問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

IPhO の問題を発展させる(2)

著者:柚木芹香

IPhO の衝突,原始星,大気電気,原子冷却を改題しました.第4〜8・10章,第15〜18章の熱,第20・21・23章の電場と回路,第26・29章の光と光子を組み合わせます.駆動の仕事,時間尺度,測定誤差,冷却の最適条件と,模型の適用範囲を調べてください.

総合演習 57

IPhO 1991 第1問(改題) ★★★★☆

動くベルトが跳ね返りに渡すエネルギー

質量 m,半径 r,慣性モーメント I=κmr2 の円板を,重心の並進速度0,時計回りの角速度 ω0≥0 で,最下点のベルトからの高さ h から落とします.水平ベルトは駆動装置で右向きの速さ U>0 を保ちます.重力加速度 g,鉛直反発係数 0<e<1,動摩擦係数 μ′.鉛直面内で動き,傾き,空気抵抗,接触中の重力の力積,接線の弾性変形を無視します.滑り停止後の接線力は0とします.

  1. 落下の速さ w,法線力積 JN,摩擦力積 J と滑りが止まる条件を求めよ.

  2. 衝突後の水平速度 vx,角速度 ω,次の接触までの水平移動距離を求めよ.

  3. 水平並進と回転のエネルギー Kt,駆動の仕事 Wb,摩擦熱 Qt の収支を導け.滑りが止まる場合に Kt が増す条件と,摩擦熱が正である理由を述べよ.

質量m,半径rの円板を,最下点とベルトの間の高さhから落とす初期配置.重心の並進速度は0,角速度ω_0は時計回りである.ベルトの速さUは右向きで,x軸は右,y軸は上を向く. 質量m,半径rの円板を,最下点とベルトの間の高さhから落とす初期配置.重心の並進速度は0,角速度ω_0は時計回りである.ベルトの速さUは右向きで,x軸は右,y軸は上を向く.
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考え方

滑りの停止で力積に上限を付け,駆動装置も収支に含める.

  1. mgh=mw2/2 より w=2gh.衝突後の上向き速度は ew なので JN=m(1+e)w.時計回りを正とすれば

vx=Jm,ω=ω0−rJI,vx−rω−U=−(rω0+U)+1+1/κmJ.

初めの相対速度は負で,摩擦は右向きである.相対速度を0にする力積は J∗=mκ(rω0+U)/(1+κ).滑り中は摩擦力が μ′N だから

J=min(J∗,μ′JN),J∗≤μ′JN

なら滑りが止まる.等号は離れる瞬間に止まる境界である.

  1. 速度と角速度は(1)の J を最初の式に代入すればよい.飛行時間 2ew/g より D=2ewJ/(mg).

  2. 初終の運動エネルギーを引けば

ΔKt=J22m+I2(ω2−ω02)=−rω0J+1+1/κ2mJ2.

ベルトへは左向きの摩擦が働き,駆動装置は同じ大きさの右向きの力を補うので Wb=UJ.滑りの速さと微小力積 dj の積から

Qt=∫0J[rω0+U−1+1/κmj]dj=(rω0+U)J−1+1/κ2mJ2=Wb−ΔKt≥0.

J=J∗ なら

ΔKt=mκ2(1+κ)[U2−(rω0)2],Qt=mκ2(1+κ)(U+rω0)2.

従って U>rω0 で増加し,増加分と摩擦熱を駆動装置が供給する.U→0 では ΔKt=−Qt.接触時間 τc に対し gτc/w が十分小さいことが,重力の力積を捨てる条件である.

総合演習 58

IPhO 2012 第3問(改題) ★★★★★

熱を放出すると温まる気体球

真空中の質量 M の気体球を,半径 r(t) だけで近似します.一様密度で,距離 s の要素の速度は sr˙/r,r˙=dr/dt.モル質量 Mmol,比熱比 γ>1 の理想気体で,質量平均の温度 T¯,気体定数 Rg に対し U=MRgT¯/[Mmol(γ−1)] です.圧力・温度は一様とは仮定せず,外圧,自転,核反応を無視します.安定性はこの一座標模型内で考えます.

  1. 球殻の積分で,重力エネルギー Ω=−a/r の a と巨視的運動のエネルギーを求めよ.

  2. 放射を止めた可逆断熱の変形で,U(r0)=U0 とする.U(r),平衡半径 re の温度,安定条件,小振動の角振動数を導け.

  3. γ=5/3 で平衡をほぼ保ち放射で収縮する.熱容量を無視できる外層が Ts=ηT¯(η 一定)を保ち,Prad=4πr2σTs4 を放射し,入熱は0とする.全エネルギーと温度の関係,半径の変化,r0/2 までの時間を,初期放射仕事率 P0 で表せ.

  4. τd=r3/(GM),τr=|U+Ω|/Prad の比で準静的近似を検査せよ.収縮中に条件は満たしやすくなるか.

一様密度の質量M,半径rの気体球を断面で示す.中心から距離sの球殻と半径rを示し,収縮時の内向き速度を青い矢印で表す.要素の速度はs ṙ/rで,半径に比例する.外層温度はT_sで,放射は外向きの矢印で示す. 一様密度の質量M,半径rの気体球を断面で示す.中心から距離sの球殻と半径rを示し,収縮時の内向き速度を青い矢印で表す.要素の速度はs ṙ/rで,半径に比例する.外層温度はT_sで,放射は外向きの矢印で示す.
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考え方

エネルギーの曲率で安定性を調べる.放射中はエントロピーが変わる平衡列を使う.

  1. M(s)=M(s/r)3,dM(s)=3Ms2ds/r3 だから

Ω=−∫0rGM(s)sdM(s)=−3GM2r6∫0rs4ds=−3GM25r,Kr=12∫0r(sr˙r)2dM(s)=310Mr˙2.

a=3GM2/5,有効質量は 3M/5.

  1. 各要素の体積は r3 に比例する.断熱の TVγ−1 一定より U=U0(r0/r)b,b=3(γ−1).U=U−a/r とおけば

dUdr=−bU+a/rr,bUe=are,T¯e=GMMmol5Rgre.

曲率は d2Udr2(re)=(b−1)a/re3.ξ=r−re に対し (3M/5)ξ¨=−(b−1)aξ/re3 より ωr2=(3γ−4)GM/re3.γ>4/3 なら安定,γ<4/3 は不安定.γ=4/3 は停留条件を満たす場合に中立である.

  1. b=2 なら U=a/(2r).従って

E=−U=−a2r=−3MRg2MmolT¯,dEdT¯=−3MRg2Mmol<0.

放射で温度が上がる.負なのは重力を含む平衡列の熱容量である.Ts∝1/r より Prad=P0(r0/r)2.収支は

a2r2drdt=−P0r02r2,drdt=−2P0r02a,t1/2=a4P0r0=τr(r0)2.

半径は等速で減る.放射中は断熱時の U0r02 は一定ではない.

  1. τr=ar/(2P0r02) より

τdτr=2P0r02raGM.

比が十分小さければ準静的近似を使える.r1/2 に比例し,収縮中に減少する.小振動には |ξ|/re も十分小さいことを要する.比熱や放射の模型が変われば時間も変わる.

総合演習 59

IPhO 1993 第1問(改題) ★★★★☆

電場計の周波数応答から抵抗を決める

一様な上向き電場 E 中で,接地した可動遮蔽板が検出板の露出面積を A(t)=A0+A1cos⁡ωt,A0>A1>0 と変えます.短絡時の誘導電荷は qs=ε0EA(t),信号電流の向きは Is=dqs/dt と定義します.接地まで並列抵抗 R と容量 C をつなぎます.縁の場,検出板自身の容量,検出電圧による場の変化を無視し,遮蔽は指定の運動を保ちます.

  1. E 一定として複素インピーダンスで定常電圧 V(t)=Re⁡(V^eiωt) を求めよ.τ=RC とし,振幅と面積変化に対する位相を示せ.

  2. C=2.00×10−10F,A1=1.00×10−2m2,ε0=8.85×10−12Fm−1 とする.同じ電場・抵抗での測定から τ,R,E を決めよ.振幅に1 %の不確かさがあるとき,両周波数とも ωτ が小さい場合と大きい場合の推定の限界を説明せよ.

ω

電圧振幅 V0

100rads−1

2.37×10−2V

400rads−1

4.75×10−2V

  1. Eest=CV0/(ε0A1) の系統誤差を1 %以下にする条件と,今回の高い周波数での過小評価率を求めよ.電場の変化時間 τE,装置の大きさ d,光速 c を使い,周波数を上げる方法の条件も示せ.

上向きの一様電場E中に検出板と接地した可動遮蔽板を置く.検出板の露出面積はA(t)=A_0+A_1 cos ωtである.検出板から接地まで抵抗Rと容量Cを並列につなぎ,検出板の電圧をVとする.抵抗は長方形,コンデンサーは平行な2本の線で示す. 上向きの一様電場E中に検出板と接地した可動遮蔽板を置く.検出板の露出面積はA(t)=A_0+A_1 cos ωtである.検出板から接地まで抵抗Rと容量Cを並列につなぎ,検出板の電圧をVとする.抵抗は長方形,コンデンサーは平行な2本の線で示す.
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考え方

振幅比で時定数を決め,信号の絶対値で電場を決める.

  1. q1=ε0EA1 とすると I^s=iωq1.ZC=1/(iωC) より並列回路は Z=(1/R+iωC)−1 なので

V^=iωRq11+iωτ=q1Cx2+ix1+x2,V0=q1Cx1+x2,ϕ=arctan⁡1x,x=ωτ.

実部に戻して V(t)=V0cos⁡(ωt+ϕ).A0 による一定の誘導電荷は信号電流を作らない.

  1. b=V02/V01,x1=ω1τ とする.周波数比は4なので

b2=16(1+x12)1+16x12,x12=16−b216(b2−1).

b=4.75/2.37 より x1=0.498,τ=x1/ω1=4.98×10−3s,R=τ/C=2.49×107Ω.さらに E=CV011+x12/(ε0A1x1)=1.20×102Vm−1.

低周波では V0≃ε0EA1ωR で積 ER しか決まらず,高周波では V0≃ε0EA1/C で R に依存しない.振幅比がそれぞれ ω2/ω1 と1に近づくと,測定誤差で時定数の逆算が不安定になる.今回は x1=0.498,x2=1.99 と応答が変わる範囲をはさむ.

  1. Eest/E=x/1+x2.これを0.99以上とする不等式を2乗して解くと x≥0.99/1−0.992=7.02.今回の x2 では比が0.894,約11 %の過小評価となる.電場一定と集中定数回路の近似には,2π/(ωτE) と ωd/c が十分小さいことを要する.検出電圧による場の変化も小さいことを要する.RC は時間の次元で,R→∞ の振幅は q1/C となる.

総合演習 60

IPhO 1991 第3問(改題) ★★★★★

冷却する光と反跳によるゆらぎ

質量 m の原子に,x 軸の正負から等強度の光を照射します.共鳴と光の角振動数は ωa,ω,離調は Δ=ω−ωa<0,波数は k=2π/λ.速度 v での各方向からの吸収・自発放出の率を

r±(v)=r01+4(Δ∓kv)2/Γ2

と与えます.Γ は線幅,r0/Γ は十分小さいとします.吸収力積は ±ℏk,放出光子の運動量の大きさは ℏk.放出は独立で等方的とし,方向余弦は ⟨nx⟩=0,⟨nx2⟩=1/3.各過程は確率 r±dt で起こり,原子間衝突,外力,再吸収を無視します.

  1. 平均力を F=−αv の形まで展開し,平均速度の減衰時間を求めよ.

  2. 1回の力積 Δp の2乗平均から,p=mv の2乗平均の方程式と定常値を導け.⟨p⟩=0,|kv|/Γ は十分小さいとする.kBTx=⟨p2⟩/m と定義する温度とその最低値を求めよ.

  3. 強さ一定で最も速く減衰させる離調と,その温度を求めよ.最低温度の状態で Er/(ℏΓ)=0.0010,r0/Γ=0.010 とし,kvrms/Γ,Er/(kBTx) で近似を検査せよ.Er=(ℏk)2/(2m),vrms=kBTx/m.平均力だけで温度0を予測する問題点も述べよ.

質量mの原子にx軸の両側から等強度のレーザー光を照射する.入射光の波数はkで,光の矢印は原子へ向く.原子の速度vはx軸に沿う.斜めの外向き矢印は運動量の大きさℏkの放出光子を示し,放出方向のx軸に関する方向余弦をn_xとする. 質量mの原子にx軸の両側から等強度のレーザー光を照射する.入射光の波数はkで,光の矢印は原子へ向く.原子の速度vはx軸に沿う.斜めの外向き矢印は運動量の大きさℏkの放出光子を示し,放出方向のx軸に関する方向余弦をn_xとする.
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考え方

吸収率の差による摩擦と反跳による加熱をつり合わせる.

  1. 放出の平均力積は0で F=ℏk(r+−r−).D0=1+4Δ2/Γ2 とし,率を展開すると r±=r0/D0±8r0Δkv/(Γ2D02).従って

F=16ℏk2r0ΔΓ2D02v=−αv,α=−16ℏk2r0ΔΓ2D02>0.

md⟨v⟩dt=−α⟨v⟩ より減衰時間は τv=m/α.

  1. 1回の力積は Δp=ℏk(±1−nx) なので ⟨(Δp)2⟩=(4/3)(ℏk)2.(p+Δp)2−p2=2pΔp+(Δp)2 を各率で平均する.第1項は 2⟨pF⟩,第2項では率の和を速度0で評価して

d⟨p2⟩dt=−2αm⟨p2⟩+Bp,Bp=43(ℏk)22r0D0.

定常値は ⟨p2⟩=mBp/(2α).従って

kBTx=Bp2α=−ℏΓ2D012Δ=ℏΓ6(z+1z),z=−2ΔΓ>0.

z+1/z≥2 より,最低温度は Δ=−Γ/2 で Tmin=ℏΓ/(3kB).指定模型の1方向の温度で,3方向の熱平衡は仮定していない.

  1. α=(8ℏk2r0/Γ)z/(1+z2)2 の微分の符号は 1−3z2 で決まる.最大は z=1/3,従って Δ=−Γ/(23).温度比は Tx/Tmin=2/3≃1.15 で,最低温度とは異なる.最低温度では kvrms/Γ=2Er/(3ℏΓ)=0.026,Er/(kBTx)=3Er/(ℏΓ)=0.0030.速度の展開と反跳を微小変化とする近似は自己整合的である.平均力だけなら運動は0へ減衰するが,力積の2乗は0にならず反跳で加熱する.α の次元は質量を時間で割ったもの.Δ→0− では摩擦が消え,温度の式が発散して小速度近似も破れる.