問い
凍った池の上で,質量 60 kg の大人と 30 kg の子どもが向かい合って立ち,手のひらを合わせます.子どもが思いきり押し,大人は腕を伸ばしたまま,自分からは押さないことにします.
押している間,2人の手のひらが受ける力は,どちらが大きいでしょうか.
2人は離れていきます.速く離れていくのはどちらでしょうか.
[図:氷の上で押し合う大人と子ども]氷の上で,大人(60 kg)と子ども(30 kg)が手のひらを合わせて向かい合っている.子どもは腕を少し曲げて大人を押しており,大人は腕を伸ばしたままでいる.
もうひとつ.壁を手で押すと,手が痛くなります.壁は自分から押してくるわけではないのに,手は何から力を受けているのでしょうか.自分の予想を紙に書いてから,先を読んでください.
考えてみる
では,「押した子どものほうが大きな力を出しているのだから,大人のほうが大きな力を受ける」「大人は押していないのだから,子どもは力を受けない」と考えたくなります.実験で確かめてみましょう.
ばねばかりを2つ用意し,フックどうしを引っかけて,両側から引き合います.片方だけを強く引いても,片方の端を壁に固定して反対側だけを引いても,2つの目盛りはいつも同じ値を示します.引きながら全体を動かしても同じです.自分では引いているつもりのない側のはかりも,相手と同じ大きさの力を示すのです.押し合う場合も,薄いはかりを2枚重ねて2人の手のひらの間に挟めば,2つの目盛りはいつも等しくなります.
つまり,子どもが大人の手を押しているとき,大人の手も同じ大きさの力で子どもの手を押し返しています.押し返そうという気持ちがあるかどうかは関係ありません.(1) の答えは「同じ大きさ」です.力は,どちらか一方が出すものではなく,2つの物体の間で対になって現れるのです.
第3法則
この事実をまとめたのが,ニュートンの第3法則です.
法則 ニュートンの第3法則(作用反作用の法則)
物体Aが物体Bに力 𝑭A→B を及ぼすとき,物体BもAに力 𝑭B→A を及ぼし,
𝑭B→A=−𝑭A→B
が成り立つ.2つの力は大きさが等しく,向きが逆で,2物体を結ぶ直線上にある.
2つの力のどちらを「作用」,どちらを「反作用」と呼んでも構いません.どちらかが原因で,もう一方が結果ということはなく,2つの力は同時に現れ,同時に消えます.静止しているときも,運動しているときも,加速しているときも,この関係はいつでも成り立ちます.
私たちが地面を歩けるのも,この法則のおかげです.足で地面を後ろへ押すと,地面が足を前へ押し返します.ボートの上から岸を棒で突くと,岸が棒を通じてボートを押し返し,ボートは岸から離れていきます.ロケットは,燃やしたガスを後ろへ勢いよく押し出し,そのガスがロケットを前へ押し返します.押す相手は空気ではなく,ロケット自身が吐き出したガスです.
力の対はどこで生まれるか
ニュートンは第3法則を,物体どうしの衝突や引き合いの観察から見つけました.では,自然はなぜいつも力を対で出すのでしょうか.手が壁を押す力と,地球がリンゴを引く力は,見かけがまったく違います.どちらも同じ法則に従うわけを,力の正体までさかのぼって考えてみます.
遠隔力は粒子1組ごとに対になる
身のまわりの力の原因をたどっていくと,2種類しか残りません.重力と,電気の力(磁気の力も含めて電磁気力といいます)です.原子核の中だけで働く力もありますが,原子核の外には届かないので,日常の力には顔を出しません.重力も電気の力も,離れた2つの粒子の間に働く遠隔力です.そして,2つの粒子の間では,大きさが等しく向きが逆の力が,2つを結ぶ直線上に働きます.重力では第10章の万有引力の法則が,電気の力では第20章のクーロンの法則が,この形をしています.第3法則のいちばん素朴な姿は,この「粒子1組ごとの対」です.
接触力は原子の対を足し合わせたもの
では,手が壁を押す力のような接触力はどうでしょうか.先を読む前に,手と壁の境目を原子の大きさまで拡大した様子を想像してみてください.手と壁は,本当に「触れて」いるのでしょうか.
物質は原子でできています.原子は,ごく小さな原子核のまわりを,電子が雲のように取り巻いたもので,大きさは 10−10 m ほどです.手を壁に押しつけると,手の表面の原子と壁の表面の原子は,原子1個ぶんほどの距離まで近づきます.そこまで近づくと,互いの電子の雲どうしが強く反発し合い,それ以上は近づけません(この反発の強さには,量子力学の効果も効いています).原子どうしが重なり合っているわけではありません.「触れている」とは,この反発が効く距離まで近づいていることなのです.
手の原子1個と壁の原子1個の間の反発は,粒子1組の間の力なので,大きさが等しく向きが逆です.「手が壁を押す力」とは,境目で向かい合う膨大な数の原子の組について,壁の側の原子が受ける力を全部足したものです.「壁が手を押す力」は,同じ組の,手の側の原子が受ける力を全部足したものです.1組ごとに等しく逆向きなので,それらを足したものも等しく逆向きになります.接触力の作用反作用は,原子1組ごとの作用反作用を足し合わせた結果なのです.
[図:手と壁の境目を原子の大きさで見る]左に手,右に壁の表面付近を,それぞれ4×4の原子(電子の雲と原子核)と結合で描いている.境目で向かい合う最も外側の原子では電子の雲がほとんど触れており,その3組にそれぞれ大きさが等しく逆向きの赤い矢印を付けて反発を示した.すべての組の力を足し合わせたものが,手が壁を押す力と,壁が手を押す力になる.
これで,壁の問いに答えられます.手は,壁の表面の原子から押し返されています.押し返された手の表面の原子は,手の内側の原子へ押し込まれ,手の中の原子どうしの結合がわずかに縮みます.皮膚の下の神経が感じとっているのは,この変形です.壁の側でも同じように結合が縮んでいますが,壁にはそれを感じとる神経がありません.
接触力が触れたときだけ働くわけ
電気の力は遠隔力なのに,接触力は触れたときにしか働きません.これは,原子が電気的に中性であることから説明できます.原子は,ふつう正と負の電荷を同じだけもっていて,全体としては電気を帯びていません.離れたところから見ると,正の電荷から受ける力と負の電荷から受ける力がほとんど打ち消し合い,力は残りません.原子の大きさほどまで近づいて,はじめて電荷の並び方の違いが効いてきます.一方,重力には負の質量がないので打ち消し合いが起きず,遠くまで届きます.目に見える世界では,電気の力は「触れたときの力」として,重力は「離れても働く力」として現れているのです.
次の2つは,この章の後の節で考えます.今のうちに,自分の予想を紙に書いておいてください.
対の見つけ方とつり合いとの違い
ある力の反作用を探すときは,「その力は,どの2つの物体の間の,どの接触面から(または,どの遠隔力として)生まれたか」を考えます.そうすれば,相手の力は1つに決まります.たとえば,机が本を押す垂直抗力の相手は,同じ接触面で本が机を押す力です.どちらも同じ原子の組から生まれた力なので,同じく垂直抗力と呼ばれます.地球が本を引く重力の相手は,本が地球を引く重力です.作用と反作用がいつも同じ種類の力になるのは,同じ粒子の組,同じ接触面から生まれるからです.
作用反作用と,つり合いは,よく混同されます.どちらも「大きさが等しく向きが逆の2力」に見えるからです.違いは,その2力が働く物体にあります.
| つり合う2力 | 作用と反作用 |
|---|
働く物体 | 同じ物体 | 別々の物体 |
力の種類 | 違ってよい | 同じ種類 |
成り立つ条件 | 加速度が 0 のときだけ | いつでも成り立つ |
机の上で静止している本を例にとります.本に働く力は,地球が引く重力と,机が押す垂直抗力です.どちらも本に働いていて,本の加速度が 0 なのでつり合っています.これに対して,重力の反作用は「本が地球を引く力」で地球に働き,垂直抗力の反作用は「本が机を押す力」で机に働きます.重力と垂直抗力は,大きさが等しくても,作用と反作用の対ではありません.生まれた所が違うからです.
違いがはっきりするのは,本を載せた机ごとエレベーターで上向きに加速させたときです.本に働く重力と垂直抗力は,もはやつり合いません(垂直抗力のほうが大きい).しかし,机が本を押す力と,本が机を押す力は,このときも大きさが等しいままです.つり合いが崩れても崩れない関係が,作用反作用です.
力は等しくても加速度は違う
問いの (2) に戻りましょう.押している間,2人が受ける力の大きさ 𝐹 は,どの瞬間も等しくなっています.それぞれの加速度の大きさは,運動方程式から
𝑎大人=𝐹60kg,𝑎子ども=𝐹30kg
で,どの瞬間も子どもの加速度は大人の2倍です.押している時間も2人で同じなので,手が離れたときの速さも,子どものほうが2倍になります.押したのは子どもでも,速く離れていくのは子どもです.
[図:押している間の力と,離れた後の速さ]押している間,大人と子どもが互いに及ぼし合う力(赤い矢印)は,大きさが等しく向きが逆である.手が離れた後,大人の速さを v とすると子どもの速さは 2v で,子どもは大人の2倍の速さで反対向きに動く(青い矢印).
地球とリンゴでも同じことが起きています.地球がリンゴを引く力と,リンゴが地球を引く力は,大きさが等しい関係です.それでも地球が動いて見えないのは,加速度が 𝑎 =𝐹/𝑚 だからです.リンゴの質量を 0.20 kg とすると,力の大きさは 0.20 ×9.8 ≈2.0 N で,地球の質量 6.0 ×1024 kg による加速度は
2.06.0×1024≈3.3×10−25ms−2
です.力が同じ大きさでも,質量が桁違いに大きければ,加速度は無視できるほど小さくなります.
系と内力・外力
いくつかの物体をまとめて1つの「系」として扱うと,物体どうしの間の力は式から消え,扱いが簡単になることがあります.
系の外から系の中の物体に働く力を外力,系の中の物体どうしが及ぼし合う力を内力といいます.2つの物体A,Bを1つの系とし,それぞれの運動方程式を書きます.外力を 𝑭A,𝑭B とすると,
𝑚A𝒂A=𝑭A+𝑭B→A𝑚B𝒂B=𝑭B+𝑭A→B
です.2式を足すと,第3法則から 𝑭B→A +𝑭A→B =0 なので,内力が消えて
𝑚A𝒂A+𝑚B𝒂B=𝑭A+𝑭B
となります.外力の合力が決めるのは左辺の 𝑚A𝒂A +𝑚B𝒂B であり,内力は現れません.
氷の上の2人を1つの系とみなすと,押し合う力は内力で,水平な外力はありません.すると 𝑚A𝒂A +𝑚B𝒂B =0 で,2人がどれほど強く押し合っても,この組み合わせは0のままです.この事実は,第5章で運動量の保存として育てます.一方,2物体それぞれの運動,たとえば2人の離れ方は,内力によって決まります.
特に,2物体が同じ加速度 𝒂 で動くときは,(𝑚A+𝑚B)𝒂 =𝑭A +𝑭B となり,2物体を1つの物体のように扱えます.
ポイント 系の取り方
2物体が同じ加速度で動くとき,その加速度を知りたければ,まとめて1つの系とし,外力だけを数える.物体どうしの間の力(内力)を知りたいときは,物体を1つずつ分けて,それぞれに運動方程式を立てる.
次の例題では,押し合う2つの箱で,この使い分けを練習します.糸やロープでつながった物体は,張力を学んだ後の「垂直抗力と張力」の例題で扱います.
ポイント ここまでのまとめ
問いの答え:(1) 押し合う2人が受ける力は,押したつもりかどうかによらず,いつも同じ大きさである.(2) 加速度は質量に反比例するので,子どもは大人の2倍の速さで離れていく.
壁の問いの答え:手は壁の表面の原子から押し返されている.痛みとして感じるのは,この力で手の中の原子の結合がわずかに縮んだ変形である.
第3法則:2物体の間の力は,大きさが等しく向きが逆で,同じ直線上にある.いつでも,同時に成り立つ.
日常の力は重力と電磁気力に行き着き,どちらも粒子1組ごとに大きさが等しく逆向きの力を及ぼし合う.接触力は,境目で向かい合う原子の組の電気の力を足し合わせたものなので,接触力でも作用反作用が成り立つ.
電気の力が触れたときだけ働くように見えるのは,原子が電気的に中性で,離れると正と負の力が打ち消し合うからである.
反作用は「同じ2物体の,同じ接触面(同じ遠隔力)」から探す.つり合いは同じ物体に働く2力,作用反作用は別々の物体に働く2力で,加速していても作用反作用は崩れない.
系をまとめると内力は消える.同じ加速度で動く物体の加速度は系全体で,物体どうしの間の力は物体を分けて求める.