問いしるべ
問いから始める物理 波と音

波と音

偏微分と波のグラフの読み方

著者:柚木芹香

本体の節では,波動方程式を導き,F(x−vt) が解になることを結果だけ述べました.ここでは2つの変数をもつ関数の微分(偏微分)を使って解を確かめ,正弦波の2種類のグラフの読み方と,ばねの列を連続な媒質とみなす近似の精度を練習します.

定理 数学の道具:偏微分と進む波

y(x,t) のように2つの変数をもつ関数で,t を止めて x で微分したものを ∂y/∂x,x を止めて t で微分したものを ∂y/∂t と書き,偏微分という.2回続けたものが ∂2y/∂x2,∂2y/∂t2 である.∂y/∂x はある時刻の波形の傾き,∂y/∂t はある場所の媒質の速度を表す.

u=x−vt とおいて y=F(u) とすると,合成関数の微分から

∂y∂x=F′(u),∂y∂t=−vF′(u),∂2y∂x2=F″(u),∂2y∂t2=v2F″(u)

なので,y=F(x−vt) は形 F によらず ∂2y/∂t2=v2∂2y/∂x2 を満たす.G(x+vt) も同じである.また,右へ進む波では

∂y∂t=−v∂y∂x

が成り立つ.

最後の式は「媒質の速度は,波形の傾きに −v を掛けたもの」と読めます.波形が右上がり(傾きが正)の所では媒質は下へ動き,右下がりの所では上へ動きます.右へ進む波形を少しだけ右へずらして描き,各点がどちらへ移るかを見るのと同じことです.

練習1 y=Asin⁡(ωt−kx) が波動方程式を満たすための v を求めよ.

練習2 y=Asin⁡kxcos⁡ωt を2つの進む波の和に書き直し,波動方程式を満たす条件を求めよ.

答え 練習1:∂2y/∂t2=−ω2y,∂2y/∂x2=−k2y なので,−ω2y=−v2k2y から v=ω/k.練習2:積和の公式で y=A2sin⁡(kx+ωt)+A2sin⁡(kx−ωt).1つ目は左へ,2つ目は右へ進む速さ ω/k の波で,ω=vk なら両方とも解である.直接代入しても −ω2y=−v2k2y となる.これは場所によって振幅が決まった定常波で,第3題材で使う.

2つのグラフ

波を表す y(x,t) は2つの変数の関数なので,1枚のグラフには描けません.そこで片方を止めて描きます.

ポイント 数学の道具:y-x 図と y-t 図

  • y-x 図:時刻を止めて,各場所の変位を描いたもの(波の写真).山から次の山までが波長 λ.

  • y-t 図:場所を止めて,その点の変位の時間変化を描いたもの(1点の記録).山から次の山までが周期 T.

  • y=Asin⁡(ωt−kx) では,Δx だけ離れた2点の位相は kΔx=2πΔx/λ だけずれ,進む向きの先にある点ほど遅れる.

  • 媒質の速度は ∂y/∂t,加速度は ∂2y/∂t2=−ω2y(正弦波では,加速度はいつもつり合いの位置を向く).

  • 縦波は,右向きの変位を上向きに描き直して ξ-x 図にする.密度のずれは δρ/ρ=−∂ξ/∂x なので,ξ が x とともに減る(右下がりの)所が密,増える所が疎で,最も密なのは右下がりに0を横切る点である.

左は時刻0のyとxの関係で,山と次の山の間が波長λ.破線は少し後に右へ移った波形で,矢印は選んだ媒質の点の速度を示す.右はx=0のyとtの関係で,山と次の山の間が周期T.時刻0の左の傾きは負,右の傾きは正になる. 左は時刻0のyとxの関係で,山と次の山の間が波長λ.破線は少し後に右へ移った波形で,矢印は選んだ媒質の点の速度を示す.右はx=0のyとtの関係で,山と次の山の間が周期T.時刻0の左の傾きは負,右の傾きは正になる.

ばねの列はどこまで連続か

本体の節では yn+1−2yn+yn−1≈a2∂2y/∂x2 としました.どれだけ正確かを調べます.

定理 数学の道具:差分と2階微分

テイラー展開を4次まで書くと,奇数次の項が打ち消し合って

y(x+a)−2y(x)+y(x−a)=a2∂2y∂x2+a412∂4y∂x4+⋯

となる.波数 k の正弦波では ∂4y/∂x4=−k2∂2y/∂x2 なので,2項目と1項目の比は −(ka)2/12 である.したがって ka=2πa/λ が1よりずっと小さいとき,つまり波長が間隔の数倍より十分長いとき,ばねの列は波動方程式に従う連続な媒質とみなせる.

練習3 波長がおもりの間隔の10倍のとき,2項目は1項目の何 % か.

答え ka=2π/10≈0.628,2項目と1項目の比は −(ka)2/12≈−0.033 で,逆符号で大きさは約3.3 % である.この分だけ復元力が弱まり,波は少し遅くなる(速さの変化はこの半分ほど).

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

x 軸の正の向きに速さ 2.0ms−1 で進む正弦波がある.時刻0の波形は,原点で変位が0で,そこから右へ進むと変位が減少し,最初に x=0.50m で谷(変位 −0.030m)になる.

  1. 波長,周期,角振動数,波数を求め,波の式を y=Asin⁡(ωt−kx) の形で書け.

  2. 時刻0に x=0,0.50m,1.0m にある媒質の速度の向きと大きさ,加速度の向きを答えよ.

  3. x=1.5m の点の変位を時刻の関数で表し,y-t 図の形を述べよ.

時刻0に原点で変位が0の波形を,0から2.0 mまで描く.最初の谷はx=0.50 mで変位−0.030 m,振幅は0.030 m.波はxの正の向きに速さ2.0 m s⁻¹で進む. 時刻0に原点で変位が0の波形を,0から2.0 mまで描く.最初の谷はx=0.50 mで変位−0.030 m,振幅は0.030 m.波はxの正の向きに速さ2.0 m s⁻¹で進む.
解答を見る

考え方 原点から谷までが λ/4.媒質の速度は ∂y/∂t で,波形を進む向きに少しずらして確かめる.

  1. λ=4×0.50m=2.0m,T=λ/v=1.0s,ω=2π/T=2πs−1,k=2π/λ=πm−1.時刻0で y=−Asin⁡kx となり,x=λ/4 で谷になるから A=0.030m で

y=0.030sin⁡(2πt−πx)(m)

である.

  1. ∂y/∂t=0.030×2πcos⁡(2πt−πx).時刻0で,x=0 では cos⁡0=1 で上向きに 0.19ms−1,x=0.50m では cos⁡(−π/2)=0 で速度0,x=1.0m では cos⁡(−π)=−1 で下向きに 0.19ms−1 である.加速度 −ω2y は,x=0 と x=1.0m では変位0なので0,谷の x=0.50m では上向きである.

  2. y=0.030sin⁡(2πt−1.5π)=0.030cos⁡2πt(m).y-t 図は t=0 で山(0.030m)から始まる周期 1.0s の余弦の形である.

確かめ:時刻0の波形 y=−0.030sin⁡πx は x=1.5m で +0.030m の山であり,(3) と合う.原点のすぐ左は変位が正なので,波形を右へずらすと原点は上がり,(2) と合う.最大の傾き Ak=0.094 は1よりかなり小さい.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

空気の詰まった長い管の中を,x 軸の正の向きに縦波が進んでいる.右向きの変位を正として,時刻0の変位は ξ=−Asin⁡kx で,波長は λ=0.80m である.

  1. 0≤x<λ で最も密な位置と最も疎な位置を求めよ.変位の大きさが最大の位置はどちらでもないことを確かめよ.

  2. 最も密な位置の空気の速度の向きを答えよ.圧力のずれはどこで最大か.

  3. 時刻 T/4 に,0≤x<λ で最も密な位置はどこか.

上は時刻0のξ=−A sin kxを1波長分描いた変位グラフ.右向きの変位を縦軸の正の向きに描く.下の灰色の印は平衡の位置,青い印は変位した後の同じ空気層を表し,細い破線で対応を示す. 上は時刻0のξ=−A sin kxを1波長分描いた変位グラフ.右向きの変位を縦軸の正の向きに描く.下の灰色の印は平衡の位置,青い印は変位した後の同じ空気層を表し,細い破線で対応を示す.
解答を見る

考え方 密度のずれは δρ/ρ=−∂ξ/∂x.変位の向きで隣の層との間隔が縮むか伸びるかを考える.

  1. ξ=Asin⁡(ωt−kx) の時刻0の形である.δρ/ρ=−∂ξ/∂x=Akcos⁡(ωt−kx) は時刻0で Akcos⁡kx なので,最も密なのは x=0,最も疎なのは x=λ/2=0.40m である.x=0 のすぐ左では ξ>0(右へずれる),すぐ右では ξ<0(左へずれる)ので,層が原点へ寄り集まっていて確かに密である.変位の大きさが最大の x=λ/4, 3λ/4(0.20m,0.60m)では ∂ξ/∂x=0 で,密度は平衡と同じである.

  2. ∂ξ/∂t=Aωcos⁡(ωt−kx) は時刻0の x=0 で +Aω なので,密な所の空気は波の進む向き(右)に最も速く動いている.疎な所では左向きに最も速い.δp=−γp∂ξ/∂x=γpAkcos⁡(ωt−kx) なので,圧力のずれは密な所で最大である.

  3. 波形は vT/4=λ/4 だけ右へ進むので,x=0.20m である.

確かめ:密な所では圧力のずれも空気の速度も正なので,その積 δp∂ξ/∂t(単位面積あたりの仕事率)は正で,エネルギーが右へ運ばれる.本体の節の強さの式と合う.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな床の上で,やわらかいつるまきばね(全質量 M)を長さ L まで一様に伸ばして両端を固定した.この状態から両端の距離を変えたときのばね全体のばね定数を K0 とする.ばねを,質量 M/N のおもり N 個を同じばね N 本でつないだ列とみなし,縦波を考える.

  1. 1本のばねのばね定数とおもりの間隔を N で表し,連続な媒質とみなす近似で縦波の速さ v を求めよ.v は N によるか.

  2. L=3.0m,M=0.20kg,K0=0.80Nm−1 のとき,一方の端のすぐ近くで作った縦のパルスが反対の端に着くまでの時間を求めよ.パルスの幅はおもりの間隔より十分広く,L より十分短いとする.

  3. ばねの巻き数を N=80 とする.波長 0.30m の正弦波について,連続な媒質とみなす近似の誤差の目安 (ka)2/12 を求めよ.

上は長さLに伸ばして両端を固定した全質量Mのつるまきばね.全体のばね定数はK₀.下は質量M/NのおもりN個を同じばねN本でつないだ模式図で,中間の部分を省略している.隣り合うおもりの平衡の間隔をaとする. 上は長さLに伸ばして両端を固定した全質量Mのつるまきばね.全体のばね定数はK₀.下は質量M/NのおもりN個を同じばねN本でつないだ模式図で,中間の部分を省略している.隣り合うおもりの平衡の間隔をaとする.
解答を見る

考え方 N 本のばねの直列が全体のばね定数 K0 になる.本体の節の v=aK/m を使う.

  1. N 本の直列で K0=K/N だから K=NK0,間隔は a=L/N,おもりの質量は m=M/N である.

v=aKm=LNNK0M/N=LK0M

で,N によらない.連続な媒質の性質(全体の質量と硬さ)だけで決まる.

  1. v=3.0×0.80/0.20ms−1=6.0ms−1.時間は L/v=M/K0=0.50s である.

  2. a=3.0/80m=0.0375m,ka=2π×0.0375/0.30=0.785 で,(ka)2/12≈0.051,約5 % である.

確かめ:単位は Nm−1/kg=s−1 に m を掛けて ms−1.(3) の誤差は波長が短いほど大きく,波長が巻きの間隔の数倍まで縮むと連続の近似は使えない.パルスの幅が巻きの間隔よりずっと広く,伸び縮みがばねの弾性の範囲にあるときに (2) が成り立つ.

ポイント ここまでのまとめ

  • 偏微分 ∂y/∂x は波形の傾き,∂y/∂t は媒質の速度.F(x−vt) を代入すると波動方程式を満たす.

  • 右へ進む波では ∂y/∂t=−v∂y/∂x.波形を進む向きに少しずらすと,媒質の動く向きが分かる.

  • y-x 図は波の写真(波長),y-t 図は1点の記録(周期).進む先の点ほど位相が kΔx 遅れる.

  • 縦波では δρ/ρ=−∂ξ/∂x.ξ が右下がりに0を横切る所が最も密で,変位が最大の所ではない.

  • ばねの列は ka が1よりずっと小さいとき連続とみなせ,誤差の目安は (ka)2/12.