問いしるべ
問いから始める物理 非慣性系

非慣性系

第11章の発展問題

著者:柚木芹香

★4・★5の発展問題で,拘束力の仕事,平衡の安定性,重力場の近似まで踏み込みます.座標系と近似の次数を選び,非慣性系で立てた式が何を予測するか確かめてください.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

水平な滑らかな細い管を,一端Oを通る鉛直軸のまわりに一定角速度 ω>0 で反時計回りに回す.質量 m のビーズを,Oから距離 r0>0 で管に対して静かに放す.管の長さは L>r0 である.

  1. 軸からの距離 r(t),管に対する速さ,出口へ達する時間を求めよ.

  2. 管がビーズへ及ぼす水平な横力を求めよ.

  3. 出口へ達するまでに,回転を維持する装置がビーズへ供給する仕事を求めよ.

回転管の初期条件.図中の記号と条件は「O」「m」「r₀」「L」「ω」である. 回転管の初期条件.図中の記号と条件は「O」「m」「r₀」「L」「ω」である.
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考え方 管方向の運動は遠心力で決まり,横方向の拘束はコリオリ力と管の力のつり合いで決まる.装置の仕事は地上の速度を使って計算する.

  1. 回転系では mr¨=mω2r.初期条件 r(0)=r0,r˙(0)=0 を満たす解は r=r0(eωt+e−ωt)/2.微分して r˙=ωr0(eωt−e−ωt)/2,また r˙2=ω2(r2−r02) である.r=L を解くと

tL=1ωln⁡L+L2−r02r0,vL′=ωL2−r02

となる.r0→0 では,静止から出発する出口到達時間は発散する.軸上に厳密に静止する初期条件では,理想模型のビーズは動き出さない.

  1. 外向き速度 r˙ に対するコリオリ力は回転と逆向きに 2mωr˙.管内では横の相対加速度が0なので,管は回転方向へ Nθ=2mωr˙ を及ぼす.鉛直方向には別に重力を支える抗力 mg がある.横力が0ならビーズは管の方向を保てない.

  2. 地上での接線速度は ωr である.仕事率は P=Nθωr=2mω2rr˙ なので W=mω2(L2−r02).地上の運動エネルギーは K=m(r˙2+ω2r2)/2 で,その増加も同じ値になる.回転系では管の横力は相対速度に垂直で仕事をせず,mr˙2/2−mω2r2/2 が一定である.二つのエネルギー収支は,異なる系での仕事を扱っている.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

質量 M のくさびを滑らかな水平床上に置く.右下がりの滑らかな斜面は水平と角 α(0<α<π/2) をなす.質量 m の物体を静かに放し,全体は初め静止している.くさびは回転しない.

  1. くさびの系を用い,くさびの右向き加速度 A,物体の斜面下向き相対加速度 as′,垂直抗力 N を求めよ.

  2. 物体が高さ h だけ下がるまでの,くさびの変位と物体の相対速度を求めよ.

自由に動くくさび.図中の記号と条件は「m」「α」「M」「h」である. 自由に動くくさび.図中の記号と条件は「m」「α」「M」「h」である.
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考え方 くさびの加速度は未知でも,慣性力を −mA と置いて連立できる.くさびには物体から抗力の反作用が働く.

  1. くさび内では as′=gsin⁡α−Acos⁡α,N=m(gcos⁡α+Asin⁡α).くさびの地上での水平運動は MA=−Nsin⁡α なので,D=M+msin2⁡α と置くと

A=−mgsin⁡αcos⁡αD,N=mMgcos⁡αD,as′=(M+m)gsin⁡αD

である.A<0 でくさびは左へ動き,N>0 で接触を保つ.くさび上で物体が受ける慣性力は右向きとなり,相対的な滑りを速める.

  1. 相対距離は s=h/sin⁡α.一定加速度だから vs′=2as′s=2gh(M+m)/D.同じ時間にくさびは X=At2/2=(A/as′)s=−mhcos⁡α/{(M+m)sin⁡α} だけ動く.これを (M+m)X+mscos⁡α=0 に代入すれば,水平重心が動かないことも確かめられる.くさび固定の極限 M→∞ で A→0,vs′→2gh となる.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

地球の扁平な形の程度を,中心に集中した質量 M のまわりに薄い流体表面がある模型で見積もる.流体自身が重力場を変える効果を無視し,角速度 ω で剛体回転する.極半径を R,赤道半径を R+ΔR とし,ΔR/R は十分小さい.

  1. 極と赤道の有効ポテンシャルを等置し,扁平率 ε=ΔR/(R+ΔR) の先頭の近似を求めよ.

  2. g0=GM/R2=9.8ms−2,R=6.38×106m,ω=7.29×10−5rads−1 で評価せよ.この模型で実際の地球の扁平率を精密に求められない理由を述べよ.

中心質量模型の極と赤道.図中の記号と条件は「自転軸」「R」「R+ΔR」「変形を誇張した模式図」である. 中心質量模型の極と赤道.図中の記号と条件は「自転軸」「R」「R+ΔR」「変形を誇張した模式図」である.
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考え方 静止した流体の自由表面は,重力と遠心力を足した有効ポテンシャルの等しい面である.小さな変形と自転の効果の積は高次として捨てる.

  1. 単位質量当たりで,極は −GM/R,赤道は −GM/(R+ΔR)−ω2(R+ΔR)2/2.両者を等しくし,1/(R+ΔR)≈1/R−ΔR/R2 を使う.自転項の ω2RΔR は高次なので,GMΔR/R2=ω2R2/2.よって ε≈ΔR/R=ω2R/(2g0) である.

  2. ε≈1.73×10−3,およそ 1/580.ΔR≈1.10×104m である.実際には地球内部にも質量が広がり,変形した質量分布そのものが重力ポテンシャルを変える.ここではそれを中心質点の場で置き換えたため,見積もれるのは回転による変形の尺度である.さらに物質の密度分布や固体としての性質も指定していないので,この数字を精密な地球形状の予測と解釈してはいけない.

演習 4

オリジナル ★★★★★

鉛直軸上の支点につないだ長さ ℓ の軽い剛体棒の先に,質量 m の球を付ける.球は滑らかな案内によって,軸を含み角速度 ω で回る鉛直平面内だけを動ける.鉛直下向きからの角を符号付きの θ とする.棒は押す力も伝える.

  1. 回転系での有効ポテンシャルと θ の運動方程式を求めよ.

  2. 下半分 |θ|<π/2 の平衡と安定性を求めよ.

  3. 安定平衡のまわりの微小振動の角振動数を求め,ω2ℓ=g の境界では線形近似だけで何が分からないか述べよ.

回転平面内の振り子.図中の記号と条件は「ℓ」「θ」「ω」「滑らかな案内平面が鉛直軸のまわりに回る」である. 回転平面内の振り子.図中の記号と条件は「ℓ」「θ」「ω」「滑らかな案内平面が鉛直軸のまわりに回る」である.
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考え方 コリオリ力は案内平面の外を向き,案内の反力が受け持つ.角度方向の運動には重力と遠心力のポテンシャルを使える.

  1. 高さは −ℓcos⁡θ,軸からの距離は ℓ|sin⁡θ| なので

U(θ)=−mgℓcos⁡θ−12mω2ℓ2sin2⁡θ

である.相対運動のエネルギーは mℓ2θ˙2/2+U.したがって θ¨=sin⁡θ(ω2cos⁡θ−g/ℓ) となる.回転する案内があるため,拘束のない球面振り子とは運動の自由度が異なる.

  1. 平衡は θ=0 と,存在すれば cos⁡θ0=g/(ω2ℓ) を満たす二つの ±θ0 である.U″(0)=mℓ(g−ω2ℓ) より,g>ω2ℓ なら最下点が安定,ω2ℓ>g なら不安定.非零平衡では U″(θ0)=mω2ℓ2sin2⁡θ0>0 なので安定である.

  2. 最下点では ν=g/ℓ−ω2.非零平衡では ν=ω|sin⁡θ0|.境界では二次の項が消え,ν=0 となるだけでは安定性を判定できない.四次まで展開すると U(θ)−U(0)=mgℓθ4/8+高次の項 で正だから,最下点は依然として局所的な安定平衡である.ただし復元力の先頭は θ¨≈−gθ3/(2ℓ) で,振動は単振動ではなく周期は振幅に依存する.

演習 5

オリジナル ★★★★★

質量 M と μM(0<μ<1) の二天体が,間隔 a を保って円運動する.ここで μ は1より十分小さいとする.重心を原点とし,二天体とともに角速度 n=GM(1+μ)/a3 で回る平面座標 (x′,y′) を使う.大天体は x1=−aμ/(1+μ),小天体は x2=a/(1+μ) にある.試験粒子の質量は両天体へ影響しないほど小さい.

  1. 単位質量当たりの有効ポテンシャルを書き,二つの三角形型ラグランジュ点の位置を求めよ.

  2. 小天体に近い内側と外側の共線型ラグランジュ点について,小天体からの距離の先頭の近似を求めよ.

  3. 三角形型の点の線形安定条件を求めよ.計算のため η=μ/(1+μ) と置いてよい.

二天体と試験粒子の配置.図中の記号と条件は「x'」「y'」「M」「μM」「O」「P」「d₁」「d₂」「a」である. 二天体と試験粒子の配置.図中の記号と条件は「x'」「y'」「M」「μM」「O」「P」「d₁」「d₂」「a」である.
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考え方 回転系で静止する点ではコリオリ力は0で,ポテンシャルの勾配が0となる.安定性では速度が生じるため,コリオリ力を戻して調べる.

  1. di=(x′−xi)2+(y′)2 として

Φ=−GMd1−GμMd2−12n2{(x′)2+(y′)2}

である.y′≠0 の停留点では GM/d13+GμM/d23=n2.これを x′ 方向の式と組み合わせると GMx1/d13+GμMx2/d23=0.x1=−μx2 より d1=d2,さらに d1=d2=a となる.したがって

x′=a(1−μ)2(1+μ),y′=±3a2

が二つの三角形型の点である.

  1. 小天体からの符号付き変位を s=x′−x2 とする.大天体の重力と遠心力の和は s=0 で0であり,1次までで (2GM/a3+n2)s≈3n2s.小天体の引力を加えると 0≈3n2s−GμMs/|s|3.よって内外とも距離は d=|s|≈a(μ/3)1/3.内側は x′=x2−d,外側は x′=x2+d である.d/a が小さいため展開が整合し,両距離が等しいのは先頭の近似までである.

  2. 微小変位を (ξ,υ) とし,Hij=∂i∂jΦ を平衡点で評価する.上側の点では

Hxx=−34n2,Hyy=−94n2,Hxy=−334n2(1−2η)

である.下側では交差項の符号だけが変わる.線形方程式は ξ¨−2nυ˙=−Hxxξ−Hxyυ,υ¨+2nξ˙=−Hxyξ−Hyyυ.est 型の解を代入した行列式から

s4+n2s2+274n4η(1−η)=0

を得る.二つの s2 が相異なる負の実数となる条件は 27η(1−η)<1.質量比では μ/(1+μ)2<1/27 であり,この範囲で線形摂動は有界な振動となる.等号では重根となるため安定な範囲には含めない.ポテンシャルの極小条件だけでは,速度に依存するコリオリ力を含む安定性を判定できない.