問いしるべ
問いから始める物理 仕事とエネルギー

仕事とエネルギー

エネルギーの諸形態の演習

著者:柚木芹香

力学的エネルギーが減った後の行き先を追い,収支を閉じてみましょう.効率を使うときは,何を入力とし,何を有用な出力と呼ぶのかを明示してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 1.0×103kg の車が,速さ 10ms−1 から水平な道で停止する.運動エネルギーはすべてブレーキの内部エネルギーになるものとする.

  1. 移ったエネルギーを求めよ.

  2. ブレーキの合計質量が 10kg,比熱が 5.0×102Jkg−1K−1 のとき,温度上昇を求めよ.

  3. 停止距離だけを2倍にした場合,温度上昇はどう変わるか.

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考え方 失われた運動エネルギーと,温められる物体の質量を別々に扱う.車全体の質量を比熱の式へ入れない.

  1. Q=12mv2=12×103×102=5.0×104J.車の運動エネルギーは減るが,系全体のエネルギーが消えるわけではない.

  2. ブレーキの熱容量は Mc=10×5.0×102=5.0×103JK−1 なので,ΔT=Q/(Mc)=10K となる.温度の差を表すので,これは摂氏で10度の上昇にも等しい.

  3. 始めと終わりの速さが同じなら移るエネルギーも同じで,温度上昇は変わらない.停止距離を延ばせば平均の制動力は小さくできるが,その力がする仕事の大きさは同じである.ただし,長い時間の間に外へ熱が逃げる場合は,問題の仮定が成立しない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

モーターに 2.0×104J の電気エネルギーを入れたところ,荷物の重力ポテンシャルが 1.5×104J 増えた.荷物は始めも終わりも静止し,残りは全て装置と周囲の内部エネルギーとなった.

  1. 荷物を上げる効率と,内部エネルギーの増加を求めよ.

  2. この運転が 10s かかったとき,平均入力電力と平均有用仕事率を求めよ.

  3. 効率が100 %未満であることは,エネルギー保存に反するか.

モーターのエネルギー収支.入力電気エネルギーからモーターを経て,荷物の位置エネルギーと装置・周囲の内部エネルギーへ分岐する図を示している.未知の量はQとする. モーターのエネルギー収支.入力電気エネルギーからモーターを経て,荷物の位置エネルギーと装置・周囲の内部エネルギーへ分岐する図を示している.未知の量はQとする.
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考え方 効率の分母は入力全体で,分子は指定された目的に役立った分である.有用でないエネルギーも収支には残す.

  1. η=1.5×104/(2.0×104)=0.75,すなわち75 %である.内部エネルギーの増加は 2.0×104−1.5×104=5.0×103J となる.

  2. 入力電力は 2.0×103W,有用仕事率は 1.5×103W.同じ時間で割っているので,この2つの仕事率の比も0.75になる.瞬間の入力と出力が一定でなくても,運転全体での平均についてはこの計算ができる.

  3. 反しない.荷物の位置エネルギーと内部エネルギーの増加を加えると,入力に等しい.効率が小さいとはエネルギーの一部が消えたことではなく,選んだ目的に使えなかった割合が大きいということである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

蓄電池のエネルギーを使うポンプの効率は80 %である.質量 M=400kg の水を,高さ h=5.0m のタンクへ上げる.その後,同じ水を下ろして効率60 %の発電機で電気を得る.g=10ms−2 とし,各効率はそれぞれ電気から位置エネルギー,位置エネルギーから電気への変換について定義する.

  1. 最初に必要な電気エネルギーを求めよ.

  2. 回収する電気エネルギーと往復効率を求めよ.

  3. 全過程でそれ以外の形へ移る量を求めよ.

揚水と発電の2段階変換.低い水槽,高さhのタンク,汲み上げるポンプと下ろして発電する経路を並べ,効率80 %と60 %を記す. 揚水と発電の2段階変換.低い水槽,高さhのタンク,汲み上げるポンプと下ろして発電する経路を並べ,効率80 %と60 %を記す.
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考え方 同じ位置エネルギーを,ポンプでは出力,発電機では入力として扱う.効率を足すのでなく,段階ごとの収支をつなぐ.

  1. 水に蓄える量は Mgh=2.0×104J.入力 E入 の80 %がこの量なので E入=2.0×104/0.80=2.5×104J.

  2. 発電量は E回収=0.60×2.0×104=1.2×104J.往復効率は E回収/E入=0.48,すなわち48 %.これは 0.80×0.60 に等しい.

  3. 差の 1.3×104J が内部エネルギーなどへ移る.ポンプでの 5.0×103J と発電機での 8.0×103J の和にも一致する.水が元の高さに戻っても,蓄電池は初めのエネルギーを取り戻せない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

質量 60kg の人が,標高差 200m を 1000s で登る.登るために追加で消費する化学エネルギーのうち25 %が重力ポテンシャルの増加になるとする.g=10ms−2,1kcal=4.0×103J とする.

  1. 高さを得る仕事と平均仕事率を求めよ.

  2. 追加の化学エネルギー消費をジュールとキロカロリーで求めよ.

  3. 同じ時間に,生命維持などで別に平均 80W を消費するとき,化学エネルギー消費の総量はいくらか.

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考え方 効率の対象を「登るための追加分」に限定して計算する.問題で別に与えられた基礎的な消費を,後で一度だけ加える.

  1. W=mgh=1.2×105J,平均仕事率は W/t=120W.これは重力に逆らう有用仕事についての値で,体内の総消費率ではない.

  2. E追加=W/0.25=4.8×105J=120kcal となる.このうち 3.6×105J は高さの増加には使われず,内部エネルギーなどへ移る.

  3. 別の消費は 80×1000=8.0×104J.したがって総量は 5.6×105J=140kcal.このモデルでは平均の総消費率は 560W になる.運動時間を変えると,(1) の仕事は同じでもこの別の消費量は変わるので,効率の定義を確認する必要がある.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の車が速さ v0 で高さ h の坂の上に入り,ふもとで速さ v1 になる.この間,空気抵抗などが一定のエネルギー D を奪い,残りの減少分は回生装置が受け取る.装置の入力の割合 η が電池に蓄えられ,残りは装置の内部エネルギーになる.

  1. 回生装置への入力 B と蓄電量を求めよ.

  2. m=1000kg,h=20m,v0=10ms−1,v1=20ms−1,D=2.0×104J,η=0.60,g=10ms−2 で計算せよ.

  3. 計算で B<0 になった場合,この運転の説明は成立するか.

坂道での回生と速度変化.坂の上の車v₀と下の車v₁,高低差hを示し,回生装置から電池へ向かう流れと抵抗による損失Dを示す. 坂道での回生と速度変化.坂の上の車v₀と下の車v₁,高低差hを示し,回生装置から電池へ向かう流れと抵抗による損失Dを示す.
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考え方 坂を下っていても,速度の増加にエネルギーが使われる.位置エネルギーの減少を全て回収できるわけではない.

  1. 車の力学的エネルギーの減少は mgh+12m(v02−v12).したがって

B=mgh+12m(v02−v12)−D,E蓄電=ηB

である.回生であるためには B≥0 を満たさなければならない.

  1. 高さから 2.0×105J を得る一方,運動エネルギーは 1.5×105J 増える.よって B=3.0×104J,蓄電量は 1.8×104J.装置の内部エネルギー増加は 1.2×104J で,抵抗による分と合わせて 3.2×104J が蓄電以外へ移る.

  2. 成立しない.指定された終速にするには,回生で奪うのでなく外部からエネルギーを加える必要がある.負の蓄電量としてそのまま効率を掛けると,駆動と回生の定義を混同する.

ポイント 教える人へ

  • 温められる物体の質量と,動いていた物体の質量を区別させる.

  • 効率の分母と分子を毎回言葉で確認するのがよい.

  • 多段階の変換では,各段の出力が次の入力になる図を描かせる.

  • 損失とは消滅ではないことを,全ての行き先の和で確認する.