問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

東大後期の過去問を発展させる(2)

著者:柚木芹香

東大後期の光による捕捉,屈折率分布のレンズ,巻線設計,計器の問題を改題します.第7章の振動,第14章の不確かさ,第17章の等分配則,第21〜23章の回路と磁場,第27・29章の光学と光子を組み合わせます.最適条件と,模型の適用範囲を調べてください.

総合演習 5

東京大 1991 後期(改題) ★★★★☆

光で捕まえた粒子の熱運動

半径 R,屈折率 n>1,質量 m の透明な円柱を,軸を z 方向に保って y 方向だけ動けるなめらかな案内に載せます.中心は (0,y) です.x 軸上を反対向きに進む2本の細い光線を当て,各光線のパワーを P とします.真空中の光速は c,光子のエネルギーと運動量は hν,hν/c です.反射と吸収を無視し,1≫|y|/R で幾何光学を使います.

  1. y>0 のとき,+x 方向へ入った光線が射出時に +y 側へ曲がる角を δ とします.入射角 α,屈折角 β を使って δ を求め,y/R の1次まで近似せよ.

  2. 力を求め,Fy=−Koy の Ko と振動数を求めよ.1本の照射で生じる x 方向の力は何次か.

  3. 弱い熱結合の平衡で ⟨y2⟩=kBT0/Ko とします.R=5.0×10−6m,n=1.50,m=2.0×10−13kg,P=5.0×10−4W,T0=300K,c=3.00×108ms−1,kB=1.38×10−23JK−1 で振動数と位置の標準偏差を求めよ.標準偏差を 0.050R 以下にする最小 P も求めよ.

中心がyだけずれた円柱と反対向きの入射光を描く.半径R,入射点の法線,入射角α,屈折角β,射出角δを示す. 中心がyだけずれた円柱と反対向きの入射光を描く.半径R,入射点の法線,入射角α,屈折角β,射出角δを示す.
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考え方

光の運動量変化を数える.対向照射で縦の力が消え,横の復元力が加わる.

  1. 円の幾何と屈折の法則より sin⁡α=y/R,sin⁡β=sin⁡α/n.入射・射出の両面で同じだけ曲がるので

δ=2(α−β)≃2(1−1n)yR.

y<0 では符号が逆になる.

  1. 毎秒の光子数は P/(hν) だから,+x 方向の入射による力は Fx=P(1−cos⁡δ)/c,Fy=−Psin⁡δ/c.逆向きの入射では Fx が逆,Fy は同じである.従って

Fy≃−4PcR(1−1n)y,Ko=4P(n−1)ncR,f=12πKom.

1本の Fx≃Pδ2/(2c) は2次である.光の通過中,円柱はほぼ静止するとした.

  1. Ko=4.4×10−7Nm−1,f=2.4×102Hz.標準偏差は

σy=kBT0Ko=9.7×10−8m,σyR=0.019.

弱い減衰ならこの f を使える.

標準偏差の条件は kBT0/Ko≤(0.050R)2 なので

P≥nckBT04(n−1)(0.050)2R=7.5×10−5W.

幾何光学では波長と光線幅が R より小さく,速さは 1≫v/c が必要である.小振幅には 1≫σy/R を要する.

総合演習 6

東京大 1993 後期(改題) ★★★★★

平面の位相板はどの距離でよいレンズになるか

厚さ d,半径 Rp の位相板を,光軸からの距離 r に応じて位相 2πd[n(r)−1]/λ を加える模型で扱います.両面は同じ平面とし,内部の横伝播を省略します.n(r) は有効な屈折率で,板の外は真空です.光軸上の距離 f の点光源を平面波に変える板を設計します.中心の値は n(0)=n0 です.展開には 1+z=1+z/2−z2/8+⋯ を使ってよいとします.

  1. 出口の位相がそろう n(r) を求め,r4 まで展開せよ.

  2. この板で距離 a>f の物点を距離 b の実像へ結びます.物点から像までの光学距離の2次の項を消す条件と,4次の係数 Γ を求めよ.

  3. a=b=2f,f=0.100m,d=1.00×10−3m,n0=1.60,λ=600nm とします.中心と縁の位相差を π/4 以下とする最大 Rp を求めよ.

  4. 同じ a,b で4次の項も消す屈折率分布の係数を求め,元の板との違いを示せ.開口を大きくするとき,次に調べるべき近似を述べよ.

位相板の中心と半径rの点を通る二つの経路,光軸上の物点と像を描く.距離a,b,板の半径R_pを示す. 位相板の中心と半径rの点を通る二つの経路,光軸上の物点と像を描く.距離a,b,板の半径R_pを示す.
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考え方

位相をそろえる.2次だけ一致する条件と,4次も一致する条件を区別する.

  1. 出口の光学距離は f2+r2+d[n(r)−1].中心と等置すれば

n(r)=n0−f2+r2−fd≃n0−r22df+r48df3.

中心ほど位相を遅らせる.

  1. n=n0−αr2+βr4 と書く.物点から像までの光学距離は

L=a2+r2+b2+r2+d[n(r)−1]=L0+[12a+12b−dα]r2+[dβ−18(1a3+1b3)]r4+⋯.

α=1/(2df) なので2次の条件は 1/a+1/b=1/f.元の板の β=1/(8df3) を使うと

Γ=18[(1a+1b)3−1a3−1b3]=38fab>0.
  1. Γ=3/(32f3).位相差 2πΓRp4/λ≤π/4 より

Rp≤(4λf33)1/4=5.32×10−3m.

Rp/f=0.0532 で近軸の条件を満たす.

  1. 2次の係数は変えず,βab=(a−3+b−3)/(8d) とすればよい.a=b=2f では βab=1/(32df3) で,元の板の4分の1となる.

近軸展開は 1≫Rp/a,Rp/b,Rp/f が条件であり,開口を増せば6次以降の位相誤差も検査する.厚い板には内部の光線の曲がりによる誤差もある.その光学距離誤差も λ/8 より小さいか確かめる.a→f,b→∞ では Γ→0 となり,設計条件へ戻る.

総合演習 7

東京大 1993 後期(改題) ★★★★★

交流で使うコイルの巻数を選ぶ

体積 V,抵抗率 ρ の銅線を,平均1周長 ℓ の巻枠に N 回巻きます.線の断面は一様で,長い空心ソレノイドの長さ ℓs,断面積 S は一定です.L=lN2,l=μ0S/ℓs,内部の磁場は B=μ0NI/ℓs と近似します.起電力 E(t)=2Vecos⁡ωt,直列抵抗 Rs>0 の交流電源につなぎます.銅の温度変化,表皮効果,寄生容量,放射を無視し,N は連続量として最適化します.

  1. コイル抵抗を R=rN2 の形にせよ.電流を I(t)=Re⁡[I^eiωt] とし,複素振幅 I^,磁場実効値 Be,位相の遅れを求めよ.

  2. q=r2+ω2l2 とおき,Be を最大にする巻数と最大値を求めよ.直流極限と高振動数極限を調べよ.

  3. 最適巻数での銅の発熱率を P∗ とします.発熱を P∗/2 以下に制限したとき,最大磁場を作る巻数を求めよ.r=4.0×10−4Ω,l=2.0×10−8H,ω=2.0×104s−1,Rs=4.0Ω,Ve=12V で巻数と P∗ を計算せよ.

    1. の二つの設計について,直列抵抗の損失と銅へ届く平均電力の割合を比べよ.

空心コイルと交流電源,直列抵抗R_sを描く.コイルの長さℓ_s,断面S,巻数N,1周長ℓを示す. 空心コイルと交流電源,直列抵抗R_sを描く.コイルの長さℓ_s,断面S,巻数N,1周長ℓを示す.
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考え方

抵抗とリアクタンスの巻数依存を,複素インピーダンスへ入れる.

  1. 導線長 Nℓ,断面積 V/(Nℓ) より r=ρℓ2/V.ZL=iωL を使うと

I^=2VeRs+(r+iωl)N2,Be=μ0VeℓsN(Rs+rN2)2+ω2l2N4,tan⁡ϕ=ωlN2Rs+rN2.

電流は I(t)=2Iecos⁡(ωt−ϕ),Ie=|I^|/2 である.

  1. x=N2,D=Rs2+2Rsrx+q2x2 とおく.Be2 は x/D に比例し,微分の符号は Rs2−q2x2 で決まる.従って

N∗2=Rsq,B∗2=(μ0Veℓs)212Rs(r+q).

直流では q=r となり,コイル抵抗が Rs に等しいとき最大である.ωl≫r では N∗≃Rs/(ωl),B∗∝ω−1/2.

  1. 銅の発熱率は Pc=Ie2rN2=rVe2x/D だから,Pc/Be2=rℓs2/μ02 は一定である.従って制限下の最大磁場は B∗/2.t=N2/N∗2,ar=r/q とおけば

PcP∗=2(1+ar)t1+2art+t2,t2−(4+2ar)t+1=0.

正根 t±=2+ar±(2+ar)2−1 から N±=N∗t±.数値は ar=1/2,N∗≃84,P∗=rVe2/[2Rs(r+q)]=7.5W,巻数の選定用に桁を残すと N−≃36.8,N+≃192.2.整数なら36以下か193以上を選ぶ.

  1. 同じ Be なら NIe は同じなので,損失 Ps=RsIe2 は N−2 に比例する.また銅へ届く平均電力の割合は

ηc=PcPc+Ps=rN2Rs+rN2.

連続量としての N−,N+ では,銅の発熱はともに 3.7W,直列抵抗の損失はそれぞれ 28W,1.0W,ηc は 0.12,0.79 となる.巻数が多い方は損失が小さく,ηc は大きい.位相差は大きく,電源容量は平均電力だけでは決まらない.磁気エネルギーは周期ごとに戻り,平均供給電力は Pc+Ps である.

N→0 でも N→∞ でも磁場は0へ近づく.高振動数の近似は ωl/r≫1 と,装置寸法を ds とした 1≫ωds/c をともに満たす範囲で使う.寄生容量や表皮効果も小さい範囲に限る.

総合演習 8

東京大 1991 後期(改題) ★★★★☆

計器が変えた回路を測定値から復元する

起電力 E,内部抵抗 Rs の直流電源につながる抵抗 R の,計器を入れる前の電力を求めます.電流計の内部抵抗は RA=10.0Ω.電圧計を R に並列,電流計を全電流を測る位置に直列接続します.電圧計の内部抵抗を切り替え測りました.温度変化と電源の変動を無視し,計器抵抗は正確に既知とします.

電圧計の内部抵抗 RV/Ω

電圧 V/V

全電流 I/A

100

6.00

0.1200

300

7.20

0.0960

  1. 二つの測定から R が一致するか確かめよ.E,Rs を求めよ.

  2. 元の電力を求めよ.1回目の VI と抵抗の実際の電力を比べ,VI を使う問題点を述べよ.

  3. 各読みの独立な標準不確かさを σV=0.010V,σI=2.0×10−4A とします.Rs の標準不確かさと,1回目の R の標準不確かさを誤差伝播で求めよ.

  4. R に未知容量 C のコンデンサーを並列に追加します.無充電から接続した時定数は,RV=100Ω で 10.0ms,300Ω で 12.0ms でした.C を求め,測定の整合性を調べよ.RV を両方とも大きくすることが,Rs の推定には不利になる理由も述べよ.

電源,電流計,並列の抵抗Rと電圧計を描く.追加するコンデンサーCも別図に示す. 電源,電流計,並列の抵抗Rと電圧計を描く.追加するコンデンサーCも別図に示す.
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考え方

動作点から電源を決め,元の回路を復元する.

  1. IR=I−V/RV なので R=(I/V−1/RV)−1.1回目は IR=0.0600A,2回目は 0.0720A で,どちらも R=100Ω.回路の式は E=Vj+(Rs+RA)Ij だから

Rs=V2−V1I1−I2−RA=40.0Ω,E=V1+(Rs+RA)I1=12.0V.
  1. 計器を外すと I0=E/(Rs+R),従って P0=E2R/(Rs+R)2=0.735W.1回目は VI=0.720W だが,抵抗の電力は V2/R=0.360W.残る 0.360W は電圧計が消費する.積が P0 に近いのは,回路の乱れと電圧計の消費が偶然相殺したためである.

  2. AV=V2−V1,AI=I1−I2,SR=Rs+RA=AV/AI とおく.独立な読みの差の分散は 2σV2,2σI2 だから

σRs2=2σV2AI2+2AV2σI2AI4,σRs=0.83Ω.

(1)の偏微分は ∂R/∂I=−R2/V,∂R/∂V=R2I/V2.従って

σR=R2σI2V2+I2σV2V4=0.47Ω.
  1. コンデンサーの電荷保存は CdV/dt=(E−V)/(Rs+RA)−V/R−V/RV.定常値からのずれは指数的に減り,時定数は

τ=C[1Rs+RA+1R+1RV]−1.

並列抵抗は1回目が 25.0Ω,2回目が 30.0Ω なので,いずれも C=4.00×10−4F.両方の RV が非常に大きいと動作点が近づき,AI,AV が小さくなる.誤差式より,負荷を減らしても Rs の不確かさは増す.

誤差伝播には 1≫σV/V,σI/I,2σI/|AI| を要する.最後の比も 0.012 で小さい.τ/C の次元は抵抗である.