問いしるべ
問いから始める物理 非慣性系

非慣性系

第11章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,加速や回転をする座標系では運動方程式 ma=F がそのままでは成り立たないことを出発点に,「見かけの力」を加えて同じ形に戻す方法を学びました.ここで法則と公式を一覧にし,各題材の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

法則 慣性系と非慣性系

  • 慣性の法則が成り立つ座標系が慣性系で,慣性系に対して等速直線運動をする系も慣性系である(ガリレイ変換).慣性系に対して加速または回転する系が非慣性系で,そこでは ma′=F は成り立たない.

  • 非慣性系の中で測る加速度を a′ と書く.見かけの力を実在の力 F に足せば,運動方程式を非慣性系の中でも使える.見かけの力は,系の運動から決まり,作用・反作用の相手を持たず,慣性系から見れば現れない.

法則 並進慣性力と有効重力

  • 慣性系の位置 r と,向きを変えずに加速度 A で動く(並進する)系の位置 r′ は r=r′+R(t).2回微分して a=a′+A.

  • 運動方程式は ma′=F−mA.慣性力 −mA は系の加速度と逆向きで,質量に比例する.

  • 重力との合力を 有効重力 mg′ とすれば g′=g−A.自由落下する系(A=g)では g′=0 で,重力の場所による違いを無視できる範囲では重力が消える(無重量状態,等価原理の入口).

法則 遠心力

  • 一定の角速度 ω で回る系で,回転軸から距離 r にある質量 m の物体には,軸から外向きに遠心力 mω2r が働く.ベクトルでは −mω×(ω×r′).

  • 遠心力のポテンシャルは −12mω2r2.回る系で静止した液体の自由表面(外圧は一定)は,重力のポテンシャルとの和が一定の面(放物面 z=z0+ω22gr2)になる.

  • 向心力は実在の力の合力につけた名前で,別の力として加えない.遠心力は見かけの力で,慣性系の図には描かず,回る系の図では実在の力と並べて描く.

法則 コリオリ力

  • 回る系で速度 v′ で動く物体には,コリオリ力 −2mω×v′ が働く.速度に垂直で仕事をせず,回る系で止まっている物体には働かない.

  • 回転を上から見て反時計回りなら,水平に動く物体は進行方向の右へ曲げられる.地球の北半球では右向き,大きさ 2mωv′sin⁡λ(λ は緯度)で,南半球では左向き,赤道では水平面内で曲げる成分が0になる(東西に動く物体には鉛直成分が残る).

  • 角速度ベクトルが一定の回転系の運動方程式:ma′=F−mA−2mω×v′+mω2r′(r′ は軸に垂直な成分).角速度が変わる系では,さらにオイラー力 −mω˙×r′ が加わる.

手順

ポイント 非慣性系で問題を解く手順

  1. どの系で考えるかを決める.慣性系で解けるなら無理に非慣性系を使わない.非慣性系では,物体が系に対して止まっている問題が最も使いやすい.

  2. 非慣性系を選んだら,系の加速度 A(並進)か角速度 ω(回転)を読み取り,向きを図に書く.

  3. 物体に働く実在の力をすべて描き,そのうえで見かけの力(慣性力 −mA,遠心力 mω2r,物体が動くならコリオリ力)を別の色で加える.

  4. 同じ力を二度数えない.向心力を,実在の力とは別の力として描き足さない.慣性系の図には遠心力を描かない.

  5. 系の中で運動方程式(またはつり合い)を立て,慣性系の式と答えが一致するかを確かめる.

  6. 見かけの力の大きさを見積もる.地球の自転では,遠心力の加速度は赤道で約 0.034ms−2 である.

主な公式

  • ma′=F−mA,g′=g−A,遠心力 mω2r,滑らない条件 ω≤μg/r

  • 角速度ベクトルが一定の回転系(原点の位置 R,加速度 A)で,v=R˙+v′+ω×r′,a=A+a′+2ω×v′+ω×(ω×r′)

  • フーコーの振り子の面の回転 ωsin⁡λ,落下物の東へのずれ 13ωgcos⁡λt3

各題材の問いへの答え

  • 慣性系と非慣性系:発車する電車のつり革が後ろへ傾くのは,電車の中の人から見れば,後ろ向きの見かけの力(慣性力 −mA)が働くからである.引いている物体は無い.地面から見れば,つり革は加速度 A で前向きに動いていて,張力と重力の合力が mA を与えている.どちらの系でも傾きの角は tan⁡θ=A/g である.

  • 並進慣性力:加速する台車の上では,物体は有効重力 g′=g−A の向きに「落ちる」.g′ の斜面に沿った成分の向きに動き出し,g′ が斜面に垂直になる加速度が境目である.加速度 A の向きに斜面が角 θ で下っているなら,A>gtan⁡θ のとき斜面を上る.問いの斜面(30∘)では gtan⁡30∘≈5.7ms−2 より A=8.0ms−2 が大きいので,上る向きに約 2.0ms−2 で動き出す.

  • 遠心力:硬貨に働く外向きの力は,円盤とともに回る人が運動方程式をそのまま使うために持ち込んだ見かけの力で,実在しない.地面から見れば,硬貨は中心向きの摩擦力で円運動していて,摩擦が足りなくなる ω>μg/r で円盤に対して滑り始め,その瞬間の速度の向き(円の接線方向)へそれていくだけである.

  • コリオリ力:低気圧に向かう風が,北半球ではコリオリ力で進行方向の右へ曲げられ続ける.そのため風は中心へまっすぐ進まず,反時計回りに旋回する.地表付近では摩擦のために,中心側へ吹き込みながら渦を巻く.南半球では左へ曲げられるので時計回りである.洗面台の渦は現象が短く,自転では向きが決まらない.

この章で使った数学

座標変換の2回微分,ベクトルの合成と分解,回転する基底ベクトルの微分,外積の向き(右ねじ),ポテンシャルと偏微分,平面運動の複素数表示がありました.