問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

第4章の発展問題

著者:柚木芹香

★4・★5の発展問題で,動く台やくさび,重ねた物体,鎖やロープの力のつり合いを扱います.まず束縛条件と座標軸を整理し,未知数と式の数が合っていることを確かめてから解答を見てください.

演習

演習 1

オリジナル ★★★★☆

質量 M のくさびが,滑らかな水平面の上に置かれている.くさびの右側の斜面は水平から角 α で,斜面は右に向かって下がっている.斜面の上に,質量 m の小物体を静かに置く.斜面は滑らかである.

  1. くさびの加速度の大きさ A(左向き),小物体のくさびに対する加速度 a(斜面に沿って下向き),垂直抗力 N を求めよ.

  2. 水平面がくさびに及ぼす垂直抗力を求めよ.

  3. M→∞,M→0 の極限を調べて,結果を確かめよ.

滑らかな水平面上に,右側の斜面が水平から角αで右下がりのくさび(質量M)が置かれ,その斜面の上に小物体(質量m)がある.くさびの加速度Aが左向きの矢印で,小物体のくさびに対する加速度aが斜面に沿って下向きの矢印で描かれている.右向きにx軸,上向きにy軸をとる. 滑らかな水平面上に,右側の斜面が水平から角αで右下がりのくさび(質量M)が置かれ,その斜面の上に小物体(質量m)がある.くさびの加速度Aが左向きの矢印で,小物体のくさびに対する加速度aが斜面に沿って下向きの矢印で描かれている.右向きにx軸,上向きにy軸をとる.
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考え方 くさびも動くので,物体の加速度はくさびの加速度と相対加速度の和になる.これが束縛条件である.地面から見た運動方程式を物体とくさびで別々に書く.

右向きを x,上向きを y とする.斜面の垂線の向き(垂直抗力の向き)は (sin⁡α,cos⁡α) である.物体の加速度は,くさびの加速度 (−A,0) と相対加速度 (acos⁡α,−asin⁡α) の和で,

(acos⁡α−A, −asin⁡α)

である.物体の運動方程式は

m(acos⁡α−A)=Nsin⁡α,−masin⁡α=Ncos⁡α−mg

くさびは物体から −N(sin⁡α,cos⁡α) の力を受けるので,水平方向について

−MA=−Nsin⁡α ⟹ MA=Nsin⁡α

である.第1式と合わせて m(acos⁡α−A)=MA,すなわち A=mcos⁡αM+ma.また N=MA/sin⁡α を第2式に入れると

Mmcos2⁡α(M+m)sin⁡αa=mg−masin⁡α

となり,まとめて

a=(M+m)sin⁡αM+msin2⁡αg,A=msin⁡αcos⁡αM+msin2⁡αg,N=Mmcos⁡αM+msin2⁡αg
  1. くさびの鉛直方向のつり合いから,床の垂直抗力は Mg+Ncos⁡α=M(M+m)M+msin2⁡αg である.

  2. M→∞:a→gsin⁡α,A→0,N→mgcos⁡α.固定された斜面の結果に一致する.M→0:N→0,a→g/sin⁡α,A→g/tan⁡α.物体は自由落下(鉛直加速度 asin⁡α=g)し,軽いくさびは水平に逃げる.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

質量 m の小物体が,傾き α の斜面を持つくさびの上にある.斜面は右に向かって下がっている.くさび全体を水平面上で右向きに一定の加速度 A で動かす.(A が負なら左向き.)

右下がりの斜面上に質量mの物体があり,くさびを右向きに加速度Aで動かす. 右下がりの斜面上に質量mの物体があり,くさびを右向きに加速度Aで動かす.
  1. 斜面が滑らかなとき,物体の斜面に対する加速度 a(斜面に沿って下向き)と垂直抗力 N を求めよ.

  2. 物体が斜面に対して静止する A を求めよ.

  3. 物体が斜面から離れる A の条件を求め,そのとき a が何になるかを確かめよ.

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考え方 物体の地面に対する加速度を,斜面方向と斜面に垂直な方向に分けて運動方程式を立てる.

斜面に沿って下向きの単位ベクトルを t^=(cos⁡α,−sin⁡α),斜面に垂直で上向きを n^=(sin⁡α,cos⁡α) とする.物体の加速度は,くさびの加速度 (A,0) と相対加速度 at^ の和である.

  1. t^ 方向の運動方程式は,垂直抗力が t^ 成分を持たないので

m(Acos⁡α+a)=mgsin⁡α ⟹ a=gsin⁡α−Acos⁡α

n^ 方向では,相対加速度は垂直成分を持たないので,加速度の n^ 成分は Asin⁡α である.

mAsin⁡α=N−mgcos⁡α ⟹ N=m(gcos⁡α+Asin⁡α)
  1. a=0 より A=gtan⁡α.

  2. N≤0 になると面から離れるので,gcos⁡α+Asin⁡α<0,すなわち A<−g/tan⁡α(左向きに大きく加速する).境界 A=−gcot⁡α では N=0,a=g/sin⁡α で,鉛直の加速度は asin⁡α=g.物体は自由落下しており,くさびが速く逃げて斜面に触れられなくなる.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

質量 M のくさびが,滑らかな水平面にある.くさびの斜面(右側)は水平から角 α で,右に向かって下がっている.斜面に質量 m の小物体を置く.物体とくさびの静止摩擦係数を μ とする.くさびの左側の鉛直面を水平右向きの力 F で押し,物体がくさびに対して滑らずに一緒に動くようにする.

質量Mの右下がりのくさびを右向きの力Fで押す.上の小物体の質量はm,接触面の静止摩擦係数はμ. 質量Mの右下がりのくさびを右向きの力Fで押す.上の小物体の質量はm,接触面の静止摩擦係数はμ.
  1. F の範囲を M,m,g,α,μ で表せ.ただし μ<cot⁡α とする.

  2. M=2.0kg,m=1.0kg,α=30∘,μ=0.20 の値を求めよ.

  3. μ→0 の極限を確かめよ.

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考え方 一緒に動くとき全体の加速度は A=F/(M+m) で,物体も水平右向きに加速度 A を持つ.その物体について,斜面方向と垂直方向の力を書く.

  1. 斜面に沿って下向きの単位ベクトルは (cos⁡α,−sin⁡α),垂線は (sin⁡α,cos⁡α) である.斜面に沿って上向きの摩擦力 f を仮定すると

mAcos⁡α=mgsin⁡α−f,mAsin⁡α=N−mgcos⁡α

より f=m(gsin⁡α−Acos⁡α),N=m(gcos⁡α+Asin⁡α).滑らない条件は |f|≤μN,μ=tan⁡λ とおく.

  • f≤μN:g(sin⁡α−μcos⁡α)≤A(cos⁡α+μsin⁡α),よって A≥gtan⁡(α−λ).

  • −f≤μN:A(cos⁡α−μsin⁡α)≤g(sin⁡α+μcos⁡α).μ<cot⁡α より cos⁡α−μsin⁡α>0 なので A≤gtan⁡(α+λ).

F=(M+m)A より

(M+m)gtan⁡(α−λ)≤F≤(M+m)gtan⁡(α+λ),tan⁡(α∓λ)=sin⁡α∓μcos⁡αcos⁡α±μsin⁡α
  1. tan⁡(α−λ)=0.5−0.1730.866+0.100=0.338,tan⁡(α+λ)=0.5+0.1730.866−0.100=0.879.M+m=3.0kg より

3.0×9.8×0.338≤F≤3.0×9.8×0.879 ⟹ 9.9N≤F≤26N
  1. μ→0(λ→0)で範囲が1点 F=(M+m)gtan⁡α に縮み,演習 2 の A=gtan⁡α に一致する.

演習 4

オリジナル ★★★★☆

滑らかな水平な机の上に,質量 m1=2.0kg の板があり,その上に質量 m2=1.0kg の物体を置く.物体と板のあいだの摩擦係数は μ=0.30(静止,動とも同じ).物体に軽い糸を結び,水平に引いて机の端の定滑車にかけ,鉛直に下ろして軽い動滑車の下を通し,上に戻して天井に固定する.動滑車には質量 M のおもりを吊るす.糸の鉛直部分は2本とも鉛直である.

  1. 物体の加速度の大きさ a と,おもりの加速度の大きさの関係(束縛条件)を求めよ.

  2. 物体が板に対して滑らずに動くための M の最大値を求めよ.

  3. M=2.0kg のとき,板,物体,おもりの加速度と糸の張力を求めよ.

滑らかな水平な机の上に質量m1の板があり,その上に質量m2の物体が置かれている(板と物体の間の摩擦係数はμ).物体から糸が水平に出て,机の端の定滑車を回って鉛直に下り,動滑車の下を回って鉛直に上り,天井に固定されている.動滑車には質量Mのおもりが吊るされている.糸の鉛直部分は2本とも鉛直. 滑らかな水平な机の上に質量m1の板があり,その上に質量m2の物体が置かれている(板と物体の間の摩擦係数はμ).物体から糸が水平に出て,机の端の定滑車を回って鉛直に下り,動滑車の下を回って鉛直に上り,天井に固定されている.動滑車には質量Mのおもりが吊るされている.糸の鉛直部分は2本とも鉛直.
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  1. 物体と定滑車の距離を x,動滑車の深さを y とすると,糸の長さが一定なので x+2y= 一定である.物体が Δx 縮むとおもりは Δx/2 下がるので,おもりの加速度の大きさは a/2 である.

  2. 滑らないとき,板と物体は共通の加速度 a を持ち,水平方向の外力は糸の張力 T だけなので (m1+m2)a=T.おもりは Mg−2T=M⋅a2.よって

a=2Mg4(m1+m2)+M

板を動かすのは摩擦力だけなので f=m1a≤μm2g である.

2Mm14(m1+m2)+M≤μm2 ⟹ M≤4μm2(m1+m2)2m1−μm2

数値を入れて M≤4×0.30×1.0×3.04.0−0.30≈0.97kg.

  1. M=2.0kg は上限より大きく,物体は滑る.板は動摩擦力だけで動くので m1a1=μm2g,a1=0.30×1.0×9.8/2.0=1.47≈1.5ms−2.物体は T−μm2g=m2a2,おもりは Mg−2T=Ma2/2 なので

a2(m2+M4)=Mg2−μm2g ⟹ 1.5a2=9.8−2.94 ⟹ a2≈4.6ms−2

おもりの加速度は a2/2≈2.3ms−2,張力は T=m2a2+μm2g≈7.5N.a2>a1 なので物体は板に対して前へ滑り,仮定と合っている.

演習 5

オリジナル ★★★★☆

滑らかな水平な机の上に,一様な鎖(長さ L,質量 M)が一直線に置かれ,一端から長さ y0 の部分が,机の縁から(滑らかな縁を越えて)鉛直に垂れ下がっている.静かに放す.垂れ下がり部分の長さを y(t) とする.

長さL,質量Mの鎖のうち,初め長さy₀が机から垂れている. 長さL,質量Mの鎖のうち,初め長さy₀が机から垂れている.
  1. y の運動方程式を立てよ.

  2. y(t)=Aeωt+Be−ωt の形を仮定して,ω と A,B を求めよ.

  3. y0=L/4 のとき,鎖全体が机を離れるまでの時間と,そのときの速さを求めよ.L=1.0m では何秒,何 ms−1 か.z=eωt とおくと z の2次方程式になり,t=1ωln⁡z である.

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  1. 机の上の部分の重力は垂直抗力とつり合うので,全体を加速するのは垂れ下がり部分の重力 Myg/L だけである.全体(質量 M)の運動方程式は

My¨=MyLg ⟹ y¨=gLy
  1. ω2=g/L とすると,y=Aeωt+Be−ωt は y¨=ω2y を満たす.初期条件 y(0)=y0,y˙(0)=0 より A+B=y0,ω(A−B)=0.よって A=B=y0/2 で

y(t)=y02(eωt+e−ωt),ω=gL
  1. y=L となる時刻は,z=eωt とおいて z+1/z=2L/y0=8.よって z=4+15≈7.87,ωt=ln⁡z≈2.06,

t≈2.06L/g

速さは y˙=y0ω2(z−1z)=ωy0(L/y0)2−1=ωL2−y02 より

v=154gL≈0.97gL

L=1.0m では t≈0.66s,v≈3.0ms−1 である.

演習 6

オリジナル ★★★★★

固定された粗い円柱(半径 R)に,軽いロープを中心角 θ にわたって巻きつける.ロープと円柱の静止摩擦係数を μ とする.ロープの一端の張力を T1,他端の張力を T2(>T1) とする.

  1. 円柱面上のロープの一部分(中心角 dφ)の力のつり合いを調べ,ロープが T2 の側へ滑り出す直前に T2=T1eμθ となることを導け.小さな角 x では sin⁡x≈x と近似でき,∫dTT=ln⁡T+C(T>0)である.

  2. μ=0.25,θ=4π(2回巻き)で,一端に 5000N の荷重がかかるとき,人がロープを引く力の最小値と,ロープが滑らない人の張力の範囲を求めよ.

  3. 人が 100N で荷重 5000N を保つには,何回以上巻けばよいか.

固定された粗い円柱に,軽いロープが中心角θだけ巻きついている.ロープの両端には張力T1(小さい側)とT2(大きい側)が,ロープに沿って円柱から離れる向きに働く.円柱上の一部分(中心角dφ,オレンジで印)を右に拡大して描く.この部分には,T1側の張力T,T2側の張力T+dT(どちらもロープの接線方向),円柱から受ける垂直抗力dN(半径方向外向き),T1の側を向く摩擦力μdNが働く. 固定された粗い円柱に,軽いロープが中心角θだけ巻きついている.ロープの両端には張力T1(小さい側)とT2(大きい側)が,ロープに沿って円柱から離れる向きに働く.円柱上の一部分(中心角dφ,オレンジで印)を右に拡大して描く.この部分には,T1側の張力T,T2側の張力T+dT(どちらもロープの接線方向),円柱から受ける垂直抗力dN(半径方向外向き),T1の側を向く摩擦力μdNが働く.
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  1. T1 の側から測った角 φ の位置で,部分の両端の張力を T(T1 側)と T+dT(T2 側)とする.滑り出す直前なので,摩擦力は T1 の側を向いて限界の大きさになる.この部分の力はつり合う.半径方向では,両端の張力が中心向きの成分を持つので,

dN=Tsin⁡dφ2+(T+dT)sin⁡dφ2≈Tdφ

である(sin⁡(dφ/2)≈dφ/2 とし,2次の微小量 dTdφ は無視した).接線方向では,限界の摩擦力が μdN なので

dT=μdN=μTdφ

である.dTT=μdφ(変数分離)を φ=0 から θ まで積分すると

ln⁡T2T1=μθ ⟹ T2=T1eμθ

である.半径 R に依らず,巻きつけた角 θ だけで決まる.

  1. 荷重側が T2=5000N,引く力 T1 が限界のとき,μθ=0.25×4π=π なので

T1=5000e−π≈5000×0.0432≈2.2×102N

が最小値である.逆に人の側の張力が大きすぎても滑り,その限界は 5000eπ なので,滑らない範囲は

2.2×102N≤T1≤1.2×105N

である.

  1. eμθ≥5000/100=50 より μθ≥ln⁡50=3.91,θ≥15.6rad≈2.5 回転である.余裕を見て3回巻けばよい.