問い
電車の中で立っていると,体が押されると感じることがあります.どんなときに,どちら向きに押されるでしょうか.
もう1つ考えてください.電車が一定の速さのままカーブを曲がるときも,体は押されます.速さが変わっていないのに「押される」ことは,あるのでしょうか.
考えてみる
思い出してみてください.発車するとき,体は後ろへ押されます.ブレーキをかけると前へ,カーブでは外側へ押されます.一方,まっすぐ一定の速さで走っているときは,止まっているのと区別がつきません.
つまり,押される感覚は「速さ」そのものではなく,速度が変わることと結びついているようです.しかも発車・ブレーキは速さが変わる場合,カーブは速さが同じで向きが変わる場合です.速度は向きをもつベクトルなので,向きだけが変わっても「速度が変わった」ことになります.この節では,速度の変化の割合を表す量,加速度を作ります.そうすれば,カーブで押される理由も,加速度の向きとして整理できます.(なぜ体が「押される」と感じるのかは,第4章「力と運動の法則」の慣性の節で扱います.ここでは,感じる向きが加速度と逆向きだと覚えておいてください.)
加速度の定義
位置の変化の割合が速度でした.その速度が変化する割合が加速度です.
定義 加速度
時刻 𝑡1 の速度が 𝒗1,𝑡2 の速度が 𝒗2 のとき,平均加速度は
¯𝒂=Δ𝒗Δ𝑡=𝒗2−𝒗1𝑡2−𝑡1
瞬間加速度(加速度)は,その極限
𝒂=d𝒗d𝑡=(d𝑣𝑥d𝑡, d𝑣𝑦d𝑡)
単位は ms−2.直線上では 𝑎 =d𝑣d𝑡 である.
速度は位置の時間微分,加速度は速度の時間微分なので,位置を2回微分したものが加速度です.これを2階微分といい,
𝑎=dd𝑡(d𝑥d𝑡)=d2𝑥d𝑡2
と書きます.d2𝑥d𝑡2 は「𝑑 の2乗」ではなく,2回微分を表す記号です.
単位 ms−2 は,「1秒あたりに速度が何 ms−1 変わるか」を表します.たとえば通勤電車の発車時の加速度は 1 ms−2 弱で,1秒ごとに速度がそのくらいずつ増えます.落下する物体の加速度は約 9.8 ms−2 で,1秒ごとに速度が約 9.8 ms−1 ずつ増えます.
加速度の向き
直線上では,速度の符号と加速度の符号を組にして考えます.𝑣 と 𝑎 が同符号なら速さは増え,異符号なら速さは減ります.たとえば 𝑣 <0(負の向きに進む)で 𝑎 >0 なら,減速しています.「𝑎 >0=加速」とは限りません.
平面では,平均加速度の向きは Δ𝒗 の向きです.𝒂 を速度に平行な成分と垂直な成分に分けて考えると,平行な成分は速さの変化を,垂直な成分は向きの変化を表します.
[図:曲がる道路で速度の差は内側を向く]左は曲がる道路を走る車の軌道で,点1の速度v1と点2の速度v2を青い矢印で示す.右はv2をv1と同じ始点に移し,v1の先からv2の先へ緑の矢印でΔv=v2−v1を引く.Δvは軌道の内側(曲がる側)を向き,加速度の向きと一致する.
最初の問いの答えは次のようになります.カーブで押されるのは,速さが一定でも速度の向きが変わるので,加速度(内向き)があるからです.感じる向きは加速度と逆の外向きになります.
グラフの対応
速度が x-t グラフの接線の傾きであったのと同様に,加速度は v-t グラフの接線の傾きです.x-t,v-t,a-t の3つのグラフは,次のように対応します.
グラフ | 値 | 傾きは |
|---|
x-t | 位置 𝑥 | 速度 𝑣 |
v-t | 速度 𝑣 | 加速度 𝑎 |
a-t | 加速度 𝑎 | (この本では扱わない) |
x-t が下に凸(傾きが増える)なら 𝑎 >0,上に凸なら 𝑎 <0 です.
ポイント ここまでのまとめ
加速度は速度の時間変化率で,𝒂 =d𝒗d𝑡.位置を2回微分したもの(𝑎 =d2𝑥d𝑡2)でもある.
直線上では,𝑣 と 𝑎 が同符号なら加速,異符号なら減速.𝑎 >0 だけでは加速と決まらない.
速さが一定でも,向きが変われば Δ𝒗 ≠0 なので加速度がある.カーブでの加速度は曲がる側(内側)を向く.
v-tグラフの接線の傾きが加速度である.
問いの答え:カーブで押されるのは,速度の向きが変わる(内向きの加速度がある)から.感じる向きは加速度と逆の外向き.