問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

東大後期の過去問を発展させる(3)

著者:柚木芹香

東大後期のローラー,電球,電子捕獲,コンデンサーを4題に組み直しました.第4〜8章の力学,第14章の測定,第15・16章の熱,第20・21章の電場と回路,第29・31章の原子を使います.系を選んでください.最後は近似の限界も調べます.

総合演習 9

東京大 1999 後期(改題) ★★★★☆

摩擦で振動する板の熱はどこから来るか

質量 M の薄い一様な板を,接触点 x=−ℓ,ℓ の2個のローラーで水平に支えます.重心位置を x,左・右の動摩擦係数を a=μL′,b=μR′ とします.ローラー上面の速度は左が +u,右が −u で,モーターが保ちます.板は長く,厚さによる摩擦力のモーメントと鉛直運動を無視します.重力加速度は g です.

  1. 支持力,合力,平衡位置 xe と角振動数 ω を求めよ.xe+A から静かに放した板が両ローラーに接し,滑りの向きが変わらない条件を示せ.

  2. g=9.8ms−2 で次の丸めた測定値を得ました.T2 と ℓ の直線化から a,b を推定せよ.

ℓ(m)

周期 T(s)

xe(m)

0.20

1.80

-0.040

0.30

2.20

-0.060

0.40

2.54

-0.080

  1. 板の速度を v として,各接触部の発熱率とモーターの供給仕事率を求め,1周期の仕事と熱を比べよ.

  2. 振幅 A を固定して発熱を抑えたい.M=2.0kg,ℓ=0.30m,a=0.20,b=0.30,A=0.040m,g=9.8ms−2 とする.滑りの向きを保つ u の下限と平均供給仕事率の下限を求めよ.下限を実現できるかも述べよ.

質量Mの板の重心位置はx,ローラーの接触点は−ℓとℓである.左の摩擦係数はa=μ′L,右はb=μ′Rで,上面速度はそれぞれ+u,−u.各ローラーはモーターで駆動される. 質量Mの板の重心位置はx,ローラーの接触点は−ℓとℓである.左の摩擦係数はa=μ′L,右はb=μ′Rで,上面速度はそれぞれ+u,−u.各ローラーはモーターで駆動される.
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考え方

薄板のつり合いから支持力を決め,駆動の仕事を含める.

  1. NL+NR=Mg,ℓ(NR−NL)=Mgx より

NL=Mg2(1−xℓ),NR=Mg2(1+xℓ).

v が −u,u の間なら,左の摩擦は右向き,右は左向きである.従って

Md2xdt2=aNL−bNR=Mg2[a−b−a+bℓx]=−Mω2(x−xe),xe=ℓ(a−b)a+b,ω2=g(a+b)2ℓ.

初期条件から x=xe+Acos⁡ωt,v=−Aωsin⁡ωt.条件は A<ℓ−|xe| と Aω<u である.

  1. T2=8π2ℓ/[g(a+b)].最初と最後の点の傾きは (2.542−1.802)/0.20=16.1s2m−1 なので a+b≃0.50.全点で xe/ℓ=−0.20=(a−b)/(a+b) だから a≃0.20,b≃0.30.中間点も一致する.

  2. 滑り速度から

Ph,L=aNL(u−v),Ph,R=bNR(u+v),Pm=u(aNL+bNR).

合計を Ph とすると,Pm−Ph=(aNL−bNR)v=ddt(Mv2/2).1周期の板への仕事は0である.⟨x⟩=xe より a⟨NL⟩=b⟨NR⟩=Mgab/(a+b) なので

Qh=∫0TPhdt=∫0TPmdt=2Mguaba+bT>0.

熱はモーターから来る.

  1. 平均供給仕事率は ⟨Pm⟩=2Mguab/(a+b) と u に比例する.滑りの向きには u>Aω を要するので

u∗=Aω≃0.11ms−1,P∗=2Mgaba+bAω=0.54W.

下限に近づけられるが,等号では最大速度の瞬間に一方の滑り速度が0になる.下限の達成は保証できない.支持力の条件も A/(ℓ−|xe|)=0.17<1 を満たす.g/ℓ の次元は時間の逆二乗で,薄板近似には厚さと ℓ の比が十分小さいことを要する.

総合演習 10

東京大 2000 後期(改題) ★★★★★

同じ明るさの電球は安定か

2個の同じ電球を並列にし,一定電圧 Vb の電源へ直列抵抗 r を介してつなぎます.周囲温度を T0,電球の温度差を θi=Ti−T0,抵抗を Ri=R0(1+αθi) とします.各熱容量は Ch,放熱率は Hθi です.R0,α,H,Ch,r は正で一定,電気応答は速く,電球間の熱交換は無視します.共通端子電圧を V とします.

  1. V,各発熱率,温度の方程式を求め,電源の収支を示せ.

  2. 対称な定常状態 θ1=θ2=θ∗≥0 の方程式を立てよ.Vb=24V,r=20Ω,R0=10Ω,α=4.0×10−3K−1,H=0.020WK−1 で θ∗ を求めよ.

  3. 微小変化 δθ1=δθ2 と δθ1=−δθ2 の増減率を求め,安定性を判定せよ.Ch=0.10JK−1 で減衰時間も求めよ.

  4. 電源と r を,総電流 I0 を保つ理想電流源に置き換えます.対称な昇温と臨界電流を求め,発散を解釈せよ.初温度は T0 です.

電圧Vbの電源と直列抵抗rに,同じ2個の電球を並列につなぐ.電球の抵抗はR1,R2,温度はT1,T2,共通端子電圧はVである.周囲温度T0へHθ1,Hθ2の割合で放熱する. 電圧Vbの電源と直列抵抗rに,同じ2個の電球を並列につなぐ.電球の抵抗はR1,R2,温度はT1,T2,共通端子電圧はVである.周囲温度T0へHθ1,Hθ2の割合で放熱する.
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考え方

電気応答が速い模型で熱収支を線形化し,温度の和と差を分ける.

  1. I=V(1/R1+1/R2),Vb=V+rI より

V=Vb1+r(1/R1+1/R2),Chdθidt=V2Ri−Hθi.

電源の仕事率は VbI=rI2+V2/R1+V2/R2 である.

  1. R∗=R0(1+αθ∗) とおけば

Vb2R∗(R∗+2r)2=Hθ∗.

数値は θ∗≃1.5×102K.以下は未丸めの値と V∗=VbR∗/(R∗+2r) を使う.

  1. 共通モードでは P(R)=Vb2R/(R+2r)2 を微分する.差では抵抗逆数の変化が相殺し,δV=0.δθ∝est の率は

sc=1Ch[αR0Vb2(2r−R∗)(R∗+2r)3−H],sd=1Ch[−αR0V∗2R∗2−H].

数値は sc=−0.168s−1,sd=−0.274s−1,両モードは安定で,減衰時間 −1/s は 6.0s,3.7s.

  1. 対称なら各電流は I0/2.P0=I02R0/4,B=H−αP0 とすると

Chdθdt=P0−Bθ,θ=P0B(1−e−Bt/Ch)(B≠0).

B=0 では θ=P0t/Ch.有限の定常温度は B>0 のときだけで,Ic=2H/(αR0)=1.4A.I0>Ic では指数的に増温する.実際には放射,抵抗の非線形性,融解が模型を変える.線形化には α|δθ|/(1+αθ∗) が十分小さく,電気応答時間と熱応答時間の比も十分小さいことを要する.

総合演習 11

東京大 1999 後期(改題) ★★★★☆

電子捕獲の反跳が特性線を広げる

原子番号18,質量数37の模型原子 X が,内殻電子を捕獲して娘原子 Y とニュートリノを作ります.X は静止し,ニュートリノは質量0,娘原子の質量は M とします.電子配置を固定したとき,ニュートリノと反跳に分かれるエネルギーは Q です.娘原子が止まる前に,電子が n=2 から空席の n=1 へ移り光子を出します.自然幅は無視します.

有効核電荷を ze=(ZY−1)e とし,ボーア模型の準位を En=−EHz2/n2,EH=13.6eV とします.Mc2=37×931.5MeV,Q=0.75MeV,hc=1.24×103eVnm,1MeV=106eV を用います.

  1. Y の原子番号・質量数,準位差 ΔE,反跳を無視した光子の波長を求めよ.

  2. ニュートリノのエネルギー Eν と娘原子の反跳を,Q/(Mc2) の必要な次数まで求めよ.

  3. 捕獲直後の娘原子の速度を w,光子の単位方向を n,両者の角を θ とします.保存則から光子エネルギー Eγ を求め,最大値と最小値の差を求めよ.

  4. 分光器のエネルギー分解能が 0.010eV なら,反跳補正と線の広がりのどちらを見分けられるか.近似の適用条件も述べよ.

静止したXの電子捕獲で,ニュートリノと娘原子Yが反対向きに動く.下段は娘原子が止まる前の電子遷移で,捕獲直後の娘原子の速度wと光子の単位方向nのなす角θを示す. 静止したXの電子捕獲で,ニュートリノと娘原子Yが反対向きに動く.下段は娘原子が止まる前の電子遷移で,捕獲直後の娘原子の速度wと光子の単位方向nのなす角θを示す.
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考え方

捕獲と遷移を分け,娘原子は非相対論的,ニュートリノと光子は E=pc とする.

  1. 陽子が電子を捕獲して中性子になり ZY=17,AY=37,z=16.従って ΔE=E2−E1=3EH162/4=2.61×103eV,λ=hc/ΔE=0.475nm.有効核電荷は遮蔽を定数にまとめた仮定である.

  2. 娘原子とニュートリノの運動量は反対向きで,大きさは p=Eν/c.従って

Q=Eν+Eν22Mc2,Eν≃Q−Q22Mc2.

2次項に Eν≃Q を代入した.反跳は Kν≃Q2/(2Mc2)=8.2eV,w/c=Eν/(Mc2)≃2.2×10−5.Q は後の遷移を含まない.

  1. 放出後の運動量は Mw−(Eγ/c)n.慣性質量の変化を無視すると

ΔE+12Mw2=Eγ+|Mw−(Eγ/c)n|22M,ΔE=Eγ(1−wccos⁡θ)+Eγ22Mc2.

補正項に Eγ≃ΔE を入れれば

Eγ≃ΔE−ΔE22Mc2+ΔEwccos⁡θ.

前方放出が最大,後方が最小で,差は 2ΔEQ/(Mc2)=0.11eV.静止原子からの光子の反跳補正は ΔE2/(2Mc2)=9.9×10−5eV である.

  1. 反跳補正は分解能より小さく,幅は分解能より大きい.他の広がりを無視すれば,幅を見分けられる.補正は ΔE/(Mc2),幅はより大きい Q/(Mc2) で決まる.両量と w/c が十分小さいことが近似条件である.

総合演習 12

東京大 2003 後期(改題) ★★★★★

気体が支える電極の限界電圧

平行板コンデンサーの上側電極を断面積 S の気密ピストンにします.電極間隔を d,封入理想気体の体積を Sd,外圧を pe 一定とします.ピストンの重さ,摩擦,端の場,装置の熱容量を無視します.気体の誘電率を ε0 と近似し,容量は C=ε0S/d.初め電圧0で d=d0,気体は pe,T0 です.電圧をゆっくり増し,接触・絶縁破壊は除きます.

  1. 電圧一定での引力を,電源の仕事を含めて導け.

  2. 気体を T0 に保ちます.y=d/d0,β=ε0V2/(2ped02) でつり合いを表し,安定な間隔と限界電圧を求めよ.変位も等温です.

  3. y=0.80 までの圧縮で,放出熱,電場エネルギー,電源の仕事 ∫VdQ を peSd0 を単位として求め,収支を確かめよ.

  4. 同じ初状態から可逆断熱で圧縮します.1<γ<2 で限界間隔・電圧を導き,γ=5/3 で等温の限界電圧との比と限界温度を求めよ.

断面積Sの上側電極は気密ピストンで,下側電極は固定される.外圧はpe,電極間隔はd,気体の体積はSd,誘電率はε0である.電圧Vの電源と,等温操作で接触する温度T0の熱源を示す. 断面積Sの上側電極は気密ピストンで,下側電極は固定される.外圧はpe,電極間隔はd,気体の体積はSd,誘電率はε0である.電圧Vの電源と,等温操作で接触する温度T0の熱源を示す.
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考え方

電源を含めて力を求め,圧力と引力の間隔依存を競わせる.

  1. 電圧一定なら U=CV2/2,dQ=VdC,電源の仕事 VdQ=V2dC の半分が場の増分 dU,残りが電気力の仕事なので

Fddd=VdQ−dU=12V2dC,Fd=−ε0SV22d2.
  1. 等温の p=pe/y から外向き合力とつり合いは

F=peS(1y−1−βy2),y2−y+β=0.

つり合いで ∂F∂d=peS(1−2y)/(d0y2).安定な枝は y=(1+1−4β)/2>1/2,小さい根は不安定.限界は βc=1/4,dc=d0/2,Vc=d0pe/(2ε0).限界を超すとつり合いはない.

  1. E0=peSd0 とおく.気体の内部エネルギー変化0より,放出熱は気体への仕事 −∫pSdd=−E0ln⁡y,有効数字2桁では 0.22E0.β=y−y2 を用いると

U=12CV2=E0βy=E0(1−y)=0.20E0.

Q=S2ε0pe(1−y)/y,V=d02pe/ε0y(1−y) から VdQ=−E0dy/y.従って

Ws=−E0∫10.80dyy≃0.22E0.

外圧の仕事 Wext=E0(1−y)=0.20E0 を含め,Ws+Wext=ΔU+Qout と一致する.

  1. 断熱では p=pey−γ なので β=y2−γ−y2.初状態の安定な枝はこの関数の極大までである.

dβdy=(2−γ)y1−γ−2y=0,yc=(2−γ2)1/γ,βc=γ2yc2−γ.

固定電圧で合力を微分し,つり合い条件を入れると ∂F∂d=(peS/d0)[(2−γ)y−γ−1−2/y] で,y>yc なら負.限界電圧は d02peβc/ε0.γ=5/3 では yc=0.341,βc=0.582,電圧比は 0.582/0.25=1.53,Tc/T0=yc1−γ=2.05.γ→1 で等温に戻る.圧力一様には音の横断時間と操作時間の比,断熱には操作時間と熱漏れ時間の比,端の場の無視には d/S が十分小さいことを要する.