問いしるべ
問いから始める物理 電荷と電場

電荷と電場

クーロンの法則と電場

著者:柚木芹香

問い

プラスチックの下じきを服でこすって頭に近づけると,髪の毛が下じきに吸い寄せられて持ち上がります.髪の毛を下へ引いているのは地球全体の重力です.地球の質量は 6.0×1024kg もあるのに,手のひらほどの下じきが,どうしてそれに勝てるのでしょうか.しかも,髪の毛のほうは何もこすっていないのに引かれます.電気を帯びていないものが引かれるのはなぜでしょうか.

ここから電磁気の分野(第20〜24章)に入ります.電磁気の見方は「電荷が場を作り,場が電荷に力を及ぼす」の一言にまとまります.電荷が止まっていれば電場だけが現れ(この章),電荷が動いて電流になると磁場も現れ(第21・22章),場が時間とともに変わると,磁場の変化が電場を,電場の変化が磁場を生みます(第23・24章).第24章で,法則の全部が次の4つ(マクスウェル方程式)と電荷が受ける力の式にまとまることを見ます.この章では静電気を,クーロンの法則と電場(この題材),ガウスの法則,電位,導体とコンデンサー,誘電体の順に扱います.万有引力(第10章)と同じ逆2乗の力なので,球殻の定理などの考え方がそのまま使えます.本体と数学の節のうち,発散・回転などのベクトル解析を使う部分には(発展)と付けてあり,初めて読むときは飛ばしてかまいません.

ポイント 電磁気の見取り図(言葉で)

  1. 閉じた面から出ていく電場の流束は,中にある電荷に比例する(ガウスの法則,第20章).

  2. 閉じた面から出ていく磁場の流束は,いつも0である(磁荷は無い,第22章).

  3. 閉じた道を一周する電場の線積分は,その道を縁とする面を貫く磁場の流束の減る速さに等しい(電磁誘導の法則,第23章).

  4. 閉じた道を一周する磁場の線積分は,その道を貫く電流と,電場の流束の変化の速さで決まる(第22章と第24章).

電荷 q が速度 v で動くとき,受ける力は F=q(E+v×B) である.

ポイント 第20章で使う記号

記号

意味

q, Q

電荷(単位 C,クーロン)

e

電気素量 1.60×10−19C.電子の電荷は −e

ε0, k

真空の誘電率,クーロンの法則の比例定数 k=1/(4πε0)

E

電場(単位 NC−1=Vm−1)

er

原点から外向きの単位ベクトル

ρ, σ, λ

体積・面・線の電荷密度(単位 Cm−3, Cm−2, Cm−1)

p

電気双極子モーメント

ΦE

電場の流束(電束)

V, U

電位・電圧,静電エネルギー

C

電気容量

εr, P, D

比誘電率,分極,電束密度(第5題材)

ρ は第21章で抵抗率に,λ は第25章から波長に使います.章の初めの表で確かめてください.

考えてみる

下じきの質量は地球よりはるかに小さいので,重力の仲間の力なら勝てるはずがありません.重力よりけた違いに強い電気の力が働いているはずで,どれほど強いのかを数で確かめるのが1つ目の課題です.

2つ目の課題はもっと厄介です.電気の力が帯電したものどうしに働くのなら,帯電していない髪の毛は引かれないはずです.「帯電していない」ことの中身を考え直す必要があります.

電荷

こすった2枚の下じきは退け合い,下じきとこすった布は引き合います.電気には2種類あり,同じ種類どうしは退け合い,違う種類どうしは引き合うのです.この性質を担う量を電荷といい,2種類を正と負の符号で区別します.

原子の中心には正の電荷をもつ原子核があり,そのまわりに負の電荷をもつ電子があります.ふつうの物体では正と負がほぼ正確に打ち消し合い,全体の電荷は0(電気的に中性)です.2つの物体をこすると電子の一部が一方からもう一方へ移り,受け取った側が負に,失った側が正に帯電します(摩擦帯電).

法則 電荷の保存と電気素量

  • 外と電荷のやりとりが無い系では,電荷の総和(正と負を符号つきで足したもの)は変わらない.

  • 自由に取り出せる電荷は,電気素量 e=1.60×10−19C の整数倍である.陽子の電荷は +e,電子の電荷は −e.

電荷が飛び飛びであることは,ミリカンが示しました.電場の中に浮かせた油滴の電荷をつり合いから測ると,どれも共通の値の整数倍だったのです.

金属のように,自由に動き回れる電子(自由電子)をもつ物質を導体,電子が原子や分子に縛られて動けない物質を絶縁体(不導体)といいます.下じきや髪の毛は絶縁体です.

クーロンの法則

法則 クーロンの法則

真空中で距離 r だけ離れた2つの点電荷 q1,q2 の間には,2つを結ぶ直線に沿って,大きさ

F=k|q1q2|r2,k=14πε0=8.99×109Nm2C−2

の力が働く.同符号なら斥力,異符号なら引力である.ε0=8.85×10−12C2N−1m−2 を真空の誘電率という.

向きまで含めると,q2 から q1 へ向かう単位ベクトルを e として q1 が受ける力は F1=kq1q2e/r2 で,q2 が受ける力は −F1 です(作用反作用の法則,第4章).

万有引力 Gm1m2/r2(第10章)とそっくりな形ですが,電荷には正負があって斥力もあることと,強さのけたが違います.k の代わりに 1/(4πε0) と書くのは,次の題材のガウスの法則がきれいな形になるからです.点電荷を囲む球面の面積は 4πr2 なので,球面を通る電場を足し合わせると,必ず 4π が出てきます.4π をクーロンの法則の側に入れておけば,ガウスの法則には 4π が現れません.どちらか一方に 4π が付くのは避けられず,今の物理ではガウスの法則のほうを簡単にする書き方を選んでいます.

電気の力はどれほど強いか

電子2個の間の電気の力と重力の比は,距離によりません.電子の質量 me=9.11×10−31kg と G=6.67×10−11Nm2kg−2 を使うと

ke2Gme2=8.99×109×(1.60×10−19)26.67×10−11×(9.11×10−31)2≈4×1042

です.電気の力は重力より 1042 倍も強いのです.

それでも目立たないのは,正と負がほとんど完全に打ち消し合っているからです.打ち消しが少し崩れたらどうなるでしょう.質量 70kg の人の体には陽子がおよそ 70/(2×1.67×10−27)≈2×1028 個あります(質量の約半分が陽子).2人の体で電子が陽子より 1 % だけ多ければ,余分な電荷はそれぞれ 2×1026×1.6×10−19≈3×107C です.1m 離れて立つ2人の間の斥力は

F≈8.99×109×(3×107)212≈1025N

で,地球と同じ質量の物体が地表で受ける重力 6×1025N に迫ります.物質がこれほど正確に中性を保っているのは,わずかでも偏ると,この強い力が偏りを戻すからです.

左では地球の重力が髪の毛を下へ引き,右では負の電荷がわずかに多い下じきが髪の毛を上へ引く.矢印の長さと粒の数は模式的に示している. 左では地球の重力が髪の毛を下へ引き,右では負の電荷がわずかに多い下じきが髪の毛を上へ引く.矢印の長さと粒の数は模式的に示している.

重ね合わせと電場

電荷がたくさんあるとき,1つの電荷が受ける力は,ほかの電荷が1つずつ及ぼす力をベクトルとして足したものです(重ね合わせの原理,実験で確かめられた事実).すると電荷 q が受ける力は,ほかの電荷の配置で決まるベクトルに q を掛けた形をしています.そのベクトルを,空間の各点に割り当てられた量と考えます.

定義 電場

点 r に置いた電荷 q が受ける力が F のとき,その点の電場を

E(r)=Fq

と定める.q は,まわりの電荷の配置を乱さないほど小さいとする(試験電荷).単位は NC−1(Vm−1 と同じ).

原点に置いた点電荷 Q が作る電場は E=kQer/r2 で,Q>0 なら外向き,Q<0 なら内向きです.たくさんの点電荷 qi が位置 ri にあれば,重ね合わせの原理から

E(r)=∑ikqir−ri|r−ri|3

です.電荷が連続に分布しているときは,和を積分に置き換えます(次の題材の数学の節).

電場は計算の道具というだけではありません.遠くの電荷を急に動かしても,影響は光の速さで遅れて届き,その間,力を運んでいるのは空間の状態,つまり場です.場はエネルギーも持ち(コンデンサーの題材と第24章),電波や光は電荷から離れて飛んでいく場そのものです(第26章).

電気力線

各点で電場の向きに接する曲線を,電場の強い所ほど密に描いたものが電気力線です.点電荷の電気力線は放射状の直線で,正電荷から出て無限遠へ向かい,負電荷には無限遠から入ります.電荷の無い所で始まったり終わったりせず,2本が交わることもありません(交われば,その点で電場の向きが2つになる).

[図:2つの点電荷の電気力線]

初期状態は q₂/q₁ = −1 で,力線は左の正電荷から右の負電荷へ向かう.スライダーで電荷比を −2 から +2 へ変えると,力線の形と同符号の場合の電場が0の点が変わる.

電気双極子

正負の電荷 +q,−q が小さな距離 d だけ離れた組を電気双極子,−q から +q へ向かう大きさ qd のベクトルを電気双極子モーメント p といいます.全体の電荷は0ですが,電場は0になりません.

+q を z=d/2,−q を z=−d/2 に置き,z 軸上の遠い点 z=r での電場を求めます.

Ez=kq[1(r−d/2)2−1(r+d/2)2]=kq2rd(r2−d2/4)2≈2kpr3

最後は d/r が十分小さいとして,分母の d2/4 を落としました.垂直二等分線上で距離 r の点では z 成分だけが残り,Ez≈−kp/r3(p と逆向き)です.正負の電荷の電場はそれぞれ 1/r2 ですが,遠くから見ると2つはほぼ同じ場所にあるので,打ち消し合って1つ高い次数の 1/r3 だけが残るのです.

z 軸上の −q から +q へ双極子モーメント p が向く.軸上の外側の電場は p と同じ向きで,垂直二等分線上では逆向きである. z 軸上の −q から +q へ双極子モーメント p が向く.軸上の外側の電場は p と同じ向きで,垂直二等分線上では逆向きである.

水の分子のように,正と負の電荷の重心がもともとずれている分子(極性分子)は双極子です.

中性の物体が引かれるわけ

一様な電場の中の双極子では,+q と −q が受ける力が打ち消し合い,合力は0です(トルクは働きます).ところが電場が場所によって違うと,合力が残ります.x 方向の電場 E(x) の中に,p を x 方向に向けた双極子を置くと,合力は

F=qE(x+d2)−qE(x−d2)≈qddEdx=pdEdx

です(d について1次の近似).

中性の物体を帯電体に近づけると,中の電荷が少しずれます.導体なら自由電子が動き(静電誘導),絶縁体なら電子の雲が偏ったり極性分子の向きがそろったりします(誘電分極,第5題材).どちらでも帯電体に近い側に異符号,遠い側に同符号の電荷が現れ,電場と同じ向きの双極子ができます.近い側の異符号の電荷のほうが強い電場の所にあるので,引力が勝ちます.帯電体の電荷の符号によらず,力はいつも電場の強い所,つまり帯電体へ向かいます.

[図:帯電した下じきによる髪の毛の分極]

初期状態は負に帯電した下じきで,髪の毛の近い側に正,遠い側に負の電荷が偏る.正負の切替ボタンと接近のスライダーで,どちらの符号でも近づくほど引力が強まることを示す.

近似の条件:点電荷とみなせるのは物体の大きさが距離より十分小さいとき,双極子の電場 ∝1/r3 と力 pdE/dx は d が r や電場の変わる距離より十分小さいときです.

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電気の力は重力より 1042 倍も強いので,わずかな電荷の偏りで大きな力になります.こすった下じきの余分な電荷は多くても 10−7C 程度で,下じきの電子の全電荷(105C のけた)の1兆分の1にも足りませんが,長さ10 cmほどの髪の毛の重さ(10−5N 程度)に勝つには十分です.重力はそれほど弱いのです.

帯電していない髪の毛が引かれるのは,下じきの電場で中の電荷が偏り,電場の強い近い側に異符号の電荷が寄るからです.下じきの電荷の符号によらず引き寄せられます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 電荷には正負があり,保存し,電気素量 e=1.60×10−19C の整数倍の値をとる.

  • クーロンの法則 F=k|q1q2|/r2,k=1/(4πε0)=8.99×109Nm2C−2.力は重ね合わせられる.

  • 電場 E=F/q.点電荷なら kQer/r2.電気力線は正電荷から出て負電荷に入る.

  • 電気の力は重力より 1042 倍も強く,物質はほぼ正確に中性を保つ.

  • 双極子 p の遠方の電場は 1/r3 で減り,非一様な電場の中で pdE/dx の力を受ける.

  • 中性の物体は,電場で電荷が偏って双極子になり,強い電場の側,つまり帯電体へ引き寄せられる.