問いしるべ
問いから始める物理 ゆらぎと拡散(発展)

ゆらぎと拡散(発展)

ブラウン運動とランダムウォークの演習

著者:柚木芹香

平均変位,平均2乗変位,分散を区別してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

歩幅 l=0.30μm の粒が,原点から独立に左右へ等確率で進みます.

  1. 64歩後の平均変位,平均2乗変位,その平方根を求めてください.

  2. 進んだ道のりを求め,(1)との違いを説明してください.

直線上を6歩往復する一例を,上から順に段をずらして描いた.各矢印の長さは歩幅 l である.道のりはすべての歩幅の和で,変位 x は出発点から終点までの符号付きの差である.問題の64歩でも,同じ区別を用いる. 直線上を6歩往復する一例を,上から順に段をずらして描いた.各矢印の長さは歩幅 l である.道のりはすべての歩幅の和で,変位 x は出発点から終点までの符号付きの差である.問題の64歩でも,同じ区別を用いる.
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考え方 変位は逆向きの歩で相殺されるが,道のりは歩幅を足す.

  1. 1歩の平均が0なので ⟨x⟩=0.独立な歩の分散を足すと ⟨x2⟩=64l2≈5.8μm2,平方根は 8l=2.4μm である.

  2. 道のりは 64l≈19μm.2乗平均平方根は広がりの目安で,各粒の到達距離ではない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

歩幅 l の粒が,原点から独立に左右へ等確率で6歩進みます.

  1. 原点に戻る確率を求めてください.

  2. 独立な M 個の粒の最終位置の平均を x¯ とします.その標準偏差を l/5 以下にするための最小の M を求めてください.

上段は6歩後に可能な7つの位置で,棒の高さと数は64通りの歩みの内訳 1,6,15,20,15,6,1 を表す.下段は独立な複数の粒の終点と,それらを平均した位置 x̄ の例である.標本平均は必ず原点になるわけではなく,終点の格子の間にもなりうる. 上段は6歩後に可能な7つの位置で,棒の高さと数は64通りの歩みの内訳 1,6,15,20,15,6,1 を表す.下段は独立な複数の粒の終点と,それらを平均した位置 x̄ の例である.標本平均は必ず原点になるわけではなく,終点の格子の間にもなりうる.
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考え方 平均の分散は,独立な和の分散を個数の2乗で割る.

  1. 右へ k 回進むと x=(2k−6)l.原点は k=3 なので確率は (63)/26=5/16.

  2. 各粒の分散は 6l2,独立な和の分散は 6Ml2.したがって平均の標準偏差は l6/M であり,6/M≤1/25 より最小は150個である.標準偏差は和では M 倍,平均では 1/M 倍となる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

温度 T,粘性率 η の液体中で,半径 a,密度 ρ の球形の粒が熱平衡にあります.ストークスの法則が成り立ちます.

  1. 質量 m と,等分配則から速さの2乗平均平方根を求めてください.

  2. T,η,ρ を保って半径を半分にすると,速さと同じ時間の1方向の広がりは何倍になるでしょうか.

同じ温度 T,液体の粘性率 η,粒の密度 ρ で,半径 a と a/2 の球を比べる.上段の青い矢印は瞬間の速度の一例で,その向きと大きさはゆらぐ.下段は同じ長い時間 t の1方向の終点の散らばりで,原点から片側への寸法線は広がり √⟨x²⟩ の目安を示す.瞬間の速さと長時間の広がりを区別する. 同じ温度 T,液体の粘性率 η,粒の密度 ρ で,半径 a と a/2 の球を比べる.上段の青い矢印は瞬間の速度の一例で,その向きと大きさはゆらぐ.下段は同じ長い時間 t の1方向の終点の散らばりで,原点から片側への寸法線は広がり √⟨x²⟩ の目安を示す.瞬間の速さと長時間の広がりを区別する.
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考え方 速さは質量,長時間の広がりは移動度で決まる.

  1. m=4πρa3/3.等分配則 m⟨v2⟩/2=3kBT/2 より ⟨v2⟩=3kBT/m.これは平均の速さ v¯ とは異なる.

  2. 質量は 1/8 倍なので速さは 22 倍.μm=1/(6πηa) は2倍となり,⟨x2⟩=2μmkBTt も2倍,広がりの平方根は 2 倍である.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

静かな液体中の粒の1方向の位置を時間間隔 Δt で記録したものをA,その4枚ごとを残したものをBとします.間隔はどちらも速度の記憶が消える時間より十分長く,測定誤差は無視します.

  1. 記録間の平均2乗変位と,推定する D を比較してください.

  2. 同じ時間の記録点を結ぶ道のりと見かけの速度に,間引きが与える影響を説明してください.

青いAは間隔 Δt ごとの1方向の位置 x の記録で,橙色のBはAの点を4区間ごとに残して結んだもの.共通の点を橙色の輪で示した.道のりは各区間の |Δx| の和であり,時間軸を含む図上の折れ線の長さではない.Bは記録点の間の往復を省く. 青いAは間隔 Δt ごとの1方向の位置 x の記録で,橙色のBはAの点を4区間ごとに残して結んだもの.共通の点を橙色の輪で示した.道のりは各区間の |Δx| の和であり,時間軸を含む図上の折れ線の長さではない.Bは記録点の間の往復を省く.
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考え方 平均2乗変位は時間に比例する.折れ線では間の往復を省く.

  1. ⟨(Δx)2⟩=2DΔt より,Bの値はAの4倍.時間間隔も4倍なので,両者の D は等しい.

  2. 三角不等式から,Bの道のりはA以下である.Bの変位の2乗平均平方根は2倍なので,見かけの速度の2乗平均平方根は半分になる.記録間の往復は省かれ,この速度は瞬間の速さではない.速度の記憶が残る短時間では,拡散の式も使えない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

各歩が独立で,右へ l 進む確率が 3/5,左へ進む確率が 2/5 の歩行を考えます.原点から100歩進み,l=0.50μm とします.

  1. 1歩の変位 s の平均と分散から,最終位置の平均と分散を求めてください.

  2. 2乗平均平方根と標準偏差を求め,⟨x2⟩=Nl2 を使えない理由を説明してください.

1歩で右へ l 進む確率は3/5,左へ l 進む確率は2/5である.100歩後の終点分布の中心 ⟨x⟩ は原点Oより右に移る.標準偏差 σ_x は分布の中心を基準にした幅で,原点を基準にした2乗平均平方根とは異なる.⟨x²⟩ は分散と平均の2乗の和になる. 1歩で右へ l 進む確率は3/5,左へ l 進む確率は2/5である.100歩後の終点分布の中心 ⟨x⟩ は原点Oより右に移る.標準偏差 σ_x は分布の中心を基準にした幅で,原点を基準にした2乗平均平方根とは異なる.⟨x²⟩ は分散と平均の2乗の和になる.
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考え方 分散を足し,平均の2乗を戻す.

  1. ⟨s⟩=l/5,⟨s2⟩=l2 より,1歩の分散は 24l2/25.したがって ⟨x⟩=20l=10μm,分散は 96l2=24μm2.

  2. ⟨x2⟩=⟨x⟩2+96l2=496l2.2乗平均平方根は 496l≈11μm,標準偏差は 96l≈4.9μm.異なる歩でも ⟨sisj⟩=⟨si⟩⟨sj⟩=(l/5)2 で0ではない.独立性だけでは交差項は消えない.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

ペランにならい,半径 a=0.40μm の球を,T=300K,η=1.0×10−3Pas の液体中で観測します.4.0秒間の平面内の変位の模擬データ ⟨x2+y2⟩=8.8μm2 を得ました.運動は等方的で,流れと測定誤差は無視します.気体定数は 8.31Jmol−1K−1 です.

  1. 1方向の値に直し,kB とアボガドロ数 NA を推定してください.

  2. 式に半径の代わりに直径を入れると,推定値は何倍になるでしょうか.

左は観測面の x 軸と y 軸,出発点Oから終点への1粒の変位の例である.点線で変位の成分 x,y を示す.問題の ⟨x²+y²⟩=8.8 μm² は多数の粒の平均で,この1粒の値ではない.右は中心から表面までの半径 a と,全幅の直径 2a を示す. 左は観測面の x 軸と y 軸,出発点Oから終点への1粒の変位の例である.点線で変位の成分 x,y を示す.問題の ⟨x²+y²⟩=8.8 μm² は多数の粒の平均で,この1粒の値ではない.右は中心から表面までの半径 a と,全幅の直径 2a を示す.
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考え方 成分を分け,移動度をアインシュタインの関係に入れる.

  1. 等方性より ⟨x2⟩=4.4×10−12m2.μm=1/(6πηa) なので

kB=3πηa⟨x2⟩Tt≈1.4×10−23JK−1

である.気体定数 NAkB を丸める前の kB で割ると NA≈6.0×1023mol−1 を得る.

  1. kB は a に比例し,NA は反比例する.直径を入れると kB は2倍,NA は半分となる.

ポイント 教える人へ

  • 「平均変位0なら静止か」と問い,道のりと広がりを区別させる.

  • 標準偏差を足すつまずきには,和と平均の分散を計算させる.

  • 観測の間隔で見かけの速度が変わる理由を説明させる.

  • 偏りの交差項と,平面の測定値を2で割る理由で理解を確かめる.