問いしるべ
問いから始める物理 原子の総合演習

原子の総合演習

原子核のエネルギー

著者:柚木芹香

第31章の崩壊・反応を,第5章の衝突,第15・16章の熱,第14章の測定に結び付けます.放射能と計数率,全エネルギーと熱を区別してください.減速の算術平均と対数平均を比べます.最後には測定時間,熱運動,有限燃料による限界を調べます.

総合演習 7

オリジナル ★★★★☆

崩壊熱と計数から検出効率を測る

静止した仮想的な親核が,娘核とα粒子だけに崩壊します.α粒子の質量は mα=4u,娘核の質量は M=96u,放出α粒子の運動エネルギーは Kα=4.80MeV です.娘核は基底状態に生じ,光子は出しません.α粒子と娘核の運動は非相対論的に扱います.1u=1.66×10−27kg,1MeV=1.60×10−13J,c=3.00×108ms−1 とします.

各時刻 t は測定窓の開始時刻で,窓の幅は Δt=60.0s です.背景は線源を外し,各行で独立に同時間測定しました.検出効率 η は一定で,数え落としと娘核の崩壊はありません.計数 N の標準偏差を N とします.

t(s)

線源ありの計数

背景のみの計数

0

12600

600

600

6600

600

1200

3600

600

全粒子を止める吸収体に線源を封じると,t=0 の崩壊による発熱率は P0=8.00×10−9W でした.熱測定の誤差は無視します.吸収体と線源の合計熱容量は Ch=1.00×10−5JK−1 で一定です.

計数では線源からの粒子を検出し,窓の開始時刻tから幅Δtの間を数える.別の熱測定では全粒子を止める断熱吸収体に線源を封じ,合計熱容量C_hと初期発熱率P_0が与えられる. 計数では線源からの粒子を検出し,窓の開始時刻tから幅Δtの間を数える.別の熱測定では全粒子を止める断熱吸収体に線源を封じ,合計熱容量C_hと初期発熱率P_0が与えられる.
  1. α粒子の運動量,娘核の反跳エネルギー,1崩壊の全エネルギー Q を求めよ.

  2. 正味計数 S(t) を崩壊定数 λ と初期放射能 A0 で表し,半減期,A0,η を求めよ.計数を単に Δt で割る場合の時間平均と,窓の開始時の計数率を区別せよ.

  3. 最初と最後の行から半減期の標準不確かさを一次まで求めよ.断熱での 1200s 後の温度上昇も求めよ.計数データだけで初期放射能と検出効率をそれぞれ決められるか,また測定窓を短くすれば必ず半減期の精度が上がるかを説明せよ.

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考え方

親核静止の2体崩壊を非相対論的に扱う.全粒子の熱と検出計数を合わせる.単一指数崩壊と独立の計数ゆらぎを仮定する.

  1. mα=6.64×10−27kg,Kα=7.68×10−13J より,p=2mαKα=1.01×10−19kgms−1.娘核にも同じ大きさの運動量があるため

KN=p22M=mαMKα=0.200MeV,Q=Kα+KN=5.00MeV=8.00×10−13J.
  1. 放射能は A(t)=A0e−λt.測定窓の間に起こる崩壊を積分すると

S(t)=η∫tt+ΔtA0e−λsds=ηA0e−λt1−e−λΔtλ.

背景を引いた値は 12000,6000,3000.窓の積分因子は共通で,600s 遅れるごとに半分になる.T1/2=600s,λ=ln⁡2/T1/2=1.16×10−3s−1.真の放射能は熱測定から

A0=P0Q=1.00×104Bq.

これを計数式へ入れると

η=12000λA0(1−e−λΔt)=0.0207.

S(0)/Δt=200s−1 は窓内の平均である.窓の始点の計数率 ηA0=207s−1 に対して,平均は (1−e−λΔt)/(λΔt)=0.966 倍になる.

  1. 正味計数の分散は両計数の分散の和である.したがって δS0=12600+600,δS2=3600+600.λ=ln⁡(S0/S2)/(1200s) の誤差伝播は

δλ=11200s13200120002+420030002=1.97×10−5s−1.

T1/2=ln⁡2/λ より,δT1/2/T1/2=δλ/λ,したがって δT1/2=10.2s.T1/2=(600±10)s 程度である.

断熱吸収体では ChdTdt=P0e−λt.積分して

ΔT=P0Chλ(1−e−λt)=0.519K(t=1200s).

計数だけが決める初期振幅は ηA0 であり,両者を分離できない.短い窓は補正を減らすが,計数の相対ゆらぎを増す.確かめとして,Kα/(mαc2)=1.29×10−3 は小さい.今回の λΔt=0.0693 は高精度で無視せず積分した.温度式には熱損失と熱容量の変化が無視できる条件も必要である.

総合演習 8

オリジナル ★★★★★

中性子の減速回数

質量 mn,初期エネルギー E0=2.00MeV の中性子が,質量 Amn の静止核と弾性衝突を繰り返します.A は質量数を近似する質量比で,重水素では A=2,炭素では A=12 とします.運動は非相対論的に扱います.各衝突は別の核と起こり,吸収,内部励起,衝突間の相関を無視します.重心系での中性子の散乱角を χ とし,cos⁡χ が −1 から1まで一様に分布する模型を与えます.中性子の残留エネルギー比を r=E′/E とします.

熱エネルギーに近づく目安を Eth=0.0400eV とし,1MeV=106eV,1eV=1.60×10−19J,mn=1.67×10−27kg,kB=1.38×10−23JK−1,c=3.00×108ms−1 とします.

実験室系では中性子m_nが静止核Am_nへ入射する.重心速度の向きと,重心系で定義する未知の散乱角χを示す.別枠の経路は多数の別の核と起こる衝突の模式図であり,必要な衝突回数を表さない. 実験室系では中性子m_nが静止核Am_nへ入射する.重心速度の向きと,重心系で定義する未知の散乱角χを示す.別枠の経路は多数の別の核と起こる衝突の模式図であり,必要な衝突回数を表さない.
  1. 速度を重心速度と相対速度に分けて r=(A2+1+2Acos⁡χ)/(A+1)2 を導け.r が一様分布する区間を求め,平均残留比 r― と,平均対数減少量 ξ=ln⁡(E/E′)― を求めよ.

  2. n 回後の平均エネルギーと,対数の平均から定義するエネルギー Eg=E0exp⁡(ln⁡(En/E0)―) を求めよ.重水素と炭素について,それぞれが Eth 以下となる最小整数 n を比較せよ.この2種類の回数は,個々の初到達回数を表すか.

  3. A=1 では r は0から1の一様分布となる.2回の衝突後に E2≤Eth となる確率を,a=Eth/E0 で表せ.平均だけでは速い粒子の残存を決められないことを説明せよ.毎秒 1.00×1012 個の中性子をほぼ熱エネルギーまで減速させる装置の発熱率を見積もれ.反跳核の運動エネルギーはすべて装置内で熱になるものとする.また,標的の温度 300K で静止核近似が破れる条件も述べよ.

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考え方

重心系での等方的な弾性散乱と独立な衝突を仮定する.平均エネルギーは平均比の積,対数平均は平均減少量の和で求める.

  1. 衝突前の中性子速度を v とすると,重心速度は v/(A+1),中性子の重心系速度の大きさは Av/(A+1).弾性衝突後も後者は同じであり,実験室の速度の2乗は

v′2=v2(A+1)2(1+A2+2Acos⁡χ).

E′/E=v′2/v2 から指定式を得る.cos⁡χ に対して一次なので,r は α≤r≤1,α=[(A−1)/(A+1)]2 の一様分布となる.よって

r―=1+α2,ξ=−11−α∫α1ln⁡rdr=1+αln⁡α1−α.

積分には ∫ln⁡rdr=rln⁡r−r を用いた.A=1 では αln⁡α→0 として ξ=1 となる.

  1. En=E0∏j=1nrj で,独立性から

En―=E0(r―)n,ln⁡(En/E0)―=−nξ,Eg=E0e−nξ.

L=ln⁡(E0/Eth)=ln⁡(5.00×107)=17.7.算術平均では n≥L/[−ln⁡r―],対数の平均では n≥L/ξ を満たす最小値である.重水素は α=1/9,r―=5/9,ξ=1−(ln⁡9)/8=0.725.したがって必要回数は順に31回,25回.炭素は α=121/169,r―=145/169,ξ=0.158 で,順に116回,113回となる.

速い粒子が算術平均を引き上げるため,対数平均のエネルギーは低い.両回数は固定回数後の集団の指標であり,個々の初到達回数の平均や,全粒子が減速する回数ではない.

  1. 2回後の比は r1r2.r1r2≤a の面積を積分すると

P(E2≤Eth)=∫0adr1+∫a1ar1dr1=a(1−ln⁡a).

今回は a=2.00×10−8 で,確率は 3.75×10−7 程度.平均だけでは分布の裾を決められない.

反跳が装置内で熱になるなら,1個が E0 を渡すので,発熱率は 1012(2.00×106)(1.60×10−19)=0.320W.熱エネルギーの残りを入射エネルギーに比べて無視した.300K の核の典型的な熱速度は kBT/(Amn),中性子速度は 2E/mn であり,比の2乗は kBT/(2AE).これが十分小さくなければ静止核近似は破れる.特に熱エネルギー付近では中性子が核からエネルギーを受け取ることもあり,同じ減速則を無限に続けられない.確かめとして,入射時の E0/(mnc2)=2.13×10−3 は小さいが,終盤の熱速度の比は別途検査しなければならない.

総合演習 9

オリジナル ★★★★☆

恒星の燃料収支

太陽に似た球形恒星から距離 d=1.50×1011m にある観測点で,放射エネルギー流束 F=1.40×103Wm−2 を測りました.恒星の半径は R∗=7.00×108m,質量は M∗=2.00×1030kg です.表面は一様な黒体,放射は等方的とします.σ=5.67×10−8Wm−2K−4,c=3.00×108ms−1,mp=1.67×10−27kg,1MeV=1.60×10−13J とします.

内部では,水素核4個からヘリウム核1個を作る一つの反応系列が働きます.電子・陽電子の収支も含めて1系列あたりの全解放エネルギーを Q=26.7MeV,放出するニュートリノ数を2個,ニュートリノが持ち去る全エネルギーの平均を qν=0.700MeV と与えます.残りは恒星内で熱になります.恒星の内部エネルギーと重力エネルギーは一定で,核反応による発熱が表面の放射とつり合う定常模型をまず使います.

球形恒星の内部では水素核4個からヘリウム核1個を作る反応系列が働き,1系列でニュートリノ2個を放出する.恒星の半径R_*,中心から観測点までの距離dと光の流束Fを示す.配置は模式的である. 球形恒星の内部では水素核4個からヘリウム核1個を作る反応系列が働き,1系列でニュートリノ2個を放出する.恒星の半径R_*,中心から観測点までの距離dと光の流束Fを示す.配置は模式的である.
  1. 恒星の光の全出力 Lγ,表面温度,毎秒の系列数 N˙ を求めよ.ニュートリノへ出るエネルギーを無視すると,反応率をどれだけ誤るか.ここで N˙ は毎秒の数を表す記号である.

  2. 観測点でのニュートリノの全数流束と,恒星の毎秒の質量減少を求めよ.毎秒消費する水素の質量と比べ,消費燃料と質量欠損が違う量であることを示せ.反応できる水素が 0.100M∗ あるとして,現在の反応率を一定に保つ燃焼期間を見積もれ.

  3. ニュートリノ流束が(2)の定常予測より5.0 %大きいと測定された.検出と反応系列の模型が正しく,F が同じで,重力エネルギーの変化を無視できるなら,恒星内部のエネルギーは増えているか減っているか.その変化率を求めよ.また,「(1)(2)の定常模型の全出力で質量が 0.0100M∗ 減る時間」を外挿し,有限の水素燃料と両立するか検討せよ.

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考え方

単一系列,等方放射,重力エネルギー一定を仮定する.光は熱となった分,ニュートリノ数は系列数を測る.

  1. 観測点を通る球面の面積を掛けると

Lγ=4πd2F=3.96×1026W.

黒体の式 Lγ=4πR∗2σTs4 より,Ts=[Lγ/(4πR∗2σ)]1/4=5.80×103K.1系列の熱は Q−qν=26.0MeV=4.16×10−12J だから

N˙=LγQ−qν=9.52×1037s−1.

Q 全体を熱として使うと,反応率は真値の (Q−qν)/Q=0.974 倍となり,約2.6 %低い.

  1. 1系列が2個出すので

Φν=2N˙4πd2=2FQ−qν=6.73×1014m−2s−1.

質量減少率の大きさは

−dM∗dt=N˙Qc2=4.52×109kgs−1.

水素消費は 4mpN˙=6.36×1011kgs−1.両者の比は Q/(4mpc2)=0.00711 で,残りはヘリウムになる.燃焼期間は

tf=0.100M∗4mpN˙=3.15×1017s.
  1. ニュートリノが示す系列数は 1.050N˙.熱の生成率は 1.050Lγ だが,表面から出る光は Lγ のままである.重力エネルギーの変化を無視すると

dU∗dt=1.050N˙(Q−qν)−Lγ=0.050Lγ≃2.0×1025W>0.

表面の光から核反応率を決める定常模型が成立しない.

定常時の質量減少率を丸めずに使う形式的な時間は t1=0.0100M∗c2/(N˙Q)=4.43×1018s.与えた燃料をすべて使ったときの欠損は 0.100M∗×0.00711=0.000711M∗ にすぎず,指定された燃料だけでは1 %の減少に到達しない.確かめとして,反応率を消去した数流束の式は m−2s−1 の次元を持つ.一定出力を外挿するには燃料消費割合と内部エネルギーの蓄積が小さい期間に限る必要がある.