問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

光と原子の総合問題(1)

著者:柚木芹香

分散と干渉から群遅延へ,動く鏡の反射から光子の反跳へ,電子の閉じこめから空洞の安定性へ,中性子の流出から寿命の測定へと広げる4題です.主に力学(第5・6章),相対論と測定(第13・14章),分子運動論(第15章),波と光(第25〜27章),原子(第29・31章)を使います.

総合演習 45

オリジナル ★★★★☆

すべての色で位相がそろう位置

間隔 d の細い二重スリットを正面から照らし,上側だけに厚さ ℓ の透明板を置きます.焦点距離 f のレンズの後方焦点面で,上向き座標を x とします.上側から下側を引いた幾何学的光路差は −dx/f,板の屈折率は n(λ)=A−Bλ です.A,B>0,λ=c/ν は真空波長とします.色収差・反射・吸収を無視し,振幅は等しいとします.

間隔 d の二重スリットを正面から照らし,上側の光だけが厚さ ℓ の透明板を通る.レンズから後方焦点面までの距離は f で,焦点面の座標 x は光軸から上向きを正とする.光線の矢印は光の進む方向を示す. 間隔 d の二重スリットを正面から照らし,上側の光だけが厚さ ℓ の透明板を通る.レンズから後方焦点面までの距離は f で,焦点面の座標 x は光軸から上向きを正とする.光線の矢印は光の進む方向を示す.
  1. 時間因子を e−iωt として,上側から下側を引いた位相差 δ(ν,x) を求め,振動数によらず位相差が一定になる位置 xg を求めよ.群遅延でこの位置を解釈せよ.

  2. f=0.600m,d=3.00×10−3m,ℓ=18.0×10−6m の装置で,xg=1.80×10−3m でした.位相差の次数も確定し,δ=−π/2 と分かりました.A,B と λ=600×10−9m での屈折率を求めよ.xg は明線か.

  3. 振動数ごとの強さは ν0−Δν から ν0+Δν まで一定で,それ以外では0とします.ν0>Δν で,異なる色の強さは足します.干渉なしで規格化した強さを求めよ.一経路に色によらない位相 ϕ を加えて走査したときの縞の可視度 V=(Imax−Imin)/(Imax+Imin) と,xg から最初に可視度が0になる距離を求めよ.Δν=2.00×1013s−1,c=3.00×108ms−1 とせよ.

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考え方

近軸の幾何光学で経路差を求め,同じ色の複素振幅を重ねてから色ごとの強さを積分する.

  1. D=ℓ(A−1)−dx/f とおくと

δ=2πλ[ℓ(n−1)−dxf]=2π(νDc−Bℓ).

D=0 なら色によらず,xg=fℓ(A−1)/d.相対群遅延は,ω=2πν として dδdω=D/c である.また ng=n+νdndν=A となり,板の群遅延 ℓ(A−1)/c が幾何学的な遅延で相殺される.

  1. 測定値から A=1+dxg/(fℓ)=1.500.残る位相 −2πBℓ=−π/2 より B=1/(4ℓ)=1.39×104m−1,したがって n=1.492.各色で cos⁡δ=0 なので明線ではない.位相が色によらず一定でも,0とは限らない.

  2. 同じ色では |1+ei(δ+ϕ)|2/2=1+cos⁡(δ+ϕ).s=2πD/c,δ0=sν0−2πBℓ とおけば

I(x,ϕ)Iinc=1+12Δν∫−ΔνΔνcos⁡(δ0+ϕ+su)du=1+sin⁡(sΔν)sΔνcos⁡(δ0+ϕ).

Iinc は干渉なしの強さで,s=0 では因子 sin⁡(sΔν)/(sΔν) の極限を1とする.位相走査より

V=|sin⁡(sΔν)sΔν|,|x−xg|zero=cf2dΔν=1.50×10−3m.

単色極限 Δν→0 では全位置で V→1.近軸条件は 1≫|x|/f で,模型は使用帯域に限る.

総合演習 46

オリジナル ★★★★☆

中性子の寿命と壁の損失を分ける

同体積 V=2.00×10−3m3,壁面積 A1=0.100m2,A2=0.200m2 の二容器に,速さ v=4.00ms−1 の中性子を保存します.位置と方向は一様で,壁が方向を速く混ぜます.衝突ごとの損失確率 ϵ は両容器で等しく十分小さいとします.崩壊定数 λn は未知です.

壁の小窓の面積 S を変え,計数効率と背景を補正した減衰の傾き λ=−dln⁡Ndt を測りました.流出は同面積の壁損失を置き換えますが,ϵS の補正は無視します.

S(m2)

容器1の λ(s−1)

容器2の λ(s−1)

0

1.25×10−3

1.50×10−3

2.00×10−6

2.25×10−3

2.50×10−3

4.00×10−6

3.25×10−3

3.50×10−3

容器1と容器2はともに体積 V で,壁面積はそれぞれ 𝒜₁,𝒜₂ である.各容器の窓はふたで開く面積 S を変えられる.青い点は中性子,青い矢印は共通の速さ v と異なる進行方向を示す.容器と窓は模式図である. 容器1と容器2はともに体積 V で,壁面積はそれぞれ 𝒜₁,𝒜₂ である.各容器の窓はふたで開く面積 S を変えられる.青い点は中性子,青い矢印は共通の速さ v と異なる進行方向を示す.容器と窓は模式図である.
  1. 壁に向かう半球上の方向平均を行い,単位面積・単位時間に壁へ到達する数が Nv/(4V) になることを導け.N(t) と λ(S,A) を求めよ.

  2. 表の傾きが速さの測定値と整合するか調べ,ϵ と平均寿命 τn=1/λn を求めよ.窓を閉じた容器1だけから寿命を推定した場合の偏りも求めよ.

  3. 直線の切片 b1,b2 の標準不確かさが,独立に ub=1.00×10−5s−1 でした.面積などの不確かさは無視し,λn と τn の標準不確かさを求めよ.

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考え方

到達率を平均し,独立な損失率を足す.壁面積の異なる測定から崩壊の切片を分離する.

  1. 壁法線との角を θ とすると,方向の割合は dΩ/(4π).壁へ向かう方向だけを数えて

NV∫02π∫0π/2vcos⁡θ4πsin⁡θdθdϕ=Nv4V.

したがって dNdt=−λN,λ=λn+v(ϵA+S)/(4V),N=N0e−λt である.窓補正を残せば括弧内は ϵA+(1−ϵ)S となる.

  1. 表の傾きは Δλ/ΔS=5.00×102s−1m−2=v/(4V) で整合する.切片の差から

ϵ=4V(b2−b1)v(A2−A1)=5.00×10−6,λn=2b1−b2=1.00×10−3s−1.

よって τn=1.00×103s.容器1だけで壁損失を無視すると 1/b1=800s となり,20 %短く推定する.

  1. 独立な誤差の2乗和から uλn=4ub2+ub2=2.24×10−5s−1.dτndλn=−1/λn2 より uτn=uλn/λn2=22.4s,丸めれば τn=(1000±22)s である.

壁で方向が混ざる時間を tmix とすると,1≫λtmix が一様性の条件である.誤差伝播には 1≫uλn/λn,小窓近似には 1≫S/A を要し,窓補正の相対誤差は ϵ 程度である.

総合演習 47

オリジナル ★★★★★

動く鏡の反射と光子の反跳

静止質量 M の鏡が真空中で x 軸上を速度 v=βc で動きます.−1<β<1 とし,光子は正方向に進んで鏡へ垂直に入射し,負方向に反射します.入射・反射光子のエネルギーを ε=hν,ε′=hν′ とします.外力・吸収・内部励起はなく,鏡の静止質量は変わりません.鏡には E2−(pc)2=M2c4,E=γMc2,p=γMv,γ=1/1−β2 が成り立ちます.光子の運動量は入射で ε/c,反射で −ε′/c です.

右向きを x 軸の正方向とする.入射光子は正方向に進み,エネルギーは ε = hν である.反射光子は負方向に進み,エネルギーは ε′ = hν′ である.静止質量 M の鏡について,入射前の速度 v = βc が正の場合と負の場合を上下に示す.光子の線は方向を見分けるため上下にずらしてあり,入射と反射は鏡に垂直である. 右向きを x 軸の正方向とする.入射光子は正方向に進み,エネルギーは ε = hν である.反射光子は負方向に進み,エネルギーは ε′ = hν′ である.静止質量 M の鏡について,入射前の速度 v = βc が正の場合と負の場合を上下に示す.光子の線は方向を見分けるため上下にずらしてあり,入射と反射は鏡に垂直である.
  1. 保存則と鏡の不変量から r=ν′/ν を求めよ.η=ε/(Mc2) を用いてよい.

  2. 鏡の反跳を無視できる極限で r を求め,鏡の静止系への変換 ν∗=γν(1−β) と,戻す変換 ν′=γν∗(1−β) からも確かめよ.一次近似と厳密値の差も求めよ.

  3. 自由な鏡の反射で反射光が赤方偏移する条件と青方偏移する条件を求めよ.特に β<0 でも赤方偏移する場合はあるか.初め静止した鏡で光子が失うエネルギーを求め,1≫η で鏡の運動エネルギーと照合せよ.

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考え方

鏡を含む保存則で,ドップラー効果と反跳を同時に扱う.

  1. 反射後の鏡を添字 f で表すと,Ef=γMc2+ε−ε′,pfc=γMβc2+ε+ε′.これを Ef2−(pfc)2=M2c4 に入れ,初めの不変量を差し引くと

2γMc2[ε(1−β)−ε′(1+β)]−4εε′=0.

従って

r=1−β1+β+2η/γ.
  1. η→0 では r0=(1−β)/(1+β).静止系で反射前後の振動数が等しいとする二つの変換からも r0=γ2(1−β)2=(1−β)/(1+β) となる.小さい |β| で

r0=1−2β+2β21+β.
  1. 分母は正なので,r<1 は β>−η/γ,r>1 は β<−η/γ と同値である.接近の効果より反跳が大きければ,赤方偏移する.等振動数となる負の速度は,β=−η1−β2 を解いて β=−η/1+η2.

β=0 なら r=1/(1+2η) で,鏡が得る運動エネルギーは

Kf=ε−ε′=2ε2Mc2+2ε.

1≫η では Kf≈2ε2/(Mc2).力積 pf≈2ε/c より pf2/(2M) も一致する.反跳なしの条件は 1≫2η/[γ(1+β)],速度の一次近似の条件は 1≫|β| である.

総合演習 48

オリジナル ★★★★★

電子が作る空洞はどこまで耐えるか

液体中の電子1個が,半径 R の球形空洞に閉じこめられています.壁は電子を通さず,最低エネルギーは Ee=π2ℏ2/(2mR2) とします.表面エネルギーは表面張力 σ と球の表面積の積です.一定外圧 p の下で空洞を作る仕事は p と空洞体積の積です.分極と電気的な自己エネルギーの変化を無視し,電子は最低準位を保って半径の変化に速く追随します.

液体中の半径 R の球形空洞に電子1個が閉じこめられている.空洞の表面張力は σ である.赤い矢印は外圧 p が正のときに空洞の表面を内向きに押す方向を示す.電子の点は存在を模式的に表し,軌道を表さない. 液体中の半径 R の球形空洞に電子1個が閉じこめられている.空洞の表面張力は σ である.赤い矢印は外圧 p が正のときに空洞の表面を内向きに押す方向を示す.電子の点は存在を模式的に表し,軌道を表さない.
  1. 電子・表面・外圧の仕事を足した有効エネルギー U(R) を書き,p=0 での平衡半径 R0 と安定性を求めよ.m=9.11×10−31kg,h=6.63×10−34Js,ℏ=h/(2π),σ=3.80×10−4Jm−2 で R0 と電子のエネルギーを計算せよ.

  2. p>0 での平衡半径が唯一で安定であることを示せ.q=pR0/(2σ),y=R/R0 を使い,1≫q で半径の一次近似を求めよ.

  3. 液体を引っ張った状態を p<0 の一定圧力として模型化します.局所安定な空洞の圧力範囲と,平衡が消える臨界半径・圧力を求めよ.局所安定と無限膨張を区別せよ.

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考え方

閉じこめは空洞を広げ,表面と正の外圧は縮める.外圧の仕事を含むエネルギーの停留点と曲率を調べる.

  1. K=π2ℏ2/(2m) とおく.圧力を保つ外界の仕事を含めて

U=KR2+4πσR2+4πpR33,dUdR=−2KR3+8πσR+4πpR2.

p=0 の停留条件は K=4πσR04 より R0=[K/(4πσ)]1/4.d2UdR2=6K/R4+8πσ は R0 で 32πσ>0 となり,安定である.R0=1.89×10−9m,Ee=K/R02=1.70×10−20J.電子と表面のエネルギーが等しい.

  1. 一般の停留条件と無次元形は

K=4πσR4+2πpR5,y4+qy5=1.

p>0 では右辺の半径依存部分が0から単調に増すので,正の根は一つ.停留条件を曲率に代入すると d2UdR2=32πσ+20πpR>0 である.小さい q では y=1+aq と置き,一次まで 1+4aq+q=1 より y≈1−q/4.R≈R0[1−pR0/(8σ)].

  1. q<0 で F(y)=y4+qy5 とおく.F は ym=−4/(5q) まで増し,その後減少し,最大値は F(ym)=ym4/5.従って二つの停留点がある条件は ym4>5,すなわち

−455/4<q<0.

小さい根は曲率正で局所安定,大きい根は曲率負で障壁となる.両根が合体する条件 F=1,dFdy=0 から

Rc=51/4R0,pc=−8σ55/4R0=−2.16×105Pa.

よって負圧で局所安定な平衡があるのは pc<p<0.p=pc の点は極小でなく,p<pc では停留点もない.一方,負圧では R→∞ で U→−∞ なので,小さい根は障壁を越えると膨張する準安定状態である.寸法では K/σ が長さの4乗,σ/R0 が圧力となる.微小圧力近似には 1≫|q|,基底状態の仮定には 1≫kBT/ΔE を要し,ΔE は励起のエネルギー,T は温度,kB はボルツマン定数である.半径が分子間隔に近づくと,連続体模型は破れる.