問いしるべ
問いから始める物理 運動量と質点系

運動量と質点系

重心の求め方

著者:柚木芹香

重心の定義は質量で重みを付けた平均です.この節では,和の記号と加重平均の扱いに慣れ,対称性や分割を使って,積分をしなくても重心を求める方法を身に付けます.

定理 数学の道具:和の記号と加重平均

和の記号 ∑i=1nai=a1+a2+⋯+an.定数倍と和は外に出せる.

∑i(cai+bi)=c∑iai+∑ibi

加重平均 重み wi(正の数)をつけた値 xi の加重平均は x¯=∑wixi∑wi.重心は,重みが質量で値が位置の加重平均で,各成分に対して別々に計算する.

重心のまわりの和 重心からの位置を ri′=ri−rG とおくと,∑miri′=∑miri−MrG=0.重心を原点にとれば,質量で重みを付けた位置の和は0になる.

重心を求める3つの工夫

  • 対称性:質量の分布が対称軸(面)に関して対称なら,重心はその軸(面)上にある.密度が一様な物体なら,外形が対称であれば十分.一様な棒の重心は中点.

  • 分割:物体をいくつかの部分に分け,各部分の重心に部分の質量が集まっているとして,もう一度加重平均をとる.

  • 穴あき:穴の部分を「負の質量」と見なして,全体との差を加重平均に入れる.

三角形の重心 一様な三角形を,辺 BC に平行な細い短冊に分ける.各短冊の重心は中点で,その点は頂点と対辺の中点を結ぶ中線上にある.分割の工夫から,三角形の重心は中線上にある.頂点を rA,rB,rC とすると,BC の中点は rM=rB+rC2.点

rG=rA+rB+rC3=rA+2rM3

は,A と M を結ぶ線分を 2:1 に内分し,A,B,C について対称だから3本の中線すべての上にある.中線の交点は1つなので,これが重心である.

練習.

  1. 質量 1kg と 3kg の質点が x=0 と x=8m にあるときの重心の位置を求めよ.

  2. 質量 2,1,1kg の質点が (0,0),(6,0),(0,6)(単位 m)にあるときの重心を求めよ.

  3. 長さ 2.0m,質量 1.0kg の一様な棒を x=0 から x=2.0m まで置き,x=2.0m の端に質量 3.0kg の小球をつけた.全体の重心を求めよ.

  4. 一辺 4 の一様な正方形の板(頂点 (0,0),(4,0),(4,4),(0,4))から,一辺 2 の正方形(頂点 (0,0),(2,0),(2,2),(0,2))を切り取った.残りの板の重心を,穴を負の質量とみなして求めよ.

  5. 頂点が (0,0),(6,0),(0,3)(単位 m)の一様な三角形の板の重心を求めよ.

答え:(1) xG=1⋅0+3⋅84=6m.重いほうに近い. (2) M=4,xG=2⋅0+1⋅6+1⋅04=1.5,yG=0+0+64=1.5.よって (1.5, 1.5)m. (3) 棒の重心は中点 x=1.0m なので xG=1.0×1.0+3.0×2.04.0=1.75m. (4) 質量を面積に比例させると,板全体は 16(重心 (2,2)),穴は −4(重心 (1,1)).xG=16×2−4×116−4=73,対称性から yG=73.重心は (73, 73) で,穴と反対側へずれる. (5) 頂点の位置の平均で (0+6+03, 0+0+33)=(2, 1)m.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

地球の質量は月の質量の約81倍,地球の中心と月の中心の距離は 3.84×105km である.地球と月を2つの質点と見なす.

地球と月の中心を結ぶ配置図.求める重心の位置は示さない. 地球と月の中心を結ぶ配置図.求める重心の位置は示さない.
  1. 地球の中心から測った,地球と月の重心までの距離を求めよ.

  2. 地球の半径 6.4×103km と比べて,重心は地球の内側か外側か.

解答を見る

考え方 地球の中心を原点とする.地球の質量を 81m,月の質量を m とおく.

  1. 月の位置を x=D=3.84×105km として

xG=81m⋅0+m⋅D82m=D82≈4.7×103km
  1. 4.7×103<6.4×103 なので,重心は地球の内側にある.地球と月は,この共通の重心のまわりを回っており,地球の中心も重心のまわりで小さく動いている.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな氷の上に,質量 180kg,長さ 6.0m の一様な板が静止している.板の左端に,質量 60kg の人が立っている.人が板の上を右端まで歩いたとき,氷に対して,板と人はそれぞれ何 m 動くか.右向きを正とする.

氷上の板の左端に人が立つ図と,右端に着いた図を上下に並べて描く.板の長さを表す記号だけ書き,求める変位は描かない. 氷上の板の左端に人が立つ図と,右端に着いた図を上下に並べて描く.板の長さを表す記号だけ書き,求める変位は描かない.
解答を見る

考え方 水平方向の外力はないので,人と板の重心は動かない.板の変位を X,人の変位を x とする.

重心が動かないので 60x+180X=0,つまり x=−3X.人は板に対して 6.0m 右へ進んだので,x−X=6.0.代入して −4X=6.0,よって

X=−1.5m,x=+4.5m

である.板は左へ 1.5m,人は右へ 4.5m 動く.変位の比は質量の逆比 3:1 になっている.人が走っても歩いても結果は同じである.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

厚さが一様で半径 R の円板から,中心Oから R/2 だけ離れた点を中心とする半径 R/2 の円を切り抜いた.残った板の重心は,Oからどちら向きにいくら離れた位置にあるか.

半径Rの円板と,その内側に接する半径R/2の円形の穴を描く.中心Oと穴の中心を通る直線を引く.求める重心の位置は描かない. 半径Rの円板と,その内側に接する半径R/2の円形の穴を描く.中心Oと穴の中心を通る直線を引く.求める重心の位置は描かない.
解答を見る

考え方 切り抜く前の円板(重心はO)を,「残った板」と「切り抜いた円」の2つに分けて考える.質量は面積に比例する.

面積比は,元の円板 πR2,切り抜いた円 π(R/2)2=14πR2,残った板 34πR2.穴の中心の方向を x 軸の正の向きとする.残った板の重心を x0 とすると,円板全体の重心がOであることから

34x0+14⋅R2=0

を得る.よって x0=−R6.重心は,Oから穴と反対向きに R/6 だけ離れた位置にある.

ポイント ここまでのまとめ

  • 加重平均 x¯=∑wixi/∑wi で,重心は成分ごとに計算する.重心まわりの ∑miri′ は 0.

  • 対称性,分割,穴あき(負の質量)を使えば,積分なしで重心が求まる.三角形の重心は (rA+rB+rC)/3.

  • 水平方向の外力が無く,初め水平方向に静止していれば,重心の水平方向の位置は動かない.人と板の変位の比は質量の逆比.