問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

摩擦の演習

著者:柚木芹香

静止か滑っているかを最初に決める習慣をつけるための演習です.摩擦力を μN とおく前に,「滑っているか」「摩擦力の向きは相対運動のどちら向きか」を言葉にしてから解答を見てください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水平な床の上を,初速度 6.0ms−1 で滑る物体が,動摩擦力だけを受けて止まるまでの距離と時間を求めよ.動摩擦係数は 0.30 とする.

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右へ滑る物体に重力,垂直抗力,動摩擦力が働く.矢印の長さは力の大きさの比ではない. 右へ滑る物体に重力,垂直抗力,動摩擦力が働く.矢印の長さは力の大きさの比ではない.

考え方 物体を止めるのは動摩擦力だけである.これが一定の力なので,等加速度運動として扱える.

滑っている間の垂直抗力は N=mg で,動摩擦力は μ′mg,向きは運動と逆である.運動方向を正とすると,運動方程式は ma=−μ′mg だから

a=−μ′g=−0.30×9.8=−2.94ms−2

止まるまでの時間は t=v0/(μ′g)=6.0/2.94≈2.0s.距離は

x=v022μ′g=6.022×2.94≈6.1m

である.質量 m が消えるので,同じ初速度なら軽くても重くても同じ距離で止まる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

水平なベルトコンベアが一定の速さ 2.0ms−1 で動いている.初速度0の荷物をそっとベルトの上に置く.荷物とベルトの間の動摩擦係数は 0.40 である.

  1. 荷物がベルトと同じ速さになるまでの時間と,その間に荷物が地面に対して進む距離を求めよ.また,荷物がベルトの上で滑った距離を求めよ.

  2. ベルトを水平から角 θ 傾けて,上向きに動かす.荷物が滑らずに運ばれるための静止摩擦係数 μ の条件を求めよ.ただしベルトは等速で動いている.

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水平なベルトと上向きに動く傾いたベルトに荷物を載せる.ベルトの進む向きを示す. 水平なベルトと上向きに動く傾いたベルトに荷物を載せる.ベルトの進む向きを示す.

考え方 荷物に水平方向に働く力は,ベルトからの摩擦力だけである.ベルトに対して荷物は後ろへ滑るので,摩擦力は荷物を進行方向へ押す向きに働く.荷物の速さがベルトと同じになると,滑りがなくなって,摩擦力が変わる.

  1. 滑っている間,荷物には前向きに μ′mg の動摩擦力が働く.加速度は a=μ′g=0.40×9.8=3.92ms−2 である.ベルトの速さ V=2.0ms−1 に達する時間は

t=Va=2.03.92≈0.51s

その間に荷物が地面に対して進む距離は V22a=4.07.84≈0.51m である.同じ時間にベルトは Vt≈1.02m 進むから,荷物がベルトに対して滑った距離はその差の約 0.51m である.速さが一致したあとは滑りがなく,荷物は等速で運ばれ,摩擦力は0になる.

  1. 荷物の加速度は0なので,ベルトに沿って上向きの静止摩擦力 f は,重力のベルトに沿う成分とつり合う.

f=mgsin⁡θ,N=mgcos⁡θ

滑らない条件 f≤μN より,μ≥tan⁡θ である.これは,斜面の上で物体が静止していられる条件と同じである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

傾き 30∘ の粗い斜面の上に,質量 10kg の物体が置かれている.物体と斜面の間の静止摩擦係数は 0.70,動摩擦係数は 0.50 である.斜面に平行に,斜面に沿って上向きに物体を押す.

  1. 押さなくても物体は斜面の上で静止していることを確かめ,物体が動き出すのに必要な押す力の最小値を求めよ.

  2. 動き出したあと,一定の速さで押し上げるのに必要な力を求めよ.

30°の斜面に沿って上向きの力Fを加える.摩擦の状態は設問で判断するため,未確定の摩擦力は描かない. 30°の斜面に沿って上向きの力Fを加える.摩擦の状態は設問で判断するため,未確定の摩擦力は描かない.
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考え方 押し上げようとするとき,摩擦力は斜面に沿って下向きに働く.動き出す瞬間は静止摩擦力が限界,動いているときは動摩擦力である.

斜面に垂直な向きのつり合いより,N=mgcos⁡30∘=10×9.8×0.866≈84.9N.重力の斜面に沿う成分は mgsin⁡30∘=49N である.

  1. 押さないとき,静止に必要な摩擦力は mgsin⁡30∘=49N,最大静止摩擦力は μN=0.70×84.9≈59N で,前者が小さいので静止している(μ=0.70>tan⁡30∘≈0.58).押し上げると摩擦力は減って向きが逆になり,動き出す直前は,押す力 F1 が重力の成分に最大静止摩擦力を加えたものにつり合う.

F1=mgsin⁡30∘+μN=49+0.70×84.9≈1.1×102N
  1. 一定の速さで動いているときは加速度が0で,摩擦力は動摩擦力 μ′N である.

F2=mgsin⁡30∘+μ′N=49+0.50×84.9≈91N

動き出す力より,動いている間に必要な力の方が小さい.動き出す瞬間にだけ強い力が要ることは,冒頭の箪笥の例と同じである.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

水平な床の上にある質量 m の箱を,水平から角 φ だけ上向きの力 F で引いて,一定の速さで動かす.床との動摩擦係数を μ′ とする.

  1. F を φ の関数で表せ.

  2. F が最小になる角 φ0 と,そのときの F の値を求めよ.

  3. μ′=0.50 のとき,φ0 と,Fmin/mg の値を求め,水平に引く場合(φ=0)と比べよ.

箱を水平から角φだけ上向きの力Fで引く.mg,N,動摩擦力を示す. 箱を水平から角φだけ上向きの力Fで引く.mg,N,動摩擦力を示す.
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考え方 斜めに引くと,水平成分で箱を進めると同時に,鉛直成分で垂直抗力を減らして摩擦力を小さくする.この2つの効果の兼ね合いで,最適な角度が決まる.

  1. 鉛直方向のつり合いから N=mg−Fsin⁡φ.水平方向の等速の条件から Fcos⁡φ=μ′N.N を消去して

Fcos⁡φ=μ′(mg−Fsin⁡φ)∴F=μ′mgcos⁡φ+μ′sin⁡φ
  1. F が最小になるのは,分母 cos⁡φ+μ′sin⁡φ が最大のときである.三角関数の合成より

cos⁡φ+μ′sin⁡φ=1+μ′2cos⁡(φ−φ0),tan⁡φ0=μ′

だから,φ=φ0 のとき分母が最大値 1+μ′2 をとり

Fmin=μ′mg1+μ′2

となる.最適な角は tan⁡φ0=μ′ である.

  1. μ′=0.50 のとき,tan⁡φ0=0.50 より φ0≈27∘.Fmin/mg=0.50/1.25≈0.45 である.水平に引く場合は F/mg=0.50 だから,約 10 % だけ小さい力で済む.ただし Fsin⁡φ0<mg なので,箱が床から浮くことはない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

滑らかな水平な床の上に,質量 M=3.0kg の板があり,その上に質量 m=1.0kg の物体が載っている.板と物体の間の静止摩擦係数は 0.40,動摩擦係数は 0.30 である.

  1. 物体を水平に力 F で引く場合に,物体が板の上で滑らずに一体で動くための F の最大値を求めよ.

  2. 板を水平に力 F で引く場合に,同じ条件の F の最大値を求めよ.

  3. 物体を F=20N で引いたとき,物体と板の加速度をそれぞれ求めよ.

板上の物体を引く場合と板を引く場合を示す.内部の摩擦の向きは図から考える. 板上の物体を引く場合と板を引く場合を示す.内部の摩擦の向きは図から考える.
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考え方 床が滑らかなので,床の摩擦は考えなくてよい.物体と板の間の摩擦力だけを考える.一体で動いている間の加速度は F/(M+m) で,引く物体によって,どちらの物体が摩擦力だけで加速されるかが変わる.

垂直抗力(物体と板の間)は N=mg=9.8N で,最大静止摩擦力は μN=0.40×9.8=3.92N である.

  1. 物体を引くとき,板を加速させるのは物体からの摩擦力 f だけなので,Ma=f.一体の加速度は a=F/(M+m) だから f=MF/(M+m) となる.これが μmg 以下であればよいので

MM+mF≤μmg∴F≤M+mMμmg=4.03.0×3.92≈5.2N
  1. 板を引くとき,物体を加速させるのは板からの摩擦力 f だけなので,ma=f.f=mF/(M+m) となる.これが μmg 以下であればよいので

mM+mF≤μmg∴F≤(M+m)μg=4.0×0.40×9.8≈16N

板を引く方が,物体を引くより約3倍の力まで一体で動く.

  1. 20N は (1) の限界 5.2N を超えるので,滑る.物体と板の間には動摩擦力 f′=μ′mg=0.30×9.8=2.94N が働く.物体は引かれる向きに F−f′,板には引かれる向きに f′ の力を受けるので

a物=F−f′m=20−2.941.0≈17ms−2,a板=f′M=2.943.0≈0.98ms−2

である.物体の方が大きな加速度をもつので,板の上を前へ滑っていく.

ポイント 教える人へ

  • 冒頭の問いでは,「箪笥を押しても動かないとき,床は箪笥にどれだけの力を及ぼしているか」を数値で答えさせる.「押す力と同じ」と答えられれば,静止摩擦が「必要なだけ」の力だと理解できている.

  • よくあるつまずきは,摩擦力をいつでも μN としてしまうことである.解くときは「滑っているか」を先に決め,静止なら f≤μN を確かめる習慣をつけさせる.

  • 摩擦の向きは「運動と逆」ではなく「相対運動と逆」である.ベルトコンベアの荷物や歩く人の例で,摩擦力が物体を動かす場合があることを確かめさせる.

  • 重ねた物体の問題では,「どの面で滑るか」「だれがだれを加速するか」を,物体ごとの運動方程式で整理させる.

  • 確かめとして,斜面で滑り出す角から静止摩擦係数をはかる方法を,式で説明させる.質量が消えることを自分で見つけさせると効果的である.