問いしるべ
問いから始める物理 ゆらぎと拡散(発展)

ゆらぎと拡散(発展)

第18章の発展問題

著者:柚木芹香

放射の多重反射,動く境界,気体の反跳力,平衡への緩和を4題で扱います.保存則と近似の条件を確認してください.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

温度 T1>T2,放射率 ε1,ε2 の十分広い平面が真空中で向かい合います.両面は不透明な灰色体で,0<εi≤1 は一定です.入射放射の割合 εi が吸収され,残りが反射されます.伝導と端からの漏れは無視します.

左は中心0,定数k₀の平衡,右は中心b,定数k₁=2k₀に切り替えた後の平衡を示す.灰色の谷が捕獲装置,青い曲線が位置の分布を表す.平均位置は0からbへ移り,幅√Vは狭くなるが,切替直後の位置と分布は連続である.下段は同じ粒子の時刻tとt+sの位置を表す. 左は中心0,定数k₀の平衡,右は中心b,定数k₁=2k₀に切り替えた後の平衡を示す.灰色の谷が捕獲装置,青い曲線が位置の分布を表す.平均位置は0からbへ移り,幅√Vは狭くなるが,切替直後の位置と分布は連続である.下段は同じ粒子の時刻tとt+sの位置を表す.
  1. 面1の放射 ε1σSBT14 のうち,面2が吸収する単位面積あたりの熱流を求めてください.1往復ごとの残存割合を考え,1+r+r2+⋯=1/(1−r) を使えます.

  2. 正味の熱流を導き,黒体どうしと ε1=ε2=0.10 の場合を比べてください.

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考え方 新しく放射された分が,往復するたびに吸収される量を足す.

  1. 面2での最初の吸収は ε1ε2σSBT14.面2と面1で1回ずつ反射されると,残る割合は r=(1−ε1)(1−ε2) である.従って面2での吸収をすべて足すと

ε1ε2σSBT14∑j=0∞rj=ε1ε2σSBT141−r

となる.0≤r<1 なので収束する.面1に戻って吸収される分は正味の移動に含めない.

  1. 面2から面1への寄与は,同じ係数に T24 を掛けたものである.面積を S,面1から面2へ向かう正味を P>0 とすると,

PS=ε1ε2σSB(T14−T24)ε1+ε2−ε1ε2=σSB(T14−T24)1/ε1+1/ε2−1

である.黒体どうしでは分母が1.両面が0.10なら分母は19で,黒体の 1/19 に減る.放射率の積だけを掛けると,多重反射を落としてしまう.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

長さ L,断面積 A の細管の底に液体があり,口から液面までの距離は z(t),初期値は z0=L/3 です.温度は一定,液面の蒸気数密度は飽和値 cs,口は co<cs に保ちます.気体中の蒸気の拡散係数 D は実測値です.希薄な蒸気を考え,空気の流れを無視します.液体の数密度 nl は蒸気より十分大きく,液面移動による蒸気量の補正は無視します.

表面を周期的に加熱・冷却する固体の内向きをzの正方向とする.深さが4.0 mm異なる2つの温度計は,どちらも周期80 sの温度変化を記録する.下側の振幅は上側の1/eで,変化の位相も遅れる. 表面を周期的に加熱・冷却する固体の内向きをzの正方向とする.深さが4.0 mm異なる2つの温度計は,どちらも周期80 sの温度変化を記録する.下側の振幅は上側の1/eで,変化の位相も遅れる.
  1. 蒸気分布が定常に近いとして,流束 J,液面の移動の式,全部蒸発する時間を求めてください.

  2. 拡散時間 z2/D と液面の移動時間 z/(dz/dt) を比べ,近似を確かめてください.

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考え方 蒸気の流出数を液体の減少数に等しくし,伸びる拡散距離を考慮する.

  1. 液面から口へ向かう座標を x とすると,c=cs−(cs−co)x/z,従って J=D(cs−co)/z である.粒子収支は nlAdz/dt=AJ だから,

z2=z02+2D(cs−co)nlt,tend=4nlL29D(cs−co)

となる.断面積は消え,z=L で液体がなくなる.

  1. 移動時間は nlz2/[D(cs−co)].拡散時間との比は (cs−co)/nl で,仮定より十分小さい.分布が整う間に液面はほとんど動かず,近似はよい.

演習 3

東京大 2006 前期(改題) ★★★★☆

面積 S の板を,温度 Te の壁に囲まれた希薄気体中に置きます.気体の数密度を n,圧力を p=nkBTe とし,自由分子領域 Kn≫1 に限ります.ヒーターが片面を熱流 P0 で加熱し,その面の温度は Te+θ,裏面は Te に保たれます.加熱面から裏面への熱抵抗は R,加熱面の放射率は ε>0 です.加熱は弱く,θ は Te より十分小さいとします.気体に失う熱流は,測定した定数 g>0 により gpSθ とします.

力の計算には,質量 m の分子が直交する6方向に等分され,速さ v0=3kBTe/m で入射する模型を使います.吸着した分子は同数ずつ,温度 T の面から法線方向へ速さ 3kBT/m で再放出されます.

閉じた管で装置1と2がA,Bを対で一様に生成し,出会ったAとBは生成物へ変わる.両端では流束Jが0である.下段は一様な定常濃度cₑに半周期の余弦のむらを加えた初期分布で,両端の勾配も0となる. 閉じた管で装置1と2がA,Bを対で一様に生成し,出会ったAとBは生成物へ変わる.両端では流束Jが0である.下段は一様な定常濃度cₑに半周期の余弦のむらを加えた初期分布で,両端の勾配も0となる.
  1. 放射を線形化して定常の θ を求め,g の単位も述べてください.

  2. 両面の反跳の差から,板が気体から受ける力 F の大きさと向きを求めてください.同じ P0 で p→0 としたときの力も調べてください.1+y≈1+y/2 を使えます.

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考え方 熱収支で温度差を決め,再放出の運動量から力を求める.

  1. hr=4εσSBTe3 とおく.熱収支は P0=[1/R+S(hr+gp)]θ なので,

θ=P01/R+S(hr+gp)

である.gp は熱伝達係数だから,g の単位は Wm−2K−1Pa−1.

  1. 片面に毎秒入る数は nv0S/6 である.入射による力は両面で相殺され,再放出の反跳の差が残る.従って

F=nmv02S6(1+θTe−1)≈pSθ4Te=pSP04Te[1/R+S(hr+gp)]

となる.反跳が大きい高温面から裏面へ向かう.p→0 では伝導と放射が温度上昇を有限に保ち,F は圧力に比例して0へ近づく.

演習 4

オリジナル ★★★★★

長さ L,断面積 A の閉じた管に,温度 T の希薄な粒子を N 個入れます.数密度 c(x,t)>0,位置エネルギー U(x),拡散係数 D(x)>0 を用い,流束を

J=−D(x)[∂c∂x+ckBTdUdx],∂c∂t=−∂J∂x

とします.両端で J=0,U,D は時間によらず滑らかで,粒子の生成と消滅はありません.

両板を温度T₀に保ち,上板を一定の力F=Sτで右へ引く.薄い層の上面と下面の粘性力は同じ大きさで逆向きだが,上面の速度u(z+dz)は下面のu(z)より大きい.仕事率の差が発熱となり,熱は両壁へ逃げる. 両板を温度T₀に保ち,上板を一定の力F=Sτで右へ引く.薄い層の上面と下面の粘性力は同じ大きさで逆向きだが,上面の速度u(z+dz)は下面のu(z)より大きい.仕事率の差が発熱となり,熱は両壁へ逃げる.
  1. 総粒子数 A∫0Lcdx の保存を示し,平衡濃度 ce(x) を求めてください.

  2. G=kBTA∫0Lcln⁡(c/ce)dx が非負で,時間とともに増えないことを示してください.等号の条件も調べてください.zln⁡z−z+1≥0 を使えます.

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考え方 平衡との比で流束を書き換え,保存則と部分積分を使う.

  1. dN/dt=−A[J]0L=0.定常では J が一定で,両端の条件から0.従って

ce(x)=Ce−U(x)/(kBT),C=NA∫0Le−U(x)/(kBT)dx

を得る.

  1. z=c/ce とおく.総数が等しいので A∫0L(c−ce)dx=0.これを引けば

GkBT=A∫0Lce(zln⁡z−z+1)dx≥0

となり,等号は全区間で c=ce のときだけである.平衡の式から J=−Dc∂ln⁡z/∂x.時間微分の定数項は総数保存で消え,端の流束も0なので,部分積分して

dGdt=kBTA∫0LJ∂ln⁡z∂xdx=−kBTA∫0LDc(∂ln⁡z∂x)2dx≤0

を得る.減少率0なら ln⁡z は一定で,総数の一致から z=1 である.この G は,第16章で扱った自由エネルギーの,理想希薄粒子系における平衡からの差として読める.D は平衡分布を変えず,近づく速さを変える.