問いしるべ
問いから始める物理 電磁誘導と交流

電磁誘導と交流

複素数の計算と周波数応答

著者:柚木芹香

交流回路を複素インピーダンスで解くと,最後は複素数の掛け算と割り算,そして実部をとる計算になります.ここでは,その計算を極形式で手早く行う方法と,共振曲線の幅,周波数によって振幅と位相がどう変わるか(周波数応答)をまとめます.

定理 数学の道具:複素数の極形式

極形式. 複素数 z=a+bi は,絶対値 |z|=a2+b2 と偏角 θ(cos⁡θ=a/|z|,sin⁡θ=b/|z|)を使って z=|z|eiθ と書ける.

積と商. z1z2=|z1||z2|ei(θ1+θ2),z1z2=|z1||z2|ei(θ1−θ2).掛けると絶対値は掛け算,偏角は足し算になる.

複素共役. z∗=a−bi=|z|e−iθ.zz∗=|z|2,Re⁡z=12(z+z∗) で,分母を実数にするには 1z=z∗|z|2 を使う.

実部に戻す. Re⁡(|z|eiθeiωt)=|z|cos⁡(ωt+θ).複素振幅の絶対値が振幅,偏角が位相になる.

練習1 Z=(30+40i)Ω の素子に 100cos⁡ωtV を加えた.電流 I(t) を求めよ.

練習2 R=100Ω の抵抗と,リアクタンスの大きさが 1/(ωC)=100Ω のコンデンサーを並列にしたときの合成インピーダンスを求め,極形式で表せ.

答え 練習1:I^=10030+40i=100(30−40i)2500=(1.2−1.6i)A.|I^|=2.0A,偏角は −θ(tan⁡θ=4/3,θ≈0.93rad)なので I≈2.0cos⁡(ωt−0.93)A.練習2:1Z=1100+i100 より Z=1001+i=(50−50i)Ω=502e−iπ/4Ω.

定理 数学の道具:共振曲線の幅

直列RLC回路のリアクタンス X=ωL−1ωC について,|X|=R となる正の ω は,Lω2−Rω−1C=0 と Lω2+Rω−1C=0 の正の根で

ω±=±R+R2+4L/C2L

である.よって ω+−ω−=RL,ω+ω−=1LC=ω02 が厳密に成り立つ.また X=L(ω2−ω02)ω=L(ω−ω0)(ω+ω0)ω なので,ω が ω0 に近いとき X≈2L(ω−ω0) で

I0I0,max=RR2+X2≈11+(2Qω−ω0ω0)2

となる.この近似は |ω−ω0|/ω0 が十分小さいときに使える.

定理 数学の道具:周波数応答

入力の電圧の複素振幅 V^in と出力の V^out の比 H(ω)=V^out/V^in の絶対値が振幅の比,偏角が位相のずれである.抵抗 R とコンデンサー C を直列にし,C の両端を出力とすると,分圧から

H=1/(iωC)R+1/(iωC)=11+iω/ωc,ωc=1RC

で,|H|=1/1+(ω/ωc)2,位相は −arctan⁡(ω/ωc) だけ遅れる.低い周波数を通し高い周波数を弱めるのでローパスフィルターといい,ωc を遮断角振動数という(|H|=1/2).R の両端を出力にすると H=iω/ωc1+iω/ωc のハイパスフィルターになる.入力がいくつもの周波数を含むときは,回路が線形なので,周波数ごとに H を掛けて足せばよい.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

抵抗 R=30Ω とコイル(抵抗は無視できる)を直列にし,実効値 100V,周波数 50Hz の正弦波の交流電圧を加えたところ,コイルのリアクタンスは 40Ω だった.

  1. コイルの自己インダクタンスを求めよ.

  2. 電流の実効値と,電源の電圧に対する電流の位相のずれを求めよ.

  3. 抵抗とコイルの両端の電圧の実効値をそれぞれ求めよ.2つの和が 100V にならない理由を述べよ.

  4. 平均の消費電力と力率を求めよ.

抵抗RとコイルLを直列につなぎ,それぞれの両端に電圧計を置く.右は抵抗の電圧と直交するコイルの電圧の和が電源電圧になる模式図.求める実効値や位相角の値は示していない. 抵抗RとコイルLを直列につなぎ,それぞれの両端に電圧計を置く.右は抵抗の電圧と直交するコイルの電圧の和が電源電圧になる模式図.求める実効値や位相角の値は示していない.
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考え方 Z=R+iωL を極形式にする.電圧の和は複素振幅(ベクトル図の矢印)の和で,実効値の和ではない.

  1. ωL=40Ω,ω=2π×50s−1 より L=40/(100π)≈0.13H.

  2. Z=(30+40i)Ω,|Z|=50Ω なので Ie=100/50=2.0A.Z の偏角 φ は tan⁡φ=4/3 で φ≈0.93rad(約 53∘).電流は電圧より 0.93rad 遅れる.

  3. 抵抗は 30×2.0=60V,コイルは 40×2.0=80V.抵抗の電圧は電流と同位相,コイルの電圧は π/2 進むので,ベクトル図で2本の矢印は直交し,和の長さは 602+802=100V である.実効値は各電圧の振幅を 2 で割ったもので,位相が違う電圧の実効値は足せない.

  4. P=VeIecos⁡φ=100×2.0×0.60=1.2×102W,力率は R/|Z|=0.60.

確かめ:RIe2=30×2.02=120W と一致し,コイルは平均では電力を使わない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

抵抗 R=1.0kΩ とコンデンサー C=0.10μF のローパスフィルターに,入力

Vin=V1cos⁡ω1t+V1cos⁡ω2t,V1=1.0V,ω1=1.0×103s−1,ω2=1.0×105s−1

を加える.出力端には何もつながない.

  1. 遮断角振動数を求めよ.

  2. 定常状態の出力 Vout(t) を求めよ.

  3. ω2 の成分の振幅を ω1 の成分の振幅で割った比は,出力では入力の何倍になったか.

入力端と無負荷の出力端をもつRC回路.右は速い成分と遅い成分が重なる入力と,遅い成分が主に残る出力の模式図で,求める振幅比や位相,遮断角振動数は記していない. 入力端と無負荷の出力端をもつRC回路.右は速い成分と遅い成分が重なる入力と,遅い成分が主に残る出力の模式図で,求める振幅比や位相,遮断角振動数は記していない.
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考え方 回路が線形なので,2つの周波数の成分を別々に扱い,それぞれに H(ω) を掛けて実部をとり,最後に足す.

  1. ωc=1/(RC)=1/(1.0×103×1.0×10−7)=1.0×104s−1.

  2. ω1 では H=11+0.10i,|H|=1/1.01≈0.995,偏角 −arctan⁡0.10≈−0.10rad.ω2 では H=11+10i,|H|=1/101≈0.0995,偏角 −arctan⁡10≈−1.47rad.よって

Vout≈1.0cos⁡(ω1t−0.10)+0.10cos⁡(ω2t−1.5)[V]
  1. 入力では比が1だったのが,出力では 0.0995/0.995≈0.10 で,速い成分が約10分の1に弱まった.

確かめ:ω が ωc より十分大きいと |H|≈ωc/ω,位相の遅れは π/2 に近づく.コンデンサーのインピーダンスが抵抗よりずっと小さくなり,出力端が短絡されたように見えるからである.出力端に負荷をつなぐと H が変わる(演習で扱う).

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

ラジオの同調回路を,アンテナの信号を電源とする直列RLC回路とみなす.L=200μH,R=10Ω で,可変コンデンサーを調整して周波数 1.000MHz の局に共振させる.

  1. C と Q を求めよ.

  2. この局の信号の振幅が 1.0mV のとき,回路の電流の振幅とコンデンサーの電圧の振幅を求めよ.

  3. 同じ振幅で周波数 1.009MHz の別の局の信号が来ている.この信号による電流の振幅は,(2) の何倍か.

アンテナを電源とみなす直列RLC回路で,可変コンデンサーCを調節する.共振曲線の横軸に1.000 MHzと1.009 MHzを示す.求める容量,Q,電流や電圧,応答比の数値は示していない.共振曲線の幅は誇張している. アンテナを電源とみなす直列RLC回路で,可変コンデンサーCを調節する.共振曲線の横軸に1.000 MHzと1.009 MHzを示す.求める容量,Q,電流や電圧,応答比の数値は示していない.共振曲線の幅は誇張している.
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考え方 共振では Z=R.ずれた周波数ではリアクタンスを計算する.近似 X≈2L(ω−ω0) でも確かめる.

  1. ω0=2π×1.000×106≈6.283×106s−1.C=1ω02L=1(6.283×106)2×2.00×10−4≈1.27×10−10F,約 127pF.Q=ω0L/R=1256.6/10≈1.3×102.

  2. 電流の振幅は V0/R=1.0×10−3/10=1.0×10−4A.コンデンサーの電圧の振幅は I0/(ω0C)=ω0LI0=QV0≈0.13V で,信号の約130倍である.

  3. ω1=2π×1.009×106s−1 では ω1L≈1267.9Ω,1ω1C=ω0L⋅ω0ω1=1256.61.009≈1245.4Ω で,X≈22.5Ω.よって

I0(ω1)I0(ω0)=RR2+X2=10100+507≈0.41

近似では X≈2L(ω1−ω0)=2×2.00×10−4×2π×9×103≈22.6Ω で,ほぼ同じである.

確かめ:半電力の幅は R/L=5.0×104s−1,周波数で 8.0kHz なので,9kHz 離れた局は半電力の点より外にあり,比 0.41 が 1/2 より小さいことと合う.電力では約0.16倍にしかならず,共振回路1段では隣の局を十分には消せない.実際の受信機は,同調回路を何段も重ねたり,信号を一定の周波数に変えてから鋭いフィルターを通したりして,選択性を高めている.

ポイント ここまでのまとめ

  • 複素数は極形式 |z|eiθ で掛け算・割り算をする.1/z=z∗/|z|2 で分母を実数にし,Re⁡(|z|ei(ωt+θ))=|z|cos⁡(ωt+θ) で実際の値に戻す.

  • 直列RLCの半電力の2点は ω+−ω−=R/L,ω+ω−=ω02 をみたす.Q=ω0L/R.

  • 周波数応答 H(ω) の絶対値が振幅の比,偏角が位相のずれ.RCのローパスは H=1/(1+iω/ωc),ωc=1/(RC).

  • いくつもの周波数を含む入力は,周波数ごとに解いて足す.