問いしるべ
問いから始める物理 ゆらぎと拡散(発展)

ゆらぎと拡散(発展)

第18章の章末問題

著者:柚木芹香

4つの題材を6題で確かめます.平均と分散,流れの向き,近似の条件に注意してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

原点の粒子が,右へ確率 3/5,左へ確率 2/5 で長さ l だけ進みます.各歩は独立,N 歩後の位置は x です.

直線上のA,Bから符号付きの相対位置rと中点Xを定める.下段の4通りは各確率1/4で,同方向の歩ではrが変わらず,逆方向の歩ではXが変わらない. 直線上のA,Bから符号付きの相対位置rと中点Xを定める.下段の4通りは各確率1/4で,同方向の歩ではrが変わらず,逆方向の歩ではXが変わらない.
  1. 1歩の変位 s の平均と分散から,位置の平均と分散を求めてください.

  2. ⟨x2⟩=Nl2 は使えますか.正しい2乗平均を求め,左右が等確率の場合と比べてください.

解答を見る

考え方 独立な歩では分散が足される.2乗平均には平均位置の2乗も入る.

  1. ⟨s⟩=l/5,⟨s2⟩=l2 より分散は 24l2/25.独立性より ⟨x⟩=Nl/5,位置の分散は 24Nl2/25 である.

  2. 1歩の平均が0ではないので使えない.正しくは ⟨x2⟩=(N2+24N)l2/25 である.等確率なら1歩の平均は0,分散は l2 で,独立性と合わせて ⟨x2⟩=Nl2 となる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

断面積 A の十分長い管の静かな水に,原点で粒子を N0 個放します.実測した一定の拡散係数 D と,数密度 c に対して,長時間の解を

c(x,t)=N0A4πDtexp⁡(−x24Dt)

とします.∫−∞∞e−u2du=π を使えます.以下で求める時刻も τv=mμm より十分長いとします.

両面をT₀に保つ平板では,中央の温度がT₀+Θとなる放物線状の温度分布が測定される.熱は中央から両面へ流れ,右半分の薄い層では流出の熱流束q(z+dz)が流入q(z)より大きい. 両面をT₀に保つ平板では,中央の温度がT₀+Θとなる放物線状の温度分布が測定される.熱は中央から両面へ流れ,右半分の薄い層では流出の熱流束q(z+dz)が流入q(z)より大きい.
  1. 総粒子数の保存を確かめ,分母に A が必要な理由を述べてください.

  2. 原点から距離 L>0 の点で,濃度が最大となる時刻を求めてください.

解答を見る

考え方 粒子数は数密度を体積で積分する.最大濃度の時刻は時間微分で決める.

  1. u=x/4Dt とおけば A∫−∞∞cdx=N0 で,総数は一定である.c の単位は m−3.A を落とすと数密度でなく線密度になる.

  2. ln⁡c(L,t) の時間微分は −1/(2t)+L2/(4Dt2).これが0となる t=L2/(2D) が答えで,その前では増加,後では減少する.液体の D は気体の自由行程から求めない.

演習 3

東京大 2001 後期(改題) ★★☆☆☆

平行な壁の隙間 d に,同種の硬球分子からなる気体を入れます.数密度 n,衝突断面積 σ,平均の速さ v¯,1分子の熱容量 c1 を使い,λ=1/(2nσ),κ≈nv¯λc1/3 と見積もります.温度と壁の温度差は保ち,対流はありません.

白抜きの丸は真の位置x,塗った丸は記録位置yを表し,赤い矢印が位置誤差eを示す.中央の記録位置を右へ読み違えた例では,前の記録変位Yⱼが増え,次の記録変位Yⱼ₊₁が減る. 白抜きの丸は真の位置x,塗った丸は記録位置yを表し,赤い矢印が位置誤差eを示す.中央の記録位置を右へ読み違えた例では,前の記録変位Yⱼが増え,次の記録変位Yⱼ₊₁が減る.
  1. κ を n を含まない形にし,圧力を半分にしたときの変化を説明してください.

  2. 圧力 p0 で自由行程が λ0 なら,Kn∼1 となる圧力を求めてください.さらに圧力を下げたとき,どの領域で熱流が圧力に比例しますか.

解答を見る

考え方 運び手の数と運ぶ距離の積を調べ,壁による距離の制限を考える.

  1. κ≈v¯c1/(32σ) である.温度一定なら,数密度が半分になる効果と自由行程が2倍になる効果が打ち消し合う.ただし 1≫λ/d が必要である.

  2. n∝p だから λ=λ0p0/p.遷移の圧力は p∼p0λ0/d である.Kn∼1 は遷移で,圧力比例は Kn≫1 の自由分子領域で成り立つ.運ぶ距離が隙間で制限されるためである.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

面積 Sc=1.0×10−3m2 の集光装置に,太陽光が垂直に当たります.太陽定数は S0=1.2×103Wm−2 で,光の80 %が表面積 S=1.0×10−5m2 の黒体の球に吸収されます.球は温度 Te=300K の大きな等温の壁に囲まれた真空中にあり,温度は一様,支持部は断熱です.σSB=5.67×10−8Wm−2K−4 とします.

体積Vの槽1は初期濃度4c₀,体積3Vの槽2は初期濃度c₀で,流束Jは槽1から槽2へ向かう.長さL,断面積Sの管では,各瞬間の両端濃度c₁(t),c₂(t)を直線で結ぶ近似を用いる. 体積Vの槽1は初期濃度4c₀,体積3Vの槽2は初期濃度c₀で,流束Jは槽1から槽2へ向かう.長さL,断面積Sの管では,各瞬間の両端濃度c₁(t),c₂(t)を直線で結ぶ近似を用いる.
  1. 平衡温度 T を求めてください.

  2. 装置の半分を覆ったときの温度 T′ を T で表してください.温度も半分になりますか.

解答を見る

考え方 吸収する光と,環境から戻る分を差し引いた放射をつり合わせる.

  1. 0.80S0Sc=σSBS(T4−Te4) だから,T=[Te4+0.80S0Sc/(σSBS)]1/4≈1.1×103K である.

  2. T′4−Te4=(T4−Te4)/2 より,T′=[(T4+Te4)/2]1/4.ここでは環境の項が小さく,T′/T≈2−1/4≈0.84 で,半分にはならない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

面積 S の固定下板と,右向きに速さ U で動く上板の間に,混ざらない液体を厚さ d ずつ重ねます.下層の粘性率は η,上層は 2η です.下板から上板へ +z,右へ +x とします.定常層流で,圧力勾配はなく,板と界面で滑りません.温度は一定で,界面に外力はありません.

粘性率ηの下層と3ηの上層を厚さdずつ重ね,上板を速度Uで動かす.界面速度uᵢは連続で,薄い液体層の上面には右向き,下面には左向きに同じ大きさの粘性力が働く. 粘性率ηの下層と3ηの上層を厚さdずつ重ね,上板を速度Uで動かす.界面速度uᵢは連続で,薄い液体層の上面には右向き,下面には左向きに同じ大きさの粘性力が働く.
  1. 界面の速さ ui と,上板を引く力の大きさ F を求めてください.

  2. x 方向の運動量の +z 向きの流束を求め,各層で熱になる仕事率も求めてください.

解答を見る

考え方 せん断力をつり合わせ,各層の速度差を掛けて発熱を求める.

  1. 勾配は一定で,界面で ηui/d=2η(U−ui)/d.従って ui=2U/3,F=2ηSU/(3d).液体は上板を左へ引く.

  2. 法線を +z にとった運動量流束は −η∂u/∂z=−F/S で,上層でも −2η∂u/∂z=−F/S.負号は,正の x 運動量が下向きに運ばれることを表す.上層から下層への力は右向き,下層から上層への力は左向きである.下層の発熱は Fui=2FU/3,上層は F(U−ui)=FU/3 で,合計 FU は外力の仕事率に一致する.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

熱容量 C,表面積 S,放射率 ε の小物体は内部の温度が一様です.熱抵抗 R の支持部で台につながり,台,空気,壁の温度は Te です.対流の係数は h,初期温度差 θ0 は Te より十分小さく,係数は一定とします.

同じ気体を使う3つの装置で,標識粒子の個数,接線方向の運動量,エネルギーを測る.いずれも輸送方向の幅はdで,分子は平均自由行程λの間にそれぞれの量を運ぶ.中央の横向き矢印は流速,下向き矢印は運動量の輸送を表す. 同じ気体を使う3つの装置で,標識粒子の個数,接線方向の運動量,エネルギーを測る.いずれも輸送方向の幅はdで,分子は平均自由行程λの間にそれぞれの量を運ぶ.中央の横向き矢印は流速,下向き矢印は運動量の輸送を表す.
  1. hr=4εσSBTe3 を使い,温度差 θ(t)=T(t)−Te と冷却の時定数を求めてください.

  2. 1/R=0.020WK−1,hS=0.030WK−1,hrS=0.050WK−1 です.空気を除く場合と,放射率を10分の1にする場合で,時定数はそれぞれ何倍になりますか.

解答を見る

考え方 3経路の熱流を足し,物体の内部エネルギーの減少に等しくする.

  1. 正味の熱流は P=[1/R+(h+hr)S]θ である.Cdθ/dt=−P より θ(t)=θ0e−t/τ,τ=C/[1/R+(h+hr)S] となる.

  2. 係数の和は 0.100WK−1.気体の輸送を無視できる真空なら0.070となり,時定数は 10/7 倍.放射率だけを下げれば0.055で,20/11 倍である.ここでは放射を抑えるほうが効く.