問いしるべ
問いから始める物理 物理の見方

物理の見方

モデルと問題の解き方の演習

著者:柚木芹香

「図・原理・式・検算」の順に,文字のまま解いてから数値を入れる練習です.どの演習でも,最後に次元と極端な場合を確かめてください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

弟が家を出て毎秒 1.5m で歩き出した.10 分後に兄が同じ道を自転車で毎秒 5.0m で追う.兄は家を出てから何分後に,家から何 km の所で弟に追いつくか.「図・原理・式・検算」の順で解け.

兄の出発時刻をt=0とし,家にいる兄と先行する弟を示す. 兄の出発時刻をt=0とし,家にいる兄と先行する弟を示す.
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考え方 兄の出発時刻を基準にして,弟が先に進んだ距離を,速さの差で縮める時間と考える.

図. 兄の出発時刻を t=0,家を原点,進む向きを正とする.t0=10min=600s,u=1.5ms−1,v=5.0ms−1.

原理. 2 人とも等速で,追いつくとは位置が等しいことである.

式. 弟の位置は x1=u(t0+t),兄の位置は x2=vt.x1=x2 より t=ut0v−u=1.5×6003.5≈257s≈4.3 分.位置は x=5.0×257≈1.3×103m.

検算. 次元は [ms−1⋅s]/[ms−1]=s で合う.v→u では t→∞,同じ速さなら追いつけないという結果と合う.t0=0 では t=0 で,同時に出れば最初から並んでいる.弟の位置も 1.5×(600+257)≈1.3×103m で一致する.

答え:約 4.3 分後,家から約 1.3km.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

静水での速さが u の舟が,流速 w(w<u)の川を,距離 L の上流の地点まで往復する.(1) 往復の時間 t を求めよ.(2) 静水での往復時間 2L/u との比を求め,w/u=0.1 のとき一次近似で何 % 長くなるかを答えよ.(3) w→0 と w→u の場合で結果が妥当かを述べよ.

流速wの川で,舟は水に対して速さuで上流と下流へ進む.往復区間の長さLを示す. 流速wの川で,舟は水に対して速さuで上流と下流へ進む.往復区間の長さLを示す.
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考え方 上りと下りで,岸から見た速さが違う.往復の時間を文字のまま足し,比を作ってから一次近似を使う.

  1. 上りは岸から見て速さ u−w,下りは u+w で進む.

t=Lu−w+Lu+w=2Luu2−w2
  1. 比は t2L/u=11−(w/u)2.x=(w/u)2 が小さいとき 1/(1−x)≈1+x なので,比は 1+(w/u)2.w/u=0.1 では 1.01 で,約 1 % 長くなる.流れに乗って得をする分と逆らって損をする分は,一次の項では打ち消し合い,二次の差だけが残る.

  2. w→0 では t→2L/u で,静水の結果に戻る.w→u では分母が 0 に近づいて t→∞ となる.上り速度 u−w が 0 になり,上流に進めなくなるからで,物理として妥当である.w>u では t が負になり,式は使えない.

答え:(1) 2Lu/(u2−w2),(2) 約 1 % 長い.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

半径 1.0mm の雨滴(密度 1.0×103kgm−3)が,高さ 1.0km の雲から落ちる.C=0.5,空気の密度 1.2kgm−3 とする.(1) 空気抵抗を無視した着地速さを求めよ.(2) r を求め,このモデルが使えるかを判断せよ.(3) 終端速度を求めよ.(4) 自由落下の速さが終端速度に等しくなるのは,何 m 落ちたときか.

高さ1.0 kmの雲から半径1.0 mmの雨滴が落ちる配置を示す. 高さ1.0 kmの雲から半径1.0 mmの雨滴が落ちる配置を示す.
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考え方 r の式に数値を入れて判定する.r=1 となる高さが,終端速度に近づき始める目安である.

  1. v=2gh=2×9.8×1000≈1.4×102ms−1(時速 500km 超).現実の雨の速さとは大きく違う.

  2. 例題 2 の球の式より r=0.375×1.21.0×103×10001.0×10−3=450.r≫1 で,空気がないとしたときの速さでは,抵抗は重力の約 450 倍になる.実際はそれよりずっと前に終端速度に落ち着くので,モデルは使えない.

  3. r=(v/vt)2 より vt=v/r=140/450≈6.6ms−1.実際の雨滴の速さに近い.

  4. r=1 となる高さで,0.375×1.21.0×103×h1.0×10−3=1 より h≈2.2m.雨滴は 2 m ほど落ちるあたりで抵抗が重力と同じくらいになり,速さは終端速度に近づく(抵抗を入れて計算すると,このときの速さは終端速度の約8割).そこから先は,ほぼ終端速度のまま落ちる.

答え:(1) 1.4×102ms−1,(2) r≈450,使えない,(3) 6.6ms−1,(4) 2.2m.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

高さ h の窓から,石を初速 v0 で真下に投げた.着地までの時間 t について,次の四つの式が挙がった.

(ア) t=−v0+v02+2ghg(イ) t=v0+v02+2ghg
(ウ) t=−v0+v02+ghg(エ) t=−v0+v02+2ghg2
  1. 次元だけで 1 つを除け.(2) v0=0 と h→0 の場合を調べて,さらに 2 つを除け.(3) 残った式で,v0 が非常に大きいとき t≈h/v0 となることを一次近似で示せ.(4) 後の章で学ぶ h=v0t+12gt2 から (ア) を導き,確かめよ.

高さhの窓から石を初速度v₀で下向きに投げる. 高さhの窓から石を初速度v₀で下向きに投げる.
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考え方 次元,v0=0,h→0 の順に,間違った式を一つずつ落とす.

  1. 速度の次元は ms−1,g は ms−2 なので,(エ) は (ms−1)/(ms−2)2=s3m−1 で時間にならない.除く.

  2. v0=0 なら自由落下で t=2h/g のはず.(ウ) は gh/g=h/g で 2 倍ずれる.除く.h→0 なら,投げる前に着いているから t→0 のはず.(イ) は 2v0/g に近づき 0 にならない.除く.残るのは (ア).

  3. v02+2gh=v01+2gh/v02≈v0(1+ghv02)=v0+ghv0.よって (ア) は t≈1g⋅ghv0=hv0.重力の影響が小さい高速では等速で進むという結果になり,妥当である.

  4. 12gt2+v0t−h=0 の正の解を求めると t=−v0+v02+2ghg.(ア) と一致する.

答え:(ア).

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 70kg の人が,手足を広げて(断面積 A=0.7m2,C=1)落ちる.空気の密度は 1.2kgm−3.(1) 終端速度 vt と,空気がないときの速さがそれに等しくなる落下距離 h∗ を求めよ.(2) 形と密度が同じで大きさだけ L 倍の物体では,vt と h∗ が L の何乗に比例するかを述べよ.(3) 体の大きさが人の 1/17 のネズミの vt を (2) で見積もれ.

落下する人に働く重力mgと空気抵抗Fを示す.右は進行方向から見た断面積Aの模式図. 落下する人に働く重力mgと空気抵抗Fを示す.右は進行方向から見た断面積Aの模式図.
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考え方 終端速度は抵抗と重力がつり合う速さである.大きさ L 倍で,質量と断面積がそれぞれ L の何乗で変わるかを数える.

  1. vt=2mgCρA=2×70×9.81×1.2×0.7≈40ms−1.h∗ は 2gh∗=vt より h∗=vt22g≈1.6×10319.6≈83m.約 80m 落ちると抵抗が効く.

  2. 大きさが L 倍で質量は L3 倍,断面積は L2 倍.vt∝m/A∝L3/L2=L1/2.また h∗=vt2/(2g)∝L である.

  3. L=1/17 とおくと,vt は人の 1/17≈0.24 倍で 40×0.24≈10ms−1.終端速度が小さい小動物は,高所から落ちても助かりやすい.

答え:(1) 40ms−1,83m,(2) vt∝L1/2,h∗∝L,(3) 約 10ms−1.

ポイント 教える人へ

  • 問いの紙は,実際に落とさせてから進む.「物理では同時に落ちる」が嘘なのか,何を言っているのかを,自分の言葉で説明させる.

  • 「無視する」と「小さい」は別である.小さいかどうかを,比べる量との比で言えるように,r のような無次元の比を作る習慣をつけさせる.

  • つまずきは,手順の「式」で数値を先に入れることである.文字のまま解き,検算で次元と極端な場合を確かめるまでを 1 セットにする.

  • 確かめには,答えが出たあとに「0 にしたら,無限大にしたら」と問う.答えられれば,式の意味を理解している.