問い
なめらかな氷の上で,質量 𝑚 の球が静止しています.そこへ質量 2𝑚 の球を斜めに当てて,弾性衝突をさせます.当て方(中心どうしのずれ)をいろいろ変えても,重い球の進路は,元の向きから 30∘ より大きくは曲がりません.どう当てても超えられない上限があるのはなぜでしょうか.しかも,その値がきれいに 30∘ になるのはなぜでしょうか.
考えてみる
衝突後の2つの速度は,平面では4つの成分です.式は,運動量保存則が2本,運動エネルギーの保存が1本の計3本で,足りない1本は,どこが触れ合ったかで決まる角度です.この角度を残して連立方程式を解けば答えは出ますが,式から「上限」を読み取るのは骨が折れます.そこで第5章の衝突を,前の節のニュートンダイアグラムで一つずつ語り直します.
ポイント 作図の約束
速度を共通の原点 O から描く.衝突前の 𝒗1,𝒗2 の先端を A1,A2,衝突後の 𝒗1後,𝒗2後 の先端を B1,B2 とする.
重心速度の先端 G は線分 A1A2 を 𝑚2 :𝑚1 に内分する点で,衝突しても動かない.重心系の速度は G から測る.
弾性衝突では,B1,B2 は G を中心とする,A1,A2 を通る2つの円の上に,G をはさんで正反対に乗る.円周上の回転角が重心系の散乱角 𝜒 である.
1次元の衝突
正面衝突は 𝜒 =180∘ で,B1 は A1 を G に関して点対称に移した点です.式で書けば 𝒗1後 =2𝑽 −𝒗1 で,𝑽 を代入すると
𝒗1後=(𝑚1−𝑚2)𝒗1+2𝑚2𝒗2𝑚1+𝑚2
です.第5章の 𝑒 =1 の一般解が作図の一行になりました.質量が等しければ G は中点で,B1 =A2,B2 =A1(速度の入れ替わり)です.
反発係数 𝑒 では,重心系の速度が逆向きで 𝑒 倍になるので,円の半径が 𝑒 倍に縮みます.
𝒗𝑖後=𝑽−𝑒(𝒗𝑖−𝑽)=(1+𝑒)𝑽−𝑒𝒗𝑖
失われるエネルギーは,相対運動のエネルギー 12𝜇𝑣2rel の 1 −𝑒2 倍で,12𝜇(1 −𝑒2)𝑣2rel です.𝑒 =0 なら円が G の1点に潰れて,2つは一体になります.
[図:正面衝突はGから反転する]m₁=2m₂,v₁=3,v₂=0の例.Gは2に固定され,e=1,0.5,0で先端までの距離が縮む.
静止した的への弾性衝突
的が静止していれば A2 は原点 O そのもので,G は OA1 上にあって OG =𝑚1𝑀𝑣 です(𝑀 =𝑚1 +𝑚2).的の円は半径が GA2 =GO なので,必ず原点を通ります.入射球の円は半径 𝑚2𝑀𝑣 で A1 を通ります.
質量が等しい場合,2つの円は一致します.B1B2 はその直径で,原点 O も円周上にあるので,タレスの定理により ∠B1OB2 =90∘ です.両球の衝突後の速さが0でないとき,2つの球は直角に分かれます.端点の 𝜒 =0 または 180∘ では一方が静止するため,その速度の方向は定まりません.𝜒 を変えて B1 を円周上で動かしても,B2 は直径の反対側にあるので,直角は崩れません.
[図:等質量の直角散乱を動かす]初期状態はχ=100°の等質量弾性衝突.スライダーでχを変えると,上の軌跡と下の円上の先端が連動し,両球が動く限り直角を保つ.端点では一方が静止する.
初期状態はχ=100°の等質量弾性衝突.スライダーでχを変えると,上の軌跡と下の円上の先端が連動し,両球が動く限り直角を保つ.端点では一方が静止する.
質量が違っても,△OGB2 は GO =GB2 の二等辺三角形で,頂角が 𝜒 です.的の反跳角 𝜑 は底角なので
𝜑=𝜋−𝜒2
です.的が動く 0 <𝜒 ≤𝜋 では 0 ≤𝜑 <90∘ で,𝜒 =0 では的は静止し,反跳角は定まりません.的は,どんな当て方でも入射の向きより前に進みます.底辺は OB2 =2 GOcos𝜑 なので,的が受け取る運動エネルギーの,入射球の運動エネルギーに対する割合は
12𝑚2𝑣22後12𝑚1𝑣2=4𝑚1𝑚2(𝑚1+𝑚2)2cos2𝜑
です.𝜑 =0(正面衝突)で最大の 4𝑚1𝑚2(𝑚1+𝑚2)2 になります.𝑚1 =𝑚2 なら 1(全部を渡す)で,質量が大きく違うと 0 に近づきます.
重い球の最大散乱角
問いに戻ります.𝑚1 >𝑚2 のとき,OG =𝑚1𝑀𝑣 は入射球の円の半径 𝑚2𝑀𝑣 より大きいので,原点 O は円の外にあります.入射球の散乱角 𝜃 は,OB1 と OG のなす角で,O から円に引いた接線のとき最大です.直角三角形 OGB1 から
sin𝜃max=GB1OG=𝑚2𝑚1
です.問いの 𝑚1 =2𝑚2 では 𝜃max =30∘(そのとき cos𝜒 = −𝑚2/𝑚1,𝜒 =120∘)で,答えが出ました.𝜃 <𝜃max の方向には,直線が円と2点で交わるので,速さの違う2通りの散乱があります.𝑚1 =𝑚2 なら O は円周上で,動く入射球の散乱角は 90∘ 未満(90∘ は速さ0へ近づく極限),𝑚1 <𝑚2 なら O は円の内側で,はね返りを含めてどんな向きにも飛べます.
[図:最大散乱角と接線]m₁=2m₂で初期χ=120°,θ=30°.χを0から180°へ動かすと,θは接線の30°まで増えてから減る.2本の接線と半径の直角を示す.
m₁=2m₂で初期χ=120°,θ=30°.χを0から180°へ動かすと,θは接線の30°まで増えてから減る.2本の接線と半径の直角を示す.
B1 の位置を G から測ると,OG 方向に 𝑚2𝑀𝑣cos𝜒,垂直方向に 𝑚2𝑀𝑣sin𝜒 です.これに OG を足して
tan𝜃=sin𝜒cos𝜒+𝑚1/𝑚2
となり,実験室系の 𝜃 と重心系の 𝜒 がつながります.𝑚1 =𝑚2 なら 𝜃 =𝜒/2 で,円周角の定理と合います.
ポイント ここまでのまとめ
正面衝突は 𝜒 =180∘:B𝑖 は A𝑖 の G に関する点対称.𝒗𝑖後 =(1 +𝑒)𝑽 −𝑒𝒗𝑖.円は 𝑒 倍に縮む.
静止した的の円は原点を通る.反跳角は 𝜑 =𝜋−𝜒2,渡せる割合は 4𝑚1𝑚2(𝑚1+𝑚2)2cos2𝜑 で正面衝突で最大.等質量なら 𝜃 +𝜑 =90∘.
tan𝜃 =sin𝜒cos𝜒+𝑚1/𝑚2.𝑚1 >𝑚2 では原点が入射球の円の外にあり,接線が最大散乱角 sin𝜃max =𝑚2𝑚1 を与える.
問いの答え:2𝑚 と 𝑚 なら sin𝜃max =12.原点から円へ引いた接線の向きが曲がれる限界だから,どう当てても 30∘ を超えない.