問いしるべ
問いから始める物理 ゆらぎと拡散(発展)

ゆらぎと拡散(発展)

熱放射の数学:4乗則を線形にする

著者:柚木芹香

放射の式は温度の4乗で,前の節までの「温度差に比例する」形とは見た目が違います.温度差が小さいときに線形な形へ直しておけば,伝導・対流・放射を同じ土俵で比べられます.

定理 数学の道具:4乗則の線形化と放射の熱伝達係数

物体の温度を T=Te+ΔT と書き,Te≫|ΔT| とする.1≫x で (1+x)4≈1+4x だから

T4−Te4=Te4[(1+ΔTTe)4−1]≈4Te3ΔT

となり,正味の放射は温度差に比例する形

P≈hrSΔT,hr=4εσSBTe3

に書ける.hr を放射の熱伝達係数という.表面から環境へ流体が運ぶ熱も,ふつう

P=hS(T−Te)

の形に書く(ニュートンの冷却の法則.h は実験で決める係数で,静かな空気の自然対流では 5∼10Wm−2K−1 程度).どちらも温度差に比例するので,h と hr を足して1つの表面の係数として扱える.

室温 Te=293K,ε=1 では hr≈5.7Wm−2K−1 で,自然対流と同じ桁です.室温付近の冷え方でも,放射は対流と同じくらい効きます.

練習. (1) 500K の環境では hr は室温の何倍か.(2) ΔT が Te の 10 % のとき,線形化した値は正しい値の何倍か.

答え:(1) hr∝Te3 なので (500/293)3≈5.0 倍(約 28Wm−2K−1). (2) 正しい値は (1.1)4−1=0.4641 に比例し,線形化は 4×0.1=0.4 なので 0.4/0.4641≈0.86.14 % 小さく見積もる.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

太陽光に垂直な面が地球の軌道で受ける放射は,単位面積あたり S0=1.37×103Wm−2 である(太陽定数).半径 R の球形の惑星が,当たった放射のうち割合 A(アルベド)を反射して残りを吸収する.表面は赤外線に対して黒体(ε=1)とし,大気は考えない.

半径 R の惑星に平行な太陽光が当たる.光に垂直な影の円板の面積は πR²であり,入射 S₀πR²のうち割合 A は反射され,残りの S₀(1−A)πR² が吸収される.自転が速く全球が同じ温度 T になる場合,赤い矢印で示す放射は表面積4πR²の全球から出て,σ_SB T⁴·4πR²となる.放射面積は受光面積の4倍である. 半径 R の惑星に平行な太陽光が当たる.光に垂直な影の円板の面積は πR²であり,入射 S₀πR²のうち割合 A は反射され,残りの S₀(1−A)πR² が吸収される.自転が速く全球が同じ温度 T になる場合,赤い矢印で示す放射は表面積4πR²の全球から出て,σ_SB T⁴·4πR²となる.放射面積は受光面積の4倍である.
  1. 自転が速くて全球が同じ温度 T になるとして,吸収と放射のつり合いから T を求めなさい.A=0.30 での数値と,A=0 での数値も出しなさい.

  2. 逆に自転がとても遅く,太陽に正対する点の近くだけがその場でつり合うとする.その点の温度を A=0.12(月)で求めなさい.

  3. 地球の地表の平均気温は約 288K で,(1)の値より高い.何が足りないか述べなさい.

解答を見る

考え方 受け取る面積と放射する面積が違うことが山である.平行光線を受け取るのは影の面積 πR2,放射するのは全表面 4πR2 で,4倍の差がある.

  1. 吸収は S0(1−A)πR2,放射は σSBT4⋅4πR2 で,等しいとおくと

T=[S0(1−A)4σSB]1/4

である.R が消えるので惑星の大きさに依らない.A=0.30 では T≈2.55×102K(−18∘C),A=0 では T≈2.79×102K で,反射をやめても 24K しか上がらない.T∝(1−A)1/4 と効きが鈍いからである.

  1. その点では受け取る面積と放射する面積が同じなので S0(1−A)=σSBT4,すなわち T≈3.8×102K.(1)の 4 が無いので 41/4=1.41 倍高い.月の昼が 390K 近く,夜が 100K 台になるのは,熱を全球へ配る手段がないからである.

  2. 大気である.大気は可視光をほとんど通すのに,地表が出す赤外線は吸収して一部を地表へ返す.地表のつり合いにはその分が加わるので,地表は(1)より高温になる.(1)の 255K は,惑星が宇宙へ出す放射の温度にあたる.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

半径 r=2.0cm のアルミの球(ρ=2.7×103kgm−3,c=9.0×102Jkg−1K−1,κ=2.4×102Wm−1K−1)を,Te=293K の静かな部屋に置く.初めの温度は 350K,表面の対流の係数は h=8.0Wm−2K−1,放射率は磨いた面で ε=0.10,黒く塗ると 0.90 とし,線形化には平均の温度 320K を使う.

初め350 Kの球を293 Kの静かな部屋に置く.左の緑の矢印は対流 hSΔT,赤い矢印は正味の放射 h_r SΔT を示す.右は320 Kで放射を線形化した指数近似 T(t)=293+57 exp(−t/τ) による冷却曲線である.磨いた面 ε=0.10 の時定数は約1.9×10³ s,黒く塗った面 ε=0.90 は約1.1×10³ sで,どちらも293 Kへ近づく.各時定数で温度差は初期の1/eとなり,温度は約314 Kである. 初め350 Kの球を293 Kの静かな部屋に置く.左の緑の矢印は対流 hSΔT,赤い矢印は正味の放射 h_r SΔT を示す.右は320 Kで放射を線形化した指数近似 T(t)=293+57 exp(−t/τ) による冷却曲線である.磨いた面 ε=0.10 の時定数は約1.9×10³ s,黒く塗った面 ε=0.90 は約1.1×10³ sで,どちらも293 Kへ近づく.各時定数で温度差は初期の1/eとなり,温度は約314 Kである.
  1. 球の中の温度を一様とみなしてよいか,内部の均一化の時間と冷える時間を比べて確かめなさい.

  2. 磨いた面と黒く塗った面について,冷え方の時定数を求めなさい.

  3. この球を,代わりに厚い断熱板を1枚はさんで冷却器につないだとする.どこが律速になるかの違いを述べなさい.

解答を見る

考え方 表面での受け渡しを h+hr でまとめ,熱容量 C との比で時定数 C/[(h+hr)S] を作る.内部が追いつくかは熱拡散率で見る.

  1. 熱拡散率は α=κ/(ρc)≈9.9×10−5m2s−1 で,内部の均一化の時間は r2/α≈4s である.下で求める冷える時間は 103s の桁なので,内部はつねにほぼ一様とみなせる.hr/κ≈7×10−4 が1よりはるかに小さい,と言っても同じである.

  2. hr=4εσSB(320)3≈7.4εWm−2K−1 なので,磨いた面は 0.74,黒い面は 6.7 である.C=ρcV≈81JK−1,S=4πr2=5.0×10−3m2 だから

τ=C(h+hr)S

より,磨いた面は約30分(1.9×103s),黒い面は約18分(1.1×103s)である.黒く塗るだけで4割ほど速く冷えるのだから,室温でも放射を落としてはいけない.

  1. いまは内部の伝導が速く表面での受け渡しが遅いので,表面の係数だけで時定数が決まった.断熱板をはさむと板の熱抵抗 L/(κS) が表面の抵抗 1/[(h+hr)S] を上回り,こちらが律速になる.直列の抵抗のうち大きいほうが全体を決める.

ポイント ここまでのまとめ

  • 温度差が小さければ4乗則は線形化でき,P≈hrSΔT,hr=4εσSBTe3.室温の ε=1 で 5.7Wm−2K−1 ほどと,自然対流と同じ桁である.

  • 表面での受け渡しは h+hr にまとめ,冷え方の時定数は C/[(h+hr)S].内部を一様とみなせるのは,均一化の時間 L2/α がこれよりずっと短いときである.どれが律速かは,直列の抵抗の大きいほうを探せば分かる.

  • 平行光線を受け取る面積 πR2 と放射する面積 4πR2 の違いが,惑星の平衡温度の 4 の出どころである.アルベド 0.30 で 255K,正対点だけなら 41/4 倍になる.