問いしるべ
問いから始める物理 電流と回路

電流と回路

第21章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,第20章で止まっていた電荷を動かしました.導体の中の電場は0という結果は電荷が落ち着いた後の話で,電池が電荷を送り続ける導線の中には表面の電荷が作る電場があり,それが電子を押し続けます.衝突を繰り返す電子の平均の運動からオームの法則とジュール熱が出て,電荷の保存と静電場が保存場であることからキルヒホッフの2つの法則が出ました.コンデンサーを含む回路では電流が時間とともに変わりますが,各瞬間にキルヒホッフの法則を書けば,どの量も時定数 τ で目標の値に近づく指数関数になります.そのすべてを支えているのが,光が回路を横切る時間より十分ゆっくりした変化だけを考える集中定数回路の近似です.

定義と法則

定義 電流と電流密度

断面を時間 Δt に電荷 ΔQ が通るとき,I=ΔQ/Δt を電流という.向きは正の電荷が動く向きで,金属の電子は電流と逆向きに進む.数密度 n の電子が平均の速さ(ドリフト速度)vd で動くと

I=enSvd,j=IS=envd

で,電流の向きを向く j を電流密度という.銅の導線では vd は 10−4ms−1 程度にすぎない.

法則 電荷の保存

閉じた面から出ていく電流は,中の電荷が減る速さに等しい.定常電流では閉じた面から出る電流の和は0で,これがキルヒホッフの第1法則になる.各点では連続の式 ∇⋅j=−∂ρq/∂t と書け,定常電流では ∇⋅j=0.

法則 オームの法則

衝突から次の衝突までの平均の時間を τ とすると,電子は vd=eEτ/m で流れ(向きは電場と逆),

j=1ρE,ρ=mne2τ

となる.長さ ℓ,断面積 S の一様な導線では V=RI,R=ρℓ/S.vd が熱運動の速さよりずっと小さく,電場の変わる時間が τ よりずっと長いときに成り立つ.強い電場をかけた気体や半導体,温度が大きく変わる電球のフィラメントでは破れる.

定義 起電力と内部抵抗

電池の中で化学反応による力が単位電荷にする仕事を起電力 E,電池の中の物質の抵抗を内部抵抗 r という.端子電圧は V=E−rI で,EI=VI+rI2 と,電池の仕事が外へ渡す電力と内部の発熱に分かれる.r=0 の電池が理想電圧源,E/r を一定に保って E と r をともに大きくしたものが定電流源である.

法則 キルヒホッフの法則

第1法則:接続点に流れこむ電流の和は,流れ出す電流の和に等しい.電荷の保存から出る.

第2法則:どの閉じた道を一周しても,起電力の和は電圧降下の和に等しい.静電場が保存場であることから出る.磁場が時間とともに変わる所では書き換えが要る(第23章).

定理 テブナンの定理

理想電圧源・理想電流源と抵抗だけからなる回路を2つの端子から見ると,起電力 Vth の理想電圧源と抵抗 Rth の直列と同じにふるまう.Vth は端子を開いたときの電圧,Rth は電圧源を導線に,電流源を切れた導線に置き換えたときの合成抵抗である.キルヒホッフの法則が1次式で,解を重ね合わせられることから出る.

ポイント コンデンサーを含む回路の決まり

  • コンデンサーの電圧は v=q/C,+q の極板へ流れ込む電流は I=dq/dt.各瞬間にキルヒホッフの2つの法則が成り立つ.

  • q と v は切り替えの瞬間に跳ばない(電流は跳んでよい).直後の未充電のコンデンサーは導線と同じ.

  • 十分時間がたつと,コンデンサーへ流れ込む電流は0になる.

  • 孤立部分では,そこにつながる極板の電荷の和(符号つき)が変わらない.

定義 時定数

抵抗 R とコンデンサー C の回路で,τ=RC を時定数という.単位は s.時間 τ で目標の値との差が e−1≈0.37 倍に縮み,5τ で 1 % 以下になる.抵抗が多い回路ではコンデンサーの両端から見た Rth を使い τ=RthC.

ポイント 集中定数回路として扱える条件

回路の大きさ ℓ と光の速さ c について,無次元量 ℓ/(cτ) が1よりずっと小さいこと.電子の衝突時間が τ よりずっと短いこと,自己誘導(第23章)が無視できることも前提にしている.信号が 10−9s ほどで変わる回路では破れ,導線を伝わる波として扱う.

手順

ポイント 回路の問題を解く手順

  1. 各枝の電流の向きを仮に決め,接続点ごとに第1法則,独立な閉じた道ごとに第2法則を書く.負の答えは実際の向きが逆であることを表す.接続点の電位を未知数にすれば,第2法則は自動的に満たされる.

  2. 対称な回路では,等電位と分かる点どうしをつないでも外してもよい.無限に続くはしご型では,1段先にも同じ回路が続くことから方程式を作る.

  3. 1本の枝の電流だけが要るなら,その枝を外した残りをテブナンの回路にまとめ,I=Vth/(Rth+R) とする.

  4. 測定器も回路の一部として式に入れる.電流計は直列で内部抵抗 RA が小さいほど,電圧計は並列で内部抵抗 RV が大きいほどよい.

  5. 非線形素子は,特性曲線と回路の側の直線 V=E−RI の交点(動作点)を探す.小さな変化には,素子を微分抵抗 rd=dV/dI に置き換える.V/I ではない.

  6. コンデンサーが1つなら,直前の電荷から直後の値 x0 を,コンデンサーへの電流を0として十分後の値 x∞ を,Rth から時定数を出し,x=x∞+(x0−x∞)e−t/τ とする.2つ以上なら孤立部分の電荷の和で前後をつなぐ.

  7. エネルギーは,電池の仕事,コンデンサーのエネルギー,抵抗の熱の収支で確かめる.

主な公式

  • 電流:I=enSvd,j=envd,連続の式 ∇⋅j=−∂ρq/∂t

  • オームの法則:j=E/ρ,ρ=m/(ne2τ),V=RI,R=ρℓ/S

  • 抵抗率と温度:ρ=ρ0(1+αθ)(αθ が1よりずっと小さいとき.銅で α≈4×10−3K−1)

  • ジュール熱:P=IV=I2R=V2/R,単位体積あたり jE=ρj2

  • 電池:V=E−rI,取り出せる仕事率は外の抵抗を r にしたときの E2/(4r) が最大

  • 小片の抵抗の積分:R=∫0ℓρ(x)S(x)dx,放射状なら R=∫abρA(r)dr.同軸ケーブルの漏れ抵抗 Rℓ=ρ2πℓln⁡ba,RℓC=ρεrε0

  • 合成抵抗:直列 R=R1+R2,並列 1R=1R1+1R2,R1∥R2=R1R2R1+R2

  • 分流器 Rs=IgRg/(I−Ig)(並列),倍率器は計器と合わせて全体を V/Ig にする(直列)

  • ブリッジの平衡:R1/R2=R3/R4.電位差計:Ex=Esℓx/ℓs

  • テブナン:V=Vth−RthI

  • 抵抗の測定:電流計を内側に入れると V/I=R+RA,電圧計を内側に入れると V/I=R∥RV.R>RARV なら前者が正確

  • 微分抵抗:rd=dV/dI,δV=rdδI

  • 充電:q=CE(1−e−t/RC),I=ERe−t/RC.放電:q=CV0e−t/RC,熱は 12CV02

  • 充電のエネルギー:電池の仕事 CE2 のうち 12CE2 がたまり,残りの 12CE2 が R によらず熱になる

  • 2つのコンデンサーを抵抗でつなぐ:vf=C1V0C1+C2,τ=RCs,Cs=C1C2C1+C2,熱は 12CsV02

各題材の問いへの答え

  • 電流と抵抗:流れているのは電子だが,その歩みは1秒に 0.1mm ほどにすぎない.スイッチを入れると導線の表面の電荷の分布が変わり,それに伴う電場の変化が光に近い速さで導線に沿って伝わる.電場が届くと,フィラメントの中にもともといた電子が動き出して格子とぶつかり,熱を生む.だから電灯は待たずにつく.

  • 直流回路とキルヒホッフの法則:直列にも並列にもならない回路の電流も,各接続点の電荷の保存と各閉じた道の電圧の収支を同時に満たすように1通りに決まる.5本目の電流だけなら,残りをテブナンの回路にまとめて I=Vth/(Rth+R5) とすればよい.4辺が R1/R2=R3/R4 を満たせば,5本目には電流が流れない.

  • コンデンサーの充電と放電:電池の内部抵抗のために,電池から直接取り出せる仕事率は数 W にとどまる.フラッシュは,電池から数秒かけて 150μF のコンデンサーを 300V まで充電して約 7J をため,それを 2Ω ほどの放電管を通して時定数 3×10−4s で出す.ためる時間と出す時間を別々の時定数で選べるので,最初の仕事率は 4.5×104W ほどになる.

この章で使った数学

断面や抵抗率が場所で変わる導体を薄い小片に切って足す積分,(1+x)n≈1+nx と 1/(1+x)≈1−x の1次の近似とその誤差 x2 の見積もり,そして目標の値に近づく1階の微分方程式 τdy/dt=y∞−y とその解 y=y∞+(y0−y∞)e−t/τ がありました.最後の方程式は第4章の線形の空気抵抗の落下と同じ形で,初めの接線は t=τ で目標の値に届き,差が半分になる時間は τln⁡2 です.測定から時定数を読むには片対数グラフを使い,ln⁡|y∞−y| が傾き −1/τ の直線に乗るかどうかで模型を確かめます.電流が磁場を作ることは第22章で,磁場の変化が第2法則を書き換えることは第23章で扱います.