度 v_z>0 の分子が膜に向かう.膜の屈折率は n=1.50,膜厚は d で,その下に基板がある.真空波長 λ=600 nm の光は垂直に入射する.上面で反射する光と,膜を通って下面で反射する光を,横に分けて示す.各光路の入射光と反射光は同じ鉛直線上を逆向きに進む. 法線速度 v_z>0 の分子が膜に向かう.膜の屈折率は n=1.50,膜厚は d で,その下に基板がある.真空波長 λ=600 nm の光は垂直に入射する.上面で反射する光と,膜を通って下面で反射する光を,横に分けて示す.各光路の入射光と反射光は同じ鉛直線上を逆向きに進む.
  1. 分子の到達率 J と,付着する割合を積分から求め,膜厚の増加率 dddt を示せ.

  2. 反射の位相変化から,隣り合う極小の膜厚差を求めよ.極小で強度は必ず0になるか.

  3. Ea,p を求めよ.気体中の個数割合を付着割合に使えるかも述べよ.

  4. 模型を任意の T>0 へ延ばし,成長率が最大になる温度を求めよ.300〜600K に制限した場合と比べよ.

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考え方

到達数を速度で重み付けする.干渉から成長率を決める.

  1. a=m/(2kBT),va=2Ea/m とおく.積分 ∫b∞ve−av2dv=e−ab2/(2a) を使うと

J=ng∫0∞vzF(vz)dvz=p2πmkBT,Ja=ng∫va∞vzF(vz)dvz=Je−Ea/(kBT).

付着割合は Ja/J=e−Ea/(kBT),成長率は u=dddt=Ωpe−Ea/(kBT)/2πmkBT となる.

  1. 両反射の位相変化はともに π で相殺される.往復の位相差 4πnd/λ が奇数倍の π で極小となり,厚さ差は δd=λ/(2n)=200nm.振幅が異なれば強度は0にならない.

  2. uj=δd/Δtj より u1=5.00×10−9ms−1,u2=5.00×10−8ms−1.比で圧力が消え,

ln⁡u2u1+12ln⁡T2T1=EakB(1T1−1T2).

従って Ea=2.19×10−20J=0.137eV.丸める前の値では e−Ea/(kBT1)=0.00500 であり,

p=u12πmkBT1Ωe−Ea/(kBT1)=1.20Pa.

速い分子ほど頻繁に届くため,気体中の個数割合は使えない.

  1. dln⁡udT=−1/(2T)+Ea/(kBT2) は正から負へ変わり,最大は T∗=2Ea/kB=3.18×103K.低温の障壁と高温の数密度減少が成長を抑える.実験範囲では最大は 600K.高温の結果は再蒸発や物性変化を除く形式的な予測である.ΩJ は速度の次元を持つ.干渉では追加反射の振幅比と光学的吸収を十分小さいとしている.

総合演習 67

APhO 2001 第2問(改題) ★★★★★

仕事をしない磁場が回転を止める

質量 m,電荷 +q,−q の粒子を長さ ℓ の軽い剛い絶縁棒で結び,磁場 B=Bez に垂直な平面で動かします.−q から +q への相対位置を r=ℓ(cos⁡θ,sin⁡θ),重心速度を V とします.初期重心は原点,θ=0,V=Uey,dθdt=w>0 です.まず U≥0 とします.重力,抵抗,放射,相対論的効果を無視します.静電エネルギーは距離一定で変化しません.

質量 m の電荷 −q と +q を長さ ℓ の絶縁棒で結ぶ.初期重心は原点で,θ=0 の棒は x 軸に沿い,−q が左,+q が右にある.重心の初速度 U は +y 向き,初期角速度 w>0 は反時計回りである.緑の ⊙ は +z 向きに紙面から出る一様磁場 B を表す. 質量 m の電荷 −q と +q を長さ ℓ の絶縁棒で結ぶ.初期重心は原点で,θ=0 の棒は x 軸に沿い,−q が左,+q が右にある.重心の初速度 U は +y 向き,初期角速度 w>0 は反時計回りである.緑の ⊙ は +z 向きに紙面から出る一様磁場 B を表す.
  1. 全磁気力から P=2mV−qr×B が保存することを示せ.b=qBℓ/(2m) とおき,Vx,Vy を θ で表せ.

  2. エネルギー保存から θ だけの式を導き,一回転できる初期角速度の条件を求めよ.等号で有限時間内に裏返るか.

  3. 一回転しない場合の角振幅,小振幅の周期,回転の限界での周期の振る舞いを求めよ.

  4. U=−b に変更する.角速度と軌跡を求め,磁場の仕事0と角速度の変化を整合させよ.

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考え方

棒は変形せず,内力の仕事の和は0である.相対位置を含む保存量で重心速度を消去する.

  1. 両粒子の速度は V±drdt/2.磁気力を加えると 2mdVdt=qdrdt×B だから,指定の P の微分は0になる.r×B=Bℓ(sin⁡θ,−cos⁡θ) より,初期値は P=2m(U+b)ey.従って

Vx=bsin⁡θ,Vy=U+b(1−cos⁡θ).
  1. 慣性モーメントは I=2m(ℓ/2)2=mℓ2/2.磁気力の仕事は0なので,全運動エネルギーが保存する.

|V|2=U2+2b(U+b)(1−cos⁡θ),I2(dθdt)2+2mb(U+b)(1−cos⁡θ)=I2w2.

Ω02=4b(U+b)/ℓ2 とおけば,(dθdt)2=w2−4Ω02sin2⁡(θ/2).θ=π を通過する条件は w>2Ω0.等号では dθdt=2Ω0cos⁡(θ/2) である.δ=π−θ が小さいと dδdt≃−Ω0δ,従って δ は指数的に0へ近づき,有限時間では裏返らない.

  1. 0<w<2Ω0 では θmax=2arcsin⁡[w/(2Ω0)].小振幅では sin⁡θ≃θ.(2)の式を微分すると d2θdt2=−Ω02sin⁡θ≃−Ω02θ なので T≃2π/Ω0.限界では停止角が π に近づく.(2)の δ∝e−Ω0t より,δ を縮める時間は −ln⁡δ/Ω0 に比例して増す.従って周期は対数的に発散する.

  2. U=−b では P=0,|V|=b が一定となる.回転のエネルギーも一定で,θ=wt.原点から積分して

X=bw(1−cos⁡wt),Y=−bwsin⁡wt.

中心 (b/w,0),半径 b/w の円を描く.(2)では並進の速さが増す分だけ回転が遅くなるので,磁場の仕事は0である.小振幅の条件は w/(2Ω0) が十分小さいことであり,各粒子の速さと光速の比も十分小さくする.

総合演習 68

APhO 2007 第3問(改題) ★★★★★

逆コンプトン光のエネルギーと検出角度

電子が +x 向きに全エネルギー E=γE0,運動量 p で進み,エネルギー ε=hc/λ の光子と正面衝突します.散乱光子のエネルギーは ε′,+x 軸との角は ϕ です.自由な電子と光子の1回の衝突を考えます.電子は E2=p2c2+E02,E0=mc2,光子には運動量の大きさ ε/c が成り立ち,0<ε<pc とします.

電子はエネルギー E=γE_0,運動量 p で +x 向きに進み,エネルギー ε=hc/λ の光子は逆向きに進んで正面衝突する.散乱光子のエネルギーを ε′ とし,その進行方向と +x 軸の間の角 φ を示す. 電子はエネルギー E=γE_0,運動量 p で +x 向きに進み,エネルギー ε=hc/λ の光子は逆向きに進んで正面衝突する.散乱光子のエネルギーを ε′ とし,その進行方向と +x 軸の間の角 φ を示す.
  1. 保存則から ε′(ϕ) と最大値を導け.

  2. γ≫1 として反跳補正 a=4γε/E0 を残した最大値を近似せよ.γ=150,λ=800nm,E0=0.511MeV,hc=1.24×103eVnm で,厳密な最大値と波長も求めよ.

  3. 小角でのエネルギーを近似し,検出光子がすべて最大値の0.90倍以上となる円錐の最大半角を求めよ.電子ビームのばらつきは無視せよ.

  4. 軸上の観測で,電子の相対エネルギー幅 s が光子の幅へどう伝わるか求めよ.波長一定で,a の大小を比べよ.

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考え方

散乱電子の方向を消去し,質量一定の条件を使う.散乱確率は求めない.

  1. 散乱電子のエネルギーと運動量は

Ef=E+ε−ε′,pf2c2=(pc−ε)2+ε′2−2(pc−ε)ε′cos⁡ϕ.

これを Ef2−pf2c2=E2−p2c2 に代入して展開すると

ε(E+pc)=ε′[E−pccos⁡ϕ+ε(1+cos⁡ϕ)].

H=E+pc,D=E−pc+2ε とおけば

ε′(ϕ)=εHD+(pc−ε)(1−cos⁡ϕ).

ϕ=0 で分母が最小となり, εmax′=εH/D.ϕ=π では ε′=ε に戻る.

  1. pc=E0γ2−1≃γE0−E0/(2γ) より H≃2γE0,D≃E0(1+a)/(2γ).従って

εmax′≃4γ2ε1+a.

数値は ε=1.55eV,a=0.00182.厳密式は εmax′=0.139MeV,λ′=hc/εmax′=8.91×10−3nm を与える.

  1. 1−cos⁡ϕ≃ϕ2/2,pc−ε≃γE0 を(1)に代入して

ε′(ϕ)≃4γ2ε1+a+γ2ϕ2.

最大値との比は (1+a)/(1+a+γ2ϕ2).これを0.90以上とすれば ϕ∗≃(1+a)/9/γ=2.22×10−3rad.縁でエネルギーが最小となる.収量は決まらない.

  1. a は γ に比例するので,(2)の対数微分は

dln⁡εmax′dln⁡γ=2−a1+a=2+a1+a.

光子の幅は (2+a)s/(1+a).小さい a では約 2s,a≫1 では約 s である.後者では εmax′≃γE0=E となり,反跳が増幅を抑える.条件は 1/γ2,ϕ2,ε/E,s が十分小さいことである.4γ2ε の式にはさらに小さい a が必要で,数値例は満たす.