問いしるべ
問いから始める物理 ゆらぎと拡散(発展)

ゆらぎと拡散(発展)

熱放射の演習

著者:柚木芹香

放射の出入りと,表面の性質の効果を考えましょう.σSB=5.67×10−8Wm−2K−4 を使います.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

面積 S=0.10m2,温度 T=400K の黒体面を,Te=200K の大きな等温環境に置きます.出ていく放射と正味の熱流 P を求めなさい.面の温度だけを2倍にすると,それぞれ何倍ですか.

面積 S=0.10 m²の黒体面を,温度 T_e=200 Kの環境で400 Kから800 Kへ加熱する.出ていく赤い放射は約145 Wから2322 Wへ16倍となるが,青い吸収は両方とも約9.07 Wで矢印の太さも変わらない.吸収量を1とすると放射は16から256へ,正味は15から255へ変わるので,正味の熱流は約136 Wから2313 Wへ17倍となる.赤い矢印の太さは2つの放射の量の比を示し,青との太さの比は模式的である. 面積 S=0.10 m²の黒体面を,温度 T_e=200 Kの環境で400 Kから800 Kへ加熱する.出ていく赤い放射は約145 Wから2322 Wへ16倍となるが,青い吸収は両方とも約9.07 Wで矢印の太さも変わらない.吸収量を1とすると放射は16から256へ,正味は15から255へ変わるので,正味の熱流は約136 Wから2313 Wへ17倍となる.赤い矢印の太さは2つの放射の量の比を示し,青との太さの比は模式的である.
解答を見る

考え方 T4 に比例する放射から,環境からの吸収を引く.

出ていく量は σSBST4≈145W.環境から約 9.1W を受け取り,正味は P≈136W である.出ていく量は 24=16 倍だが,正味の倍率は

8004−20044004−2004=25515=17

である.環境からの吸収は増えず,正味の倍率は16を超える.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

同じ面積の2枚の板を T=350K とし,Te=400K の大きな等温環境へ置きます.不透明な灰色体で,放射率 ε は磨いた板で 0.08,黒い板で 0.80 です.放射だけで熱を交換するとして,直後の正味の熱流の向きと大きさの比を求めなさい.磨いた板が放射しにくい理由と,平衡温度も答えなさい.

解答を見る

考え方 キルヒホッフの法則により,吸収にも放射と同じ ε が付く.

P=εσSBS(T4−Te4)<0 なので,正味では両方とも熱を受け取る.黒い板対磨いた板の比は 0.80/0.08=10 である.不透明でよく反射する板は吸収率も放射率も小さい.ε>0 なら P=0 は T=Te=400K であり,平衡温度は同じである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

黒体で近似できる電球のフィラメントで,電圧を上げると波長あたりの放射のピークが 1.45μm から 1.16μm へ移りました.変更前後の温度を,ウィーンの変位則 λmaxT=2.90×10−3mK から求めなさい.可視光の範囲を 0.40∼0.70μm として,赤外にピークがあっても光って見える理由と,温度上昇で可視光の割合がどう変わるかを説明しなさい.

プランクの式による2000 Kと2500 Kの波長スペクトルを,それぞれの全波長積分が1となるように規格化して示す.ピークは約1.45 μmから1.16 μmへ短波長側に移る.橙の縦帯は可視光0.40〜0.70 μmであり,赤外にピークがあっても短波長側のすそは可視域に入る.2500 Kでは全放射に占める可視光の割合が増す.横軸は線形目盛で,長波長側のすそは表示範囲の外にも続く. プランクの式による2000 Kと2500 Kの波長スペクトルを,それぞれの全波長積分が1となるように規格化して示す.ピークは約1.45 μmから1.16 μmへ短波長側に移る.橙の縦帯は可視光0.40〜0.70 μmであり,赤外にピークがあっても短波長側のすそは可視域に入る.2500 Kでは全放射に占める可視光の割合が増す.横軸は線形目盛で,長波長側のすそは表示範囲の外にも続く.
解答を見る

考え方 ピークは放射の最大位置で,分布はその両側に広がる.

波長をメートルに直して変位則へ代入すると,変更前は 2000K,変更後は 2500K である.分布の短波長側のすそに可視光があるので光って見える.この温度範囲では分布が短波長側へ移ると可視光の割合も増すが,ピークの位置だけから割合の数値は決められない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

面積 S=1.0m2,厚さ L=0.020m,熱伝導率 κ=0.040Wm−1K−1 の断熱板の内面を 305K に保ちます.外面は壁と空気が Te=300K の大きな室内に向き,側面は断熱します.外面の ε=0.90,自然対流の係数は h=4.0Wm−2K−1 です.放射を線形化し,定常の熱流,外面で多く熱を運ぶ機構,全体の律速を求めなさい.ε だけを 0.10 にする案と,厚さだけを2倍にする案も熱流で比較しなさい.

内面305 Kの板を熱が伝導で通った後,外面から対流と放射の並列経路で300 Kの環境へ流れる.定常熱流は約8.3 W,外面は約300.87 Kである.板の直列抵抗 R=L/(κS)=0.50 K W⁻¹に,対流1/(hS)=0.250 K W⁻¹と放射1/(h_r S)≈0.181 K W⁻¹の並列回路が続く.表面の合成抵抗は約0.105 K W⁻¹である.下の同じ尺度の棒は板の抵抗が表面の約4.8倍で,板内の伝導が律速となることを示す. 内面305 Kの板を熱が伝導で通った後,外面から対流と放射の並列経路で300 Kの環境へ流れる.定常熱流は約8.3 W,外面は約300.87 Kである.板の直列抵抗 R=L/(κS)=0.50 K W⁻¹に,対流1/(hS)=0.250 K W⁻¹と放射1/(h_r S)≈0.181 K W⁻¹の並列回路が続く.表面の合成抵抗は約0.105 K W⁻¹である.下の同じ尺度の棒は板の抵抗が表面の約4.8倍で,板内の伝導が律速となることを示す.
解答を見る

考え方 板内の伝導と外面での受け渡しは直列,外面の対流と放射は並列である.

hr=4εσSBTe3≈5.5Wm−2K−1.板と外面の熱抵抗は,それぞれ R=L/(κS)=0.50,1/[(h+hr)S]≈0.105(単位は KW−1)なので,

P=305−3000.50+0.105≈8.3W

となる.外面では放射が対流より多いが,律速は抵抗の大きい板内の伝導である.外面の温度差は約 0.87K と小さく,線形化は適切である.

磨く案では hr が 1/9 となり,P≈5/[0.50+1/(4.0+5.5/9)]=7.0W.厚さ2倍では板の抵抗が2倍で,P≈5/(1.0+0.105)=4.5W.厚さを増すほうが効果が大きい.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

衛星の内部発熱 160W を,片面の面積が S の一様温度の板へすべて送ります.両面から宇宙へ放射し,宇宙からの放射は無視します.板は全波長で ε=0.80 の不透明な灰色体です.影に置いて T≤300K に保つための最小の S を求めなさい.片面が S0=1.0×103Wm−2 の太陽光に垂直となるとき,面積の増加で温度上限を守れますか.吸収率と放射率が波長で変わる表面は扱いません.

片面の面積 S の板に内部発熱160 Wが入り,放射率 ε=0.80 の両面,合計面積2Sから宇宙へ放射する.影では160=2εσ_SB S T⁴でつり合う.日照では片面Sだけが太陽光 S₀=1.0×10³ W m⁻²を受け,εSS₀が吸収に加わる.面積を増やすと両面の放射も片面の日射の吸収も同じ割合で増え,内部発熱は160 Wのままである.300 Kでは日射の吸収800S Wが両面放射約735S Wを上回り,面積を増やしても300 K以下にできない.宇宙からの放射は無視する. 片面の面積 S の板に内部発熱160 Wが入り,放射率 ε=0.80 の両面,合計面積2Sから宇宙へ放射する.影では160=2εσ_SB S T⁴でつり合う.日照では片面Sだけが太陽光 S₀=1.0×10³ W m⁻²を受け,εSS₀が吸収に加わる.面積を増やすと両面の放射も片面の日射の吸収も同じ割合で増え,内部発熱は160 Wのままである.300 Kでは日射の吸収800S Wが両面放射約735S Wを上回り,面積を増やしても300 K以下にできない.宇宙からの放射は無視する.
解答を見る

考え方 放熱面積は 2S,受光面積は S.太陽光の吸収率も ε である.

影では 160=2εσSBST4.上限温度での最小面積は S=160/(2εσSB3004)≈0.22m2 である.

日照時のつり合いは

160=εS(2σSBT4−S0)

となる.T≤300K では S0>2σSBT4 で右辺は負となり,実現できない.面積を増すと日射の吸収も増え,放熱には T>[S0/(2σSB)]1/4≈306K が必要で,面積だけではこの温度下限を下げられない.

ポイント 教える人へ

  • 正味の熱流を問い,出入り両方の放射を描かせます.

  • 反射しやすい面の吸収と放射を問い,平衡温度を確かめます.

  • ピークを単色光と考えるつまずきには,可視域とすそを指ささせます.

  • 直列と並列を問い,表面で多い機構と全体の律速を区別させます.

  • 面積を増すと受熱も増える配置を描かせ,収支の符号を確かめます.