問いしるべ
問いから始める物理 光子と電子の波

光子と電子の波

第29章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,光と電子がどちらも波と粒の両面をもつことを見ました.光は干渉する波でありながら,物質とはエネルギー hν,運動量 h/λ の光子として1個ずつやりとりします.逆に電子は1個の点として届きながら,波長 λ=h/p の波として干渉し,届く確率は確率振幅の絶対値の2乗で決まります.波を狭い所に閉じこめると定常波だけが残り,エネルギーは飛び飛びの準位になります.これを水素原子に当てはめたのがボーア模型で,線スペクトルとリュードベリ定数が m,e,h,c,ε0 だけから説明できました.最後に,原子がたくさん並んだ固体では準位が帯になり,半導体のバンドギャップが LED や太陽電池での光と電気のやりとりを決めることを見ました.

定義と法則

法則 光子

  • 振動数 ν,波長 λ の光は,1個あたりエネルギー E=hν=hc/λ,運動量 p=E/c=h/λ(向きは光の進む向き)の光子の流れとして物質とやりとりする.h=6.63×10−34Js をプランク定数という.光の強さは光子の数を決め,振動数は1個のエネルギーを決める.

  • 質量 m の粒子では,速さによらず E2=(mc2)2+(pc)2 で,運動エネルギーは K=E−mc2.pc が mc2 より十分小さければ K=p2/(2m) に戻る.光子は質量0の粒子で E=pc,いつも速さ c で進む.

  • 光子1個がどこに届くかは確率でしか決まらず,その確率の分布が波の強さで与えられる.

法則 光電効果

金属から電子1個を外へ取り出すのに要る最小のエネルギーを仕事関数 W という.電子1個が光子1個を丸ごと吸収するので,光電子の運動エネルギーの最大値 Kmax と阻止電圧 Vs は

Kmax=eVs=hν−W

を満たし,光の強さによらない.限界振動数は ν0=W/h,限界波長は λ0=hc/W.ν<ν0 ではどれほど強い光でも電子は出ず,ν>ν0 ならどれほど弱い光でもすぐに出る.飽和電流は光の強さに比例する.Vs と ν のグラフの傾きは h/e で金属によらない.光子を2個以上まとめて吸収する多光子吸収は,レーザーを細く絞った極端に強い光でだけ起こる.

法則 X線とコンプトン散乱

  • 電圧 V で加速した電子が出す連続X線の最短波長は λmin=hc/(eV) で,標的の種類にも電流にもよらない.その上に,標的の元素で決まる鋭い特性X線がのる.

  • 静止した自由電子に散乱された光子の波長のずれは

λ′−λ=hmc(1−cos⁡ϕ)

で,入射波長にも散乱体にもよらない.h/(mc)=2.43×10−12m を電子のコンプトン波長という.原子に強くつなぎとめられた内側の電子による散乱では,相手が原子全体になり,ずれは見えない.

法則 物質波と確率振幅

  • 運動量 p の粒子には波長 λ=h/p の物質波がともなう(ド・ブロイ波長).電子線は結晶で回折し,ブラッグ条件 2dsin⁡θ=nλ を満たす向きに強め合う.

  • 粒子がある場所に届く過程ごとに複素数の確率振幅 ψ が決まり,そこで見つかる確率は |ψ|2 に比例する.場所ごとの確率振幅を場所の関数とみたものを波動関数という.

  • 区別できない経路を通って同じ結果に至るときは振幅を足してから2乗し(P=|ψ1+ψ2|2),経路を区別できるときは経路ごとに2乗してから確率を足す(P=|ψ1|2+|ψ2|2).

  • 位置と運動量の不確かさは ΔxΔpx∼h 程度より小さくできない.係数は不確かさの定め方によるので,桁の見積もりにだけ使う.

定義 束縛状態とエネルギー準位

ある範囲に閉じこめられた粒子の状態を束縛状態という.束縛状態の粒子がとれるエネルギーの値は飛び飛びで,その1つ1つをエネルギー準位,準位を番号づける整数を量子数という.最もエネルギーの低い状態が基底状態,それより上が励起状態である.粒子が出られない壁では ψ=0 で,確率の合計が1という条件 ∫|ψ|2dx=1 で係数を決めることを規格化という.異なる状態が同じエネルギーをもつことを縮退という.

法則 原子の準位と光

  • ボーアの仮定:原子の中の電子は飛び飛びのエネルギー En をもつ定常状態にだけいられ,その間は光を出さない.準位 Em から低い準位 En へ移るとき hν=Em−En の光子を1個放出し,この振動数の光子を1個吸収すると逆に移る(振動数条件).

  • 量子条件:円軌道の円周がド・ブロイ波長の整数倍 2πr=nλ,すなわち角運動量が mvr=nℏ の軌道だけが定常波として残る.

  • 水素の線の波長はリュードベリの式 1λ=R(1n′2−1n2),R=1.097×107m−1 に従う.n′=1,2,3 がライマン系列(紫外線),バルマー系列(可視光を含む),パッシェン系列(赤外線)である.

  • 寿命 τ の準位からの線は自然幅 ΔE∼ℏ/τ をもつ.準位差と同じエネルギーの光子が通りかかると,同じ向き・同じ位相の光子を出して落ちることがあり(誘導放出),反転分布でこれを重ねたものがレーザーである.

定義 バンドと半導体

  • 原子が N 個並ぶと1つの準位が N 本に分かれて帯(バンド)になり,帯の間には電子がとれるエネルギーのない隙間が残る.電子は1つの状態に2個(スピンの向きが逆)までしか入れない(パウリの原理).

  • 絶対零度で電子が埋めている一番上の帯が価電子帯,そのすぐ上の空いた帯が伝導帯で,その差がバンドギャップ Eg である.金属は一番上の帯が途中まで埋まっていて,絶縁体は Eg が 5eV を超え,半導体は Eg が 1eV 前後の絶縁体である.

  • 価電子帯に残った穴は電荷 +e の粒子のように動き,正孔という.電子を放す不純物(ドナー)を混ぜて主に電子が電流を運ぶものがn型,正孔を作る不純物(アクセプター)を混ぜて主に正孔が運ぶものがp型で,符号はホール効果で分かる.

  • p型とn型の境目には動けないイオンだけが残る空乏層ができ,n側の電位がp側より高い段差がつく.p側を高い電位にする向きが順方向である.

手順

ポイント 光子と電子の問題を解く手順

  1. 光子1個のエネルギーは hc=1240eVnm を使って電子ボルトで出す.光子の数の流れは,電力やエネルギーの流れを光子1個のエネルギーで割って求める.光子1個について成り立つ式と,数を数える式を分けて考える.

  2. 衝突・吸収・放出では,エネルギーと運動量をともに保存させる.電子の運動エネルギーを mc2=511keV と比べ,十分小さければ p2/(2m),そうでなければ E2=(mc2)2+(pc)2 を使う.

  3. 物質波は,運動エネルギー,運動量,波長の順に変換する.ブラッグ条件の θ は格子面とのなす角で,粒子の曲がる角は 2θ である.

  4. 閉じこめの問題では,境界で ψ=0 となる定常波から波長と運動量を決め,準位を出す.桁だけなら,運動量を ℏ/Δx 程度として運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和を最小にする.

  5. スペクトル線は,準位図で始めと終わりの準位を決めて hc/λ=En−En′ から求める.

  6. 半導体の温度変化は2つの温度の比をとって比例定数を消す.光電流は電子・正孔の対1組につき電荷 e で数え,2e としない.

  7. 最後に近似の条件(非相対論,自由電子,壁の高さ,Eg が kBT より十分大きいこと)を確かめる.

主な公式

  • hc=1.99×10−25Jm=1240eVnm,1eV=1.60×10−19J

  • 光の圧力:光子の数の流れに1個の運動量の変化を掛けて,吸収なら S/c,反射なら 2S/c

  • 電子の質量:m=e/(e/m)=9.1×10−31kg(比電荷 e/m=1.76×1011Ckg−1)

  • 加速した電子のド・ブロイ波長:λ=h/2meV≈1.23/Vnm(1≫eV/(mc2) のとき).相対論では λ=h/2meV(1+eV/(2mc2))

  • 2つの経路の干渉:|ψ1+ψ2|2=a12+a22+2a1a2cos⁡(ϕ2−ϕ1)

  • 1次元の箱:λn=2L/n,ψn=2/Lsin⁡(nπx/L),En=n2h2/(8mL2).電子では E1=0.377eV×(1nm/L)2

  • 3次元の箱:E=h28m(nx2Lx2+ny2Ly2+nz2Lz2)

  • 調和振動子:En=(n+12)ℏω,零点エネルギー ℏω/2

  • ラザフォード散乱の最接近距離:d=2Zke2/K,ke2=1.44eVnm=1.44MeVfm

  • ボーア模型:rn=n2a0,a0=ℏ2/(mke2)=5.29×10−11m,En=−B/n2,B=mk2e4/(2ℏ2)=13.6eV,R=B/(hc),基底状態の v1/c=1/137

  • 水素型イオン:rn=n2a0/Z,En=−Z2B/n2.原子核の運動は換算質量 μ=mM/(m+M) を使い,準位に μ/m を掛ける

  • モーズリーの法則:hν=34(Z−1)2B,ν∝Z−1

  • 真性半導体:ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)],σ=σ0exp⁡[−Eg/(2kBT)].ドナーが多ければ ne≈Nd

  • ダイオード:I=Is[exp⁡(eV/(kBT))−1],室温で kBT/e=25.9mV

  • LED:hν≈Eg,光の仕事率 ηIEg/e.吸収の端の波長 λ=hc/Eg,光電流 Iph=ηeP/(hν)

  • 太陽電池:I=Iph−Is[exp⁡(eV/(kBT))−1],開放電圧 Voc≈(kBT/e)ln⁡(Iph/Is) は Eg/e より小さい

各題材の問いへの答え

  • 光子と光電効果:赤い光の光子は約 2eV で,亜鉛の仕事関数約 4.3eV に届かない.電子は光子を1個ずつしか吸収しないので,光を強くして光子の数を増やしても電子は出ない.紫外線の光子は 4.3eV を超えるので,弱い光でも来た光子の1個1個が電子を1個ずつ外へ出す.電子が出るかどうかを決めるのは光の強さではなく,光子1個のエネルギー hν である.

  • 物質波と確率の振幅:電子は届くときにはいつも1個の点だが,届く場所の確率は,通りうる経路ごとの振幅を足して2乗した |ψ1+ψ2|2 で決まり,振幅の波長は λ=h/p で決まる.縞は1個の電子の2つの経路の振幅の干渉が決める確率の分布が,たくさんの点の積み重ねで見えたものである.どちらを通ったか調べると確率を足す規則に変わり,縞は消える.

  • 閉じこめられた粒子とエネルギー準位:長さ L に閉じこめた電子の波長は弦と同じく 2L/n に限られ,エネルギーは En=n2h2/(8mL2) の飛び飛びの値になり,最低のエネルギーも0でない.準位を移るときには準位の差に等しいエネルギーの光子だけを吸収・放出する.カロテンが青い光を吸うのは,細長い分子に閉じこめられた電子の準位の間隔が青い光の光子のエネルギーに当たるからである.

  • ボーア模型と水素原子のスペクトル:水素原子の電子は,ド・ブロイ波が軌道に沿って定常波になる状態にしかいられず,エネルギーは En=−13.6eV/n2 と飛び飛びである.出る光子のエネルギーは2つの準位の差なので波長も決まった値だけになり,目に見えるのは n′=2 へ落ちるバルマー系列の4本である.どの水素原子も同じ m,e,h で決まる同じ準位をもつので,遠い星の水素も同じ線を出す.

  • 半導体とバンドギャップ:LED に順方向の電流を流すと,接合の付近で伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,そのたびに hν≈Eg の光子が1個出る.色は物質の Eg で決まり,電子1個が Eg を落ちるにはおよそ Eg/e の電圧が要るので,Eg の大きい青い LED ほど高い電圧が要る.物体全体を高温にして光らせる電球と違い,電子1個のエネルギーを直接光子1個に渡すので,熱になる分が少ない.

この章で使った数学

複素数の振幅の足し算(オイラーの式で |ψ1+ψ2|2 に干渉の項 2a1a2cos⁡(ϕ2−ϕ1) が現れる),規格化の積分(sin2⁡u=(1−cos⁡2u)/2 を使う),不確定性による見積もりで運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和を最小にする微分 dEda=0,コンプトン散乱で運動量の保存の式の大きさの2乗をとる計算,そしてボルツマン因子の指数関数がありました.

次の第30章(発展)では,この章の実験で見た波と粒の両面を,確率振幅という1つの考え方から組み立て直します.その章を飛ばす人は,第31章へ進んで同じ考え方を原子核と素粒子に広げてください.