問いしるべ
問いから始める物理 物理の見方

物理の見方

近似と検算

著者:柚木芹香

「図・原理・式・検算」の最後の手順では,文字のまま出した結果を,近似と極端な場合で確かめます.この節ではその道具を整え,例題で手順を通して使います.

定理 数学の道具:一次近似と極端な場合

一次近似. n=12 や n=−1 のように指数 n を固定して,1≫|x| のとき

(1+x)n≈1+nx

が成り立ちます.n が正の整数なら,二項展開 (1+x)n=1+nx+n(n−1)2x2+⋯ で x2 以降を捨てたものです.n が整数でないときも,x が小さければ同じ形でよいことが知られています.特に 1+x≈1+x2,11+x≈1−x です.捨てた項は x2 の程度なので,x=0.04 なら誤差は 2×10−3 程度以下です(n=12,−1 の場合).n が大きいときは係数 n(n−1)2 も大きくなり,|x| が小さいだけでは精度を保証できないので,別に誤差を確かめてください.

極端な場合. 文字式の結果は,モデルの前提が保たれる範囲で,ある量を 0 にしたり,大きくしたりしても,物理として納得できる結果になっているはずです.検算の主力です.極端な場合に前提そのものが破れるとき(たとえば一定の重力加速度を仮定した式を,落下距離が地球の大きさに近い場合に使うとき)は,結果が合わないのではなく,モデルの適用範囲を外れたと確認します.

練習 1. 1/1.03 を一次近似で求めよ.答え:1−0.03=0.97(実際は 0.9709).

練習 2. 0.96 を求めよ.答え:x=−0.04 として 1−0.02=0.98(実際は 0.9798).

練習 3. 一次近似で次の値を求めよ.(1) (1.001)3 (2) 1(1.01)2 (3) 10.94

答え:(1) n=3,x=0.001 で 1.003(実際は 1.003003).(2) n=−2 で 1−0.02=0.98(実際は 0.9803).(3) n=−12,x=−0.06 で 1+0.03=1.03(実際は 1.0314).

練習 4. 半径 R=6.4×106m の地球の表面から高さ h=32km の所で,R2(R+h)2 を一次近似で求めよ.答え:(1+hR)−2≈1−2hR=1−2×0.005=0.99.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

150km 離れた P 町と Q 町を結ぶ直線道路がある.午前 8 時に P 町から車 A が Q 町へ向けて時速 60km で出発し,8 時 30 分に Q 町から車 B が P 町へ向けて時速 40km で出発する.2 台が出会う時刻と,P 町からの距離を求めよ.

P町とQ町の間隔150 kmと,各車の出発時刻・進行方向・速さを示す. P町とQ町の間隔150 kmと,各車の出発時刻・進行方向・速さを示す.
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考え方 この節の手順「図・原理・式・検算」に沿って書く.2 台は等速なので,出会いは「位置が等しい」という式になる.B が遅れて出発することを,時刻の文字 t0 で表す.

図. 8 時を t=0,P 町を原点,Q 町への向きを正とする.L=150km,vA=60km/h,vB=40km/h,t0=0.5h.求めるのは出会う時刻 t と位置 x である.

原理. 2 台とも等速直線運動で,出会うとは位置が等しいことである.

式. t≥t0 で A の位置は xA=vAt,B の位置は xB=L−vB(t−t0).xA=xB とおいて

vAt=L−vB(t−t0)⇒t=L+vBt0vA+vB

数値を入れて t=(150+40×0.5)/(60+40)=1.7h,すなわち 9 時 42 分.位置は x=60×1.7=102km.

検算. 次元は [km+(km/h)h]/(km/h)=h で合う.t0=0 では t=L/(vA+vB),同時に出発した 2 台が向かい合って近づく結果に戻る.vB→0 では t=L/vA で,止まっている B のところまで A が走る時間になる.B 側から見ても,1.2h で 48km 進んだ位置 150−48=102km で合う.なお vAt0>L だと A は B の出発前に Q に着いてしまうので,この式は使えない.これも式から読み取れる適用範囲である.

答え:9 時 42 分,P 町から 102km.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

半径 3cm の鉄球(密度 7.9×103kgm−3)と,同じ大きさの発泡スチロールの球(密度 30kgm−3)を高さ 3m から落とす.空気抵抗を無視するモデルが使えるかを,それぞれ判定せよ.空気の密度は 1.2kgm−3,C=0.5 とする.

半径3 cmの鉄球と発泡スチロール球を高さ3 mから放す.密度はそれぞれ7.9×10³ kg m⁻³と30 kg m⁻³. 半径3 cmの鉄球と発泡スチロール球を高さ3 mから放す.密度はそれぞれ7.9×10³ kg m⁻³と30 kg m⁻³.
解答を見る

考え方 前の節の r=CρAh/m を球に当てはめ,1≫r かを見る.同じ大きさなので違いは質量だけである.

式. 球の半径を R,密度を ρb とすると A=πR2,m=43πR3ρb なので A/m=3/(4Rρb).よって

r=34CρρbhR

次元は無次元で合う.密度の比が小さいほど,また落下距離が球の大きさに比べて短いほど r は小さい.

鉄球では r=0.375×1.27.9×103×30.03≈6×10−3.1≫r で,空気抵抗は重力の 1 % にも満たず,モデルは使える.落下時間のずれは r の十二分の一程度(詳しい計算は力学の章)なので 0.05 % ほどである.

発泡スチロール球では r=0.375×1.230×100=1.5.r が 1 を超えるので,空気がないとしたときの速さで評価すると抵抗が重力を上回ってしまい,空気がないというモデルは成り立たない.実際の落下では抵抗は重力を超えず,速さは終端速度に下から近づく.空気がないときの着地速さ 2gh≈7.7ms−1 に対し,終端速度は 7.7/1.5≈6.3ms−1 と小さく,着地までに終端速度の9割近くまで近づく.

答え:鉄球は使える(r≈6×10−3),発泡スチロール球は使えない(r≈1.5).

ポイント ここまでのまとめ

  • 一次近似は,指数 n を固定して 1≫|x| のとき (1+x)n≈1+nx.特に 1+x≈1+x2,11+x≈1−x.

  • モデルの前提が保たれる範囲で,極端な場合(0,大きな値,二つの量が等しい)の結果が納得できるかを調べるのが,検算の主力である.

  • 次元,極端な場合,桁の三つで確かめると,文字式の誤りの多くが見つかる.

  • 空気抵抗を無視してよいかは r で判定する.鉄球は r≈6×10−3 で使え,発泡スチロール球は r≈1.5 で使えない.