この章では,アンペールの法則に足りなかった1項,変位電流を足して,電場と磁場の法則を4つのマクスウェル方程式にまとめました.変位電流は,電荷がたまる所で面の選び方によって答えが変わるという矛盾を消し,電荷の保存とも両立させるための項です.完成した法則からは,真空で場が速さ 𝑐 =1/√𝜀0𝜇0 で自分で伝わることと,場がエネルギーをもち,そのエネルギーが空間を流れることが出てきました.
定義と法則
定義 変位電流
面を貫く電束 Φ𝐸 の変化から作った量 𝐼𝑑 =𝜀0dΦ𝐸/d𝑡 を変位電流という.各点での密度は 𝒋𝑑 =𝜀0𝜕𝑬/𝜕𝑡 で,単位は電流と同じ A(密度は Am−2)である.電荷の流れではないが,電流と同じように磁場を作る.電荷の保存とガウスの法則から,同じ道を縁とするどの面でも,電流と変位電流の和は同じになる.
法則 マクスウェル方程式
法則 | 積分形 | 微分形 |
|---|
ガウスの法則(第20章) | 閉じた面で ∫𝑬 ⋅d𝑨 =𝑄in𝜀0 | 𝛁 ⋅𝑬 =𝜌𝜀0 |
磁場のガウスの法則(第22章) | 閉じた面で ∫𝑩 ⋅d𝑨 =0 | 𝛁 ⋅𝑩 =0 |
ファラデーの法則(第23章) | 閉じた道で ∫𝑬 ⋅d𝒍 = −dΦd𝑡 | 𝛁 ×𝑬 = −𝜕𝑩𝜕𝑡 |
アンペール・マクスウェルの法則(第22章と第24章) | 閉じた道で ∫𝑩 ⋅d𝒍 =𝜇0𝐼 +𝜇0𝜀0dΦ𝐸d𝑡 | 𝛁 ×𝑩 =𝜇0𝒋 +𝜇0𝜀0𝜕𝑬𝜕𝑡 |
積分形の Φ,Φ𝐸,𝐼 は閉じた道を縁とする止まった面についての量で,面の向きと道を回る向きは右ねじの関係にとる.積分形と微分形はガウスの定理とストークスの定理で互いに直せ,同じことを言っている.1行目と2行目は場の湧き出し(電場には電荷という湧き出しがあり,磁場にはない),3行目と4行目は場の渦(電場の渦は磁場の変化が,磁場の渦は電流と電場の変化が作る)を述べる.場が電荷に及ぼす力はローレンツ力 𝑭 =𝑞(𝑬+𝒗×𝑩)(第22章)である.
定理 電荷の保存
アンペール・マクスウェルの法則の微分形の発散をとり,𝛁 ⋅𝛁 ×𝑩 =0 とガウスの法則を使うと,第21章の連続の式
𝜕𝜌𝜕𝑡+𝛁⋅𝒋=0
が出る.変位電流の項が無いと 𝛁 ⋅𝒋 =0 がいつも要求され,電荷がたまることが許されない.同じようにファラデーの法則の発散から 𝜕/𝜕𝑡(𝛁⋅𝑩) =0 で,ある時刻に 𝛁 ⋅𝑩 =0 なら,それはずっと保たれる.
定義 準静的近似
各瞬間の電荷と電流から,静的な場の式で場を求めることを準静的近似という.大きさ 𝐿 の装置で場が時間 𝜏 程度で変わるとき,磁場の補正の割合は (𝐿/(𝑐𝜏))2 程度で,光が装置を横切る時間が変化の時間よりずっと短ければ使える.捨てるのは,場の変化が作った場がさらに場を作るという連鎖の2段目で,コンデンサーの極板の間の変位電流は捨てない.金属の中では変位電流と伝導電流の比が 𝜔𝜀0/𝛾 で,ふつう無視できる.
法則 場のエネルギー密度
真空中の電場 𝑬 と磁場 𝑩 は,単位体積あたり
𝑢=𝑢𝐸+𝑢𝐵=12𝜀0𝐸2+𝐵22𝜇0
のエネルギーをもつ.コンデンサーのエネルギー(第20章)とソレノイドのエネルギー(第23章)を,場のある空間の体積あたりに直したものにあたる.2つが等しくなるのは 𝐵 =𝐸/𝑐 のときである.
定理 ポインティングの定理
𝜕𝑢𝜕𝑡+𝛁⋅𝑺=−𝒋⋅𝑬,𝑺=1𝜇0𝑬×𝑩
𝑺 をポインティングベクトルといい,大きさは単位時間に単位面積を通るエネルギー,向きはエネルギーの流れる向きである.𝒋 ⋅𝑬 は場が電荷に渡す仕事率で,抵抗の中では 𝛾𝐸2 で正(場から熱へ),電池の中では負(化学のエネルギーから場へ)である.マクスウェル方程式から導ける.領域 𝑉 で積分すると
𝑃in=−∫𝑺⋅d𝑨=dd𝑡∫𝑉𝑢dV+∫𝑉𝒋⋅𝑬dV
(𝑺 の積分は閉じた面全体で外向き)で,面から入る仕事率は,中の場のエネルギーの増える速さと中の電荷に渡す仕事率の和である.𝑺 に発散が0の項を足しても保存の式は成り立つので,𝑺 は一意には決まらない.ここで使った式は真空での式である.
手順
ポイント 場の法則とエネルギーの流れの問題を解く手順
対称性から場の向きを絞る.軸対称なら磁場は円周の向き,球対称なら半径の向きだけが許される.
積分形を使うなら,場が一定になる道や面を選ぶ.縁が同じなら面は自由に選べるので,電流が貫く面でも,変位電流だけが貫く面でもよい.
流束と循環の向きをそろえる.閉じた面では外向き,縁のある面では縁を回る向きと右ねじの関係にとる.
𝑺 の向きは 𝒆𝑟 ×𝒆𝜙 =𝒆𝑧 とその順に回した2つで決める.面から入る仕事率と,中の場のエネルギーの増える速さと発熱の和を別々に計算して比べると,確かめになる.
使った近似の条件を確かめる.縁の効果を無視するには 𝑑/𝑎 が十分小さいこと,準静的近似には装置の大きさが 𝑐𝜏 よりずっと小さいことが要る.
主な公式
変位電流:𝐼𝑑 =𝜀0dΦ𝐸/d𝑡.平行板コンデンサーの極板の間では 𝜀0dΦ𝐸/d𝑡 =d𝑄/d𝑡 =𝐼
充電中の円板コンデンサー(半径 𝑎)の極板の間の平面の磁場:𝐵 =𝜇0𝐼𝑟2𝜋𝑎2(𝑟 <𝑎),𝐵 =𝜇0𝐼2𝜋𝑟(𝑟 >𝑎)
球対称に広がる電荷:電流と変位電流が各点で打ち消し合い,𝒋 +𝜀0𝜕𝑬/𝜕𝑡 =0 で磁場はできない
真空の渦の式:𝛁 ×𝑬 = −𝜕𝑩/𝜕𝑡,𝛁 ×𝑩 =1𝑐2𝜕𝑬/𝜕𝑡,𝑐 =1√𝜀0𝜇0 =3.00 ×108 ms−1
真空を進む場 𝑬 =𝐸0cos(𝑘𝑧 −𝜔𝑡) 𝒆𝑥,𝑩 =𝐵0cos(𝑘𝑧 −𝜔𝑡) 𝒆𝑦:𝜔/𝑘 =𝑐,𝐵0 =𝐸0/𝑐 で,+𝑧 向きに速さ 𝑐 で進む
準静的近似の補正の割合:(𝐿/(𝑐𝜏))2.50 Hz では 𝑐𝜏 ≈950 km,1 GHz では 𝑐𝜏 ≈5 cm
エネルギー密度:𝑢 =12𝜀0𝐸2 +𝐵22𝜇0
ポインティングベクトル:𝑺 =𝑬 ×𝑩/𝜇0.互いに垂直な 𝐸 と 𝐵 =𝐸/𝑐 では 𝑢𝐸 =𝑢𝐵,𝑆/𝑢 =𝑐
円筒座標の外積:𝒆𝑟 ×𝒆𝜙 =𝒆𝑧,𝒆𝜙 ×𝒆𝑧 =𝒆𝑟,𝒆𝑧 ×𝒆𝑟 =𝒆𝜙.軸に沿う電場と円周を回る磁場では 𝑆𝑟 = −𝐸𝑧𝐵𝜙/𝜇0(内向き)
円筒の面を通る流れ:側面から入る仕事率 𝑃in = −2𝜋𝑟ℓ𝑆𝑟,断面を通る仕事率 ∫𝑆𝑧 2𝜋𝑟 d𝑟
抵抗(半径 𝑎,長さ ℓ):表面で 𝑆 =𝑉𝐼2𝜋𝑎ℓ,側面全体から 𝑉𝐼 =𝐼2𝑅 が入る
充電中の円板コンデンサー:側面から入る仕事率 2𝜋𝑎𝑑 ⋅𝐸𝐵𝜇0 =dd𝑡(12𝜀0𝐸2⋅𝜋𝑎2𝑑)
同軸ケーブル:𝐸𝑟 =𝑉𝑟ln(𝑏/𝑎),𝐵𝜙 =𝜇0𝐼2𝜋𝑟,断面を通る仕事率 ∫𝑏𝑎𝑆𝑧 2𝜋𝑟 d𝑟 =𝑉𝐼
(発展)場の運動量密度:𝒈 =𝑺/𝑐2 =𝜀0𝑬 ×𝑩
各題材の問いへの答え
変位電流とマクスウェル方程式:充電している間,極板のすき間のまわりにも磁場はできる.すき間では電流は流れていないが,電場が増えていて,その変位電流 𝜀0dΦ𝐸/d𝑡 が導線の電流 𝐼 にちょうど等しいからである.極板より外側の円では,磁場は導線のまわりと同じ 𝜇0𝐼/(2𝜋𝑟) で,すき間の所で途切れることはない.
場のエネルギーとその流れ:電熱線で熱になるエネルギーは,導線の中を通っては届かない.電池から出たエネルギーは導線のまわりの空間を導線に沿って流れ,電熱線の側面から中へ入る.側面から入る仕事率はちょうど 𝐼2𝑅 である.運んでいるのは電子ではなく空間の電場と磁場で,その流れは 𝑺 =𝑬 ×𝑩/𝜇0 で表される.導線の中の電子の動きが遅くてもエネルギーが速く届くのはこのためで,導線はエネルギーの道案内をしている.
電磁気の分野をふり返って
第20章の初めに示した見取り図は,「電荷が場を作り,場が電荷に力を及ぼす」という見方と,電場と磁場の法則を言葉で書いた4つの文でした.この章のマクスウェル方程式の表は,その4つを同じ順に式で書いたもので,4つ目の文にあった「電場の流束の変化」が,この章で足した変位電流です.第20章から第23章で静電気,電流と磁場,電磁誘導と1つずつ確かめてきた法則は,この4つの式とローレンツ力にすべてまとまり,そこから電荷の保存,光の速さ,場のエネルギーの流れまでが出てきました.
この章で使った数学
流束と循環とその向きの約束,ガウスの定理とストークスの定理による積分形と微分形の行き来,どんな場でも成り立つ 𝛁 ⋅(𝛁×𝑭) =0 と 𝛁 ×(𝛁𝑓) =0,外積と円筒座標の単位ベクトル,そして 𝛁 ⋅(𝑬×𝑩) =𝑩 ⋅(𝛁×𝑬) −𝑬 ⋅(𝛁×𝑩) を使いました.対称性があるときは積分形が掛け算で済んで便利で,微分形は各点で何が起きているかを述べ,法則どうしを組み合わせるのに向いています.この章で完成した法則から,第25章で波の性質を調べたあと,第26章で電磁波を導きます.