問いしるべ
問いから始める物理 力学の総合演習

力学の総合演習

接触と拘束が切り替わる運動

著者:柚木芹香

衝突の直前直後と,その後の連続した運動では,使える保存則が変わります.第4章の力,第6章のエネルギー,第7章の振動,第8章の剛体,第9章の外部運動と内部運動をつなぎ,仮定した拘束が本当に保たれるかまで調べてください.

総合演習 4

オリジナル ★★★★☆

転がる車輪は段差を越えられるか

半径 r,質量 m,中心まわりの慣性モーメント I=βmr2 の車輪が,水平面を速さ v で右向きに純転がりし,高さ h=sr(0<s<1) の段差角Pに当たります.短い衝突中には重力の力積を無視し,床から追加の力積は受けず,Pで直ちに滑りが止まる模型とします.その後も滑らずPを支点に回れるものとして,この仮定の成立条件を調べます.衝突の接線力積の上限は法線力積の μJ 倍,衝突後の静止摩擦係数は μ とします.

  1. 衝突後の中心の速さ w0 と失われる運動エネルギーを求めてください.

  2. 角を支点とする乗越えに必要なエネルギー条件と,途中で角から離れない条件を求めてください.等号で有限時間に頂上を通過するかも調べてください.

  3. 必要な力積の比と,衝突後の摩擦条件を求めてください.β=1/2,s=0.10,μJ=0.10,μ=0.50 の場合,許される v/gr の範囲を数値で示してください.

問題図.床で転がる車輪が段差角へ初めて触れた位置です.衝突後の運動は描いていません. 問題図.床で転がる車輪が段差角へ初めて触れた位置です.衝突後の運動は描いていません.
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考え方 衝突中にはPまわりの角運動量を,その後にはエネルギーを使う.最後に力積と接触力が片側接触と摩擦の条件を満たすかを点検する.

  1. 初めの中心とPを結ぶ線が上向き鉛直となす角を θ0 とすると c0=cos⁡θ0=1−s,sin⁡θ0=2s−s2.時計回りのPまわりの角運動量は mvrc0+Iv/r.衝突後は (I+mr2)w0/r だから

w0=Av,A=β+c01+β=1−s1+β,ΔK=12m(1+β)v2(1−A2).

s→0 では A→1,損失は0になる.

  1. 上昇中の角を 0≤θ≤θ0 とすれば,高さの増加は r(cos⁡θ−c0).したがって

w2=w02−2gr1+β(cos⁡θ−c0).

頂上まで達するための境界は w02≥2gh/(1+β).等号では頂上近くで w が θ に比例し,所要時間 ∫rdθ/w が対数発散する.有限時間で乗り越えるには厳密な不等号が要る.Pから中心向きの抗力は N=m(gcos⁡θ−w2/r).上昇中は cos⁡θ が増え,w2 が減るので,N は増える.よって接触維持の条件は w02≤grc0.両条件が両立するには s<(1+β)/(3+β) が必要である.

  1. 初速度を接触点からの半径方向と,上昇する接線方向に分解する.半径成分 −vsin⁡θ0 を0にする力積は Jn=mvsin⁡θ0.接線成分の変化は

Jt=m(w0−vc0)=mvβs1+β,JtJn=βs(1+β)2s−s2.

これが μJ 以下でなければ,仮定した衝突は起きない.その後の接線方向の運動方程式と自転の式は mw˙=−mgsin⁡θ+f,Iw˙/r=−rf.消去して f=mgβsin⁡θ/(1+β).上昇につれて f は減り N は増えるので,摩擦条件も出発直後が最も厳しく,

w02gr≤c0−βsin⁡θ0(1+β)μ

となる.数値では A=14/15,Jt/Jn=0.0765<0.10.摩擦を無視した上限は v/gr≤1.016 だが,摩擦を含めると

0.391<vgr≤0.836

に狭まる.各式は速度を gr で無次元化している.この範囲外で別の滑りや飛行による乗越えが可能かは,ここで解いた支点回転の模型とは別問題である.

総合演習 5

オリジナル ★★★★☆

自由に回る外筒と内筒の微小振動

鉛直面内で回転できる半径 R,慣性モーメント J の外筒があります.その中心軸は固定されていますが,軸の摩擦はありません.内側を半径 r,質量 m,慣性モーメント I=βmr2 の小ドラムが滑らず転がります.中心間距離を d=R−r,下向き鉛直から測った小ドラム中心の角を θ とします.両筒の自転の正方向を反時計回りとし,外筒・内筒の角速度を Ω,ω とします.初めは小さな θ から,すべて静止して放します.

  1. 接点速度の条件と,接線方向の運動方程式を立ててください.

  2. 微小振動の周期を求め,外筒を固定した周期と比較してください.

  3. β=1/2,d=0.24m で,自由時と固定時の周期の2乗比が 8/9 でした.J を求めてください.微小振幅 θa で必要な静止摩擦係数の主要項も求めてください.

問題図.外筒中心は固定されますが,外筒は軸まわりに自由に回ります. 問題図.外筒中心は固定されますが,外筒は軸まわりに自由に回ります.
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考え方 自由な外筒は接触摩擦によって反動する.接点速度の一致を微分し,摩擦を消去すれば,内筒中心の振動を1本の式にできる.

  1. θ が増える向きの接線力を f とする.接点は内筒中心から外側へ距離 r の点にあるから,速度の条件は dθ˙+rω=RΩ.各運動方程式は

mdθ¨=−mgsin⁡θ+f,Iω˙=rf,JΩ˙=−Rf.

最後の負号は外筒が受ける力が −f であることによる.

  1. S=r2/I+R2/J とおく.拘束を微分して dθ¨=−Sf.よって (m+1/S)dθ¨=−mgsin⁡θ となり,微小角では

T=2πdg(1+1mS),Tfixed=2πdg(1+β).

J→∞ なら固定時に一致する.J→0 なら外筒が容易に回り,内筒を自転させる摩擦が弱くなるため T→2πd/g.1/(mS) は無次元である.

  1. 周期比から 1+1/(mS)=(8/9)(3/2)=4/3,すなわち mS=3.mr2/I=2 なので mR2/J=1,したがって J=mR2.g=9.8ms−2 なら T=1.14s,固定時は 1.20s である.また f=mgsin⁡θ/(1+mS),抗力は N=mgcos⁡θ+mdθ˙2.微小振幅では N=mg まで取ればよく,必要な係数は μ≥θa/(1+mS)=θa/4 が主要項である.周期だけが合っても摩擦不足なら模型は成立しない.

[図:内筒の公転と両筒の自転]

解答図.初期状態は傾けて静止させた状態です.再生すると小振幅での接点速度の一致を確認できます.

総合演習 6

APhO 2005 第1問B(改題) ★★★★☆

長さを切り替えて振り子を育てる

小球の振り子を長さ L,振幅角 α の転回点から放します.最下点で長さを ℓ=qL(0<q<1) に急速に縮め,次の転回点で L に戻します.この半往復を1操作と呼びます.長さの変更は径方向に行い,操作前後の径方向速度は0とします.その間の重力トルクの力積は無視できます.長さ変更以外では摩擦はありません.

  1. 次の振幅角 α′ と α の正確な関係を求め,微小振幅での増幅率を示してください.

  2. 2回の長さ変更で装置が小球にする仕事をそれぞれ求め,振り子のエネルギー増加と照合してください.

  3. 実際には各操作の最後に,長さ L で測る振動エネルギーが割合 η だけ失われます.増幅の条件を求めてください.q=0.90,η=0.10 のとき,微小振幅を2倍以上にする最小の操作回数はいくつですか.

問題図.最下点で短くし,次の転回点で元の長さへ戻します.最終振幅は未指定です. 問題図.最下点で短くし,次の転回点で元の長さへ戻します.最終振幅は未指定です.
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考え方 瞬間的な径方向操作では支点まわりの角運動量を保存するが,力学的エネルギーは装置の仕事によって変わる.位置エネルギーの基準は長さ変更の前後で統一する.

  1. A=1−cos⁡α と置く.最下点直前は v2=2gLA.角運動量 mLv=mℓv′ から v′=v/q.短い振り子として転回点へ上るので gqL(1−cos⁡α′)=v′2/2.したがって

1−cos⁡α′=q−3(1−cos⁡α),α′≃q−3/2α.

ここでは糸が張った振動を扱い,たとえば q−3A<1 として転回点を水平より下に制限する.振幅が大きくなった後まで微小角の増幅率を反復してはいけない.

  1. 支点の高さを基準に U=−mgℓcos⁡θ とする.巻取り時の仕事は運動エネルギーと位置エネルギーの増加の和で

W1=mgLA(q−2−1)+mgL(1−q).

転回点での繰出し時は速度が0のままで,W2=−mgL(1−q)cos⁡α′.和を取り,1−cos⁡α′=A/q3 を代入すると

W1+W2=mgLA(q−3−1).

これは長さ L の最下点基準のエネルギー mgL(1−cos⁡α) の増加に等しい.繰出しで回収する仕事も含めることが必要である.

  1. 振動エネルギーの倍率は B=(1−η)/q3.増幅する条件は q<(1−η)1/3.微小角では角振幅の倍率が B なので Bn/2≥2,すなわち n≥2ln⁡2/ln⁡B.数値では B=0.90/0.903=1.23457,n≥6.579 より最小7回である.q=1 なら長さ変更の仕事は0となり,損失がある限り振幅は減るという極限とも合う.

[図:長さ変更による振幅の増加]

解答図.小振幅の転回点から始めます.再生すると巻取りと繰出しを含む1操作を確認できます.

ポイント この節のふり返り

衝突中の角運動量保存と,衝突後のエネルギー保存を時間区間で分けました.
拘束から出した解には,抗力が負にならず摩擦が足りるという条件が付きます.
接点速度を一致させると,自由な支持体の反動も振動の周期に入ります.
長さを変える装置の仕事を含めれば,振幅の増減を保存則と矛盾なく追えます.