問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

摩擦と三角関数の合成

著者:柚木芹香

斜めに引く力のように,角度で大きさが変わる量の最大・最小を調べるには,三角関数の合成が役に立ちます.まずその道具を用意し,そのあと摩擦の例題を解きます.合成は,演習の節で箱を斜めに引く問題などで使います.

定理 数学の道具:三角関数の合成

acos⁡θ+bsin⁡θ(a,b>0)は,次のように1つの三角関数にまとめられる.

acos⁡θ+bsin⁡θ=a2+b2cos⁡(θ−α),tan⁡α=ba

導出は,a2+b2 でくくり,cos⁡α=a/a2+b2,sin⁡α=b/a2+b2 となる α をとって,加法定理 cos⁡(θ−α)=cos⁡θcos⁡α+sin⁡θsin⁡α を使う.最大値は a2+b2(θ=α のとき)である.斜めに引く力の最適な角度のように,角度で変わる量の最大・最小を求めるときに使う.

練習 1. 3cos⁡θ+sin⁡θ を rcos⁡(θ−α) の形にし,最大値とそのときの θ を求めよ.

練習 2. 3cos⁡θ+4sin⁡θ の最大値と,そのときの tan⁡θ を求めよ.

練習 3. cos⁡θ+0.50sin⁡θ(0≤θ≤90∘)の最大値と,そのときの θ を求めよ(摩擦係数 0.50 の床で斜めに引くときに出てくる形).

答え:(1) r=3+1=2,tan⁡α=1/3 より α=30∘.最大値は 2,そのとき θ=30∘.(2) 9+16=5,tan⁡θ=43(θ≈53∘).(3) 1+0.25≈1.12,tan⁡θ=0.50 より θ≈27∘.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

粗い板の上に物体を置き,板をゆっくり傾けていくと,傾きが 30∘ になったとき物体が滑り出した.

  1. 物体と板の間の静止摩擦係数 μ を求めよ.

  2. 滑り出したあと,傾きを 30∘ に保っておく.物体と板の間の動摩擦係数が μ′=0.50 のとき,物体の加速度の大きさと,2.0m 滑り下りたときの速さを求めよ.

解答を見る
傾き 30° の板の上に質量 m の物体がある.板に沿って下向きに x 軸,板に垂直に y 軸をとる.物体には,鉛直下向きの重力 mg,板に垂直な垂直抗力 N,板に沿って上向きの摩擦力が,赤い矢印で働いている. 傾き 30° の板の上に質量 m の物体がある.板に沿って下向きに x 軸,板に垂直に y 軸をとる.物体には,鉛直下向きの重力 mg,板に垂直な垂直抗力 N,板に沿って上向きの摩擦力が,赤い矢印で働いている.

考え方 滑り出す直前は,静止摩擦力がちょうど限界 μN に達している.滑り出したあとは,摩擦力が動摩擦力 μ′N に変わる.どちらも,板に垂直な向きのつり合いから N=mgcos⁡θ が使える.

  1. 滑り出す直前に,静止摩擦力が最大値になっているので,μ=tan⁡θ0 であり

μ=tan⁡30∘=13≈0.58
  1. 滑っている間は,板に垂直な向きは N=mgcos⁡30∘ で,摩擦力は板に沿って上向きの μ′N である.板に沿って下向きを正とした運動方程式は

ma=mgsin⁡30∘−μ′mgcos⁡30∘
a=g(sin⁡30∘−μ′cos⁡30∘)=9.8×(0.50−0.50×0.866)≈0.66ms−2

静止状態から 2.0m 滑り下りたときの速さは v=2aL=2×0.66×2.0≈1.6ms−1 である.

μ′=0.50 は μ≈0.58 より小さく,μ′≤μ を満たしている.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

水平な床の上に質量 M=4.0kg の板があり,その上に質量 m=1.0kg の物体が載っている.板に水平方向の力 F を加えて引く.床と板の間の静止摩擦係数は μ1=0.30,動摩擦係数は μ1′=0.25 で,板と物体の間の静止摩擦係数は μ2=0.40 である.

  1. 板と物体が動き出す(静止状態でなくなる)ための F の条件を求めよ.

  2. 板と物体が一体となって動く(物体が板の上で滑らない)ための F の条件を求めよ.

水平な床の上に質量 M の板があり,その上に質量 m の物体が載っている.板に水平右向きの力 F(赤い矢印)が加わっている.床と板の間の静止摩擦係数は μ1,動摩擦係数は μ1′,板と物体の間の静止摩擦係数は μ2. 水平な床の上に質量 M の板があり,その上に質量 m の物体が載っている.板に水平右向きの力 F(赤い矢印)が加わっている.床と板の間の静止摩擦係数は μ1,動摩擦係数は μ1′,板と物体の間の静止摩擦係数は μ2.
解答を見る

考え方 動き出すのは,床と板の間の静止摩擦力が限界に達したときである.一体で動いている間は,物体を加速させる力は,板から受ける静止摩擦力だけである.その大きさが μ2N 以下であることが,滑らない条件になる.

  1. 床と板の間の垂直抗力は,板と物体をあわせた重力を支えるので N1=(M+m)g である.動き出すには F が床との静止摩擦力の最大値を超える必要があるので

F>μ1(M+m)g=0.30×5.0×9.8=14.7N
  1. 一体で動く間の加速度を a とする.床との摩擦は動摩擦力 μ1′N1 になっているので,板と物体の全体の運動方程式は

(M+m)a=F−μ1′(M+m)g∴a=FM+m−μ1′g

物体にだけ注目すると,物体を加速させるのは板からの静止摩擦力 f2 だけなので ma=f2.滑らない条件 f2≤μ2mg より,a≤μ2g である.これに上の a を入れて

FM+m−μ1′g≤μ2g∴F≤(μ1′+μ2)(M+m)g=0.65×5.0×9.8≈32N

以上から,一体で動く条件は 14.7N<F≤32N である.F が 32N を超えると,物体は板の上で滑り始める.

なお,この範囲が存在するには μ1′+μ2>μ1 が必要である.

ポイント ここまでのまとめ

  • acos⁡θ+bsin⁡θ=a2+b2cos⁡(θ−α)(tan⁡α=b/a)で,最大値は a2+b2 である.

  • 斜面で滑り出した直後は,限界の静止摩擦力 μN から動摩擦力 μ′N に変わり,加速度は a=g(sin⁡θ−μ′cos⁡θ) となる.

  • 重ねた物体では,面ごとに滑るかどうかを調べる.上の物体を加速するのは下の物体からの静止摩擦力だけなので,滑らない条件は a≤μ2g である.