問いしるべ
問いから始める物理 運動を記述する

運動を記述する

第3章の発展問題

著者:柚木芹香

★4・★5の問題です.第3章の道具に加えて,相加平均・相乗平均の不等式や連鎖律などの数学も使います.1題に時間をかけて,特別な場合での確かめも試してください.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

水平な地面の点Oから,水平距離 d=30m,高さ h=40m にある点Pを通るように石を投げる.重力加速度を g=9.8ms−2 とし,空気の抵抗は無視する.

  1. 投げ上げの初速度 v0 と,Pに達する時刻 t の関係式を,ベクトルで書け.

  2. 石がPを通るために必要な最小の初速の大きさ vmin と,そのときの投げ上げの角を求めよ.必要なら,相加平均・相乗平均の不等式(正の数 a,b について a+b≥2ab,等号は a=b のとき)を使ってよい.

水平な地面の点Oから,水平に距離d,鉛直に高さhだけ離れた点Pを通るように石を投げる.OとPを結ぶ破線がOPの方向.青い曲線は初速度v0で投げたときの軌道の一例で,点Pを通る.重力加速度gは鉛直下向き.最小の初速度や投げ上げの角は図には描いていない. 水平な地面の点Oから,水平に距離d,鉛直に高さhだけ離れた点Pを通るように石を投げる.OとPを結ぶ破線がOPの方向.青い曲線は初速度v0で投げたときの軌道の一例で,点Pを通る.重力加速度gは鉛直下向き.最小の初速度や投げ上げの角は図には描いていない.
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考え方 自由落下する観測者から見ると,石は等速直線運動をするだけである.Pに達する条件は,ベクトルの関係としてきれいに書ける.

  1. 点Oを原点,水平方向を x,鉛直上向きを y とする.重力加速度のベクトルは g=(0,−g),Pの位置ベクトルは OP→=(d,h).時刻 t の位置は v0t+12gt2 だから,

OP→=v0t+12gt2⟺v0=OP→t−12gt
  1. 両辺の大きさの二乗をとる.OP→⋅g=−gh,OP=d2+h2=50m を使うと,

v02=OP2t2+gh+g2t24

第1項と第3項に相加平均・相乗平均の不等式を使うと,

OP2t2+g2t24≥2⋅OPt⋅gt2=gOP

等号は t2=2OP/g のときで,

vmin2=g(h+OP)=9.8×90=882,vmin≈30ms−1

このとき t=2×50/9.8≈3.19s.初速度は v0=(30,40)/3.19+(0,4.9×3.19)≈(9.4, 28.2)ms−1 で,水平となす角 θ は tan⁡θ=28.2/9.4=3.0,θ≈72∘ である.これは「OPの方向(水平から約 53∘)」と「鉛直上向き(90∘)」のちょうど中間の向きになっている.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

傾き α=30∘ の斜面をもつ台が,水平面上で,斜面を下る向きの水平方向(左向き)に一定の加速度 A=g で加速している.台が静止の状態から加速を始めた瞬間に,斜面の下端Oから,斜面に垂直な向きにボールを初速 v0=4.0ms−1 で投げた.ボールには重力加速度 g=9.8ms−2 だけが働き,空気の抵抗は無視する.台は十分に長く,ボールは斜面から離れて飛ぶ.

  1. 台から見たボールの加速度を求めよ.

  2. ボールが再び斜面に着く時刻と,その点のOからの斜面に沿った距離(斜面を上る向きを正)を求めよ.

  3. ボールがちょうどOに戻るための,台の加速度 A の条件を求めよ.

傾き角αの斜面をもつ台が,水平な地面の上を左向き(斜面を下る向き)に加速度Aで加速している.斜面の下端Oから,斜面に垂直な向きに初速度v0でボールを投げる.重力加速度gは鉛直下向き.斜面に沿って上る向きを正としてOからの距離ℓを測る.右向きにx軸,上向きにy軸をとる.台から見た軌道は図には描いていない. 傾き角αの斜面をもつ台が,水平な地面の上を左向き(斜面を下る向き)に加速度Aで加速している.斜面の下端Oから,斜面に垂直な向きに初速度v0でボールを投げる.重力加速度gは鉛直下向き.斜面に沿って上る向きを正としてOからの距離ℓを測る.右向きにx軸,上向きにy軸をとる.台から見た軌道は図には描いていない.
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考え方 台に乗って見ると,ボールの加速度は「地上系の加速度」から「台の加速度」を引いたもの.この見かけの加速度の,斜面に平行な成分と垂直な成分で運動を分ける.

右向きを x,上向きを y とする.斜面を上る向きの単位ベクトルは s=(cos⁡α,sin⁡α),斜面に垂直で外向きの単位ベクトルは n=(−sin⁡α,cos⁡α).

  1. ボールの加速度は (0,−g),台の加速度は (−A,0) だから,台から見たボールの加速度は a′=(A,−g).

  2. 斜面に平行・垂直な成分は

as=a′⋅s=Acos⁡α−gsin⁡α,an=a′⋅n=−(Asin⁡α+gcos⁡α)

台から見た初速度は v0=v0n である(台が静止しているので).斜面に垂直な運動は等加速度運動で,斜面に戻る条件 v0t+12ant2=0 から

t=2v0Asin⁡α+gcos⁡α=2×4.09.8×(0.5+0.866)≈0.60s

斜面に平行な方向は初速0の等加速度運動だから,

ℓ=12ast2=2v02(Acos⁡α−gsin⁡α)(Asin⁡α+gcos⁡α)2=2×16×9.8×0.3669.82×1.3662≈0.64m

ℓ>0 なので,ボールはOより斜面の上側に着く.

  1. ℓ=0 すなわち Acos⁡α=gsin⁡α,A=gtan⁡α のとき.このとき台から見た加速度は斜面に垂直になり,ボールは斜面に垂直な直線を往復する.なお,A=0(台が動かない)のときは ℓ<0 となる.Oは斜面の下端なので,ボールは斜面には戻らず,Oより左側(斜面の下端より先)の床に落ちる.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

一様な風の中で雨が一定の速度で降っている.東向きに速さ 1.0ms−1 で歩くと雨粒の筋は鉛直から前方へ傾き,その傾きの tan は 1/2 であった.東向きに速さ 3.0ms−1 で歩くと,筋は鉛直から前方へ 45∘ 傾いて見えた.

東へ歩く速さが異なる二つの場合について,鉛直から前方へ傾く雨の筋を示す.地上での雨の速度は描かない. 東へ歩く速さが異なる二つの場合について,鉛直から前方へ傾く雨の筋を示す.地上での雨の速度は描かない.
  1. 地面に対する雨粒の速度(大きさと向き)を求めよ.

  2. 雨粒の筋が鉛直に見えるのは,どちらの向きに何 ms−1 で歩くときか.

  3. 人の体を,頭上面(面積 S)と進行方向に向いた前面(面積 5S)の板とみなす.板に当たる雨の量は,雨の板に対する相対速度の板に垂直な成分,面積,時間の積に比例する.東向きに距離 L を歩くとき,濡れる量を歩く速さ u の関数で表し,u=1.0ms−1 と 3.0ms−1 の場合を比べよ.

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考え方 雨粒の人に対する速度は「地面に対する雨粒の速度」から「人の速度」を引く.傾きの情報が2つあるので,雨粒の速度の2成分が決まる.

東向きを x,鉛直上向きを y とする.雨粒の速度を (wx,−wy)(wy>0)とおく.歩く人の速度は (u,0) で,人から見た雨粒の速度は (wx−u, −wy).筋が前方へ傾くとは wx−u<0 のことで,鉛直となす角 ϕ は tan⁡ϕ=u−wxwy である.

  1. 条件より 1.0−wxwy=12,3.0−wxwy=1.整理すると 1.0−wx=wy2,3.0−wx=wy.辺々引くと 2.0=wy2 だから wy=4.0,wx=−1.0.雨粒の速度は西向き 1.0ms−1,下向き 4.0ms−1.速さは 17≈4.1ms−1,鉛直から西へ arctan⁡(1/4)≈14∘ 傾いた向きに降っている.

  2. 筋が鉛直なのは u=wx=−1.0ms−1 のとき,つまり西向きに 1.0ms−1 で歩くとき(雨と同じ水平速度で動くとき).

  3. 頭上面に垂直な相対速度成分は wy=4.0,前面に垂直な成分は u−wx=u+1.0(u>0).時間は L/u だから

W∝Lu[S⋅4.0+5S(u+1.0)]=SL(9u+5)

u=1.0 のとき 14SL,u=3.0 のとき 8SL.速く通るほど雨にさらされる時間が短くなり,頭上面から受ける量 4SL/u も前面から受ける量 5SL(1+1/u) も減るので,濡れる量は約 57 % になる.ただし u→∞ でも,前面が雨に突っ込むことによる 5SL は残る.

演習 4

オリジナル ★★★★★

平らな原っぱで,主人が点Qから,まっすぐな道を一定の速さ u=1.5ms−1 で歩き出した.犬は道から垂直に L=60m 離れた点Oにいて(OQは道に垂直),主人が歩き出すと同時に,常に主人に向かって一定の速さ v=2.5ms−1 で走り出す.

  1. 犬が主人に追いつくまでの時間を求めよ.一般の u,v,L(v>u)についても式で表せ.

  2. 犬が走る道のりと,主人が歩く道のりを求めよ.

  3. v≤u のとき犬は追いつけないことを,(1) の計算から確かめよ.

原点Oにいる犬が,Oから距離Lだけ離れた,y軸に平行な道の上を点Qから歩き出した主人に向かって,常に主人の方向へ速さvで走る.主人は道に沿って一定の速さuで進む.図はある時刻の犬の位置と主人の位置,どちらの速度の向き,犬が通った道筋の曲線を示す.犬の速度は常に主人を向くので,軌跡は主人の進む側へ曲がっていく. 原点Oにいる犬が,Oから距離Lだけ離れた,y軸に平行な道の上を点Qから歩き出した主人に向かって,常に主人の方向へ速さvで走る.主人は道に沿って一定の速さuで進む.図はある時刻の犬の位置と主人の位置,どちらの速度の向き,犬が通った道筋の曲線を示す.犬の速度は常に主人を向くので,軌跡は主人の進む側へ曲がっていく.
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考え方 犬の軌跡の式を求めなくても,主人と犬の間の距離 D(相対位置の大きさ)の時間変化と,道に沿った成分 Y の変化を調べれば,追いつく時間が求まる.

犬の位置をOを原点として (xd,yd),主人の位置を (L,ut) とする.犬から見た主人の相対位置 r=(X,Y)=(L−xd, ut−yd) と,その大きさ D=X2+Y2 を考える.犬の速度は,常に主人の向きだから

v犬=vrD=v(XD,YD)

主人の速度は (0,u) だから,相対速度(主人が犬から見て動く速度)は

dXdt=−vXD,dYdt=u−vYD
  1. D2=X2+Y2 を微分して(文字の上の点は t による微分を表す),

dDdt=XX˙+YY˙D=−vX2/D+uY−vY2/DD=−v+uYD

また,Y˙=u−vY/D より Y/D=(u−Y˙)/v.これを代入すると

D˙=−v+u(u−Y˙)v⟹vD˙+uY˙=−(v2−u2)

左辺は ddt(vD+uY) だから,右辺が定数であることから vD+uY は時間に比例して減る.初め D=L,Y=0,追いつく時刻 T では D=Y=0 なので,

0−vL=−(v2−u2)T⟹T=vLv2−u2

数値では T=2.5×602.52−1.52=1504.0=37.5s.u→0 では T→L/v,v→∞ では T→0 で,直観と合っている.

  1. 犬の速さは一定だから道のりは vT=v2Lv2−u2=2.5×37.5≈94m.主人は uT=1.5×37.5≈56m 歩く.追いつく地点は (L,uT)=(60,56)m で,Oからの直線距離は 602+562≈82m だから,犬の道のり 94m はそれより長い(曲がった軌跡なので当然).

  2. ddt(vD+uY)=−(v2−u2)≥0 となるので,v≤u では vD+uY は増えるか一定である.初めの値は vL>0 で,追いつくには0にならなければならないが,それは不可能.よって追いつけない.v→u で T→∞ となるのも,この結果と整合する.