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全範囲の総合演習

光と原子の総合問題(2)

著者:柚木芹香

分光連星,電子,半導体,中間子の4題です.第10・27・29〜31章の内容を,振動・測定・拡散・相対論と組み合わせ,最適な条件を調べます.発展の章から使う式は問題の中で示します.

総合演習 49

オリジナル ★★★★☆

分光連星の質量と,二本の線が見える時間

質量 M1,M2 の星が周期 P=12.0day で円運動します.軌道面の法線と視線の角は i,重心の視線速度は一定です.両星の水素線を識別し,中心波長を測りました.静止波長は λ0=656.28nm,誤差は丸めだけです.遠ざかる視線速度を正とし,vr=c(λ−λ0)/λ0 を使います.

t/P

星1の波長(nm)

星2の波長(nm)

0

656.2800

656.2800

1/4

656.4113

656.0831

3/4

656.1487

656.4769

水素の熱運動は温度 T=6000K,視線速度の標準偏差 kBT/mH のガウス分布です.次数 r,線条数 N の回折格子の装置応答もガウス形と近似し,半値全幅を wg=λ0/(rN) とします.中心間隔が合成幅以上なら分離できると定め,自転・圧力の幅は無視します.c=3.00×108ms−1,G=6.67×10−11m3kg−1s−2,kB=1.38×10−23JK−1,mH=1.67×10−27kg,1day=86400s です.

二星の円軌道を斜めから見た模式図.星の質量は M₁,M₂,周期は P.重心を通る軌道面の法線と視線の角が i である.右側には二星の光が線条数 N の回折格子へ入射する様子を別に示す.軌道の大きさと星の位置は模式的に描いている. 二星の円軌道を斜めから見た模式図.星の質量は M₁,M₂,周期は P.重心を通る軌道面の法線と視線の角が i である.右側には二星の光が線条数 N の回折格子へ入射する様子を別に示す.軌道の大きさと星の位置は模式的に描いている.
  1. 表から速度振幅 K1,K2 を決め,質量比と全質量・傾きの決まる組み合わせを求めよ.

  2. i=60.0∘ とわかったとき,星間距離と両質量を求めよ.

  3. 熱による半値全幅を導き,r=1,N=2.00×104 で線を分離できる時間の割合を求めよ.

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考え方

円軌道の速度を投影し,万有引力と結ぶ.低速近似と指定された線幅の模型を使う.

  1. 表の変位から K1≃60.0kms−1,K2≃90.0kms−1.重心の視線速度は0.重心からの距離を a1,a2,星間距離を a=a1+a2 とすると

M1a1=M2a2,Kj=2πajPsin⁡i,M1M2=K2K1=32.

相対運動は (2π/P)2a=G(M1+M2)/a2.asin⁡i=P(K1+K2)/(2π) を代入して

(M1+M2)sin3⁡i=P(K1+K2)32πG

を得る.全質量には傾きの情報が要る.

  1. 速度振幅は表から求めた丸め前の値を使う.周期を秒へ換算して a=2.86×1010m,M1+M2=1.29×1031kg.質量比から M1=7.72×1030kg,M2=5.15×1030kg である.

  2. σv=kBT/mH とおく.exp⁡[−vr2/(2σv2)]=1/2 の両根の差は 22ln⁡2σv なので,波長幅は

wT=2λ0c2kBTln⁡2mH=0.0363nm.

分散を加え,w=wT2+wg2=0.0489nm.中心間隔は Δλ=λ0(K1+K2)|sin⁡ϕ|/c,ϕ=2πt/P で,最大値は 0.328nm.s=w/Δλmax=0.149 とすると,分離できない位相の全長は 4arcsin⁡s.求める割合は 1−2arcsin⁡s/π=0.905 である.

低温ほど分離しやすい.近似には Kj/(csin⁡i) と kBT/mH/c が十分小さいことを要する.

総合演習 50

オリジナル ★★★★☆

電子を詰めると,壁のばねが硬くなる

区間 0<x<b に質量 m の電子を N 個閉じ込め,外のポテンシャルを無限大とします.準位は En=n2h2/(8mb2),n=1,2,… で,各空間状態に逆向きスピンの電子を2個まで入れられます.温度 0K,電子間相互作用・静電エネルギーは無視する模型です.左壁は固定し,質量 M の右壁を,自然な間隔 b0 に戻す定数 k のばねにつなぎます.電子数一定で電源はなく,壁は遅く動き,電子は常に最低エネルギー状態です.

左壁を固定し,質量 M の右壁を定数 k のばねで固定端につなぐ.二壁の間隔は b,内部の電子は N 個で,各電子の質量は m.破線はばねが自然長のときの右壁の位置で,左壁からの間隔は b₀.右壁は破線より右にあり,ばねは自然長より短い.電子の点は個数や位置を表すための模式的な例である. 左壁を固定し,質量 M の右壁を定数 k のばねで固定端につなぐ.二壁の間隔は b,内部の電子は N 個で,各電子の質量は m.破線はばねが自然長のときの右壁の位置で,左壁からの間隔は b₀.右壁は破線より右にあり,ばねは自然長より短い.電子の点は個数や位置を表すための模式的な例である.
  1. N=2q とする.C=h2/(8m) とおき,最低の全電子エネルギー UN=AN/b2 の AN を求めよ.∑n=1qn2=q(q+1)(2q+1)/6 を使ってよい.

  2. 電子が右壁を押す力,平衡間隔 b∗ の方程式を求め,唯一性・安定性を示せ.

  3. 小振動の角振動数を求めよ.N=6,k=7C/b04 では,平衡間隔と角振動数はどうなるか.

  4. 大きな N の間隔と角振動数を求めよ.排他律を外して全電子が n=1 を占めるなら,間隔の N 依存性はどう変わるか.

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考え方

粒子数一定でエネルギーを微分する.壁は古典的に扱い,電子の励起を無視する.

  1. 下から q 個の空間状態に各2個を詰め,

AN=2C∑n=1qn2=C3q(q+1)(2q+1).
  1. 電子の仕事 −dUN より,右向きの力は FN=−dUNdb=2AN/b3.全ポテンシャルは

U=ANb2+k2(b−b0)2,dUdb=−2ANb3+k(b−b0).

よって k(b∗−b0)=2AN/b∗3,b∗>b0.左辺は増加,右辺は減少するので交点は一つ.さらに d2Udb2=k+6AN/b4>0 で,この平衡は安定である.

  1. ξ=b−b∗ とおき,1次の展開は

Md2ξdt2=−(k+6ANb∗4)ξ,Ω2=kM(4−3b0b∗).

平衡条件で最後の式へ変形した.指定条件では A6=28C より b∗=2b0,Ω=5k/(2M) となる.

  1. AN≃CN3/12 である.b∗ が b0 より十分大きい極限では kb∗4≃2AN となり,

b∗≃(C6k)1/4N3/4,Ω→2k/M.

排他律を外せば AN=NC で,間隔は N1/4 に比例する.角振動数の極限は同じ.

小振動には 1≫|ξ|/b∗,励起しない条件には kBT/ΔE と ℏΩ/ΔE が十分小さいことを要する.ΔE は最低励起エネルギーで,N=6 では 7C/b∗2 である.大 N の式も最高準位の En/(mc2) が小さい範囲で使う.

総合演習 51

オリジナル ★★★★★

よく吸収する厚さと,電荷を取り出せる厚さ

厚さ d の半導体膜の前面 x=0 に光子流束 Φ を入射させます.反射を無視し,吸収係数 α で一吸収につき正孔1個を作ります.生成率は g(x)=αΦe−αx,拡散係数は D,再結合までの平均寿命は τ です.過剰正孔密度を p(x),粒子流束を j=−Ddpdx とします.内部電場・空間電荷を無視し,電子は別の電極へ回収され,正孔だけが収集を制限する模型です.

定常収支から Dd2pdx2−p/τ+g(x)=0 が成り立ちます.前面は正孔を反射し dpdx∫|x=0=0,背面は完全に回収し p(d)=0 です.移動度 μ との関係 D=μkBT/e を使ってよい.μ=0.0800m2V−1s−1,T=300K,τ=5.00×10−6s,kB=1.38×10−23JK−1,e=1.60×10−19C です.

厚さ d の半導体膜に,前面 x=0 から光子流束 Φ が入射する.光吸収による生成率は g(x),再結合までの平均寿命は τ.白抜きの円は正孔,塗りつぶした円は電子を模式的に示す.前面は正孔を反射し,背面電極は正孔を回収する. 厚さ d の半導体膜に,前面 x=0 から光子流束 Φ が入射する.光吸収による生成率は g(x),再結合までの平均寿命は τ.白抜きの円は正孔,塗りつぶした円は電子を模式的に示す.前面は正孔を反射し,背面電極は正孔を回収する.
  1. 半無限媒質で生成がない場合の減衰長 ℓ を導き,数値を求めよ.

  2. Dd2Pdx2−P/τ=0,dPdx∫|x=0=0,P(d)=1 を満たす補助関数 P(x) を求めよ.定常方程式に P を掛けて積分し,背面の電流密度を J=e∫0dg(x)P(x)dx と表せ.

  3. αℓ=1 の材料について,入射光子の回収率 η=J/(eΦ) を z=d/ℓ の関数として求めよ.最適厚さと最大回収率を数値で求め,最大点の唯一性を示せ.

  4. 薄膜・厚膜の極限から,吸収率だけでは電流が決まらない理由を述べよ.

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考え方

生成数を回収確率で重み付けする.D,τ は一定,表面再結合はないとする.

  1. p∝e−x/ℓ を Dd2pdx2−p/τ=0 に入れると D/ℓ2=1/τ.よって ℓ=Dτ.D=2.07×10−3m2s−1,ℓ=1.02×10−4m となる.

  2. A(u)=(eu+e−u)/2 と定義する.解 P=C1ex/ℓ+C2e−x/ℓ と前面条件から C1=C2.背面条件から P(x)=A(x/ℓ)/A(d/ℓ) となる.二式を掛け合わせて引き,積分して

D(Pd2pdx2−pd2Pdx2)=−gP,D[Pdpdx−pdPdx]0d=−∫0dgPdx.

前面の項は0,背面は Ddpdx∫|x=d=−j(d) だから,J=ej(d)=e∫0dgPdx.P は回収確率に対応する.

  1. u=x/ℓ,z=d/ℓ として e−uA(u)=(1+e−2u)/2 を積分すれば

η=1A(z)∫0ze−uA(u)du=F(z)A(z),F(z)=z2+1−e−2z4.

微分が0となる条件 AdFdz=FdAdz は

1+e−2z2=F(z)ez−e−zez+e−z.

根は z∗=1.02574,従って d∗=1.04×10−4m,ηmax=0.464.唯一性は H=AdFdz−FdAdz で示せる.d2Adz2=A より dHdz=A(d2Fdz2−F)<0,H(0)=1,大きな z で負なので,正の根は一つだけである.

  1. 小さい z では F=z−z2/2+z3/3+⋯,A=1+z2/2+⋯ より η=z−z2/2−z3/6+⋯.先頭は吸収率 1−e−z≃z と一致する.大きな z では F≃z/2+1/4,A≃ez/2 より η≃(z+1/2)e−z→0.前面で生成された正孔が背面までに再結合するためである.

Dτ は長さの2乗で,0<P≤1 より η≤1−e−z.展開は z が小さいか大きい範囲で使う.模型には自由行程の d,ℓ,1/α に対する比と,過剰密度の平衡多数キャリア密度に対する比が十分小さいことを要する.

総合演習 52

オリジナル ★★★★★

娘粒子も崩壊するビームの最適検出位置

x=0 で作った N0 個の π 中間子が真空中を右へ飛び,π→μ+ν と崩壊します.全エネルギーは Eπ=2.80GeV.各崩壊の割合 f=0.0250 が,右へ進む狭い帯 Eμ=1.80GeV の観測対象を供給します.選択割合は位置によらず,角度・散乱・吸収を無視します.x=L で生存した対象だけを数え,μ の崩壊生成物は数えません.

静止系の寿命・エネルギーは τπ0=2.60×10−8s,τμ0=2.20×10−6s,mπc2=0.140GeV,mμc2=0.106GeV とし,c=3.00×108ms−1 です.E=γmc2,v=c1−γ−2,寿命 τ=γτ0 を使ってよい.

生成点 x=0 で作った N₀ 個の π 中間子が真空中を右へ進む.位置 x で π→μ+ν と崩壊し,割合 f が観測対象の μ を供給する.検出器の位置は L で,娘粒子の残る距離は L−x.与えられた全エネルギー Eπ と Eμ を示す. 生成点 x=0 で作った N₀ 個の π 中間子が真空中を右へ進む.位置 x で π→μ+ν と崩壊し,割合 f が観測対象の μ を供給する.検出器の位置は L で,娘粒子の残る距離は L−x.与えられた全エネルギー Eπ と Eμ を示す.
  1. 両粒子の平均崩壊長 a,b を求めよ.時間の遅れを入れない計算では何倍の誤りになるか.

  2. 検出される個数 Nμ(L) を,生成位置についての積分から求めよ.

  3. 検出数を最大にする L∗ と Nμ(L∗)/N0 を計算せよ.最大点の生成と崩壊の収支も示せ.

  4. b/a≫1 で L∗ を近似せよ.μ の崩壊を無視する模型で有限の最適位置が消える理由と,崩壊を無視してよい無次元条件を述べよ.

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考え方

生成位置ごとに生存確率を掛ける.エネルギー幅と角度分布は無視する.

  1. 生存率は e−x/(vγτ0).各粒子の崩壊長は vγτ0=cτ0(E/mc2)2−1 なので,a=156m,b=1.12×104m.ローレンツ因子はそれぞれ 20.0,17.0 であり,時間の遅れを省くと崩壊長をこの因子で過小評価する.

  2. 親の生存数 Nπ=N0e−x/a,区間の崩壊数 Nπdx/a に選択割合 f と娘の生存率 e−(L−x)/b を掛け,

Nμ(L)=fN0ae−L/b∫0Lex(1/b−1/a)dx=fN0bb−a(e−L/b−e−L/a).
  1. 微分して e−L/a/a=e−L/b/b を解けば

L∗=abb−aln⁡ba.

大小どちらの崩壊長でも,微分は根の前で正,後で負となる.r=b/a とおくと,最大点で e−L∗/a=e−L∗/b/r だから

Nμ(L∗)N0=fe−L∗/b=fr−1/(r−1).

数値は L∗=675m,Nμ(L∗)/N0=0.0235.

収支は dNμdL=fNπ(L)/a−Nμ(L)/b.最大点で Nμ=f(b/a)Nπ となり,生成と損失が釣り合う.

  1. ε=a/b とおけば L∗=aln⁡(b/a)/(1−ε)≃aln⁡(b/a).適用条件は 1≫ε である.b→∞ なら Nμ=fN0(1−e−L/a) と単調増加し,有限の最大点がなくなる.崩壊を無視する十分条件は 1≫L/b.

先頭近似は L∗≃666m である.近似には ΔEμ/Eμ と飛行角が十分小さいことを要する.