問い
昼間は窓ガラスの向こうの景色がよく見えるのに,夜になって部屋の明かりをつけると,窓に部屋の中と自分の姿が映ります.ガラスはほとんど光を吸収しない透明な物質です.それでも光の一部は表面で跳ね返っています.窓ガラス1枚で,光の何割が反射しているのでしょうか.また,透明なのになぜ反射が起こるのでしょうか.
考えてみる
「透明」とは吸収しないということで,入った光がすべて向こうへ抜けるという意味ではありません.似たことを第25章の弦で見ました.線密度の違う2本の弦をつなぐと,接続点で波の一部が跳ね返り,残りが先へ進みます.どちらの弦もエネルギーを失わないのに反射が起こったのは,接続点で「変位がつながる」「張力の横向きの成分がつり合う」という2つの条件を,入射波と透過波だけでは同時に満たせなかったからです.
光でも,空気からガラスへ入ると波の速さが 𝑐 から 𝑐/𝑛 に変わります.前の題材で見たように,これはガラスの中の電子が入射波に揺すられて出す波が重なった結果です.その電子は後ろ向きにも波を出すので,それが反射波になります.ただし電子の放射を全部足し合わせるのは大変です.弦のときと同じく「境界で何がつながるか」から出すのが近道です.
境界で何がつながるか
屈折率 𝑛 の透明な物質(磁性はなく,吸収もないとします)の中を,𝑥 方向に進む正弦波を考えます.波の速さは 𝑣 =𝑐/𝑛 です.ファラデーの法則は物質の中でも同じ形なので,最初の題材で 𝐸 =𝑐𝐵 を出したのと同じ計算で 𝐸 =𝑣𝐵,つまり 𝐵 =𝑛𝐸/𝑐 となります.物質の中では電場に比べて磁場の割合が 𝑛 倍に大きくなるのです.強さ(時間平均のポインティングベクトルの大きさ)は 𝐸𝐵/𝜇0 の時間平均で,正弦波の2乗の平均が 1/2 であることを使うと次のようになります.
定義 物質の中の平面波と強さ
屈折率 𝑛 の非磁性で透明な物質を進む平面波では,磁場の大きさは 𝐵 =𝑛𝐸/𝑐 で,電場・磁場・進む向きは右手系をなす.電場の振幅を 𝐸0 とすると,強さは
𝐼=12𝑛𝜀0𝑐𝐸20
である.
境界の条件は,第20章で誘電体の境界を調べたときと同じく,境界をまたぐ細い長方形の道で調べます.長い辺 ℓ を境界に沿わせ,短い辺を0に近づけます.ファラデーの法則で道を一周する電場の線積分は,道を貫く磁束の時間変化で決まりますが,長方形の面積が0に近づくので磁束も0になり,𝐸1𝑡 =𝐸2𝑡 です.静電場のときは「保存場だから」でしたが,時間変化する場でも同じ結論になります.アンペール・マクスウェルの法則でも同じように,道を一周する磁場の線積分は,道を貫く電流と電束の変化で決まります.誘電体の中の分極の変化による電流も,電束の変化も,面積あたりでは有限なので,面積が0に近づけば消えます.境界に表面電流が流れていなければ,磁場の接線成分もつながります.
[図:境界をまたぐ細い積分の道]左は電場,右は磁場の接線成分.平らな境界の両側で上向きの接線成分を描く.長方形の長い辺ℓは境界に平行で,短い辺を0に近づける.
定理 電磁波の境界の条件
表面電流の無い非磁性の物質の境界では,電場の接線成分と磁場の接線成分がそれぞれつながる.
垂直入射の反射率と透過率
屈折率 𝑛1 の物質(𝑥 <0)から 𝑛2 の物質(𝑥 >0)へ,平面波が垂直に入射するとします.電場を 𝑦 方向,磁場を 𝑧 方向にとります.交流と同じく,場を複素数の実部で表し,入射・反射・透過の電場の複素振幅を ˆ𝐸𝑖, ˆ𝐸𝑟, ˆ𝐸𝑡 とします.境界 𝑥 =0 では3つの波がどれも同じ 𝑒𝑖𝜔𝑡 で振動します.反射しても透過しても振動数は変わらないからです.
電場はどの波も 𝑦 方向で,境界に平行(接線成分そのもの)なので,1つ目の条件は ˆ𝐸𝑖 +ˆ𝐸𝑟 =ˆ𝐸𝑡 です.磁場は少し注意が要ります.𝑬 ×𝑩 が進む向きを向くので,+𝑥 へ進む波では 𝑐𝐵𝑧 =𝑛𝐸𝑦 ですが,−𝑥 へ戻る反射波では 𝑐𝐵𝑧 = −𝑛1𝐸𝑦 と符号が逆になります.したがって2つ目の条件は 𝑛1(ˆ𝐸𝑖 −ˆ𝐸𝑟) =𝑛2ˆ𝐸𝑡 です.2つを連立して解くと(数学の節)次の結果になります.
定理 垂直入射の反射と透過
電場の振幅の比(振幅反射率・振幅透過率)は
𝑟=ˆ𝐸𝑟ˆ𝐸𝑖=𝑛1−𝑛2𝑛1+𝑛2,𝑡=ˆ𝐸𝑡ˆ𝐸𝑖=2𝑛1𝑛1+𝑛2
である.強さの比(反射率・透過率)は
𝑅=𝑟2=(𝑛1−𝑛2𝑛1+𝑛2)2,𝑇=𝑛2𝑛1𝑡2=4𝑛1𝑛2(𝑛1+𝑛2)2
で,𝑅 +𝑇 =1 が成り立つ.
透過率に 𝑛2/𝑛1 が付くのは,強さが 𝑛𝐸20 に比例するからです.振幅の比をそのまま2乗しても透過率にはなりません.実際に 𝑅 +𝑇 ={(𝑛1 −𝑛2)2 +4𝑛1𝑛2}/(𝑛1 +𝑛2)2 =1 で,境界で吸収が無いことと合っています.
弦の接続点の結果と並べると,対応がよく分かります.弦では変位 𝑦 と張力の横向きの成分 𝑆𝜕𝑦/𝜕𝑥 がつながり,反射の振幅比は (𝑍1 −𝑍2)/(𝑍1 +𝑍2) でした.張力が同じなら 𝑍 =√𝑆𝜇 は波数 𝑘 に比例するので,これは (𝑘1 −𝑘2)/(𝑘1 +𝑘2) です.光では 𝐸 が変位に,𝐵 が張力の横向きの成分にあたり,波数 𝑘 =𝑛𝜔/𝑐 が屈折率に比例するので,𝑘 を 𝑛 に置き換えると同じ式です.どちらも「波の速さが変わる所では反射が起こる」という同じ現象なのです.
[図:垂直入射の電場と反射・透過の割合]初期状態はn₂/n₁ = 1.50,ωt = 0.入射波と透過波を上段,左向きに進む反射波を下段に描く.屈折率の比で反射波の符号と振幅,透過波の振幅と波長が変わる.右の棒はRとTで,和は1.時刻の操作と再生・停止ができる.
初期状態はn₂/n₁ = 1.50,ωt = 0.入射波と透過波を上段,左向きに進む反射波を下段に描く.屈折率の比で反射波の符号と振幅,透過波の振幅と波長が変わる.右の棒はRとTで,和は1.時刻の操作と再生・停止ができる.
空気(𝑛1 =1.00)からガラス(𝑛2 =1.50)へ入ると,𝑟 = −0.20,𝑅 =0.040,𝑇 =0.96 です.水(𝑛 =1.33)なら 𝑅 ≈0.020,ダイヤモンド(𝑛 =2.42)なら 𝑅 ≈0.17 で,屈折率の大きい宝石ほどよく光ります.
反射で位相が反転する
𝑛2 >𝑛1 のとき 𝑟 は負で,反射波の電場は境界で入射波と逆向き,つまり位相が 𝜋 ずれます.𝑛1 >𝑛2(ガラスから空気へ出る所での反射)では 𝑟 は正で,位相は変わりません.透過波は 𝑡 >0 なので,どちらの場合も位相は変わりません.
これも弦と同じ見方ができます.𝑛2 が非常に大きい極限では 𝑟 → −1 で,境界の電場がほとんど0になります.これは第25章の固定端(変位が0)にあたります.𝑛2 が非常に小さい極限は 𝑟 → +1 で,自由端にあたります.屈折率の大きい側が「重い弦」,小さい側が「軽い弦」です.反射で位相が反転するかどうかは,第27章の薄膜の干渉で色が決まる所で効いてきます.
金属がよく光を反射するのも,この極限に近いからです.金属の中の自由電子は電場に素早く応じて動き,第20章の導体と同じく,中の電場を打ち消そうとします.そのため境界の電場はほとんど0になり,𝑟 ≈ −1 の固定端に近くなって,入射した光の大部分が跳ね返されます.場は金属の表面からわずかな深さにしか入らないので,吸収される割合も小さくなります.
斜めに入射すると
斜めに入射すると,反射率は電場の向きによって変わります.入射光と境界の法線を含む面を入射面といい,電場が入射面に垂直な光をs偏光,入射面に平行な光をp偏光と呼びます.どんな光も2つの成分に分けられ,それぞれ別々に反射・透過します.入射角を 𝜃1,屈折角を 𝜃2(𝑛1sin𝜃1 =𝑛2sin𝜃2)とすると,境界の条件を同じように使って次の結果が得られます(導出は省きます).
定理 フレネルの式(結果)
s偏光の振幅反射率と,2つの偏光の反射率は
𝑟𝑠=𝑛1cos𝜃1−𝑛2cos𝜃2𝑛1cos𝜃1+𝑛2cos𝜃2,𝑅𝑠=𝑟2𝑠,𝑅𝑝=(𝑛2cos𝜃1−𝑛1cos𝜃2𝑛2cos𝜃1+𝑛1cos𝜃2)2
である.𝜃1 =0 では2つとも垂直入射の 𝑅 に一致する.
[図:入射角によるs偏光とp偏光の反射率]初期状態はn₂/n₁ = 1.50.実線がRs,破線がRpで,θBの印はp偏光の反射率が0になる角を示す.屈折率の比を変えると曲線と印が動き,比が1未満では臨界角から先が全反射になる.
初期状態はn₂/n₁ = 1.50.実線がRs,破線がRpで,θBの印はp偏光の反射率が0になる角を示す.屈折率の比を変えると曲線と印が動き,比が1未満では臨界角から先が全反射になる.
𝑅𝑠 は入射角とともに増えて,すれすれの入射では1に近づきます.水面を斜めに見ると空がよく映るのはこのためです.一方 𝑅𝑝 は,ある角で0になります.
法則 ブルースター角
入射角が
tan𝜃𝐵=𝑛2𝑛1
を満たすとき,p偏光は反射しない(𝑅𝑝 =0).このとき反射光と屈折光は直交し(𝜃𝐵 +𝜃2 =𝜋/2),反射光はs偏光だけになる.
tan𝜃1 =𝑛2/𝑛1 とスネルの法則を使うと cos𝜃1 =sin𝜃2 となるので,𝜃1 +𝜃2 =𝜋/2 です.この角で 𝑅𝑝 =0 になる理由は,前の題材の放射から分かります.反射光はガラスの中の電子が後ろ向きに出す波です.p偏光で揺すられた電子は屈折光に垂直で入射面内の向きに振動しますが,𝜃1 +𝜃2 =𝜋/2 のとき,その向きはちょうど反射光の進む向きです.振動する双極子は振動の向きには波を出さないので,p偏光の反射光は生まれません.偏光サングラスはs偏光を通さない向きに作ってあり,水面やガラスの照り返しを大きく減らします.
[図:ブルースター角と電子の振動の向き]ブルースター角θBで入射すると反射光と屈折光は直交する.入射面は紙面であり,p偏光による電子の振動は屈折光に垂直で反射光に平行.赤い両向き矢印で振動を示す.反射光はs偏光だけになる.
𝑛1 >𝑛2 のとき(水やガラスの中から外へ出る光)は,sin𝜃1 >𝑛2/𝑛1 では屈折角が存在せず,𝑅𝑠 =𝑅𝑝 =1 となって光はすべて反射します.これが全反射です.全反射のときも,境界の向こう側の場が0になるわけではありません.境界から波長程度の距離で指数関数的に弱まる場が染み出しています(エバネッセント波).エネルギーは向こうへ流れ去りませんが,すぐ近くに別のガラスを置くと,光の一部がそこへ移ります.
ここまでの式で使った近似もまとめておきます.物質は非磁性(比透磁率が1)で吸収が無く,屈折率は実数としました.境界は平らで,境界の凹凸や,屈折率が移り変わる層の厚さは波長に比べて十分小さいとしました.ガラスの研磨面ではよく成り立ちますが,すりガラスでは光が乱反射します.また,物質の応答は電場に比例するとしました.
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窓ガラスには表と裏の2つの面があります.空気からガラスへ入る面でも,ガラスから空気へ出る面でも反射率は 𝑅 =0.040 です.厚い窓ガラスでは,2つの面で反射した光の干渉は目立たず(干渉が見えるのは第27章の薄膜のときです),強さを足し合わせてよいので,反射は約 2𝑅 =0.08 です.中で何度も往復する光まで数えると 2𝑅/(1 +𝑅) ≈0.077 になります(演習で確かめます).つまり窓ガラス1枚で約8 %の光が反射し,約92 %が透過します.
昼間は外の景色の光が部屋の明かりよりずっと強いので,透過してくる92 %の光が,部屋側から反射した8 %の光を圧倒します.夜は外が暗いので,部屋の明かりの8 %が反射した像の方が目立ちます.反射そのものは昼も夜も同じだけ起こっていて,比べる相手が変わるだけなのです.
反射を減らしたいときは,ガラスの表面に薄い膜をつけ,膜の表と裏で反射した波を打ち消し合わせます.これが眼鏡やカメラのレンズの反射防止膜で,数学の節の例題で扱います.
ポイント ここまでのまとめ
非磁性で吸収の無い物質の境界では,電場の接線成分と磁場の接線成分がつながる.物質の中の平面波では 𝐵 =𝑛𝐸/𝑐,強さは 𝐼 =𝑛𝜀0𝑐𝐸20/2.
垂直入射では 𝑟 =(𝑛1 −𝑛2)/(𝑛1 +𝑛2),𝑡 =2𝑛1/(𝑛1 +𝑛2),𝑅 =𝑟2,𝑇 =(𝑛2/𝑛1)𝑡2,𝑅 +𝑇 =1.弦の接続点の式で波数を屈折率に置き換えたものと同じ.
屈折率の大きい物質で反射すると電場の位相が 𝜋 ずれる(固定端にあたる).金属は 𝑟 ≈ −1 に近く,よく反射する.
斜め入射では,s偏光の反射率が角度とともに増え,p偏光はブルースター角 tan𝜃𝐵 =𝑛2/𝑛1 で反射しない.屈折率の大きい側から入ると全反射が起こり,場は波長程度だけ染み出す.
窓ガラスは1つの面で4 %,2つの面で約8 %の光を反射する.夜に部屋が映るのは,比べる外の光が弱くなるからである.