問いしるべ
問いから始める物理 波と音

波と音

波動方程式と音の速さ

著者:柚木芹香

問い

遠くで稲妻が光り,3秒ほどたってからゴロゴロと雷鳴が聞こえました.光はほとんど一瞬で届くので,遅れは音が伝わるのにかかった時間です.では,1 km 先の空気が押し流されて耳元まで運ばれてきたのでしょうか.もしそうなら,耳元には秒速 300 m を超える猛烈な風が吹くはずです.音として伝わってくるのはいったい何で,その速さは何で決まるのでしょうか.

ここから波の章に入ります.第24章のマクスウェル方程式からは,電荷も電流もない所を場の変化が自分で伝わる解,つまり電磁波が出てきます.その前にこの章では,目で見え耳で聞こえる弦・空気・水面の波で波を語る言葉を作り,第26章(電磁波)と第27章(光)でそのまま使います.題材は,波動方程式(この題材),重ね合わせとうなり,反射とモード,倍音,分散とエネルギーの5つです.(発展)と付いた所(3次元の波,波が運ぶ運動量)は飛ばしても後が読めます.入試の範囲を先に固めたいなら,各題材の本体と例題を読み,数学の節の導出は後回しにしてかまいません.

ポイント 第25章で使う記号

記号

意味

y, ξ

媒質の変位(弦などの横の変位は y,音の縦の変位は ξ)

A

振幅

λ, k=2π/λ

波長,波数

T, f, ω=2πf

周期,振動数,角振動数

v, vg

波の速さ(位相速度),群速度

S, μ

弦の張力,弦の線密度(単位 kgm−1)

ρ, p, δp

媒質の密度,平衡の圧力,圧力のずれ

γ

比熱比

I

音(波)の強さ(単位 Wm−2)

この章では張力を S と書き,周期の T と区別します.T は音速の式でだけ絶対温度に使います.λ は第20章の線電荷密度ではなく波長,μ は透磁率ではなく線密度です.正弦波は y=Asin⁡(ωt−kx) を標準の形にします.

考えてみる

素直に考えると,音は空気が流れて運ぶものに思えます.けれど,スピーカーの前に置いたろうそくの炎は,大きな音でも少し震えるだけで吹き流されません.空気は行き来しているだけで,どこかへ流れてはいないのです.

伝わっているのは「押し縮められた状態」です.押された空気が隣の空気を押し,それがまた隣を押して,状態が次々に受け渡されます.第7章の連成振動で,おもりをばねでつないだ列の端を揺らしたときと同じです.そうだとすると,伝わる速さは「隣を押す強さ」と「押される側の重さ」で決まるはずです.これを式にしてみます.

波は形が伝わる

定義 波,横波と縦波

  • 媒質のある所に生じた変形(変位)が,媒質を次々に伝わっていく現象を波という.媒質の各部分はもとの位置のまわりを行き来するだけで,運ばれていくのは変形の形とエネルギーである.

  • 媒質の変位が波の進む向きに垂直な波を横波(弦の波),平行な波を縦波(音)という.縦波では媒質の詰まった所(密部)とまばらな所(疎部)が交互に並んで進む.

ばねの列から波動方程式へ

質量 m のおもりを,ばね定数 K のばねで間隔 a ごとにつないだ長い列を考えます(ばね定数を K と書くのは,波数の k と区別するためです).n 番目のおもりのつり合いの位置からの変位を yn とすると,両隣のばねから受ける力を足して,運動方程式は

md2yndt2=K(yn+1−yn)−K(yn−yn−1)=K(yn+1−2yn+yn−1)

です.第7章ではおもりが N 個の基準振動を調べました.ここでは,変位がおもりからおもりへゆっくり変わる場合を考えます.

[図:ばねの列から連続な媒質へ]

初期状態は13個のおもりが左右に変位し,詰まった部分が右へ進む長波長の模式図.下の曲線は同じ変位yを縦軸に描いたもの.時刻を動かすと左端の振動と圧縮の伝わり方が分かる.個数を増やすと間隔aが小さくなり,点が曲線y(x,t)に近づく.

つり合いの位置 x=na の関数として変位 y(x,t) を考え,yn±1=y(x±a,t) をテイラー展開すると,y(x±a)≈y±a∂y/∂x+12a2∂2y/∂x2 なので,yn+1−2yn+yn−1≈a2∂2y/∂x2 です(変数が2つあるので,片方を止めて微分する偏微分を使いました.数学の節).運動方程式は

m∂2y∂t2=Ka2∂2y∂x2,つまり∂2y∂t2=v2∂2y∂x2,v=aKm

になります.捨てた項の割合は間隔と波長の比の2乗程度なので,この式は波長が間隔 a よりずっと長いときに成り立ちます.波長が a に近づくと速さが波長によって変わり(分散),ある振動数より上では波が伝わらなくなります(第5題材).

法則 1次元の波動方程式

∂2y∂t2=v2∂2y∂x2

左辺は媒質の加速度,右辺は曲がり具合に比例する復元力を表す.v が波の速さになる.

弦を伝わる横波

張力 S,線密度 μ の弦が x 軸に沿って張られ,小さく横に振れているとします.x から x+dx の小さな部分は,両端で張力に引かれます.弦の傾き ∂y/∂x が1よりずっと小さければ,張力の大きさは S のままで,横向きの成分は S∂y/∂x です.両端の差が合力なので

μdx∂2y∂t2=S∂y∂x(x+dx)−S∂y∂x(x)=S∂2y∂x2dx

となり,波動方程式で v=S/μ です.張力が大きいほど速く,弦が重いほど遅くなります.

青い弦の部分はxからx+dxまで.張力Sは両端から外向きの接線方向に働く.この形では左端のy方向の成分は下向き,右端では上向きで,右端の傾きが大きいため合力は上向きになる. 青い弦の部分はxからx+dxまで.張力Sは両端から外向きの接線方向に働く.この形では左端のy方向の成分は下向き,右端では上向きで,右端の傾きが大きいため合力は上向きになる.

音の波動方程式と音速

断面積が一様な管の中の空気を考え,つり合いの位置 x にあった空気の薄い層の変位を ξ(x,t) とします.厚さ dx の層は,両面が ξ(x) と ξ(x+dx) だけずれるので,厚さが (1+∂ξ/∂x)dx になります.体積の変化の割合は ∂ξ/∂x で,質量は変わらないので密度のずれは δρ/ρ=−∂ξ/∂x です.

上は平衡の厚さdxの空気層,下は両面がξ(x),ξ(x+dx)だけ右へずれた同じ層.破線は平衡位置を示す.図の例では左面の変位が大きく,層が薄くなる.圧力p+δpは左面を右へ,右面を左へ押す. 上は平衡の厚さdxの空気層,下は両面がξ(x),ξ(x+dx)だけ右へずれた同じ層.破線は平衡位置を示す.図の例では左面の変位が大きく,層が薄くなる.圧力p+δpは左面を右へ,右面を左へ押す.

音の圧縮は速いので,熱が出入りする暇がなく,断熱変化(第16章)とみなせます.pVγ が一定なので δp/p=−γδV/V で,

δp=−γp∂ξ∂x

です.層の両面の圧力の差が層を動かすので,単位断面積あたり ρdx∂2ξ/∂t2=−∂δp/∂xdx で,これに代入すると

∂2ξ∂t2=γpρ∂2ξ∂x2,v=γpρ=γRTMmol

を得ます.2つ目の形は理想気体の p=ρRT/Mmol(Mmol はモル質量)を使いました.

空気(γ=1.40,Mmol=2.90×10−2kgmol−1)で T=293K なら,v=1.40×8.31×293/0.0290ms−1≈343ms−1 です.音速は圧力にはよらず,絶対温度の平方根に比例します.

ニュートンは圧縮が等温だとして v=p/ρ を出し,測定より約15 % 小さい値を得ました.しかし 1kHz の音の半周期の間に熱が拡散で届く距離(Dt≈0.1mm,D は熱拡散率,第18章)は,密部と疎部の距離(半波長,約 17cm)よりはるかに短く,熱は間に合わないので変化は断熱です.

δp=−γp∂ξ/∂x から,変位が0で傾きが最大の所で圧力のずれが最大になり,変位が最大の所では0です.この「変位の節が圧力の腹」という関係は,第3題材の気柱で使います.

進む波の形

波動方程式は,どんな形の関数 F についても y=F(x−vt) を解にもちます(代入して確かめるのは数学の節).時刻 t の波形は時刻0の波形を vt だけ右へずらしたもので,形を保ったまま速さ v で右へ進む波です.同じように G(x+vt) は左へ進む波で,一般の解はこの2つの和です.

[図:形が進み,媒質の点は上下に動く]

初期状態ではパルスが時刻0の破線から右へずれ,橙の印は同じ位置xに留まる.時刻tを動かすと,F(x−vt)の形が保たれたまま右へ進み,橙の印は上下だけに動く.再生は右端まで進むと止まる.

公式 正弦波

y=Asin⁡(ωt−kx),k=2πλ,ω=2πT=2πf,v=fλ=ωk

ωt−kx を位相という.入試で使う y=Asin⁡2π(tT−xλ) と同じものである.

sin⁡(ωt−kx)=−sin⁡(k(x−vt)) なので,これは F(x−vt) の形です.交流(第23章)と同じく,Aei(ωt−kx) の実部と考えて計算してもかまいません.媒質の速度 ∂y/∂t=Aωcos⁡(ωt−kx) の最大値 Aω と波の速さ v は別のもので,比 Aω/v=Ak は弦の傾きの最大値です.小振幅の近似では,これが1よりずっと小さいとしています.

3次元の波(発展)

四方に広がる音の圧力のずれ δp は,3次元の波動方程式

∂2(δp)∂t2=v2∇2⁡(δp),∇2=∂2∂x2+∂2∂y2+∂2∂z2

を満たします(∇2 は第20章の電位で出てきたラプラシアン).点音源から出る球面波は δp=F(r−vt)/r(r は音源からの距離)の形で,振幅が 1/r で減ります.

波が運ぶエネルギーと音の強さ

媒質は流れていかなくても,エネルギーは運ばれます.音の進む向きに垂直な単位面積を考えると,左側の空気は右側の空気を圧力のずれ δp で押しながら速度 ∂ξ/∂t で動かすので,単位時間に δp∂ξ/∂t の仕事を渡します.右へ進む波 ξ=F(x−vt) では ∂ξ/∂x=−1v∂ξ/∂t なので,これは ρv(∂ξ/∂t)2 です.正弦波 ξ=Asin⁡(ωt−kx) で時間平均をとります(cos2 の平均は 1/2).

公式 音の強さ

単位時間に単位面積を通るエネルギーを強さという.正弦波の音では

I=12ρvω2A2=pA22ρv,pA=ρvωA

で,pA は圧力のずれの振幅である.強さは振幅の2乗と振動数の2乗に比例する.

人の耳は 10−12Wm−2 ほどから 1Wm−2 ほどまで,12けたにわたる強さを聞き分けるので,強さを対数で表します.

定義 音の強さのレベル(デシベル)

L=10log10⁡II0 dB,I0=1.0×10−12Wm−2

強さが10倍になると 10dB,2倍になると約 3dB 上がる.

吸収も反射もなく四方へ一様に広がる音源なら,出力 P は半径 r の球面全体を通るので P=4πr2I で,強さは 1/r2 で減ります.距離が10倍になるとレベルは 20dB 下がります.

ここまでの式は,弦の傾き |∂y/∂x|,音の |∂ξ/∂x| と |δp|/p(会話の音で 10−7 程度)が1よりずっと小さいとして,2乗以上を捨てた近似です.爆発のすぐ近くのように圧力のずれが大気圧に迫ると,密部ほど音速が速くなって波形が崩れ,衝撃波になります.

問いに戻る

雷鳴として届いたのは空気そのものではなく,押し縮められた状態です.その速さ v=γp/ρ は「押し返す強さ」γp と「慣性」ρ で決まり,常温で約 340ms−1 なので,3秒の遅れなら雷は約 1km 先です.

空気の動きも見積もれます.1 km 先で 100dB(I=1.0×10−2Wm−2)の雷鳴なら,ρ=1.2kgm−3,v=343ms−1 として pA=2ρvI≈3Pa で,空気の速さの振幅は pA/(ρv)≈7×10−3ms−1,振動数 100Hz なら変位の振幅は約 1×10−5m です.耳元の空気は 0.01 mm ほど行き来するだけで,暴風は吹きません.

ポイント ここまでのまとめ

  • 波では媒質は行き来するだけで,運ばれるのは形とエネルギーである.

  • ばねの列で間隔を小さくした極限から波動方程式 ∂2y/∂t2=v2∂2y/∂x2 が出る.弦では v=S/μ.

  • 音は断熱的な圧縮が伝わる縦波で,v=γp/ρ=γRT/Mmol,δp=−γp∂ξ/∂x.変位の節が圧力の腹.

  • F(x−vt) は右へ進む波.正弦波 y=Asin⁡(ωt−kx),v=fλ=ω/k.

  • 音の強さ I=12ρvω2A2=pA2/(2ρv),レベル L=10log10⁡(I/I0)dB.

  • どれも小振幅(傾きや |δp|/p が1よりずっと小さい)の近似である.