問いしるべ
問いから始める物理 マクスウェル方程式

マクスウェル方程式

場のエネルギーとその流れ

著者:柚木芹香

問い

電池に電熱線をつなぐと,電熱線は熱くなります.電熱線で熱になったエネルギーは,もとは電池にあったはずです.そのエネルギーは,電池から電熱線まで,導線の中を通って届くのでしょうか.届くとしたら,導線の中の何が運んでいるのでしょうか.

考えてみる

水車を回す水のように,導線の中の電子がエネルギーを運ぶと考えたくなります.けれども,第21章で見たように,導線の中の電子は1秒に 0.1mm ほどしか進みません.しかも電子は回路を一周して電池に戻ってくるので,行きの導線で運んだ分を帰りの導線で持ち帰ることになります.交流では電子はその場で行ったり来たりするだけなのに,エネルギーは発電所から家庭へ一方向に届きます.電子がエネルギーを運ぶ,という描像はうまくいきません.

ここで,第21章の電荷の保存を思い出します.ある所で電荷が減れば,その分は必ずまわりの面を通って流れ出ていて,離れた所で消えて別の所に現れることはありません.エネルギーも同じように「その場で」保存すると考えるなら,エネルギーがどこにどれだけあるか(密度)と,どこをどれだけ流れるか(流れ)を,場で表す必要があります.

場のエネルギー密度

第20章で,平行板コンデンサー(極板の面積 A,間隔 d)に蓄えられるエネルギーを,極板の間の体積 Ad あたりに直すと 12ε0E2 になることを見ました.第23章では,ソレノイドのエネルギー 12LI2 を内部の体積あたりに直すと B22μ0 でした.どちらも,エネルギーが導体や電荷にではなく,場のある空間に蓄えられていると見ることができます.

法則 場のエネルギー密度

真空中の電場 E と磁場 B は,単位体積あたり

u=uE+uB=12ε0E2+B22μ0

のエネルギーをもつ.

大きさを比べます.空気が絶縁を保てる上限に近い E=1×106Vm−1 でも uE≈4Jm−3 ですが,実験室で作れる B=1T なら uB≈4×105Jm−3 です.2つが等しくなるのは B=E/c のときで,電磁波ではちょうどこの関係になります(第26章).

エネルギーの保存を場で書く

ある領域 V の中の場のエネルギーが減るのは,境界の面からエネルギーが流れ出すか,場が中の電荷に仕事をするかのどちらかです.場が電荷にする仕事率は,速度 v の電荷 q について qE⋅v です(磁気力は速度に垂直で仕事をしない).単位体積あたりに直すと,電荷密度と速度の積が電流密度 j なので j⋅E です.面を通るエネルギーの流れを,単位時間に単位面積を通るエネルギー S(単位 Wm−2)で表すと

−ddt∫VudV=∫S⋅dA+∫Vj⋅EdV

となるはずです.右辺の1つ目は領域を囲む閉じた面全体で外向きにとった流束です.各点の式に直すと ∂u/∂t+∇⋅S=−j⋅E で,電荷の連続の式に,電荷に渡す分の項が付いた形です.

問題は,この式を満たす S が本当にあるかです.u を時間で微分し,アンペール・マクスウェルの法則で ε0∂E/∂t を,ファラデーの法則で ∂B/∂t を書きかえると

∂u∂t=ε0E⋅∂E∂t+1μ0B⋅∂B∂t=1μ0(E⋅∇×B−B⋅∇×E)−j⋅E

です.かっこの中は −∇⋅(E×B) に等しい(数学の節)ので,次の定理が出ます.

定理 ポインティングの定理

∂u∂t+∇⋅S=−j⋅E,S=1μ0E×B

S をポインティングベクトルという.大きさは単位時間に単位面積を通るエネルギー,向きはエネルギーの流れる向きである.

エネルギーは E と B の両方に垂直な向きに流れます.j⋅E は,抵抗の中では j=γE から γE2 で正(場から熱へ),電池の中では電荷が電場に逆らって押されるので負(化学のエネルギーから場へ)です.なお,閉じた面全体の流束を変えずに S に発散が0の項を足しても保存の式は成り立つので,S は一意には決まりません.ここでは,相対論とも合う最も簡単な E×B/μ0 を使います.この式は真空での式で,誘電体や磁性体の中では形が変わりますが,この本では扱いません.

静的な場でも S は0とは限りません.点電荷のそばに磁石を置くと E×B は0でなく,エネルギーは閉じた道をぐるぐる回っています.どの閉じた面でも出入りがつり合うので,どこにもたまりません.

抵抗にはエネルギーが側面から入る

半径 a,長さ ℓ のまっすぐな抵抗に,電圧 V がかかって電流 I が流れているとします.抵抗の中の電場は軸に沿って E=V/ℓ です.表面のすぐ外でも,表面に沿う電場の成分は中と同じです(第20章の誘電体の境界と同じく,表面をまたぐ細長い長方形の道で一周すると,ファラデーの法則の右辺は0).表面の磁場は,アンペールの法則から円周に沿って B=μ0I/(2πa) です.電流の向きを +z とすると E は ez 向き,B は eϕ 向きで,ez×eϕ=−er なので,S は軸に向かって内向きです.大きさは

S=EBμ0=Vℓ⋅I2πa=VI2πaℓ

で,側面の面積 2πaℓ を掛けると,入ってくる仕事率は VI=I2R です.端の面では S が面に沿うので出入りはありません.抵抗で熱になるエネルギーは,導線から端を通って入るのではなく,まわりの空間から側面を通って入ってくるのです.

半径a,長さℓの円柱の抵抗に電流Iが流れる.電場Ezは軸に沿い,磁場Bφは表面を回る.ポインティングベクトルSは側面に垂直で,まわりの空間から抵抗の内側へ向く. 半径a,長さℓの円柱の抵抗に電流Iが流れる.電場Ezは軸に沿い,磁場Bφは表面を回る.ポインティングベクトルSは側面に垂直で,まわりの空間から抵抗の内側へ向く.

このエネルギーは電池から出て,導線のまわりの空間を通ってきます.抵抗の小さい導線の中では電場がほぼ0で,表面のすぐ外の電場は導線の表面電荷が作るほぼ表面に垂直な電場なので,S は導線にほぼ平行です.導線はエネルギーを中に通すのではなく,まわりの空間を流れるエネルギーの道案内をしているのです.

JIS式の電池と矩形の抵抗を2本の導線でつなぐ.橙の線は電池の側面から出て導線のまわりの空間を通り,抵抗の側面へ入るエネルギーの流れを示す.上の導線のすぐ下では電場Eは下向き,導線を回る磁場Bは紙面の奥向きで,Sは右向きである. JIS式の電池と矩形の抵抗を2本の導線でつなぐ.橙の線は電池の側面から出て導線のまわりの空間を通り,抵抗の側面へ入るエネルギーの流れを示す.上の導線のすぐ下では電場Eは下向き,導線を回る磁場Bは紙面の奥向きで,Sは右向きである.

充電中のコンデンサー

半径 a,間隔 d の円板コンデンサーを充電しているとします.極板の間の電場 E は軸に沿って増え,側面(r=a)の磁場は,前の題材の変位電流から 2πaB=μ0ε0πa2dE/dt で B=μ0ε0a2dEdt です.抵抗と同じ向きの関係なので S は側面から内向きで,入ってくる仕事率は

2πad⋅EBμ0=ε0πa2dEdEdt=ddt(12ε0E2⋅πa2d)

です.極板の間の電場のエネルギーが増える速さにちょうど等しく,エネルギーは導線から極板を通ってではなく,すき間の側面から入ってきます.ここでは縁の効果(d/a が十分小さい)と,極板の間の磁場のエネルギーと電場の補正(a/(cτ) が十分小さい,τ は充電の時定数)を無視しました.

同軸ケーブルと場の運動量(発展)

同軸ケーブル(内導体の半径 a,外導体の内半径 b)で,内導体が外導体より V だけ高い電位で,電流 I が内導体を行き外導体を帰るとします.間の空間では電場は半径の向き,磁場は円周の向きで,S は軸に沿って負荷の側へ向きます.断面全体で積分すると,送られる仕事率はちょうど VI になります(数学の節の例題3).電力は導体の中ではなく,導体の間の空間を流れています.

エネルギーが流れているなら,運動量も流れています.第13章で見たように,エネルギー U をもつものは質量 U/c2 をもつので(第13章を飛ばした人は,この関係を認めてください),エネルギーの流れ S には単位体積あたり

g=Sc2=ε0E×B

の運動量が伴います.これを使うと,ファインマンの円板のパラドックスが解けます.電荷を固定した絶縁体の円板の軸に,電流を流したソレノイドを置きます.電流を切ると磁場が減り,誘導電場が円板の電荷を円周方向に押すので,円板は回り出します.初めは何も回っていなかったのに,角運動量が生まれたように見えます.ところが初めの状態でも,電荷の電場とソレノイドの磁場の E×B は円周の向きを向いていて,場が角運動量をもっていました.電流を切ると,場の角運動量が円板に移るのです.

正の電荷を縁に固定した絶縁体の円板の軸にソレノイドを通す.軸から見た図では磁場Bは手前向きである.円板の内側では正の縁の電荷による電場Eは中心へ向かい,ソレノイド内でE × Bは反時計回りの円周方向を向く.右に円板とソレノイドの側面図を示す. 正の電荷を縁に固定した絶縁体の円板の軸にソレノイドを通す.軸から見た図では磁場Bは手前向きである.円板の内側では正の縁の電荷による電場Eは中心へ向かい,ソレノイド内でE × Bは反時計回りの円周方向を向く.右に円板とソレノイドの側面図を示す.

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電熱線で熱になるエネルギーは,導線の中を通っては届きません.電池から出たエネルギーは,導線のまわりの空間を導線に沿って流れ,電熱線の側面から中へ入ります.運んでいるのは電子ではなく,空間の電場と磁場で,その流れはポインティングベクトル S=E×B/μ0 で表されます.導線の中の電子の動きが遅くても,エネルギーが速く届くのはこのためです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 場のエネルギー密度は u=12ε0E2+B22μ0(真空).

  • エネルギーはその場で保存し,∂u/∂t+∇⋅S=−j⋅E.この式はマクスウェル方程式から導ける(ポインティングの定理).

  • エネルギーの流れは S=E×B/μ0.j⋅E は場から電荷へ渡す仕事率.

  • 抵抗にも充電中のコンデンサーにも,エネルギーは側面から入る.導線はエネルギーの道案内をする.

  • (発展)エネルギーの流れには運動量 g=ε0E×B が伴い,場は角運動量ももつ.