問いしるべ
問いから始める物理 運動量と質点系

運動量と質点系

衝突の計算

著者:柚木芹香

この節では,前の節の一般解の導き方と,重心から見ると衝突が簡単になることを学びます.

定理 数学の道具:連立方程式の解き方と重心系

連立方程式 衝突前の速度を v1,v2,衝突後を u1,u2 とする.

(A)  m1u1+m2u2=m1v1+m2v2,(B)  u1−u2=−e(v1−v2)

和と差で解く.(B) に m2 をかけて (A) に足すと u2 が消える.

(m1+m2)u1=m1v1+m2v2−em2(v1−v2)

これを整理すると u1=v1−(1+e)m2m1+m2(v1−v2).(B) から u2=u1+e(v1−v2) として u2 も得られる.

重心系 衝突の前後で,重心の速度 V=m1v1+m2v2m1+m2 は変わらない(外力がないとき).重心から見た速度を vi∗=vi−V と書くと,定義から

m1v1∗+m2v2∗=0,m1u1∗+m2u2∗=0

である.重心系では運動量の和が衝突前も後も 0 で,(B) は u1∗−u2∗=−e(v1∗−v2∗) となる.v2∗=−m1m2v1∗ と u2∗=−m1m2u1∗ を代入すると u1∗=−ev1∗,同様に u2∗=−ev2∗ を得る.

1次元の衝突を重心から見ると,各物体の速度は向きが逆になり,大きさが e 倍になる. 元の系では V を足して,

ui=V+ui∗=(1+e)V−evi

である.一般解より計算が楽である.

練習.

  1. m1=2kg,m2=1kg,v1=3ms−1,v2=0,e=0.5 のとき,u1,u2 を重心系の方法で求めよ.

  2. e=0 なら u1=u2=V となることを示せ.

  3. m1=1.0kg,m2=3.0kg,v1=4.0ms−1,v2=0,e=1 のとき,u1,u2 を求め,運動エネルギーの和 12m1v12+12m2v22 が衝突の前後で等しいことを確かめよ.

  4. m1=m2,e=1 なら,2つの物体は速度を交換することを示せ.

  5. m1=1.0kg,m2=3.0kg,v1=5.0ms−1,v2=−3.0ms−1(向かい合って進む),e=1 のとき,V と u1,u2 を求めよ.

答え:(1) V=2ms−1.u1=1.5⋅2−0.5⋅3=1.5,u2=1.5⋅2−0.5⋅0=3(いずれも ms−1).運動量は 2⋅1.5+1⋅3=6 で衝突前と一致する. (2) ui=V−0⋅vi=V で,2つは一体となって動く. (3) V=4.04.0=1.0ms−1,u1=2×1.0−4.0=−2.0ms−1(はね返る),u2=2×1.0−0=2.0ms−1.運動エネルギーは前 12×1.0×4.02=8.0J,後 12×1.0×2.02+12×3.0×2.02=2.0+6.0=8.0J で等しい. (4) V=v1+v22 なので u1=2V−v1=v2,u2=2V−v2=v1. (5) V=1.0×5.0+3.0×(−3.0)4.0=−1.0ms−1,u1=2V−v1=−7.0ms−1,u2=2V−v2=1.0ms−1.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平面上で,質量が等しい小球AとBが,A は右向きに 5.0ms−1,B は左向きに 3.0ms−1 で正面衝突する.右向きを正とする.

一直線上でAが右向き,Bが左向きに近づく衝突前の図を描く.矢印の向きだけ示す. 一直線上でAが右向き,Bが左向きに近づく衝突前の図を描く.矢印の向きだけ示す.
  1. 反発係数が e=1 のとき,衝突後の速度を求めよ.

  2. 反発係数が e=0.6 のとき,衝突後の速度を求めよ.

解答を見る

考え方 重心の速度 V を求め,ui=(1+e)V−evi を使う.

  1. V=5.0+(−3.0)2=1.0ms−1.uA=2⋅1.0−5.0=−3.0,uB=2⋅1.0+3.0=5.0(ms−1).速度が入れ替わる.

  2. uA=1.6⋅1.0−0.6⋅5.0=−1.4,uB=1.6⋅1.0+0.6⋅3.0=3.4(ms−1).相対速度は −4.8=−0.6⋅8.0 で,反発係数の式に合う.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

床から高さ 1.6m のところから,ボールを静かに落とした.床に当たってはね返り,最高点の高さは 0.90m になった.重力加速度を 9.8ms−2 とし,空気の抵抗は無視する.

出発高さと最初のはね返りを別々の縦線で示す.2回目以後の未知の高さは示さない. 出発高さと最初のはね返りを別々の縦線で示す.2回目以後の未知の高さは示さない.
  1. ボールと床の間の反発係数 e を求めよ.

  2. 2回目のはね返りの最高点の高さを求めよ.

解答を見る

考え方 床は動かず,v2=0,u2=0 である.水平な床への鉛直方向の衝突なので,直前と直後の速さの比が e になる.高さと速さの関係は v2=2gh.

  1. 衝突直前の速さを v,直後の速さを u とすると,v=2g⋅1.6,u=2g⋅0.90.

e=uv=0.901.6=34=0.75
  1. 1回目の最高点 0.90m から落ちる.速さが e 倍になれば高さは e2 倍で,

h2=e2×0.90=0.5625×0.90≈0.51m

である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

なめらかな水平面上で,質量 m の円板Aが速さ v で進み,静止している同じ質量の円板Bに衝突する.円板どうしの接触もなめらかで,接線方向の力積はない.衝突の瞬間,2つの中心を結ぶ直線(法線)は,Aの進行方向と 30∘ の角をなす.

円板Aが右へ進み,静止した円板Bに衝突する瞬間を描く.中心を結ぶ法線と,Aの進行方向のなす角30°を示す.衝突後の速度は描かない. 円板Aが右へ進み,静止した円板Bに衝突する瞬間を描く.中心を結ぶ法線と,Aの進行方向のなす角30°を示す.衝突後の速度は描かない.
  1. 反発係数が 1 のとき,衝突後の A と B の速度の向きと大きさを求めよ.

  2. 反発係数が 0.5 のとき,A の衝突後の速さを求めよ.

解答を見る

考え方 法線方向を n,それに垂直な方向を t にとる.t 成分は力が働かないので変わらない.n 成分は1次元の衝突として扱う.

Aの初めの速度は vn=vcos⁡30∘=32v,vt=vsin⁡30∘=v2.Bは静止している.

  1. 等質量の弾性衝突なので,n 成分は入れ替わり,A:0,B:32v.t 成分は A:v2,B:0 のまま.よって A は法線に垂直な向きに速さ v2,B は法線の向きに速さ 32v で動き,2つの向きは直角をなす.

  2. n 成分について,V=12⋅32v=34v.uAn=(1+e)V−evn=1.5⋅34v−0.5⋅32v=38v.t 成分は v2 のままなので,

uA=(38v)2+(v2)2=198v≈0.54v

である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 衝突の連立方程式は,運動量保存則 (A) と反発係数の式 (B) を和と差でまとめて解く.

  • 1次元の衝突を重心系で見ると,各物体の速度が逆向きの e 倍になる.元の系では ui=(1+e)V−evi(V は重心の速度).

  • 静止した壁や床への垂直な衝突は,速さが e 倍になる.鉛直に落としたボールが床ではね返るときは,高さが e2 倍ずつ減る.斜めの衝突では接線成分は変わらず,垂直成分だけが e 倍になる.

  • 2次元の衝突は,法線成分を1次元の衝突として解き,接線成分はそのまま残す.