問いしるべ
問いから始める物理 物理の見方

物理の見方

第2章の章末問題

著者:柚木芹香

この節は第2章の総合演習です.単位と次元,見積もり,モデル化を組み合わせて使う問題を,★3 で並べました.まず自分で「図・原理・式・検算」の順に考え,詰まったときは解答の最初の数行だけを読んで,続きを自分で書いてみてください.必要な定数は問題文に与えてあります.より難しい問題は,次の節の「第2章の発展問題」にあります.

演習

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

銅の密度は 8.96×103kgm−3,モル質量は 63.5gmol−1 である.アボガドロ定数を 6.02×1023mol−1 として,銅の原子 1 個が占める体積を求め,原子を球とみなして原子の半径を見積もれ.球は隙間なく詰められないので,球が空間を占める割合 f を,単純立方格子の 0.52 から最密充填の 0.74 の範囲で変え,半径の範囲を示せ.

原子を球として表し,球の間に隙間が残る様子を示す. 原子を球として表し,球の間に隙間が残る様子を示す.
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考え方 1 mol の体積を原子の個数で割ると,原子 1 個あたりの体積が出る.そのうち球が占める割合 f を半径に直す.

1 mol の質量は 0.0635kg なので,体積は 0.0635/(8.96×103)=7.09×10−6m3.原子 1 個あたりの体積は

V0=7.09×10−66.02×1023=1.18×10−29m3

である.半径 r の球が V0 の f 倍を占めるとして 43πr3=fV0,すなわち

r=(3fV04π)1/3

f=0.74 では r=(2.08×10−30)1/3≈1.28×10−10m.f=0.52 では r=(1.46×10−30)1/3≈1.14×10−10m である.

f が 40 % 違っても,半径は 1/3 乗でしか効かないので幅は約 10 % である.銅は最密充填の結晶なので,1.28×10−10m に近い.

答え:V0≈1.2×10−29m3,半径は 1.1×10−10 から 1.3×10−10m.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

岩の柱は,底面の圧力が岩の強度 S=1.5×108Nm−2 を超えるとつぶれる.岩石の密度は ρ=2.7×103kgm−3 である.山の高さの上限を見積もる.

地面に立つ高さhの一様な岩の柱(密度ρ).重力加速度gは鉛直下向き.柱の底面に,地面から上向きの圧力が一様に働く様子を5本の矢印で示す.底面積はA. 地面に立つ高さhの一様な岩の柱(密度ρ).重力加速度gは鉛直下向き.柱の底面に,地面から上向きの圧力が一様に働く様子を5本の矢印で示す.底面積はA.
  1. 高さ h の一様な柱の底面の圧力を ρ,g,h で表し,地球(g=9.8ms−2)での上限を求めよ.重力が 3.7ms−2 の火星では何倍か.

  2. 一様な球の表面の重力加速度は g=GM/R2(G=6.7×10−11m3kg−1s−2)である.岩の天体が自分の重さで球形になる目安を ρgR∼S として,その最小の半径を見積もれ.

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考え方 (2) では g が R に比例することを使う.

  1. 底面積 A の柱の重さは ρAhg で,圧力は ρgh.これが S になる高さが上限で

hmax=Sρg=1.5×1082.7×103×9.8≈5.7×103m

エベレスト(約 8.8km)と桁が合う.hmax∝1/g なので火星では 2.6 倍の約 15km で,実際の最高峰(約 22km)と同程度である.

  1. 質量 M=43πR3ρ より g=43πGρR.ρgR∼S に入れて

R∼3S4πGρ2≈2.7×105m

約 270km より小さい天体は,強度で形を保てるので丸くなくてよい.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

大きさ L の物体の温度がそろう時間 τ は,L と熱拡散率 D(単位 m2s−1)だけで決まるとする.

卵の断面(楕円)の外側から,殻を通って中心の黄身へ向かって熱が伝わる様子を,8方向のオレンジ色の矢印で示す.卵の大きさ(短径)をLとして右側に寸法で示す. 卵の断面(楕円)の外側から,殻を通って中心の黄身へ向かって熱が伝わる様子を,8方向のオレンジ色の矢印で示す.卵の大きさ(短径)をLとして右側に寸法で示す.
  1. 次元解析で τ を L,D で表せ(無次元の係数を C とする).

  2. 短径 4.5cm の鶏卵は固ゆでに 10 分かかる.短径 14cm のダチョウの卵では何分か.

  3. 卵の D を水と同じ 1.4×10−7m2s−1,L を鶏卵の半径として C を求め,その C で地球(半径 6.4×106m,岩の D=1.0×10−6m2s−1)が伝導だけで冷える時間を年で見積もり,地球の年齢 4.5×109 年と比べよ(1 年 =3.2×107s).

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考え方 D の次元は L2T−1.

  1. τ=CLaDb とおくと,T: −b=1,L: a+2b=0 から b=−1,a=2.よって τ=CL2/D.

  2. τ∝L2 より 10×(14/4.5)2≈97 分である.

  3. L=2.25×10−2m で C=Dτ/L2=1.4×10−7×600/(2.25×10−2)2≈0.17.地球では L2/D≈1.3×1012 年で,C をかけて約 2×1011 年.地球の年齢の約 50 倍で,伝導だけなら地球はほとんど冷えない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 M の天体を縮めていくと,ある半径 R より小さくなったとき,光でさえ表面から離れられなくなる(ブラックホール).この半径が M,万有引力定数 G,光速 c だけで決まるとして,次元解析で R の形を求めよ.太陽(2.0×1030kg)と地球(6.0×1024kg)について,無次元の係数を 1 として R を見積もれ.ただし G=6.7×10−11m3kg−1s−2,c=3.0×108ms−1 とする.

質量Mの球形天体の中心から表面までの半径Rを示す. 質量Mの球形天体の中心から表面までの半径Rを示す.
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考え方 R=MaGbcd とおき,M,L,T の指数を比べる.

G の次元は L3M−1T−2,c は LT−1 である.両辺の次元をそろえると

M: a−b=0,L: 3b+d=1,T: −2b−d=0

第 1 式から a=b,第 3 式から d=−2b.第 2 式に入れて 3b−2b=1,すなわち b=1,a=1,d=−2.したがって

R∼GMc2

である.次元解析では係数は決まらない.

太陽では GM=6.7×10−11×2.0×1030=1.3×1020,c2=9.0×1016 なので R≈1.5×103m.地球では GM=4.0×1014 で R≈4.5×10−3m,約 4.5mm である.一般相対性理論で求めた正しい半径は係数 2 が付き,太陽で約 3km,地球で約 9mm となるが,桁は次元解析で当たっている.

答え:R∼GM/c2.太陽で約 1.5km,地球で約 4.5mm.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

気体中の音の速さ v は,気体の圧力 p と密度 ρ だけで決まるとする.

気体を表す粒の箱の中に,粒が密な部分(高圧)と疎な部分(低圧)が等間隔で交互に並ぶ.箱の下に圧力pの変化を波形で示し,隣り合う高圧部の間隔を波長として示す.音は右向きに進む. 気体を表す粒の箱の中に,粒が密な部分(高圧)と疎な部分(低圧)が等間隔で交互に並ぶ.箱の下に圧力pの変化を波形で示し,隣り合う高圧部の間隔を波長として示す.音は右向きに進む.
  1. v=Cpaρb(C は無次元の定数)として a,b を求めよ.

  2. 理想気体では p/ρ=RT/μ(μ はモル質量,R=8.31Jmol−1K−1)である.20∘C の空気(29gmol−1)とヘリウム(4.0gmol−1)の音速を C=1 として求めよ.声の共鳴の振動数は音速に比例する.C が同じとして,ヘリウムを吸った声は何倍の振動数になるか.

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考え方 p の次元は ML−1T−2,ρ は ML−3.指数を別々にそろえる.

  1. M: a+b=0,L: −a−3b=1,T: −2a=−1 より a=12,b=−12.よって v=Cp/ρ.

  2. v=CRT/μ.T=293K で,空気は約 2.9×102(実測 3.4×102),ヘリウムは 8.31×293/0.0040≈7.8×102ms−1.比は 29/4.0≈2.7 なので,声の振動数は約 2.7 倍になる.

実際には C は気体の種類で少し違う(C は熱の章で学ぶ比熱比の平方根で,空気は 1.4≈1.18,ヘリウムは 5/3≈1.29).C の違いまで入れると,比は 2.7×1.29/1.18≈2.9 倍になる.空気の音速も 1.18×2.9×102≈3.4×102ms−1 となり,実測と合う.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

脚を長さ L の棒とみなし,股関節のまわりを振り子のように振って歩くと考える.歩幅は αL(α は無次元の定数),速さは歩幅と 1 秒あたりの歩数の積である.

股関節を支点に,長さLの棒とみなした2本の脚が前後に開いて地面に接している.足先の間隔が歩幅αLで,鉛直下向きに重力加速度gがある.人は右へ進む. 股関節を支点に,長さLの棒とみなした2本の脚が前後に開いて地面に接している.足先の間隔が歩幅αLで,鉛直下向きに重力加速度gがある.人は右へ進む.
  1. 脚が振れる周期 T を L,g,脚の質量 m から次元解析で決め,速さが v=cgL(c は無次元)と書けることを示せ.

  2. 脚の長さ 0.90m の大人が 1.4ms−1 で歩く.脚の長さ 0.50m の子どもの速さと,1 秒あたりの歩数の大人に対する比を見積もれ.

  3. 歩行から走行に移る速さは,経験的に v2/(gL)≈0.5 である.大人が月面(g=1.6ms−2)で移る速さを求めよ.

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考え方 質量だけでは時間を作れない.L と g から作った時間を,歩数に使う.

  1. T=Lpgqmr とおくと,M: r=0,T: −2q=1,L: p+q=0 より q=−12,p=12.よって T∝L/g.歩数は 1/T∝g/L なので v∝Lg/L=gL である.

  2. c=1.4/9.8×0.90≈0.47.子どもは 0.479.8×0.50≈1.0ms−1.歩数は g/L に比例し,大人の 0.90/0.50≈1.3 倍である.

  3. v=0.5×1.6×0.90≈0.85ms−1(地上は 2.1ms−1).月面では 1.4ms−1 で歩けず,跳ねるような走り方になる.