問いしるべ
問いから始める物理 運動を記述する

運動を記述する

第3章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,力のことはまだ考えずに,物体が「どこに,どれだけの速さで,どう動くか」を数と式で書き表しました.位置から速度へは微分,速度から位置へは積分という往復が,章全体の背骨です.

定義の一覧

定義 運動を表す量

  • 位置ベクトル r:原点から物体へ向かう矢印.変位は Δr=r2−r1.

  • 速度 v=drdt:位置の時間変化率.大きさ |v| が速さ.直線上では v=dxdt.

  • 加速度 a=dvdt:速度の時間変化率.向きだけが変わる運動にも加速度がある.

  • 相対速度 vBA=vB−vA:Aから見たBの速度.

  • 角速度 ω=dθdt(θ はラジアンで,増える向きを正とする.逆転しない回転では ω>0),周期 T,振動数 f:ω=2πT=2πf.

法則と公式の一覧

法則 速度と位置の関係

v-tグラフと横軸にはさまれた面積が変位になる(横軸より下の部分は負として数える.道のりは速さ |v| の積分で,往復があると変位とは一致しない).

x(t)=x0+∫0tv(s)ds,v(t)=v0+∫0ta(s)ds

法則 等加速度運動と自由落下

v=v0+at,x=x0+v0t+12at2,v2−v02=2a(x−x0)

自由落下では,鉛直上向きを正にとって a=−g(g≈9.8ms−2).

法則 放物運動

水平方向は等速,鉛直方向は加速度 −g の等加速度運動.水平面と角 θ をなす向きに初速 v0 で投げると,

x=v0cos⁡θ⋅t,y=v0sin⁡θ⋅t−12gt2

空気抵抗は無視する.投射点と同じ高さに戻るまでに進む水平距離(到達距離)は,R=v02sin⁡2θg である.この式は投射点と着地点が同じ高さのときだけに使える.

法則 速度の合成

vPG=vPT+vTG

座標軸の向きを保ち,一定の速度で動く系の間では,加速度は変わらない(ガリレイ変換).

法則 円運動

s=rθ,v=rω,an=rω2=v2r (中心向き),at=dvdt

回転角が増える向きを正とし,回転が逆転しない場合の式である(一般には v=r|ω|).

各節の問いへの短い答え

  • 位置とベクトル:「駅から500 m」は,位置ベクトルの大きさだけを伝えていた.場所を決めるには,向きと,原点・軸の約束(座標系)が要る.

  • 速度:スピードメーターの数字は,短い時間の平均を限りなく短くした極限,つまり瞬間速度 dxdt の大きさである.平均の速さは区間全体をならした値である.

  • 加速度:速さが一定でも,速度の向きが変われば加速度がある.カーブで外へ押されるように感じるのは,加速度が内向きだからである.

  • 速度から位置へ:v-tグラフの面積(横軸より下は負)が変位になる.道のりは |v| の面積で,往復では変位と一致しない.細かく切って足し合わせる極限が積分である.

  • 等加速度運動と自由落下:ガリレオは時間の比だけを使い,静止から出発した球の出発点からの距離の比が 1:4:9:16 になることで x∝t2 を確かめた.斜面は加速度を小さくして測りやすくする工夫だった.

  • 放物運動:空気抵抗を無視すれば,猿は弾に当たる.弾も猿も同じ時間に同じだけ 12gt2 落ちるので,地面に着く前に出会える速さであれば,弾の速さによらない.

  • 相対運動:走る人から見た雨の速度は,雨の速度から人の速度を引いたもの.雨は前から降ってくるように見える.

  • 円運動:端の点のほうが速い.角速度は同じで,速さは半径に比例する.速さが一定でも,加速度 rω2 が中心を向く.

数学の道具の一覧

  • ベクトル:成分での和・差・実数倍,大きさ,内積.

  • 微分:(tn)′=ntn−1,積の微分,連鎖律,(sin⁡θ)′=cos⁡θ(ラジアン).

  • 積分:べき関数・三角関数・指数関数の原始関数,定積分は端点の差.

  • 三角関数:加法定理と2倍角,小角近似 sin⁡θ≈θ.

  • 二次関数と内積:距離の2乗の平方完成から最接近の時刻を求める.

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この章では,運動の「様子」を書き表しただけで,なぜそう動くのかは問いませんでした.電車で押される感覚,落ちる石の加速度が g で一定になる理由,円運動で中心を向く加速度のもとは何か.次の第4章では,これらの原因を力として扱い,運動の法則を学びます.