問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

IPhO の問題を発展させる(1)

著者:柚木芹香

連結ピストン,蛍光灯回路,惑星による重力アシスト,回折格子の原題を組み直しました.第7・10章の振動と中心力,第14・16章の測定と熱,第23・27章の交流と光を組み合わせます.第30章の振幅の規則にもつなげます.

総合演習 53

IPhO 1972 第2問(改題) ★★★★☆

熱量と圧力から気体の模型を決める

水平な2本のシリンダーのピストンを剛い棒で結び,断面積はともに A です.右向きの変位 z に対し,左の気体Aは VA=V0+Az,右の気体Bは VB=V0−Az です.各室の理想気体は同じ物質量 ν で,初状態は p0,V0,T0 です.Aは断熱し,比熱比 γ>1 は未知の定数です.Bは温度 T0 の熱源に接します.漏れ,摩擦,棒を通る熱伝導を無視します.外部駆動で準静的に右へ動かし固定しました.

p0=1.00×105Pa,V0=1.00×10−3m3,A=1.00×10−2m2 とします.熱源への熱はBからだけです.

測定量

値

熱源の受熱 Qb

22.31J

Aの終圧力 pA

7.380×104Pa

  1. 第一法則から pVγ 一定を導き,s=Az/V0 と γ を測定値から決めよ.

  2. 各気体と駆動装置の仕事を求め,収支も示せ.

  3. 駆動装置を一定の右向きの力 F∗ を与えるものに替え,固定を外す.連結体の質量は M=1.00kg とする.終位置を平衡に保つ F∗ と,Bが振動中も等温である場合の小振動周期を求めよ.条件も示せ.

剛い棒で結ばれた2本のピストンを外部駆動で右へ変位zだけ動かす.気体Aの壁は断熱され,気体Bは温度T₀の熱源に接する.両側の断面積はAで,破線は初位置を示す.初状態はp₀,V₀,T₀,変位後の体積はV_A=V₀+Az,V_B=V₀−Azである. 剛い棒で結ばれた2本のピストンを外部駆動で右へ変位zだけ動かす.気体Aの壁は断熱され,気体Bは温度T₀の熱源に接する.両側の断面積はAで,破線は初位置を示す.初状態はp₀,V₀,T₀,変位後の体積はV_A=V₀+Az,V_B=V₀−Azである.
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考え方

気体は一様,操作は可逆とする.Bの放熱から圧縮量,Aの圧力から比熱比を出す.

  1. CV,A=R/(γ−1),pV=νRT と,第一法則 νCV,AdT=−pdV より

dTT=−(γ−1)dVV,TVγ−1=一定,pVγ=一定.

Bの等温仕事は WB=νRT0ln⁡(1−s),熱源の受熱は Qb=−WB.従って

s=1−e−Qb/(p0V0)≃0.2000,γ=−ln⁡(pA/p0)ln⁡(1+s)≃1.667.

以下は γ=5/3,s=0.200 を使う.

  1. 圧力を体積で積分すると

WA=p0V0∫11+su−γdu=p0V0γ−1[1−(1+s)1−γ]=17.2J,WB=p0V0ln⁡(1−s)=−22.3J.

静止状態間の外部仕事は Wd=−WA−WB=5.15J.Bの圧縮仕事がAの膨張仕事を上回る.ΔUA=−WA,ΔUB=0 だから,ΔUA+ΔUB=Wd−Qb とも一致する.

  1. pB=p0/(1−s)=1.25×105Pa である.従って F∗=A(pB−pA)=512N.終位置からの変位を η とすると,Aの圧力変化は −γpAAη/VA,等温Bは pBAη/VB.一定外力を加えると

Md2ηdt2=−Kη,K=A2(γpAVA+pBVB),T=2πMK=0.0391s.

近似には A|η|/VA,A|η|/VB が十分小さいことを要する.ω=2π/T とし,熱交換時間 τh に対し等温は 1≫ωτh,断熱は ωτh≫1 を要する.気体の長さ ℓi,音速 vi に対し 1≫ωℓi/vi も必要である.K は Nm−1 の次元をもつ.

総合演習 54

IPhO 1982 第1問(改題) ★★★★☆

力率補償とヒーターの発熱

抵抗 Rh=60.0Ω のヒーターと,未知の抵抗 r,自己インダクタンス L をもつコイルを直列につなぎます.理想電源の電圧は V(t)=2Vecos⁡ωt,Ve=100V です.表は丸めた実効値です.測定器の負荷を無視し,素子は一定とします.

ω(rads−1)

Ie(A)

100

1.118

200

0.8839

400

0.5590

  1. 複素数を使い,(Ve/Ie)2 を ω2 に対して直線化して r,L を求めよ.

  2. ω=200rads−1 で,理想コンデンサーを電源に並列につなぎ,電源電流を電圧と同位相にする.容量,電源電流の実効値と各平均発熱を求めよ.

  3. 同じ振動数で温度 Ta=300K のヒーターを加熱する.熱容量は Ch=20.0JK−1,外への放熱仕事率は H(T−Ta),H=0.500WK−1 とする.電気の過渡を無視する.T(t) と,初めて 350K に達する時間を求めよ.抵抗の温度係数を α=2.0×10−4K−1 として,抵抗一定の近似を評価せよ.

交流電源V(t)=√2 V_e cos ωtに,電流計,抵抗rと自己インダクタンスLをもつコイル,抵抗R_h=60.0 Ωのヒーターを直列接続する.電流計は直列枝の実効電流I_eを測る.破線のコンデンサー枝は小問(2)で電源に並列接続する.V_e=100 Vである. 交流電源V(t)=√2 V_e cos ωtに,電流計,抵抗rと自己インダクタンスLをもつコイル,抵抗R_h=60.0 Ωのヒーターを直列接続する.電流計は直列枝の実効電流I_eを測る.破線のコンデンサー枝は小問(2)で電源に並列接続する.V_e=100 Vである.
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考え方

電圧・電流は複素振幅と eiωt の積の実部とする.負荷電圧は一定とし,周期平均の発熱を熱収支に入れる.

  1. Rt=Rh+r とすると,Z=Rt+iωL,I^=V^/Z.従って

Y=(VeIe)2=Rt2+L2ω2.

Y は約 8000,12800,32000Ω2.最初の2点から傾きは 0.160H2,切片は 6.40×103Ω2 で,L=0.400H,Rt=80.0Ω,r=20.0Ω.3点目も一致する.

  1. コンデンサーは ZC=1/(iωC).電源の複素電流は

I^s=V^[1Rt+iωL+iωC]=V^[RtD+iω(C−LD)],D=Rt2+ω2L2.

虚部0より C=L/D=3.13×10−5F.Is,e=VeRt/D=0.625A.直列枝は Ie=Ve/D のままで,

Ph=Ie2Rh=46.9W,Pr=Ie2r=15.6W.

和は 62.5W=VeIs,e.コンデンサーの平均消費電力は0で,ヒーターの発熱は変わらない.

  1. 熱収支は ChdTdt=Ph−H(T−Ta).定常値は Ta+Ph/H,時定数 τ=Ch/H より

T(t)=Ta+PhH(1−e−t/τ),τ=40.0s,T∞=394K.

丸め前の値でt=−40.0ln⁡(1−50.0/93.75)s=30.5s.抵抗の相対変化は最大で αPh/H=0.0188.約2 %の抵抗変化を捨てている.熱の近似には電気周期と内部平衡化時間が τ より十分短いこと,集中定数回路には配線長 ℓ に対し 1≫ωℓ/c が必要である.t→∞ で発熱と放熱がつり合う.

総合演習 55

IPhO 1985 第3問(改題) ★★★★★

重力アシストの最適な接近距離

恒星の周りを半径 a,速さ U で円運動する惑星の近くを,質量 m の探査機が通ります.惑星の速度は Uey と一定に扱い,相対入射速度を uex とします.ex,ey は軌道面内の直交単位ベクトルです.惑星の質量を Mp,重力定数を G とし,κ=GMp と置きます.安全距離の下限は R∗ です.m/Mp は十分小さく,推進と大気抵抗を無視します.恒星の潮汐力を無視し,相対速度を +y 側へ角 δ 曲げる側を通します.入射・出射速度は惑星の双曲線軌道の漸近速度です.

  1. 恒星系での単位質量あたりのエネルギー増加を U,u,δ で表せ.反作用を含め保存則を説明せよ.

  2. 衝突径数 b,最接近距離 rp と δ の関係を導け.中心力軌道の式

r=j2/κ1+ecos⁡ϕ,j=bu

を使ってよい.r は惑星からの距離,j は単位質量あたりの角運動量,e は離心率で,ϕ=0 が最接近点です.

  1. rp≥R∗ のもとでエネルギー増加を最大にする rp を求めよ.U=12.0kms−1,u=6.00kms−1,κ=4.00×1014m3s−2,R∗=4.00×103km の場合,恒星から脱出できるか判定せよ.無限遠での速さと条件も示せ.

惑星の位置を基準に直交方向e_x,e_yを示す.惑星速度はU e_y,相対入射速度はu e_xであり,探査機は惑星の下側から入り,+y側へ曲がる.入射漸近線と惑星の間が衝突径数b,惑星から最接近点までがr_pである.破線の円は半径R_*の安全境界を示す.軌道の形は模式的である. 惑星の位置を基準に直交方向e_x,e_yを示す.惑星速度はU e_y,相対入射速度はu e_xであり,探査機は惑星の下側から入り,+y側へ曲がる.入射漸近線と惑星の間が衝突径数b,惑星から最接近点までがr_pである.破線の円は半径R_*の安全境界を示す.軌道の形は模式的である.
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考え方

二体散乱と恒星周りの軌道を接続する.相対速度を回して恒星系へ戻し,公転方向の成分を最大にする.

  1. 惑星系のエネルギー保存から入射・出射の速さは u.恒星系では

vi=uex+Uey,vf=ucos⁡δex+(U+usin⁡δ)ey.

恒星からの距離を同じと近似すると

Δϵ=vf2−vi22=Uusin⁡δ.

惑星の運動量変化は −m(vf−vi),運動エネルギー変化は質量比の最低次で −mUusin⁡δ.増加分は公転から来る.

  1. 最接近点でのエネルギー・角運動量保存から

u22=j22rp2−κrp,b2=rp2+2κrpu2,e=1+rpu2κ.

最後は軌道式の ϕ=0 と保存式を使う.漸近線は cos⁡ϕ∞=−1/e.入射速度は位置と逆向きなので偏向角は δ=2ϕ∞−π.従って

sin⁡δ2=1e=11+rpu2/κ.
  1. δ は rp とともに減り,sin⁡δ は π/2 で最大なので

rp,opt=max[R∗,(2−1)κu2].

許される角が π/2 未満なら下限を使い,それ以外は δ=π/2 にする.今回は下限より遠い rp,opt=4.60×103km で δ=π/2 にできる.

円軌道から恒星の重力定数と質量の積は U2a で,位置 a での脱出速度は 2U.最適出口速度は U+u=18.0kms−1>2U.恒星の重力で

v∞=(U+u)2−2U2=6.00kms−1.

U→0 で増加は0となる.接続半径 rm には κ/(rmu2),rm/a,潮汐力の比 U2rm3/(a2κ) が十分小さいことを要する.遭遇時間 τ に対し Uτ/a,反作用の近似には m/Mp も十分小さくする.

総合演習 56

IPhO 1986 第1問(改題) ★★★★★

交互の位相反転で分光する

幅 a,間隔 d の平行スリットを偶数 N 個並べ,j=0,1,…,N−1 と番号を付けます.同じ偏光の平面波を垂直入射します.奇数番だけに振幅を変えず位相を π ずらす素子を置きます.位相差は狭い波長範囲で一定とします.角 θ は法線から測り,隣接位相差を φ=2πdsin⁡θ/λ とします.遠方回折を考え,1本の法線強度を I1 とし,a=d/3,d=2.00×10−6m です.

  1. 複素振幅で強さ分布を導き,主極大の方向を求めよ.幅の効果は各点の振幅の積分で求めよ.

  2. 波長 λ=600nm と λ+Δλ,Δλ=1.00nm の光を分ける.主極大同士が最初の暗線まで離れれば分解可能とする.sin⁡θ=pλ/d,p>0 について一次近似の分解条件を求めよ.p=3/2 の方向,単スリットの強さ因子,必要な偶数の最小 N を求めよ.

  3. 強さと位相を保ち,偶数番を水平偏光,奇数番を鉛直偏光に替える.法線強度と主極大の方向を求めよ.水平・鉛直の振幅を同符号で足す 45∘ の検光子を後に置くと,最初の分布とどう関係するか.経路の記録を残す量子力学とも対応させよ.

上段は幅a,中心間隔dのN本のスリットを示す.Nは偶数で,奇数番に位相をπずらす素子を置く.平面波は垂直入射し,観測方向の角θは法線から測る.下段は小問(3)の偏光をスリット正面から見た図で,偶数番は水平,奇数番は鉛直であり,位相πの素子を保つ.光の後方に45°の検光子を置く.途中のスリットは省略している. 上段は幅a,中心間隔dのN本のスリットを示す.Nは偶数で,奇数番に位相をπずらす素子を置く.平面波は垂直入射し,観測方向の角θは法線から測る.下段は小問(3)の偏光をスリット正面から見た図で,偶数番は水平,奇数番は鉛直であり,位相πの素子を保つ.光の後方に45°の検光子を置く.途中のスリットは省略している.
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考え方

光路差を位置に比例させる.直交偏光は強さを足し,同じ偏光への投影後は振幅を足す.

  1. 中心の座標を x として,単独の振幅は法線の振幅 E1 に対して

E1a∫−a/2a/2ei2πxsin⁡θ/λdx=E1sin⁡ββ,β=πasin⁡θλ.

q=φ+π とおくと (−1)jeijφ=eijq.等比級数から

E=E1sin⁡ββei(N−1)q/2sin⁡(Nq/2)sin⁡(q/2),I=I1(sin⁡ββ)2[sin⁡(Nq/2)sin⁡(q/2)]2.

分母0は極限を取る.同位相になる q=2πk より,dsin⁡θ=(k−1/2)λ.正の p は半整数である.θ=0 では偶数・奇数が打ち消し0となる.主極大は格子因子の極大とする.

  1. 最初のゼロは |Δq|=2π/N より |Δ(sin⁡θ)|=λ/(Nd).極大の間隔は pΔλ/d なので

NpΔλ≥λ.

p=3/2 では sin⁡θ=0.450,θ=26.7∘,β=π/2 より強さ因子は 4/π2=0.405.一次近似の最小偶数は N=400.

  1. n=N/2 とおく.偶数群と奇数群の振幅は

EH=E1sin⁡ββ∑l=0n−1ei2lφ,EV=−eiφEH.

法線で各群の振幅は n|E1| で,強さの和は 2n2I1=N2I1/2.各群の主極大は φ=kπ,すなわち dsin⁡θ=kλ/2.検光子で両群は同じ偏光へ振幅 1/2 で投影され,振幅は (EH+EV)/2.強さは(1)の I/2 となり,法線は再び暗い.

量子力学でも偶奇の記録を残せば,群内は振幅,群間は確率を足す.検光子通過を選ぶと記録がそろい,振幅が干渉する.β→0 で幅の因子は1となる.遠方回折には観測距離 ℓ に対し 1≫(Nd)2/(λℓ),分光の一次近似には 1≫Δλ/λ を要する.素子の位相の波長依存も無視する.