問いしるべ
問いから始める物理 力学の総合演習

力学の総合演習

観測から運動を組み立てる

著者:柚木芹香

観測値から未知の質量や力を逆算し,結論が測定誤差に耐えるかを調べます.第3章の運動の記述,第5章の運動量,第6章のニュートンダイアグラム,第7章の振動,第9章の外部運動と内部運動を組み合わせてください.

総合演習 1

オリジナル ★★★★☆

ストロボ写真から衝突を復元する

水平な無摩擦面で滑らかな2円盤A,Bが一度だけ衝突しました.半径はいずれも 0.030m,質量は未知です.接触中は中心線方向だけに力積が働き,接触時間は撮影間隔より十分短いとします.接触時を t=0 とする中心座標の測定値は次のとおりです.座標の単位は m,時刻の単位は s です.

t

Aの (x,y)

Bの (x,y)

−0.20

(−0.630,−0.200)

(0.030,0.200)

−0.10

(−0.330,−0.100)

(0.030,0.100)

0.10

(−0.130,0.100)

(0.230,−0.100)

0.20

(−0.230,0.200)

(0.430,−0.200)

  1. 衝突前後の速度,接触時の中心位置,質量比を求めてください.

  2. 重心速度と相対速度を求め,ニュートンダイアグラムで弾性衝突か判定してください.

  3. 各座標には独立に最大 0.001m の読取誤差があります.質量比を別測定で正確に得た場合でも,相対運動エネルギーの1 %の損失をこの写真だけで識別できますか.誤差の上限から検討してください.

問題図.4時刻の観測座標を表示します.衝突の速度や質量比は示しません. 問題図.4時刻の観測座標を表示します.衝突の速度や質量比は示しません.
解答を見る

考え方 等時間隔の変位が速度を与える.次に速度変化の比から質量比を求め,並進する重心を取り除いて衝突の内部運動を調べる.

  1. 各2点の差を 0.10s で割ると,単位 ms−1 で

vA=(3,1),vB=(0,−1),uA=(−1,1),uB=(2,−1)

となる.直線を t=0 まで延長すると中心は (−0.030,0),(0.030,0).中心間距離は直径に一致し,法線は x 方向である.運動量保存は −4mA+2mB=0 より mB=2mA.両者の y 成分が変わらないことも法線力積の仮定と合う.

  1. mA=m と置くと,重心速度は V=(1,−1/3).Aの重心系速度は衝突前 (2,4/3),後 (−2,4/3) で,速さは等しい.速度空間では中心 V,半径 52/3ms−1 の同じ円上にある.Bの半径はその半分で,重心速度の先端を挟んで常に反対側にある.相対速度は (3,2) から (−3,2) となり,その大きさの2乗はともに13.換算質量 2m/3 による内部エネルギー Krel=13m/3m2s−2 は保存し,法線の反発係数も1である.

  2. 1速度成分の誤差上限は 2(0.001)/0.10=0.020ms−1.相対速度の各成分では 0.040ms−1 となる.前後それぞれの速さの2乗は,単位 m2s−2 で

2.962+1.962=12.6032 ≤ w2 ≤ 3.042+2.042=13.4032

という保守的な範囲にある.差の不確かさは最大 0.8000,公称13の約6.2 %で,1 %の散逸は識別できない.実際にも前後の法線相対速度を 3 と −8.87 に変え,運動量を保存するよう両円盤へ分配した1 %損失のデータも誤差内で作れる.公称値がエネルギー保存と一致することと,損失が正確に0だと証明することは異なる.

総合演習 2

APhO 2004 第1問(改題) ★★★★☆

宇宙船そのものも揺れる質量計

質量 m0=12.0kg の計量台をばねで船体に結び,1方向だけに動かします.ばねの質量と摩擦を無視し,測定時間は軌道周期より十分短いとします.船体の質量 M は,台と試料を含めず,試料搭載の前後で変わりません.地上で船体を固定した空台,軌道上の自由な空台,別の容器から試料を搭載した台で,相対変位の周期 Tg,T0,T1 を測りました.測定結果を q=T2/(4π2) で整理すると qg=0.100s2,q0=0.0800s2,q1=0.133333s2 です.

  1. 2物体の運動方程式から相対変位の周期を導き,ばね定数,船体質量,試料質量を求めてください.

  2. 船体を固定とみなして搭載後の周期だけから試料質量を出すと,どれだけ誤りますか.

  3. qg を正確とし,q0 に小さな誤差 δq0 がある場合の船体質量の相対誤差を求め,重い船体での測定の難しさを説明してください.

問題図.船体と台をばねで結び,相対変位を測ります. 問題図.船体と台をばねで結び,相対変位を測ります.
解答を見る

考え方 台の変位だけでなく船体の反動もばねの伸びに寄与する.周期が測る質量は台の質量そのものではなく換算質量である.

  1. 自然長からの伸びを z=x−X−ℓ とすれば mx¨=−kz,MX¨=kz.引いて z¨=−k(1/m+1/M)z だから q=Mm/[k(M+m)].固定時は qg=m0/k より k=120Nm−1.空台から

M=m0q0qg−q0=48.0kg,m=kq1MM−kq1=24.0kg

となり,試料は m−m0=12.0kg.周期は順に約 1.987,1.777,2.294s であり,自由な空台の周期が固定時より短いという予想に合う.kq の次元は質量である.

  1. 固定と誤認すると mwrong=kq1=16.0kg.試料を 4.0kg と推定し,真値より 8.0kg,約67 %小さい.

  2. M=m0q0/(qg−q0) を微分して

δMM≃qgq0(qg−q0)δq0=qgqg−q0δq0q0

を得る.今回の相対誤差の増幅率は5.M→∞ では q0→qg となり,ほとんど等しい2量の差を分母にするため増幅率が発散する.台の質量測定には固定近似がよくなる一方,船体の質量測定は難しくなる.

[図:船体の反動と台の振動]

解答図.初期状態は相対変位が最大です.再生すると全重心を固定した逆向きの運動が分かります.

総合演習 3

オリジナル ★★★★☆

最大空気荷重はどの高度で生じるか

観測機が地上で静止した状態から鉛直に,正味加速度 a=12ms−2 を一定に保って上昇します.g=9.8ms−2,密度の測定模型は ρ(h)=ρ0e−h/H,ρ0=1.1kgm−3,H=6.0km です.抗力は D=CρAv2/2,正面積 A=0.080m2,係数は 0.50≤C≤0.70 とします.排気の機体に対する速さは u=2.2×103ms−1,初期質量は 160kg です.

  1. 抗力が最大になる高度と,そこでの速さ,抗力の範囲を求めてください.抗力に逆らう仕事率が最大になる高度も求めてください.

  2. 質量と推力の方程式を立て,C=0.60 について最大抗力の時刻での質量,推力,燃料流量を数値積分で求めてください.

  3. 推力上限が 5.2kN なら,地上から最大抗力高度まではこの飛び方が可能であることを,係数の全範囲に対して保証できますか.燃料は少なくとも 60kg 積んでいるとします.

問題図.指定された一定加速度の上昇と,推力・重力・抗力の方向を示します. 問題図.指定された一定加速度の上昇と,推力・重力・抗力の方向を示します.
解答を見る

考え方 まず指定された運動から抗力を求め,その運動を実現する推力を逆算する.最大抗力,最大仕事率,最大推力は同じ条件ではない.

  1. v2=2ah より D=Cρ0Aahe−h/H.微分は D′=Cρ0Aae−h/H(1−h/H) なので最大は h=H.そこで v=2aH≃3.8×102ms−1,Dmax=Cρ0AaH/e は 1.2〜1.6kN.Dv は h3/2e−h/H に比例し,対数微分 3/(2h)−1/H=0 から最大高度は 3H/2=9.0km である.C=0.60 の h=H での Dv は 0.53MW.これは抗力に対する機械的仕事率で,エンジンの全出力ではない.

  2. 燃料流量を q=−m˙>0 とすると F=uq,ma=F−mg−D.したがって

m˙+a+gum=−D(t)u,D(t)=Cρ0Aa2t22exp⁡(−at22H).

b=(a+g)/u とおき,積分因子を掛けると

m(t)=e−bt[m0−1u∫0tebsD(s)ds].

tH=2H/a=31.6s まで積分すると m=107.5kg,F=(a+g)m+D=3.74kN,q=F/u=1.70kgs−1.質量を初期値のまま入れると推力を過大評価する.

  1. 質量は単調に減るので,全区間で F≤(a+g)m0+Dmax(C=0.70)=5.12kN<5.2kN.さらに質量式の積分の抗力項は C に比例する.C=0.70 では m(tH)≃105.9kg で消費量は約 54.1kg.燃料も足りる.これは指定区間での十分条件であり,推力が実際に5.12 kNへ達するという意味ではない.C→0 なら質量式は m=m0e−bt に戻り,抗力の有無による差の符号も正しい.

ポイント この節のふり返り

速度の変化から質量比を求め,重心系で衝突の内部エネルギーを調べました.
周期から未知量を読むときには,測っている座標と換算質量を対応させます.
運動を指定した逆問題では,必要な推力と燃料が実現可能かも検査します.
測定値への一致と,誤差を含めた結論の確かさを区別してください.