問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

IPhO の問題を発展させる(3)

著者:柚木芹香

IPhO の浅水波,重いばね,金属微粒子,粒子検出を改題しました.第4〜7章の力学,第14章の測定,第18章の熱輸送を,第20〜26章の場・回路・波と組み合わせます.粒子検出では第13・31章の相対論も使います.境界条件と保存則で模型を閉じ,近似の限界と測定の曖昧さを調べてください.

総合演習 61

IPhO 2017 第2問(改題) ★★★★☆

狭く浅くなる水路と,急な段差

密度 ρ の非圧縮液体の水路を,周期 T,水面振幅 A の波が進みます.水深 d と幅 b は緩やかに変わります.水面と水平流速 u は幅方向に一様,u は深さによらず,鉛直方向は静水圧とします.平均流は0とし,粘性,表面張力,反射を無視し,A/d と kd は十分小さいとします.k=2π/λ です.

入口では d0=4.00×102m,A0=0.100m,T=600s です.幅は b/b0=(d/d0)1/4 に従います.g=9.80ms−2 を使え.

平面図は緩やかに狭くなる水路の幅 b と波の進行方向を示す.局所的な横断面は静水面から底までの深さ d と,静水面から測った水面変位 y を示す.別枠の縦断面は幅一定で水深が d₁ から d₂ へ急変する段差を示す. 平面図は緩やかに狭くなる水路の幅 b と波の進行方向を示す.局所的な横断面は静水面から底までの深さ d と,静水面から測った水面変位 y を示す.別枠の縦断面は幅一定で水深が d₁ から d₂ へ急変する段差を示す.
  1. 一定水深での質量保存と運動方程式は ∂y∂t=−d∂u∂x,∂u∂t=−g∂y∂x です.波の速さと進行波の u,y の関係を導け.

  2. 単位水平面積の平均エネルギーと仕事率保存から A(d) を導け.d=25.0m での振幅と波長も求めよ.

  3. 幅一定で水深が d1 から d2 へ急変します.境界で水面変位と体積流量が連続する1次元模型を用い,反射・透過の水面振幅比を求め,エネルギー保存を確かめよ.(2)を急変に使えない理由と,小振幅・緩やかな変化の条件も述べよ.

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考え方

反射を捨てられる区間と,境界条件で反射を求める区間を分ける.

  1. 第1式を時間,第2式を位置で微分して代入すると

∂2y∂t2=gd∂2y∂x2,v=gd,u=vdy

となる.右向き波では ∂y∂t=−v∂y∂x を第1式に入れ,平均流0として積分した.左向きなら符号が逆になる.

  1. 位置エネルギー密度は ρgy2/2,運動エネルギー密度は ρdu2/2.⟨y2⟩=A2/2 と(1)より,平均はどちらも ρgA2/4 である.分散のない波の平均仕事率は

P=bvρgA22,AA0=b0b(d0d)1/4=(d0d)3/8.

指定点では A=0.283m,v=15.7ms−1,λ=vT=9.39×103m である.

  1. 複素振幅を Yi,Yr,Yt,速さを vj=gdj とする.時間因子 eiωt を除き,境界条件は

Yi+Yr=Yt,v1(Yi−Yr)=v2Yt.

r=Yr/Yi=(v1−v2)/(v1+v2),t=Yt/Yi=2v1/(v1+v2).反射率と透過率は R=r2,T=(v2/v1)t2 なので,R+T=1.d2=d1 なら r=0,t=1 に戻る.変化の長さを ℓ とすると,増幅則は A/d,kd,1/(kℓ) が十分小さい範囲に限る.段差では最後の条件が破れる.指定点では A/d=0.0113,kd=0.0167.浅くなるほど振幅の条件は悪くなる.

総合演習 62

IPhO 2019 第1問(改題) ★★★★☆

重いばねの長さと周期

自然長 L0,ばね定数 k,質量 M の一様な鉛直ばねの下端に,質量 m を付けます.自然長では張力0です.自然長での上端からの座標を s とすると,微小区間 ds のばね定数は kL0/ds,質量は Mds/L0 です.横振れ,摩擦,巻き同士の接触を無視し,静的な伸びにもフックの法則を使います.

L0=0.3000m,g=9.80ms−2 を既知とし,次の全長 H を測りました.

m(kg)

H(m)

0.400

0.5254

0.600

0.6234

0.800

0.7214

左に張力0の自然長 L₀ を基準として,上端を0,下端を L₀ とする下向きの座標 s を示す.右に上端を固定した質量 M,ばね定数 k のばねと下端質量 m を示す.全長 H は固定上端からばね下端までの長さである. 左に張力0の自然長 L₀ を基準として,上端を0,下端を L₀ とする下向きの座標 s を示す.右に上端を固定した質量 M,ばね定数 k のばねと下端質量 m を示す.全長 H は固定上端からばね下端までの長さである.
  1. 張力と全長 H(m) を求め,両端の測定から k,M を決め,中央も確かめよ.

  2. 平衡からの下向き変位 ξ(s,t) の波動方程式と下端の境界条件を導け.

  3. 上端固定の振動 ξ=ϕ(s)cos⁡ωt を考えます.q=ωM/k とおき,基本振動の方程式と根の区間を求め,m=0.600kg の周期を数値で求めよ.

  4. 1≫M/m のとき,ばね質量を M/3 の集中質量で置き換えられることを示し,(3)と比較せよ.上端だけを短く微小に動かし戻すとき,下端の応答までの最短時間を求め,集中質量模型と比較せよ.

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考え方

静的張力と,ばね内部の分布した慣性を使う.

  1. 張力は S(s)=g[m+M(1−s/L0)] である.区間の伸びは S(s)ds/(kL0) なので

H=L0+∫0L0S(s)kL0ds=L0+gk(m+M2).

傾きは a=g/k=0.1960/0.400=0.490mkg−1,切片は 0.3294m.従って k=g/a=20.0Nm−1,M=2k(0.3294m−L0)/g=0.120kg.中央の予測は 0.6234m で一致する.

  1. 平衡の重力と張力差はつり合う.追加張力は kL0∂ξ∂s だから

ML0∂2ξ∂t2=kL0∂2ξ∂s2,vs=L0kM,m∂2ξ(L0,t)∂t2=−kL0∂ξ∂s(L0,t).

vs は自然長の座標で測った速度である.

  1. d2ϕds2=−(ω/vs)2ϕ,ϕ(0)=0 より ϕ=Csin⁡(qs/L0).下端条件は

kqcos⁡q=mω2sin⁡q,qtan⁡q=Mm.

0<q<π/2 で左辺は0から無限大へ増加し,根は一つ.表の中心値で M/m=0.200 の根は q=0.43284,ω=5.58795rads−1,周期は 1.12s(近似との比較用に桁を残すと 1.1244s).

  1. 下端条件を mω2=kqcot⁡q と書き,qcot⁡q=1−q2/3+⋯ を使うと

(m+M3)ω2+⋯=k.

主要項は ω≈k/(m+M/3).周期の近似値は,比較用に桁を残すと 1.1240s で,厳密値との差は約0.040 %である.

最短時間は L0/vs=M/k=0.0775s.到達前は下端は動かず,集中質量模型では表せない.実効質量は q2 が小さい低振動数に限り,短いパルスには使えない.追加ひずみ |∂ξ∂s| も十分小さい必要がある.

総合演習 63

IPhO 2013 第2問(改題) ★★★★★

光を熱に変える粒子には最適な半径があるか

真空中の半径 a の金属球を,E=−E0cos⁡ωtx^ の光で照らします.電子密度は n,電子の質量・電荷は m,−e.中性の粒子の正イオン球を固定し,電子雲は形を保って x(t) 動きます.|x|/a,ωa/c は十分小さいとします.粒子内の衝突による抵抗力は電子1個につき −mdxdt/τ です.

中心面を横切る分離電荷を Q=neπa2x,I=dQdt と定義します.電子数は N=4πa3n/3.振幅 A の平均放射率を Pr=(Ne)2A2ω4/(12πε0c3) と与えます.数値計算では固有角振動数 ω0=6.50×1015rads−1,ω0τ=52.0,c=3.00×108ms−1 を使います.

等価な直列回路は C=3πε0a/4,L=4m/(3πne2a),駆動電圧 V=V0cos⁡ωt,V0=4aE0/3 と与えます.

固定された半径 a の正イオン球と,形を保って x だけずれた電子雲,正イオン球の中心面を示す.外場は cos ωt が正の位相で負の x 方向を向く.別枠にコイル L,コンデンサー C,抵抗 Rₕ と Rᵣ,駆動電圧 V=V₀ cos ωt の交流電源を直列に描く. 固定された半径 a の正イオン球と,形を保って x だけずれた電子雲,正イオン球の中心面を示す.外場は cos ωt が正の位相で負の x 方向を向く.別枠にコイル L,コンデンサー C,抵抗 Rₕ と Rᵣ,駆動電圧 V=V₀ cos ωt の交流電源を直列に描く.
  1. ガウスの法則から復元力と固有角振動数 ω0 を求め,1/LC と一致することを示せ.

  2. 衝突と放射を直列抵抗 Rh,Rr で表し,複素インピーダンスから電流振幅と発熱率 Ph を求めよ.共鳴光の波長も求めよ.

  3. 共鳴で E0,n,τ を固定し,粒子1個の発熱を最大にする半径と Pr/Ph を求めよ.

  4. ω0a/c≤0.10 に制限した最適半径を求めよ.その粒子 N 個を互いに影響しないよう配置し,熱容量 Ch の等温板を加熱します.発熱だけが板へ入り,散乱光は逃げます.板を熱コンダクタンス G で熱源 Tb につなぎ,初め Tb としたときの昇温を求めよ.

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考え方

電子の慣性と復元力を等価回路に対応させ,熱と放射の損失を分ける.

  1. 球内で 4πr2E=4πr3ne/(3ε0) より,E=ner/(3ε0).電子雲への力は F=−Nne2x/(3ε0).球外の薄い部分は高次として捨てる.Nmd2xdt2=F から ω02=ne2/(3ε0m)=1/(LC) が得られる.

  2. 平均損失を Nm⟨(dxdt)2⟩/τ=Rh⟨I2⟩,Pr=Rr⟨I2⟩ と置く.⟨I2⟩=(neπa2)2ω2A2/2 より

Rh=Lτ,Rr=8a2ω227πε0c3,Z=Rh+Rr+iωL+1iωC.

電流は I(t)=Re⁡[(V0/Z)eiωt].従って I0=V0/|Z|,Ph=RhV02/(2|Z|2).入力の平均仕事率は (Rh+Rr)I02/2=Ph+Pr となる.λ0=2πc/ω0=290nm.

  1. 共鳴では虚部が0.α=aRh,β=Rr/a2 は半径によらず,

Ph=8E029αa3(1+βa3/α)2.

z=βa3/α に対し ddz[z/(1+z)2]=(1−z)/(1+z)3 なので,最大は z=1.a∗=(α/β)1/3=[3c3/(2τω04)]1/3=14.2nm,Rr=Rh,Pr/Ph=1 である.

  1. 無制限では ω0a∗/c=0.307 で近似の余裕が小さい.上限は amax=0.10c/ω0=4.62nm<a∗.この区間で発熱は増すので,上限が最適である.Pr/Ph=(amax/a∗)3=0.0347.

板の温度を Tb+θ と置くと,Chdθdt=NPh−Gθ,θ(0)=0 だから,θ=NPh(1−e−Gt/Ch)/G.G→0 では θ=NPht/Ch に戻る.n,τ の温度変化が小さく,|x|/a が小さく,板が等温を保つ範囲に限る.

総合演習 64

IPhO 2018 第2問(改題) ★★★★★

見えない粒子の縦運動量は一意に決まるか

入射方向を z 軸とし,衝突前の全横運動量は0です.親粒子 X が陽電子と,未検出の質量0の粒子へ崩壊しました.他に見落としはありません.磁場 B=Bz^ で陽電子の横平面への射影は半径 r の円となり,崩壊直後の横運動量は +x 方向です.p∗=1.00×10−20kgms−1 として,eBr=3p∗,陽電子の縦運動量は 4p∗,それ以外の検出粒子の横運動量の和は (−2p∗,−2p∗) でした.X の既知の静止エネルギーは 6cp∗ です.

陽電子には E=cp,親には EX2−c2pX2=MX2c4 を使います.e=1.60×10−19C,m=9.11×10−31kg,B=0.500T,c=3.00×108ms−1 とし,飛行中の放射と物質中での損失を無視してください.

衝突点に x,y,z 軸を置き,入射方向の正の z 軸に沿う磁場 B と陽電子のらせんを示す.陽電子の縦運動量は 4p*,横平面への射影は半径 r の円である.別枠には崩壊直後の陽電子の横運動量の向きが正の x 方向であることと,それ以外の検出粒子の横運動量の和(−2p*,−2p*)を示す.eBr=3p* は既知の条件である.横平面に垂直な磁場は ⊙ を並べて示す. 衝突点に x,y,z 軸を置き,入射方向の正の z 軸に沿う磁場 B と陽電子のらせんを示す.陽電子の縦運動量は 4p*,横平面への射影は半径 r の円である.別枠には崩壊直後の陽電子の横運動量の向きが正の x 方向であることと,それ以外の検出粒子の横運動量の和(−2p*,−2p*)を示す.eBr=3p* は既知の条件である.横平面に垂直な磁場は ⊙ を並べて示す.
  1. 相対論的な運動方程式 dpdt=ev×B から pT=eBr を導き,r と未検出粒子の横運動量を求めよ.

  2. 未検出粒子の縦運動量を zp∗ と置き,X の静止エネルギーを使って z の方程式を立て,すべての実数解を求めよ.2乗前の式を確かめ,解を選べるか説明せよ.陽電子の質量0近似の誤差も評価せよ.

  3. X の静止エネルギーが未知なら,測定からどんな下限を得ますか.z について不変量を最小化し,下限での2解の関係も説明せよ.

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考え方

横保存則と親の静止質量を使い,縦運動量は未定として残す.

  1. 磁場は pT の大きさを保ち,角速度 vT/r で回すので,|dpTdt|=pTvT/r=evTB より pT=eBr.r=3p∗/(eB)=0.375m である.検出された横運動量の総和は (p∗,−2p∗) なので,未検出粒子は pT(u)=(−p∗,2p∗) を持つ.

  2. 陽電子のエネルギーは 5cp∗,未検出粒子は cp∗5+z2.親の運動量は p∗(2,2,4+z) である.エネルギー・運動量保存を不変量へ代入すると

(5+5+z2)2−[8+(4+z)2]=36,55+z2−4z=15.

平方根の式を2乗すると 9z2−120z−100=0.従って z=(20±105)/3 で,数値は −0.786893,14.1202.両根で 15+4z>0 となり,2乗前の式を満たす.

両根が保存則を満たし,この測定では選べない.独立の飛行方向測定などが必要である.

陽電子では mc/(5p∗)=5.47×10−3.p2c2+m2c4≈pc[1+(mc/p)2/2] より,エネルギー近似の相対誤差は約 1.49×10−5 である.

  1. 親の不変量を (cp∗)2 で割ると F(z)=2[55+z2−4z+3].微分すると dFdz=2[5z/5+z2−4],d2Fdz2=50/(5+z2)3/2>0 なので,唯一の最小点は z=45/3 である.従って

MXc2≥cp∗65+6=4.41cp∗.

下限で2根は合流し,それ未満には実数解がない.合流付近は測定誤差に敏感である.不変量の次元もエネルギーの2乗で整合する.mc/p と飛行中の相対損失が十分小さい範囲での結果である.