問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

東大後期の過去問を発展させる(1)

著者:柚木芹香

東大後期の回転,気体コンデンサー,発熱抵抗,電子捕獲を改題しました.第5〜8章の力学,第15〜17章の熱,第20・21章の電場と回路,第29・31章の原子を組み合わせます.最後に操作速度,温度限界,放射の待ち時間を調べます.

総合演習 1

東京大 1996 後期(改題) ★★★★★

回転する二体に接線方向の力積を加える

無重力空間で質量 m,2m の小球を,自然長 ℓ0,ばね定数 κ の軽いばねで結びます.初め距離 a>ℓ0 を保ち,静止した重心のまわりに角速度 Ω で回ります.両球に逆向きで等しい接線力積を加え,相対接線速度を 1+ϵ 倍にします.1≫ϵ>0 で,力積中の変位と散逸を無視します.距離を r,相対位置の角を θ,換算質量を mr=2m/3 とします.

  1. 相対運動の運動エネルギーと角運動量 J,Ω と仕事を求めよ.

  2. 力積後の有効ポテンシャルから,円軌道半径 a+δa を1次まで,半径振動の角振動数 ωr を最低次で求めよ.

  3. 力積直後を t=0 とし,r(t) と角速度を1次まで求めよ.a=2ℓ0,m=0.30kg,κ=12Nm−1,ℓ0=0.20m,ϵ=0.025 で角振動数と最大伸びを計算せよ.

  4. 半径振動のエネルギーを2次まで求めよ.同じ増分を時間 τ で与え,振動を小さくする条件を述べよ.

二球,間隔a,重心からの距離,接線速度を描く.逆向きの力積と角θを示す. 二球,間隔a,重心からの距離,接線速度を描く.逆向きの力積と角θを示す.
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考え方

全力積は0で重心は静止する.角運動量を固定し半径運動を調べる.

  1. 重心からの距離は 2r/3,r/3 だから

K=mr2[(drdt)2+r2(dθdt)2],J=mrr2dθdt.

つり合いは mraΩ2=κ(a−ℓ0) より Ω2=κ(a−ℓ0)/(mra).J0=mra2Ω は J1=(1+ϵ)J0 となる.仕事は

W=mra2Ω22[(1+ϵ)2−1]=κa(a−ℓ0)(ϵ+ϵ22).
  1. Ueff=κ(r−ℓ0)2/2+J12/(2mrr2).最小の条件 κ(r−ℓ0)=J12/(mrr3) を初状態から展開すると

κ(4−3ℓ0a)δa=2κ(a−ℓ0)ϵ,δa=2a(a−ℓ0)4a−3ℓ0ϵ.

曲率は d2Ueffdr2=κ+3J12/(mrr4).最低次では

ωr2=κmr(4−3ℓ0a)>0.
  1. r(0)=a,dr/dt(0)=0 なので

r=a+δa(1−cos⁡ωrt),dθdt=J1mrr2≃Ω[1+ϵ−2δaa(1−cos⁡ωrt)].

mr=0.20kg,Ω=5.5s−1,ωr=12s−1,δa=4.0×10−3m.最大伸びの計算値は 0.208m で,有効数字2桁では 0.21m.

  1. 最小点からの初期変位が −δa だから

Er=12mrωr2δa2=2κa(a−ℓ0)24a−3ℓ0ϵ2.

ωrτ≫1 としトルクの始終を滑らかにすれば,半径が動く最小点に追随し,振動を小さくできる.

近似は 1≫ϵ,|δa|/a,時間波形にはさらに 1≫ϵωrt が必要である.

総合演習 2

東京大 1994 後期(改題) ★★★★★

電源につなぐと気体の復元力はどう変わるか

水平筒の金属底面と質量 Mp,面積 S のピストンを極板とします.間隔 x>0,気体体積 Sx,容量 C=ε0S/x です.物質量 ν,比熱比 γ=7/5 の二原子理想気体を熱源 T0 に接し,外圧を pa>0 とします.無帯電の平衡間隔は x0=νRT0/(paS).摩擦,重力,漏電,放電,端の電場を無視し,気体の誘電率は ε0 とします.

  1. 電荷 ±Q 一定の引力をエネルギーから導き,等温の平衡位置と角振動数を求めよ.

  2. 電圧 V≥0 一定の引力を,電源の仕事を含めて導け.平衡位置,安定性,臨界電圧 Vc を求めよ.

  3. 振動中だけ可逆断熱になる場合の角振動数を求め,等温の臨界位置でも復元力があることを示せ.熱交換時間 τh,音速 vs で両近似の条件を述べよ.

水平筒の極板,気体,外圧p_aと間隔xを描く.電荷固定と電源接続を並べる. 水平筒の極板,気体,外圧p_aと間隔xを描く.電荷固定と電源接続を並べる.
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考え方

力の傾きで安定性を決める.電源も収支へ入れる.

  1. UQ=Q2x/(2ε0S) より外向きの力は −dUQ/dx=−Q2/(2ε0S)=−FQ.気体の力 νRT0/x とつり合わせ,ξ=x−xQ で線形化すると

xQ=νRT0paS+FQ,Mpd2ξdt2=−νRT0xQ2ξ,ωQ2=νRT0MpxQ2.
  1. 電源の仕事 VdQ=V2dC から場の増加 V2dC/2 を引くと極板の仕事になる.外向きの力は V2dC/dx/2=−ε0SV2/(2x2).A=νRT0,P=paS,D=ε0SV2/2 とおくと合力は F=A/x−P−D/x2.従って

x±=x02[1±1−(VVc)2],Vc2=A22ε0paS2.

平衡では D=Ax−Px2 なので dFdx=(A−2Px)/x2.x+>x0/2 は安定,x−<x0/2 は不安定.V=0 では x=x0 のみである.V>Vc なら平衡はない.臨界で F=−P(x−x0/2)2/x2≤0 で,安定な平衡ではない.

  1. 平衡圧を p∗,変位を ξ=x−x+ とし p=p∗[x+/(x++ξ)]γ≃p∗(1−γξ/x+).気体の力の傾きは −γA/x+2,電気力の傾きは 2D/x+3 だから

ωA2=(γ−2)A+2Px+Mpx+2.

x+=x0/2 では ωA2=4(γ−1)P/(Mpx0)>0.圧縮で昇温するため復元力が残る.長時間の安定性は保証しない.

等温の角振動数は ωT2=(2Px+−A)/(Mpx+2).等温には 1≫ωTτh,断熱には ωAτh≫1 が必要で,圧力一様にはさらに 1≫ωx+/vs を要する.小振動は 1≫|ξ|/x+,平行板近似は 1≫x+/S が条件である.

総合演習 3

東京大 1995 後期(改題) ★★★★☆

発熱する抵抗の測定と熱暴走

温度一様な抵抗体の温度上昇を θ=T−T0,抵抗を R=R0(1+αθ),放熱率を Ghθ,熱容量を Ch とします.係数はすべて正です.表は独立な温度・抵抗・電力の定常測定値で,模型に一致します.

θ/K

R/Ω

電力 P/W

25

30

10

50

40

20

100

60

40

  1. 表から R0,α,Gh を決めよ.一定電流 I で加熱する場合の温度の微分方程式を立て,定常温度と安定性の条件を求めよ.

  2. 起電力 E,直列抵抗 Rs の電源につなぎます.r=R/R0,s=Rs/R0,β=αE2/(GhR0) で定常式を作り,解の一意性を示せ.

  3. 温度のずれが減る時定数を求めよ.Rs=20Ω,E=302V,Ch=12JK−1 で温度上昇,電流,時定数を求めよ.

  4. 定常温度上昇を 100K 以下とする最大起電力を求めよ.Rs→∞,E/Rs=Ib の極限と一定電流の暴走の関係を説明せよ.

電源,直列抵抗R_s,抵抗体を描く.外界への放熱G_hθを示す. 電源,直列抵抗R_s,抵抗体を描く.外界への放熱G_hθを示す.
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考え方

発熱と放熱の差を温度で微分し安定性を調べる.電源の条件も収支へ入れる.

  1. 表の傾きと切片より R0=20Ω,α=0.020K−1,P/θ より Gh=0.40WK−1.収支は

Chdθdt=I2R0+(αI2R0−Gh)θ.

Gh>αI2R0 なら θ∗=I2R0/(Gh−αI2R0) は安定.等号では線形,逆なら指数的に昇温する.臨界は Ic=Gh/(αR0)=1.0A.

  1. 電流は I=E/(Rs+R),発熱は E2R/(Rs+R)2.定常式は

β=(r−1)(s+r)2r.

右辺は r=1 で0,発散し,微分 (s+r)2/r2+2(r−1)(s+r)/r>0 より解は一つである.

  1. 発熱の温度微分 αE2R0(Rs−R)/(Rs+R)3 と定常式を使い

dδθdt=−δθτ,τ=ChGhr(s+r)s+2r2−r.

s≥0,r≥1 で τ>0 だから安定である.数値は s=1,β=4.5,r=2,θ∗=50K,I=0.71A,τ=26s.発熱・放熱はともに 20W である.

  1. 上限で R=60Ω.温度は起電力とともに増すから

Emax=(Rs+R)GhθR=8023V≃65V.

電流は 0.82A.有限の Rs では,高温で電流と発熱が下がる.一方,E=IbRs の極限では有限温度で I→Ib.Ib<Ic なら(1)の定常温度に近づき,Ib≥Ic なら定常温度は発散する.電流源の極限は特異である.

線形化には 1≫|αδθ|/r,電気応答時間が τ より短いことを要する.Ch/Gh の次元は時間である.

総合演習 4

東京大 1998 後期(改題) ★★★★★

電子捕獲のあとに出る光の反跳と待ち時間

静止した原子番号20,質量数43の原子模型 X が,電子捕獲で娘原子 Y と質量0の電子ニュートリノを作ると仮定します.Y の内側の空席へ n=2 の電子が移り光子を出します.準位は有効核電荷 Zeff=ZY−σ を使う En=−13.6Zeff2/n2eV とします.反跳質量は M,Mc2=4.00×104MeV .捕獲で運動へ分かれる量は Q=0.400MeV.Q は電子の結合と Y の励起を織り込んだ値で,後の光子を再び差し引きません.反跳は非相対論的です.

1eV=1.60×10−19J,kB=1.38×10−23JK−1 とします.

  1. ZY,AY を求め,反跳補正前の n=2 から n=1 への遷移エネルギー E∗=3.3048keV から σ を求めよ.

  2. ニュートリノのエネルギーと Y の反跳を,Q/(Mc2) の最初の補正まで求めよ.

  3. 原子の速度 u と射出光子の角を θ とします.ドップラー効果と光子反跳の1次までエネルギーを求め,捕獲直後の範囲を求めよ.

  4. 放射時刻の確率密度が e−t/τX/τX,媒質中で捕獲による速度が u0e−t/τs とします.一定方向の平均ドップラーずれを求め,τX=4τs の値と 300K の熱的な標準偏差を比べよ.

捕獲前後の原子,ニュートリノ,反跳するY,後から出る光子を描く.速度uと光子の角θを示す. 捕獲前後の原子,ニュートリノ,反跳するY,後から出る光子を描く.速度uと光子の角θを示す.
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考え方

核の変化,電子の準位,原子の反跳を数える.媒質は準位と放射率を変えないとする.

  1. 陽子が電子を捕獲して中性子に変わり,ZY=19,AY=43.準位差は E∗=E2−E1=13.6Zeff2(1−1/4)eV.従って Zeff=3304.8/10.2=18,σ=19−18=1.

  2. Y の運動量の大きさは Eν/c.保存則 Q=Eν+Eν2/(2Mc2) を1次補正まで解くと

Eν≃Q−Q22Mc2,KY≃Q22Mc2=2.00eV,u0c≃QMc2=1.00×10−5.

Eν≃399.998keV は補正を含む値である.

  1. 原子の運動量は放射で Mu から Mu−pγ に変わる.運動エネルギーの差を含めると

E∗=Eγ−uEγccos⁡θ+Eγ22Mc2,Eγ≃E∗(1+uccos⁡θ)−E∗22Mc2.

範囲は E∗−1.37×10−4eV を中心に ±0.0330eV.下方補正は光子反跳である.励起の慣性質量差は省略した.

  1. 時間で平均して

⟨u⟩=∫0∞u0τXe−t(1/τs+1/τX)dt=u01+τX/τs,⟨ΔED⟩=E∗u0cos⁡θc(1+τX/τs).

τX=4τs では最大平均ずれは 0.00661eV.等分配則 M⟨u∥2⟩=kBT を使うと σE=E∗kBT/(Mc2)=0.00266eV.等方的には平均ずれは0.

近似には 1≫Q/(Mc2),E∗/(Mc2),u/c を要し,各値は 10−5,8.3×10−8,10−5 程度.減速中は媒質へエネルギーが渡る.