今度は、和と積がお相手です
直線が動く問題を二つ見たところで、少し景色を変えてみましょう。
𝑢,𝑣 がそれぞれすべての実数を動くとき、点
(𝑢+𝑣,𝑢𝑣)
の動く範囲を求め、図示せよ。
お見事。その方法で解けます。どうぞ、その鉛筆はいったん置かずに持っていてください。今日は、その手順の中で何が起きているのかを、少しばかり覗いてみたいのです。「知っている問題だった」と「知っている現象だった」は、なかなか違う。前者は問題の服装が変わると途端に怪しくなります。数学の問題だって、毎日同じ制服を着てくれるとは限りませんからね。
文字に二つの仕事をさせない
まず、動く点の座標を
𝑥=𝑢+𝑣,𝑦=𝑢𝑣
と置きます。これから図を描くのは 𝑥𝑦 平面です。𝑢,𝑣 は入力、(𝑥,𝑦) はその入力から作られる点。この二つを区別しておきましょう。
同じ文字に二つの仕事をさせて、あとで自分が混乱するほうがよほど面倒です。文字に払う給料はゼロなので、必要なときは雇いましょう。
さて、𝑢 と 𝑣 が二つとも動く。いかにも忙しそうです。では、片方に少し待っていてもらいましょう。𝑢 を固定し、𝑣 だけを動かします。すると
𝑣=𝑥−𝑢𝑦=𝑢(𝑥−𝑢)=𝑢𝑥−𝑢2
おや、直線になりました。
𝑢 を一つ決めて、残りを動かしただけです。手品にしては、仕掛けがずいぶん安上がりでしょう?
またお前か、接線
ここまで来れば、前の節と同じことを考えられます。𝑦 =𝑢𝑥 −𝑢2 は、どの曲線の接線でしょうか。切片が傾き 𝑢 の二次式なので、二次関数を試してみます。まず 𝑦 =𝑎𝑥2 の、𝑥 =𝑠 における接線は
𝑦−𝑎𝑠2=2𝑎𝑠(𝑥−𝑠)𝑦=2𝑎𝑠𝑥−𝑎𝑠2
傾きを 𝑢 に合わせるには 2𝑎𝑠 =𝑢、つまり 𝑠 =𝑢/(2𝑎)。これを切片へ代入すると
−𝑎𝑠2=−𝑢24𝑎.
これを −𝑢2 にしたいので、𝑎 =1/4 とすればよい。したがって、試してみるべき曲線は
𝑦=𝑥24.
実際に、𝑥 =2𝑢 における接線を求めると
𝑦−𝑢2=𝑢(𝑥−2𝑢)𝑦=𝑢𝑥−𝑢2
確かに一致しました。
𝑢 はすべての実数を動くので、接点の横座標 2𝑢 もすべての実数を動きます。今回は放物線の一部分だけではなく、放物線全体の接線を集めているわけです。
[図:二つの数を動かして、和と積の点を見る]uを固定すると、点(x,y)=(u+v,uv)は放物線y=x²/4の接線y=ux−u²上を動きます。u=vなら点は放物線上にあり、uとvを入れ替えても点は動きません。全実数の入力が作る領域はy≤x²/4です。
uを固定すると、点(x,y)=(u+v,uv)は放物線y=x²/4の接線y=ux−u²上を動きます。u=vなら点は放物線上にあり、uとvを入れ替えても点は動きません。全実数の入力が作る領域はy≤x²/4です。
「和と積だから判別式」と唱えるだけでも、この問題の答えは出ます。でも、ほかの方法にも目を向けてみませんか、というお誘いだったわけです。
少しだけ、そのつながりを覗いてみましょう。ここからは偏微分という記号も出てきますが、やることは「ほかの文字を固定して、一つの文字で微分する」だけです。記号が増えたからといって、急に別の惑星へ来たわけではありません。まず、一般の接線の式を
𝐹(𝑥,𝑦,𝑡)=𝑦−𝑔(𝑡)−𝑔′(𝑡)(𝑥−𝑡)=0
と書きます。𝑡 を一つ決めると、一本の直線が決まります。その直線と、パラメータを少しずらした直線
𝐹(𝑥,𝑦,𝑡+Δ𝑡)=0
との交点を 𝐶Δ𝑡 =(𝑋Δ𝑡,𝑌Δ𝑡) としましょう。添字は「ずらし幅によって交点も変わる」という目印です。以下、図では短く 𝐶 と呼びます。この交点は、二本の直線の式を両方とも満たします。ならば、式を引いてもゼロです。Δ𝑡 ≠0 として、差を Δ𝑡 で割ると
𝐹(𝑋Δ𝑡,𝑌Δ𝑡,𝑡+Δ𝑡)−𝐹(𝑋Δ𝑡,𝑌Δ𝑡,𝑡)Δ𝑡=0.
見覚えのある形になりましたね。二本の交点が存在し、Δ𝑡 →0 で有限の点 (𝑋,𝑌) に近づくとします。𝐹 が十分なめらかなら、この極限で
𝐹(𝑋,𝑌,𝑡)=0,𝜕𝐹𝜕𝑡(𝑋,𝑌,𝑡)=0
が得られます。𝜕𝐹/𝜕𝑡 は、𝑥,𝑦 を固定して 𝑡 だけで微分したものです。こうして近づいた交点の軌跡が、包絡線を見つける手がかりになります。「十分近い二本の交点」そのものと、その極限は区別しておきましょう。
抽象的な話だけでは、鉛筆も退屈してしまいます。今の問題の直線で、交点を実際に求めてみましょう。
𝑦=𝑢𝑥−𝑢2𝑦=(𝑢+Δ𝑢)𝑥−(𝑢+Δ𝑢)2
二式を引き、ゼロでないずらし幅で割ります。求まった横座標を一本目の式に戻せば、
0=Δ𝑢𝑥−2𝑢Δ𝑢−(Δ𝑢)2𝑥=2𝑢+Δ𝑢𝑦=𝑢(2𝑢+Δ𝑢)−𝑢2=𝑢2+𝑢Δ𝑢
したがって、交点は
𝐶=(2𝑢+Δ𝑢, 𝑢2+𝑢Δ𝑢).
下の図で、まず 𝑢 を固定したまま Δ𝑢 を小さくしてください。二本の直線が近づくにつれて、交点 𝐶 はどこへ向かうでしょうか。
[図:二本の直線を近づけて、交点Cを追う]y=ux−u²とy=(u+Δu)x−(u+Δu)²の交点は、Δu≠0のときC=(2u+Δu,u²+uΔu)。Δu→0でQ=(2u,u²)へ近づき、Qの軌跡はy=x²/4になります。Cでの判別式はD=(Δu)²。Δu=0では直線が一致するため、一意な交点ではなく極限の点Qを表示します。
y=ux−u²とy=(u+Δu)x−(u+Δu)²の交点は、Δu≠0のときC=(2u+Δu,u²+uΔu)。Δu→0でQ=(2u,u²)へ近づき、Qの軌跡はy=x²/4になります。Cでの判別式はD=(Δu)²。Δu=0では直線が一致するため、一意な交点ではなく極限の点Qを表示します。
Δ𝑢 →0 とすると、交点は (2𝑢,𝑢2) に近づきます。𝑥 =2𝑢 から 𝑢 =𝑥/2 を代入すれば
𝑦=𝑥24.
また会いましたね、放物線。今度は接線の式を当てにいくことさえせず、隣り合う二本を連立しただけで出てきました。
では、判別式はどこにいたのでしょう。今の直線を、𝑢 についての二次方程式として読み直します。
𝐹(𝑥,𝑦,𝑢)=𝑢2−𝑥𝑢+𝑦𝜕𝐹𝜕𝑢=2𝑢−𝑥
したがって、先ほどの二つの条件は
{𝑢2−𝑥𝑢+𝑦=0,2𝑢−𝑥=0.
これは、二次方程式とその導関数が同じ 𝑢 でゼロになる条件。つまり、重解条件そのものです。微分がゼロになるだけでは足りません。元の式もゼロになる、この二つがそろって初めて重解になります。二次方程式の言葉で書けば
𝐷=𝑥2−4𝑦=0.
接線から出てきた包絡線と、判別式から出てきた境界は、同じ条件を別の方向から眺めていたのです。しかも、図の交点 𝐶 では
𝐷=(2𝑢+Δ𝑢)2−4(𝑢2+𝑢Δ𝑢)=(Δ𝑢)2
二本が近づくほど 𝐷 もゼロに近づく。判別式も、ちゃんと図の中で働いていたわけです。電卓の中にしか住めない生き物ではありません。
この問題では、𝐷 ≥0 なら実数 𝑢 が存在し、𝑣 =𝑥 −𝑢 とすれば 𝑢𝑣 =𝑦 も満たします。よって求める範囲は
𝑦≤𝑥24
で、境界も含みます。𝐷 =0 は境界、𝐷 ≥0 は領域全体。この違いも押さえておきましょう。
ここまでわかれば、包絡線を探すための手順も見えてきます。動く直線を 𝐹(𝑥,𝑦,𝑡) =0 と書き、
{𝐹(𝑥,𝑦,𝑡)=0,𝜕𝐹𝜕𝑡(𝑥,𝑦,𝑡)=0
を連立して、𝑡 を消去する。ただし、得られるのは包絡線の候補です。パラメータの範囲や端の直線、退化する場合も確かめて、求める通過領域を判断します。二次式なら、ここで判別式による重解条件と直接つながります。
さて、ここから先は問題演習で、このアイデアの威力を試してみましょう。東大入試レベルの問題も扱う予定ですので、どうぞ身構えてください。十分に身構えたあとで、仕掛けの簡単さに拍子抜けしてもらえたら、書き手としては大成功です。