問いしるべ
問いから始める物理 原子の総合演習

原子の総合演習

東大の原子の過去問を発展させる

著者:柚木芹香

東京大の光電効果,太陽電池,崩壊,対消滅を改題しました.第29・31章と第20〜22章の電磁気,第5章の保存則を組み合わせます.電流と軌道からエネルギーを測ってください.過渡応答と第三の物体も調べます.

総合演習 10

東京大 1989 前期(改題) ★★★★☆

光電管の充電と電力

光電管で容量 C=2.00×10−6F を充電します.容量の電圧 V≥0 は光電子を減速する向きで,接触電位差は無視します.電流の特性を Iph=I0(1−V/Vs)(0≤V≤Vs),Iph=0(V>Vs)と与えます.Vs は阻止電圧です.波長 λ1=400nm,λ2=600nm の単色光で,阻止電圧はそれぞれ Vs1=2.00V,Vs2=0.960V でした.1nm=10−9m,e=1.60×10−19C,c=3.00×108ms−1,電子の質量は m=9.11×10−31kg です.

以下では波長を 400nm,I0=4.00×10−6A とし,初め無電荷の容量と並列に R=1.00×106Ω を接続して時刻0から照射します.漏れ,配線抵抗,光電管の遅れを無視します.

光電管の光電子放出電極を正,集電子極を負とした減速電圧Vを,並列の容量Cと抵抗Rにも与える.下段には問題文で与えた光電流I_phの電圧特性を示す.I_0とV_sは特性の目盛りである. 光電管の光電子放出電極を正,集電子極を負とした減速電圧Vを,並列の容量Cと抵抗Rにも与える.下段には問題文で与えた光電流I_phの電圧特性を示す.I_0とV_sは特性の目盛りである.
  1. 阻止電圧からプランク定数 h と仕事関数 W を求め,V=0 での電子の最大速さを計算せよ.

  2. 電荷保存で V(t) を求め,定常電圧・電流と,1.00V に達する時刻 t∗ を求めよ.

  3. 照射中の給電が容量と抵抗に分かれるエネルギー収支を示せ.t∗ で照射を止めた後,抵抗へ渡るエネルギーも求めよ.

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考え方

与えた光電流と電荷保存を連立する.光電管の遅れを無視する集中定数模型を使う.

  1. eVs=hc/λ−W の差を取ると

h=e(Vs1−Vs2)c(1/λ1−1/λ2)=6.66×10−34Js.

W=hc/λ1−eVs1=1.12eV.Kmax=eVs1 より vmax=2eVs1/m=8.38×105ms−1.

  1. 充電電流と抵抗電流に分けると

CdVdt=I0−(I0Vs+1R)V,V∞=I0I0/Vs+1/R,τ=CI0/Vs+1/R.

初期条件から V=V∞(1−e−t/τ).今回 V∞=4/3V<Vs,τ=2/3s で,定常電流は V∞/R=1.33×10−6A.1.00/(4/3)=3/4 より t∗=τln⁡4=0.924s となる.

  1. t∗ で暗くすると電流源は0になり,CdVdt=−V/R.抵抗へ渡るエネルギーは

∫t∗∞V2Rdt=12CV(t∗)2=1.00×10−6J.

電荷保存式に V を掛けると d(CV2/2)/dt=VIph−V2/R となり収支も合う.検算では,R→∞ なら阻止電圧へ近づき電流は消える.近似には eVs/(mc2) と回路伝搬時間を τ で割った比が小さいことが必要である.

総合演習 11

東京大 2014 前期(改題) ★★★★★

日陰の電池と保護素子

太陽電池2個を直列にし,抵抗 RL=400Ω へつなぎます.電池jの出力電流と電圧は

Ij(Vj)={Isj−Vj/RsVj<0,Isj0≤Vj≤V0,Isj−(Vj−V0)/rVj>V0

です.V0=0.400V,r=100Ω,Rs=1.00×103Ω,照射の弱い電池1は Is1=1.00×10−3A,電池2は Is2=3.00×10−3A とします.逆電圧でも使えます.

電池1に並列の保護素子を付けます.素子は通常オフで,V1=−VD,VD=0.100V に達するとオンになり,逆電圧を制限します.オンでは電池1を補う電流を同じ向きへ流します.電池と保護素子の内部容量・応答の遅れは無視します.

照射の弱い太陽電池1と太陽電池2を直列にし,負荷R_Lと容量Cを並列につなぐ.保護素子は電池1と並列で,V_1が−V_Dに達するとオンになる.各電池と負荷の電圧の正方向を示す. 照射の弱い太陽電池1と太陽電池2を直列にし,負荷R_Lと容量Cを並列につなぐ.保護素子は電池1と並列で,V_1が−V_Dに達するとオンになる.各電池と負荷の電圧の正方向を示す.
  1. 保護素子がない定常状態の電流と両電圧を求めよ.電池1の電力の符号と,特性の枝も調べよ.

  2. 保護素子付きの電流,負荷電力,迂回電流を求めよ.電池1と保護素子の消費電力も含めて収支を確認せよ.

  3. 保護素子を付けたまま,負荷と並列に C=1.00×10−6F を接続する.初電圧は V(0)=0.800V であり,時刻0で照射を上記へ変える.保護素子がオンになる時刻を求めよ.電源全体の出力電流 I と微分抵抗 −dVdI も,オンになる前後で連続か.

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考え方

共通電流と特性の枝を連立する.準静的な特性を使い,素子内部の遅れを無視する.

  1. I>Is1 の枝では V1=Rs(Is1−I)=1.00V−RsI<0.電池2は V2=V0+r(Is2−I)=0.700V−rI.V1+V2=RLI より

I=1.70VRs+r+RL=1.13×10−3A,V1=−0.133V,V2=0.587V.

I>Is1,V2>V0 で仮定と合う.電池1の電力 IV1=−1.51×10−4W は負で,消費する.

  1. (1)の電圧は −VD より負なので,保護素子はオンとなる.V1=−0.100V,V2=0.700V−rI を使い

I=0.600VRL+r=1.20×10−3A,V2=0.580V,PL=I2RL=5.76×10−4W.

電池1は I1=Is1+VD/Rs=1.10×10−3A で,迂回電流は I−I1=1.00×10−4A.I≥I1,V2>V0 でオンと枝の条件を満たす.

電池2は IV2=6.96×10−4W.電池1は VDI1=1.10×10−4W,保護素子は VD(I−I1)=1.00×10−5W を消費し,差は負荷電力に等しい.

  1. 負荷電圧が 0.600 から 1.00V の範囲では,平坦な枝で I=Is1,V2=0.600V.電荷保存は CdVdt=Is1−V/RL.τ1=RLC=0.400ms とすると

V(t)=0.400V+0.400Ve−t/τ1.

V=0.600V で逆電圧へ移り,t1=τ1ln⁡2=0.277ms.次の枝では I=(1.70V−V)/(Rs+r) だから

V(t)=Va+(0.600V−Va)e−(t−t1)/τ2,Va=0.453333V,τ2=C1/(Rs+r)+1/RL=0.293333ms.

オン条件は I=I1 で,電圧は 0.490V.よって

tD=t1+τ2ln⁡0.600V−Va0.490V−Va=t1+τ2ln⁡4=0.684ms.

オン後は I=(0.600V−V)/r.
オン直前の電流は (1.70V−0.490V)/(Rs+r)=1.10×10−3A,オン直後も (0.600V−0.490V)/r で同じ値になる.したがって dVdt も連続である.一方,電源全体の微分抵抗は −dVdI=Rs+r=1.10×103Ω から r=100Ω へ変わり,不連続である.近似には伝搬と素子の遅れが最短時定数 C/(1/r+1/RL)=0.0800ms より十分短い条件が要る.

総合演習 12

東京大 2000 後期(改題) ★★★★★

崩壊の運動量

真空中の平行な放射線ビームに,垂直な磁場 B=0.200T をかけます.正電荷が上へ曲がる向きです.上の単色線は rα=1.00m,下の連続線は最大半径 rmax=1.00×10−2m,直進する線もあります.α線,β線,γ線を含みます.e=1.60×10−19C,c=3.00×108ms−1,1MeV=1.60×10−13J,1u=1.66×10−27kg,電子の静止エネルギー mc2=0.511MeV とします.

α粒子は 4u,娘核は 196u です.βの娘核の静止エネルギーは MDc2=1.00×105MeV とします.α崩壊とβ崩壊では親核は静止し,娘核は基底状態です.電子は (pec)2=Ke(Ke+2mc2),α粒子と娘核には非相対論式を使い,ニュートリノの質量は0とします.

正電荷が上へ曲がる垂直磁場B中で,上に曲がる単色線,下に曲がる連続線,直進線を示す.半径r_αと最大半径r_maxは問題文の測定値である.軌道の縮尺は模式的で,下段の電子・娘核の測定部とは別の配置図である. 正電荷が上へ曲がる垂直磁場B中で,上に曲がる単色線,下に曲がる連続線,直進線を示す.半径r_αと最大半径r_maxは問題文の測定値である.軌道の縮尺は模式的で,下段の電子・娘核の測定部とは別の配置図である.
  1. 各線を識別し,α粒子の運動量と運動エネルギー,α崩壊の Q 値を求めよ.β線の最大運動量・運動エネルギーと,反跳を含めたβ崩壊の Q 値を求めよ.

  2. β線の一事象で,電子は Ke=0.100MeV,娘核は pDc=0.400MeV だった.ニュートリノのエネルギーと,電子との角を求めよ.(1)で得た Q は丸めず使え.

  3. 2体崩壊だけで連続したβ線を説明できるか.(2)の事象でニュートリノの存在を運動量から検査するには,娘核の運動量の大きさ以外に何を測る必要があるか.

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考え方

親核静止,娘核は基底状態とする.運動量と3粒子の収支を使う.

  1. 上がα線,下がβ線,直進がγ線.p=|q|Br より

pα=2eBrα=6.40×10−20kgms−1,Kα=pα22(4u)=1.93MeV.

娘核は反対の同じ運動量を持つので,Qα=Kα(1+4/196)=1.97MeV.電子は pmax=eBrmax=3.20×10−22kgms−1,pmaxc=0.600MeV.したがって

Kmax=(pmaxc)2+(mc2)2−mc2=0.277MeV.

端点ではニュートリノのエネルギーが0へ近づき,娘核が逆の運動量を持つ.Qβ=Kmax+(pmaxc)2/(2MDc2) であり,反跳は 1.80×10−6MeV.丸めると Qβ=0.277MeV となる.

  1. 娘核は KD=(pDc)2/(2MDc2)=8.00×10−7MeV.エネルギー保存から Eν=Qβ−Ke−KD≃0.177MeV.電子の運動量は pec=Ke(Ke+2mc2)=0.335MeV である.pD=−(pe+pν),pνc=Eν より,角 θ は

cos⁡θ=(pDc)2−(pec)2−Eν22(pec)Eν=0.138,θ=82.0∘.
  1. 2体なら逆向きの同じ運動量が Q=Ke+KD で一意に決まる.ニュートリノを含めると,運動量の三角形とエネルギー配分が変わる.

両粒子の方向も測り,pmiss=−(pe+pD) を構成する.大きさを Eν/c と照合する.検算では,αの Kα/(mαc2) と娘核の KD/(MDc2) は小さいが,電子の運動には非相対論式を用いていない.

総合演習 13

東京大 1981 前期(改題) ★★★★☆

対消滅と第三の物体

静止電子と+x向きの陽電子が2光子へ消滅します.陽電子の運動エネルギーは K=0.100MeV,両者の静止エネルギーは mc2=0.511MeV です.陽電子には E+2=(pc)2+(mc2)2 を使い,外部への運動量移動はないものとします.

運動エネルギーKの陽電子が+x向きに静止電子へ入射する.+y軸上に光子検出器を置く.2光子のエネルギーやなす角は示していない. 運動エネルギーKの陽電子が+x向きに静止電子へ入射する.+y軸上に光子検出器を置く.2光子のエネルギーやなす角は示していない.
  1. 全エネルギーと全運動量を求め,自由な1光子消滅が不可能なことを示せ.

  2. 光子が +y 向きへ出る事象を選ぶ.そのエネルギー,もう1個のエネルギー,2光子のなす角を求めよ.

  3. 静止した電子と陽電子が,静止物体へ運動量を渡して1光子へ消滅する.物体の静止エネルギーは Mc2=1.00×105MeV で,内部状態は変わらない.光子エネルギーを厳密に,反跳エネルギーを近似して求めよ.(1)と矛盾するか.

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考え方

光子の運動量 E/c と全エネルギーを同時に保存させる.

  1. ET=2mc2+K=1.122MeV,pc=K(K+2mc2)=0.335MeV.1光子には ET=pc が必要で,不可能である.

  2. +y 向きの光子のエネルギーを E⟂ とすると,残りは (p,−E⟂/c).エネルギー ET−E⟂ より

(ET−E⟂)2=(pc)2+E⟂2,E⟂=ET2−(pc)22ET=mc2=0.511MeV.

他方は E2=mc2+K=0.611MeV.2光子の角 ψ は,+y の単位方向と残りの運動量の内積から

cos⁡ψ=−E⟂E2=−0.5110.611,ψ=146.8∘.

入射運動量が正で,等エネルギーの逆向き放出はできない.K→0 の極限では,両光子が mc2 を持ち,角は180度へ戻る.

  1. E0=2mc2 とおく.全運動量0より,物体は光子と逆に Eγ/c の運動量を持つ.物体のエネルギーも含めて

Mc2+E0=Eγ+M2c4+Eγ2.

平方根を移して2乗すると

Eγ=E0(2Mc2+E0)2(Mc2+E0),KM=E0−Eγ=E022(Mc2+E0).

1≫E0/(Mc2) なら KM≃E02/(2Mc2)=5.22×10−6MeV=5.22eV.物体が運動量を受け取るため,(1)と矛盾しない.検算では,E0/(Mc2)=1.02×10−5 は小さく,重い物体ほど反跳のエネルギー費用が小さくなる.