問いしるべ
問いから始める物理 ボルツマン分布と等分配則(発展)

ボルツマン分布と等分配則(発展)

指数関数・対数とガウス積分

著者:柚木芹香

ボルツマン因子を数で使うには,指数関数と対数,釣鐘形の関数の積分,そして分布を別の変数に書き直すときの数え方が必要です.この3つを道具として整えます.

定理 数学の道具:指数関数と対数

eaeb=ea+b,ln⁡(xy)=ln⁡x+ln⁡y,ddxe−ax=−ae−ax.微分方程式

dydx=−ay⟹y=y0e−ax

である.この解は「同じ幅だけ x が進むと,同じ割合で y が減る」ことを表す.1/e 倍になる幅は 1/a,半分になる幅は ln⁡2/a≈0.693/a である.

両辺の対数をとると ln⁡y=ln⁡y0−ax で,縦軸を対数目盛りにしたグラフ(片対数グラフ)では直線になる.傾きから a を読み取れるので,指数関数的に減っているかどうかの確かめにも使える.

温度250 Kの等温大気で,地上の気圧p₀を1.0×10⁵ Paとしたp=p₀exp(−h/H)を描く.通常目盛りでは指数関数の曲線となり,対数目盛りでは直線となる.スケールハイトHは約7.3 kmである. 温度250 Kの等温大気で,地上の気圧p₀を1.0×10⁵ Paとしたp=p₀exp(−h/H)を描く.通常目盛りでは指数関数の曲線となり,対数目盛りでは直線となる.スケールハイトHは約7.3 kmである.

定理 数学の道具:ガウス積分

a>0 として

∫−∞∞e−ax2dx=πa,∫−∞∞x2e−ax2dx=12aπa

である.2つめは,1つめの両辺を a で微分して符号を変えれば得られる(∂∂ae−ax2=−x2e−ax2).

速さの計算には,半区間の積分 Ij=∫0∞vje−av2dv が便利である.部分積分から

Ij+2=j+12aIj,I0=12πa,I1=12a

なので,I2=14πa3,I3=12a2,I4=38πa5 と順に出る.

2つの積分の比をとると,e−ax2 に比例する分布での2乗の平均が

⟨x2⟩=12a

だと分かります.これが等分配則の計算の中身です.

ポイント 数学の道具:分布を別の変数に書き直す

確率は区間ごとに保たれるので,変数 x で測った確率密度 Px と,別の変数 y で測った Py は

Pydy=Pxdx,すなわちPy=Px|dxdy|

で結ばれる.密度そのものではなく,区間に入る確率が等しいという点が要である.いくつかの状態をまとめるときも同じで,まとめた分の数を掛ける.速度ベクトルの分布から速さの分布を作るときは,速さが v と v+dv の間にある速度ベクトルの集まり(速度空間の半径 v,厚さ dv の球殻,体積 4πv2dv)の大きさを掛ける.この因子が前の節の「状態の数」である.

速度の各成分の分布が exp⁡(−mvx2/2kBT) に比例する釣鐘形で,3成分が独立であることから,速度ベクトルの分布は exp⁡(−mv2/2kBT) に比例します.これに球殻の因子を掛けて規格化すると,速さの分布が決まります.

定義 マクスウェル分布

速さが v と v+dv の間にある分子の割合は

f(v)dv=4π(m2πkBT)3/2v2exp⁡(−mv22kBT)dv

である.小さい v では v2 が効いて 0 から立ち上がり,大きい v では指数関数が効いて落ちるので,途中に山ができる.

[図:温度で変わる窒素分子の速さの分布]

初期状態では窒素の300 Kと1200 Kの分布f(v)を重ね,1200 Kのv_mp,〈v〉,v_rmsの位置を縦線で示す.高温ほど山が低く速い側へ広がる.スライダーで比較する温度を変えると,分布と3つの代表速度がともに移る.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

速度の x 成分の分布が exp(−mvx2/2kBT) に比例するとき,⟨vx⟩ と ⟨12mvx2⟩ を求めよ.また,ばね定数 k のばねにつながれた分子の位置の分布が exp(−kx2/2kBT) に比例するとき,⟨12kx2⟩ を求めよ.

解答を見る

考え方 ガウス積分の比で平均を出す.a が何であっても結果が同じになることに注目する.

分布が偶関数なので ⟨vx⟩=0.a=m/(2kBT) とおくと ⟨vx2⟩=12a=kBTm なので

⟨12mvx2⟩=12m⋅kBTm=12kBT

である.ばねでは a=k/(2kBT) で ⟨x2⟩=kBT/k なので,同じく ⟨12kx2⟩=12kBT.エネルギーが変数の2乗の形で入っていれば,係数が何であれ平均は 12kBT になる.これが次の題材の等分配則である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

マクスウェル分布 f(v)∝v2e−av2(a=m/(2kBT))について,(1) 規格化の定数が 4π(a/π)3/2 になることを確かめ,(2) 最確速さ vmp,(3) ⟨v⟩ と vrms を求めよ.

マクスウェル分布の曲線にv_mp,〈v〉,v_rmsの3本の縦線を引く.横軸をv/v_mpで表すと位置は1,約1.13,約1.22であり,速い側に裾があるためこの順に大きくなる. マクスウェル分布の曲線にv_mp,〈v〉,v_rmsの3本の縦線を引く.横軸をv/v_mpで表すと位置は1,約1.13,約1.22であり,速い側に裾があるためこの順に大きくなる.
解答を見る

考え方 Ij の漸化式をそのまま使う.平均は Ij の比で出る.

  1. ∫0∞4πCv2e−av2dv=4πCI2=πCπ/a3=1 より C=(a/π)3/2.a=m/(2kBT) を入れると C=(m2πkBT)3/2 で,上の式と一致する.

  2. ddv(v2e−av2)=2v(1−av2)e−av2=0 より vmp=1/a=2kBT/m.

  3. ⟨v⟩=I3I2=1/(2a2)14π/a3=2πa=8kBTπm,⟨v2⟩=I4I2=32a=3kBTm より vrms=3kBT/m.比は 1:4/π:3/2=1:1.13:1.22 で,分布に裾があるのでこの順に大きくなる.どれも kBT/m の定数倍なので,温度が上がると分布は右へ広がり,面積が一定のまま山は低くなる.

ポイント ここまでのまとめ

  • dydx=−ay の解は y0e−ax.1/e 倍の幅は 1/a,半分になる幅は ln⁡2/a.片対数グラフで直線になる.

  • ガウス積分と漸化式 Ij+2=j+12aIj で,分布の平均はすべて比として計算できる.e−ax2 に比例する分布では ⟨x2⟩=1/(2a).

  • 分布を別の変数に書き直すときは Pydy=Pxdx.まとめた状態の数(速さなら球殻の 4πv2)を掛けるのを忘れない.

  • マクスウェル分布の代表的な速さは vmp:⟨v⟩:vrms=1:1.13:1.22.どれも kBT/m の定数倍である.