問いしるべ
問いから始める物理 光子と電子の波

光子と電子の波

第29章の発展問題

著者:柚木芹香

換算質量,反跳,不確定性を,保存則と測定の条件に結びつけます.数値計算では h=6.63×10−34Js,ℏ=h/(2π),c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C,電子質量 m=9.11×10−31kg,1eV=1.60×10−19J を用います.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

同じ核電荷 +e をもつ2種類の原子H,Xの,対応するスペクトル線を比較します.核質量は MH=1836m と未知の MX>MH.換算質量 μ=mM/(m+M) を使うボーア模型では,重心運動を除いた準位は En=−B(μ/m)/n2,B=13.6eV です.熱運動と発光時の反跳を無視します.

2から1への線で δ=1−λX/λH=(3.63±0.03)×10−4 と測定しました.これは独立な最大誤差を含む波長比の測定です.

  1. δ と核質量の関係を導き,MX/MH の中心値と上下限を求めよ.

  2. 3から2への線でも,δ は同じになるか.波長差 λH−λX の比を,2から1の線を基準にして求めよ.

  3. 2から1への準位差の差を数値で求めよ.励起状態の寿命を τ=2.00×10−9s,自然幅を ΔE∼ℏ/τ と見積もると,この幅だけで2本の線は重なるか.

  4. MX→∞ での δ の上限を求めよ.上限近くで質量推定の相対誤差が増す理由を,式で説明せよ.

原子HとXの準位n=1,2,3,および2から1,3から2の対応する遷移を示す.2から1の発光を波長測定に使い,測定されたδ=1−λX/λHの値を記す.準位の高さは模式的である. 原子HとXの準位n=1,2,3,および2から1,3から2の対応する遷移を示す.2から1の発光を波長測定に使い,測定されたδ=1−λX/λHの値を記す.準位の高さは模式的である.
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考え方

換算質量は全ての準位差に同じ倍率で効く.逆問題では,小さな波長差から核質量を求める際の誤差も追う.

  1. 準位差に μ が比例するので,λ∝1/μ.a=m/MH=1/1836,s=m/MX とすると

λXλH=1+s1+a,δ=a−s1+a,MXMH=aa−(1+a)δ.

中心値は MX/MH=3.00.比は δ とともに増すので,δ=3.60×10−4,3.66×10−4 を代入し,2.95≤MX/MH≤3.05 となる.

  1. 遷移の量子数によらず波長比は同じなので,δ も同じである.絶対差は δλH なので

(λH−λX)3→2(λH−λX)2→1=λH,3→2λH,2→1=3/41/4−1/9=275.

2から1では λH=hc/[(3B/4)/(1+a)]≈122nm,波長差は約 0.0443nm.3から2では約 0.239nm となる.

  1. Hの光子エネルギーを QH=3B/[4(1+a)]=10.194eV とすると,QX=QH/(1−δ).従って

QX−QH=QHδ1−δ=3.70×10−3eV.

自然幅は ℏ/τ=3.30×10−7eV.線の差は約 1.1×104 倍大きく,自然幅だけでは重ならない.装置による幅は別に調べる必要がある.

  1. s→0 より δmax=a/(1+a)=1/1837=5.44×10−4.質量の式を微分すると

dMXMX=dδδmax−δ.

上限までの距離が小さいほど誤差が拡大する.今回の半幅では相対誤差は約 3.0×10−6/(5.4437×10−4−3.63×10−4)=0.0165.線幅との比較に使った QX−QH≈QHδ の近似には δ が十分小さいことが必要で,ここではその条件を満たす.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

質量 mμ=207m,電荷 −e の粒子1個を,質量 M=6×1836m,核電荷 +3e の中心に束縛します.重心は静止し,粒子の崩壊を無視します.相対距離を r,相対速度を v,μ=mμM/(mμ+M),k=1/(4πε0) とし,ボーア模型の条件を

μv2r=3ke2r2,μvr=nℏ

とします.定数として a0=ℏ2/(mke2)=5.29×10−11m,B=mk2e4/(2ℏ2)=13.6eV,ke2/(ℏc)=1/137 を与えます.

  1. rn,En,vn/c を導け.同じ核電荷に電子を束縛した固定核模型の基底半径 a0/3 に最も近い半径をもつ,この重い粒子の整数 n を求めよ.

  2. 中心は半径 RN=2.50×10−15m の球です.点電荷かつ非相対論的な模型を用いる基準を,RN/rn≤0.0100 かつ vn/c≤0.0100 と定めます.両方を満たす最小の n を求めよ.その準位へ,すぐ上の準位から遷移する光子のエネルギーを求めよ.

  3. 核質量を2倍にして核電荷を保つと,(2)の遷移エネルギーは何倍になるか.固定核近似の誤差を小さくする無次元量も述べよ.

半径RNの中心球と外側の粒子を示す.中心の質量はM=6×1836m,電荷は+3e,粒子の質量はmμ=207m,電荷は−eである.中心間の距離rと,比較用の長さa0/3を示す. 半径RNの中心球と外側の粒子を示す.中心の質量はM=6×1836m,電荷は+3e,粒子の質量はmμ=207m,電荷は−eである.中心間の距離rと,比較用の長さa0/3を示す.
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考え方

核を固定せず,相対運動に換算質量を用いる.軌道の大きさと速度の条件を別々に確認する.

  1. v=nℏ/(μr) を力の式へ代入すると

rn=n2ℏ23μke2=n2a0m3μ,vn=3ke2nℏ,vnc=3137n.

運動エネルギーは 3ke2/(2rn),ポテンシャルは −3ke2/rn なので

En=−3ke22rn=−9Bn2μm.

μ/m=207×11016/(207+11016)=203.182.rn/(a0/3)=n2/203.182 で,理想的には n=14.254.整数14の比は0.965,15の比は1.107なので,最も近いのは n=14 である.

  1. r1=a0/(3×203.182)=8.68×10−14m より,RN/rn=0.0288/n2.大きさの条件は n2≥2.88 で n≥2.速度の条件は n≥3/(137×0.0100)=2.19 で n≥3.両方を満たす最小は3である.4から3の光子は

Q4→3=9Bμm(19−116)=1.21×103eV.
  1. 準位差は μ に比例するので

Q(2M)Q(M)=2(M+mμ)2M+mμ=1.00931.

核を重くすると準位差は約0.93 %大きくなる.固定核近似は mμ/M が小さいときよく,今回は0.0188である.点電荷・非相対論の基準については,最小準位でも RN/r3=0.00320,v3/c=0.00730 となり,両方を満たす.

演習 3

IPhO 1974 第1問(改題) ★★★★☆

準位 En=−B/n2,B=13.6eV を共通にもつ原子A,Bを考えます.質量は MA=M=1.67×10−27kg,MB=3M で,両方とも初めは基底状態です.Aを速さ u で静止したBへ入射させ,Bだけが n=2 へ励起される衝突を調べます.内部エネルギーによる質量の変化は無視し,並進は非相対論的に扱います.

  1. この衝突が可能となる u の下限 u0 を求め,しきい値での衝突後の両速度を求めよ.

  2. しきい値で励起されたBが2から1へ光子を出します.衝突前のAの進行方向,その逆方向へ出る光子のエネルギーを Q+,Q− とする.エネルギーと運動量の保存から,vB/c と Δ/(3Mc2) の一次まで求めよ.Δ=3B/4 とします.これらの積と二次の項は省いてよい.

  3. 振動数差を2つの振動数の算術平均で割った比を数値で求めよ.さらに標的質量を bM,b>0 としたときのしきい値を求め,b→∞ の極限を説明せよ.

衝突前は質量MのAが速さuで,質量3Mの静止したBへ向かう.衝突後のBからの2→1の発光を,前方と後方の別々の配置で示す. 衝突前は質量MのAが速さuで,質量3Mの静止したBへ向かう.衝突後のBからの2→1の発光を,前方と後方の別々の配置で示す.
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考え方

運動量を保つために必要な重心運動のエネルギーは,励起へ使えない.発光時も原子の運動エネルギーの変化を収支へ入れる.

  1. 衝突前の全運動量は Mu.衝突後の運動エネルギーが最小なのは両原子が同じ速度 vB=u/4 をもつときで,その値は (4M)(u/4)2/2=Mu2/8 である.従って励起に使える最大値は Mu2/2−Mu2/8=3Mu2/8.これが Δ=10.2eV に等しくなる条件は

u0=8Δ3M=5.10×104ms−1,vA=vB=u04=1.28×104ms−1.
  1. 光子の向きを s=+1,−1 とし,エネルギーを Qs と書く.発光前のBの運動量は 3MvB,発光後は 3MvB−sQs/c.内部エネルギーの減少を含む保存式は

Δ=Qs+(3MvB−sQs/c)2−(3MvB)26M=Qs(1−svBc)+Qs26Mc2.

補正項の中では Qs≈Δ と置くと

Qs≈Δ(1+svBc)−Δ26Mc2.

前方では運動エネルギーの減少分が光子へ渡り,後方では逆に原子が加速される.静止原子でも反跳のため光子エネルギーは Δ より小さい.

  1. νs=Qs/h より,保持した次数では

ν+−ν−(ν++ν−)/2≈2vBc=8.51×10−5.

百分率では 0.00851 %である.一般の標的質量では,重心速度は u/(1+b),励起へ使えるエネルギーは Mu2b/[2(1+b)] なので

u0(b)=2Δ(1+b)Mb.

b→∞ では Mu02/2→Δ,重心運動へ残る割合が0になる.今回の u0/c=1.70×10−4,Δ/(3Mc2)=3.62×10−9 はともに小さい.ただし (vB/c)2=1.81×10−9 は反跳の相対補正と同程度である.(2)は指定した次数の式であり,絶対線位置を反跳補正の精度で予測するには,速度の二次と内部エネルギーによる質量変化も扱う必要がある.

演習 4

IPhO 1983 第4問(改題) ★★★★★

入射光子が運動中の自由電子1と散乱すると,電子1は静止し,光子は入射方向から角 θ へ進みます.その光子が静止自由電子2に当たり,今度は逆向きに散乱されます.最終光子の波長は λf=5λc,λc=h/(mc) です.電子の全エネルギーは Ee2=m2c4+pe2c2,光子のエネルギーは Q=hc/λ とします.

  1. 1回目の散乱直後の光子波長 λ0 を求めよ.さらに,1回目の入射波長 λi を θ で表せ.運動中の電子へ,静止電子のコンプトン公式をそのまま使わずに導け.

  2. θ=90∘ として,電子1の初めの運動エネルギー,運動量の大きさ,ド・ブロイ波長を求めよ.

  3. λ0 を保って θ を変えます.電子1の初めの運動エネルギー K が K/(mc2)≤0.0100 を満たす角度の範囲を求めよ.θ→0 でド・ブロイ波長がどうなるかも説明せよ.

入射波長λiの光子は電子1で角θへ曲がり,電子1は散乱後に静止する.波長λ0となった光子は,散乱前に静止していた電子2で逆向きへ散乱される.最終波長はλf=5λcである. 入射波長λiの光子は電子1で角θへ曲がり,電子1は散乱後に静止する.波長λ0となった光子は,散乱前に静止していた電子2で逆向きへ散乱される.最終波長はλf=5λcである.
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考え方

2回目から中間の光子を決め,1回目は電子が停止するという終状態から保存則を逆に解く.

  1. 2回目は静止電子による角 180∘ の散乱なので,λf−λ0=2λc,従って λ0=3λc.1回目の前後の光子エネルギーを Qi,Q0 とする.電子が停止するため,初めの電子の運動エネルギーは K=Q0−Qi,運動量は pe=p0−pi.よって

(mc2+Q0−Qi)2=m2c4+Q02+Qi2−2Q0Qicos⁡θ.

両辺を展開し共通項を消すと

mc2(Q0−Qi)=Q0Qi(1−cos⁡θ),1Qi−1Q0=1−cos⁡θmc2.

Q=hc/λ を代入して λi−λ0=λc(1−cos⁡θ),従って λi=(4−cos⁡θ)λc.この過程では電子から光子へエネルギーが渡り,光子の波長は短くなる.

  1. λi=4λc より,Qi=mc2/4,Q0=mc2/3,従って K=mc2/12=4.27×104eV.2つの光子の向きが直交するので

pe=(mc3)2+(mc4)2=5mc12,λe=hpe=125λc=5.82×10−12m.

電子の全エネルギーは mc21+25/144=13mc2/12 となり,K を検算できる.

  1. 一般には

Kmc2=13−14−cos⁡θ=1−cos⁡θ3(4−cos⁡θ).

指定した条件は 1−cos⁡θ≤0.0300(4−cos⁡θ).従って cos⁡θ≥88/97.初めの電子が運動しているので K>0 も必要で,0<θ≤24.9∘ である.θ=0 は初めから電子が静止している形式的な極限である.θ→0 では K→0,pe→0 なので λe→∞.(2)の K/(mc2)=1/12 は小さくなく,pe2/(2m) を用いる相対誤差は K/(2mc2)=1/24,約4.17 %となる.

演習 5

オリジナル ★★★★★

核電荷 +Ze をもつ固定された点の中心へ,電子を大きさ r の領域に局在させる模型を考えます.不確定性から運動量の大きさを p=ℏ/r と見積もり,相対論的な運動エネルギーを加えた全エネルギーを

U(r)=m2c4+ℏ2c2r2−mc2−Zke2r,k=14πε0

と定めます.この式は厳密な量子状態のエネルギーではなく,指定した局在の見積もり模型です.α=ke2/(ℏc)=1/137,g=Zα とします.

  1. 0<g<1 のとき,U が最小となる r∗ と最小値を求めよ.

  2. g=1 と g>1 では,有限の r∗ が存在するか.r→0 を調べて答えよ.

  3. g が十分小さい極限で(1)を展開し,非相対論的な見積もりと比べよ.運動エネルギーを p2/(2m) とする条件を,最小点での無次元量で示せ.

  4. 点の中心を半径 RN の中心球へ置き換える場合,(1)のクーロン模型を使うために RN/r∗ が小さいことを要求します.g→1 に近づくと,この条件がどう破れるか.この模型の発散を,現実の原子がそのまま崩壊する証明と呼べるか.

左は核電荷+Zeの点の中心と,大きさrの電子の局在領域である.右は比較用の半径RNの中心球を示す.局在領域と中心球の大きさは別縮尺である. 左は核電荷+Zeの点の中心と,大きさrの電子の局在領域である.右は比較用の半径RNの中心球を示す.局在領域と中心球の大きさは別縮尺である.
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考え方

局在を狭めると,運動エネルギーもクーロン引力も増す.無次元化してその競合と模型の限界を調べる.

  1. x=ℏ/(mcr)>0 とすると

Umc2=1+x2−1−gx,ddx(Umc2)=x1+x2−g.

停留点は x∗=g/1−g2.2階微分は (1+x2)−3/2>0 なので唯一の最小点である.従って

r∗=ℏmc1−g2g,Umin=mc2(1−g2−1).
  1. g=1 では導関数が全ての有限の x で負で,有限の最小点はない.ただし

1+x2−x=11+x2+x→0

なので,r→0 で U→−mc2 と有限値へ近づく.g>1 では U/(mc2)∼(1−g)x−1→−∞.点電荷模型内では下限がない.

  1. 1−g2≈1−g2/2 より

r∗≈ℏmcg(1−g22),Umin≈−mc2g22.

非相対論的に Unr=ℏ2/(2mr2)−Zke2/r を最小化すると,rnr=ℏ2/(mZke2)=ℏ/(mcg),Unr,min=−mc2g2/2 で,先頭の項が一致する.最小点での p/(mc)=g/1−g2 が十分小さいことが必要で,結局 g が十分小さい範囲である.

  1. 比は

RNr∗=mcRNℏg1−g2.

有限の RN では g→1 で増大し,電子が中心球の内側を調べるため −Zke2/r を使い続けられない.さらに p=ℏ/r は係数を固定した見積もりであって,厳密な波動関数から得た値ではない.従って発散はこの模型の限界を示すもので,現実の原子の崩壊をそのまま証明しない.小さい g では g2 が相対論補正の大きさを制御し,有限の中心球にはさらに RN/r∗ が小さいことが必要である.

演習 6

APhO 2006 第3問(改題) ★★★★★

質量 M の二準位原子を,x 軸の正負から同じ弱いレーザーで照射します.内部の準位差は Δ=ℏω0 です.k=ω0/c,光子運動量を pγ=ℏk,反跳エネルギーを Er=pγ2/(2M) とします.まず並進は p2/(2M) として扱います.

静止原子が1光子を吸収する共鳴角振動数を ωa とし,レーザーの角振動数 ω との差を δ=ω−ωa と定義します.正負の向きの光による吸収回数毎秒を,次の模型で与えます.

Γ+(v)=Γ01+[(δ−kv)/a]2,Γ−(v)=Γ01+[(δ+kv)/a]2,a=12τ.

τ は励起状態の寿命,Γ0τ は十分小さいとします.吸収後の光子は正負の x 方向へ等確率で1個だけ放出され,放出方向は吸収方向と独立です.各光子の運動量の大きさを pγ と近似します.原子間衝突を無視し,kv/a の一次まで扱います.

  1. 運動量とエネルギーの保存から ωa≈ω0+Er/ℏ を導け.正負の光から受ける平均力 F を求め,小速度で F=−βv と書いたときの β と,減速するための δ の符号を求めよ.

  2. 1回の吸収と放出を1周期とします.周期ごとの運動量変化の2乗平均を求め,v=0 での平均加熱率を求めよ.方向の無作為性による加熱を捨ててはならない.

  3. 1方向の温度を M⟨v2⟩=kBT で定義します.平均力による冷却と(2)の加熱がつり合う温度を求め,δ<0 の範囲で最小となる δ を求めよ.

  4. M=1.00×10−25kg,2π/k=600nm,τ=2.00×10−8s,Γ0=1.00×105s−1,kB=1.38×10−23JK−1 とします.最小温度と,その温度での k⟨v2⟩/a および Er/(kBT) を評価し,線形化と連続的な冷却の模型を確かめよ.

質量M,速度vの二準位原子を,同じ角振動数ωのレーザーで左右から照射する.吸収後の光子は+xまたは−xへ等確率で1個だけ放出される.二準位間隔Δと励起状態の寿命τを示す. 質量M,速度vの二準位原子を,同じ角振動数ωのレーザーで左右から照射する.吸収後の光子は+xまたは−xへ等確率で1個だけ放出される.二準位間隔Δと励起状態の寿命τを示す.
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考え方

平均運動量の変化は摩擦に相当するが,運動量変化の2乗は加熱を残す.両方をエネルギーの収支へ入れる.

  1. 静止原子がエネルギー Q の光子を吸収すると,運動量は Q/c となるので Q=Δ+Q2/(2Mc2).補正項では Q≈Δ と置き,Q≈Δ+Δ2/(2Mc2)=Δ+Er.従って ωa≈ω0+Er/ℏ である.放出の平均運動量は0なので

F=ℏk[Γ+(v)−Γ−(v)].

G(δ)=Γ0/(1+δ2/a2) と書くと,差は −2kvG′(δ).G′(δ)=−2Γ0δ/[a2(1+δ2/a2)2] より

F=4ℏk2Γ0δa2(1+δ2/a2)2v,β=−4ℏk2Γ0δa2(1+δ2/a2)2.

減速には β>0,すなわち δ<0 が必要である.

  1. 吸収方向を s=±1,放出方向を独立な t=±1 とすると,運動量変化は J=(s−t)pγ.固定された s についても ⟨t⟩=0,t2=1 なので

⟨J2⟩=pγ2⟨s2+t2−2st⟩=2pγ2.

運動エネルギーの変化は vJ+J2/(2M).v=0 では1周期あたり pγ2/M 増し,周期数毎秒は Γ+(0)+Γ−(0)=2G(δ) なので,加熱率は H=2G(δ)pγ2/M である.

  1. 冷却率は ⟨Fv⟩=−β⟨v2⟩=−βkBT/M.これと H をつり合わせると

T=2G(δ)pγ2βkB=ℏ(a2+δ2)−2δkB.

q=−δ/a>0 とすれば T=ℏa(q+1/q)/(2kB).q+1/q≥2 だから,q=1,すなわち δ=−a で

Tmin=ℏakB=ℏ2kBτ.

δ→0− では摩擦が消え,δ→−∞ では摩擦が加熱より速く弱まるため,どちらも定常温度は増す.

  1. a=2.50×107s−1,k=2π/(600nm) より,Tmin=1.91×10−4K.また pγ=h/(600nm),Er=6.11×10−30J なので

ErkBTmin=2.31×10−3,k⟨v2⟩a=kakBTminM=0.0680.

1回の反跳は熱運動に比べ小さく,線形化のパラメーターも小さい.さらに Γ0τ=0.00200,Δ/(Mc2)=3.68×10−11 と小さく,励起割合が低い近似と,光子運動量を ℏk に固定する近似は整合する.これらが小さくなくなると,得た最小温度をそのまま使えない.