問いしるべ
問いから始める物理 原子核と素粒子

原子核と素粒子

質量欠損と結合エネルギーの演習

著者:柚木芹香

原子核か中性原子かをそろえて質量を比べてください.核子あたりの値と全体の値を区別します.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

陽子数6の中性の炭素12原子の質量は 12u です.中性の水素原子の質量は mH=1.007825u,中性子の質量は mn=1.008665u,電子の質量は me=0.00054858u とします.(1u)c2=931.5MeV とし,原子内の電子の結合エネルギーは無視します.

  1. 炭素核の質量 M と陽子の質量 mp を表してください.

  2. 質量欠損 Δm,結合エネルギー B,核子1個あたりの値を求めてください.

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考え方 炭素原子と6個の水素原子を比べると,電子6個の質量が相殺する.

  1. M=12u−6me.また mp=mH−me である.

  2. Δm=6mp+6mn−M=6mH+6mn−12u=0.098940u.したがって B=Δmc2=92.16MeV,B/12=7.680MeV.Δm>0 で,分解には正のエネルギーが要る.電子の結合エネルギーと B の比が十分小さい範囲での近似である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

核子1個あたりの結合エネルギー b=B/A を表に示します.

核種

A

Z

b(MeV)

炭素12

12

6

7.68

マグネシウム24

24

12

8.26

鉄56

56

26

8.79

  1. 全結合エネルギーが最小の核を求めてください.

  2. マグネシウム核を炭素核2個に分け,静止して十分離すための供給エネルギーを求めてください.分解の Q 値と逆向きの収支も答えてください.Q は変化前から変化後の総静止エネルギーを引いた値です.

横軸A,縦軸bに,炭素12,マグネシウム24,鉄56の表の値7.68,8.26,8.79 MeVを置いた図. 横軸A,縦軸bに,炭素12,マグネシウム24,鉄56の表の値7.68,8.26,8.79 MeVを置いた図.
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考え方 自由核子を基準に質量の低下を数え,分解前後で核子の種類と数をそろえる.

  1. 全体の値は順に 12×7.68=92.16MeV,24×8.26=198.24MeV,56×8.79=492.24MeV なので炭素核である.

  2. 自由核子の質量の和を M0 とすると,始状態は M0c2−198.24MeV,終状態は M0c2−2×92.16MeV.供給量は差の 13.92MeV≈13.9MeV となる.したがって分解の Q=−13.9MeV であり,逆向きには同量を放出できるが,起こりやすさはこの収支だけでは決まらない.b が等しい核どうしならこの差が0になることも確かめられる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

原子番号12の中性原子の仮想測定値を示します.表の ± は真の値を含む誤差の上限とし,各誤差は独立に変化できます.電子の結合エネルギーは無視します.mn=1.008665u,(1u)c2=931.5MeV とします.

A

原子質量 Ma(u)

24

23.985000±0.000010

25

24.984600±0.000010

26

25.984220±0.000010

  1. A=24 から25への結合エネルギーの増加 s を,中央の値と誤差の上限で求めてください.

  2. 「結合エネルギーは中性子1個につき s ずつ増す」という模型は,この測定で否定できますか.3点目を予測してください.

質量数24,25,26の測定値を横軸A,縦軸M_a/u−Aで示す.誤差棒は各測定の誤差の上限を表す. 質量数24,25,26の測定値を横軸A,縦軸M_a/u−Aで示す.誤差棒は各測定の誤差の上限を表す.
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考え方 電子数が同じなので,隣接する原子質量の差と中性子の質量から結合の変化が分かる.誤差の上限は絶対値を足す.

  1. s=[mn−(Ma(25)−Ma(24))]c2=0.009065uc2=8.444MeV.2つの質量の誤差の和から δs=0.000020×931.5MeV=0.01863MeV.したがって s=(8.444±0.019)MeV である.

  2. 一定増加なら質量も等差数列になり,Ma,pred(26)=2Ma(25)−Ma(24)=25.984200u.予測誤差の上限は 3.0×10−5u.測定との差は 2.0×10−5u であり,誤差の和 4.0×10−5u 以下なので否定できない.誤差が0なら差を検出できるが,今回は模型を証明したわけでもない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

太陽の光の全放射仕事率を L=3.8×1026W とします.消費した水素の質量の割合 η=0.0070 が静止質量の減少となり,全て光へ変わる水素燃焼の模型を使います.c=3.00×108ms−1,利用可能な水素は MH=1.4×1029kg,1yr=3.16×107s とします.

  1. 質量減少率と水素消費率を求めてください.

  2. L が一定なら,この水素で何年放射できますか.質量減少を消費量と同一視した誤りも述べてください.

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考え方 質量減少は L/c2 だが,消費した水素の多くは生成物として残る.

  1. 質量減少率は L/c2=4.2×109kgs−1,水素消費率は L/(ηc2)=6.0×1011kgs−1 となる.

  2. 時間は t=MHηc2/L=2.3×1017s=7.3×109yr.質量減少率を消費率とすると時間を 1/η 倍,約140倍長く見積もる.L/c2 の単位は質量毎時間であり,η→0 では同じ光を出すための消費率が増すことも確かめられる.一定の L と光への全変換を仮定した見積もりである.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

半径 R=r0A1/3 の球形核を液滴として考えます.核子1個につき av だけ結合が強まり,表面積あたり σ だけ結合が弱まるとします.一様な電荷 Ze の球の静電エネルギーを UC=3ke(Ze)2/(5R) と与え,結合から差し引きます.av=15.5MeV,r0=1.20fm,kee2=1.44MeVfm,as=4πr02σ=17.0MeV です.

  1. B=avA−asA2/3−acZ2A−1/3 の形を導き,ac を求めてください.

  2. Z=A/2 に限り,A を連続量として b=B/A が最大となる A と b を求めてください.自己相互作用を除く Z(Z−1) を Z2 で近似した相対的な違いも,求めた A で見積もってください.

半径R,総電荷Zeの球形核.内部の核子と表面近くの核子を区別した模式図. 半径R,総電荷Zeの球形核.内部の核子と表面近くの核子を区別した模式図.
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考え方 核子数,表面積,電気的な損失は質量数への依存が異なる.核子1個あたりに直して極値を求める.

  1. 体積項は avA,表面の損失は 4πR2σ=asA2/3.電気的な損失は UC=(3kee2/(5r0))Z2A−1/3 なので,よって指定の形になり,ac=3kee2/(5r0)=0.720MeV である.

  2. b=av−asA−1/3−(ac/4)A2/3 より dbdA=A−4/3(as/3−acA/6).微分が正から負になる A∗=2as/ac=47.2 で最大となり,b∗=15.5−17.0A∗−1/3−0.180A∗2/3=8.45MeV である.Z2 を基準にした補正の割合は 1/Z=2/A∗=0.0424,約4.2 %となる.近似には 1/Z が十分小さいことが必要である.小さい核では表面項,大きい核ではクーロン項が効くが,整数条件と陽子・中性子比の効果は省いており,実際の核種までは決まらない.

ポイント 教える人へ

  • 原子質量か核質量か,電子数まで確認させます.

  • Q と外から供給するエネルギーの符号の違いを説明させます.

  • 測定と模型が両立することと,模型が証明されたことを区別します.

  • 液滴模型の3項と,連続量・一様電荷の近似の限界を問います.