問いしるべ
問いから始める物理 仕事とエネルギー

仕事とエネルギー

衝突の語り直し:例題

著者:柚木芹香

前の節の作図で,実験や応用の問題を解きます.最後の例題は分裂(崩壊)です.

ポイント 作図の道具:分裂の円

質量 M の粒子が速度 V で飛びながら,質量 m1,m2 の2つの破片に分かれるとする.重心系では,解放されたエネルギー Q(相対運動のエネルギーの増加分)が破片の運動エネルギーの和になり,運動量の和は 0 である.破片の速さ v1′,v2′ は,m1v1′=m2v2′ と Q=12m1v1′2+12m2v2′2 から決まり,決まらないのは向きだけである.

実験室系の破片の速度 vi=V+vi′ の先端は,速度空間で G(V の先端)を中心とする半径 vi′ の円周上にあり,2つの破片は G をはさんで正反対に乗る.vi′<V なら原点 O は円の外で,最大角は sin⁡θi,max=vi′/V.vi′>V ならすべての向きに飛ぶ.vi′=V なら動く破片は前方へ飛び,直角方向は速さ0へ近づく極限である.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

霧箱の中で,速さ v のα粒子(質量 4.0u)が,静止している原子核に弾性衝突する.多数の飛跡を調べると,α粒子の進路が元の向きから曲がる角度は,どれも 30∘ を超えず,ちょうど 30∘ になるものがあった.

質量4.0 uのα粒子が静止核に入射する.観測された最大角30°を示し,核の質量や速さは示さない. 質量4.0 uのα粒子が静止核に入射する.観測された最大角30°を示し,核の質量や速さは示さない.
  1. 的の原子核の質量は何 u か.

  2. 最も大きく曲がったときのα粒子の速さと,原子核の速さを v で表せ.

  3. 的の質量が 20u だったら,曲がる角度に上限はあるか.

解答を見る

考え方 的が静止しているので A2=O.速度空間に,G を中心とする入射球(α粒子)の円を描き,原点から引いた接線で最大の角を読む.

  1. 上限があるのは,原点が入射球の円の外にあるとき,つまり α粒子が的より重いときで,sin⁡θmax=m2/m1 である.sin⁡30∘=12 より m2=4.0×12=2.0u(重水素の原子核).

  2. M=6.0u なので OG=4.06.0v=23v,入射球の円の半径は 2.06.0v=13v である.最大角のとき OB1 は円の接線で,OB1⟂GB1 だから

v1後=OB1=(23v)2−(13v)2=v3≈0.58v

である.このとき cos⁡χ=−m2m1=−12,χ=120∘ で,反跳角は φ=π−χ2=30∘.原子核の速さは OB2=2GOcos⁡φ=43v⋅32=2v3≈1.15v である.

確かめ:エネルギーは 12⋅4.0⋅v23+12⋅2.0⋅4v23=2.0v2(u を単位とする)で,初めの 12⋅4.0⋅v2=2.0v2 と等しい.

  1. 的のほうが重い(m1<m2)ので,OG=424v=16v は円の半径 2024v=56v より小さく,原点は円の内側にある.よって上限は無く,χ=180∘ では逆向きに速さ 23v ではね返る.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

速さ v の中性子(質量 1.0u)が,静止した炭素12の原子核(質量 12u)と弾性衝突する.

炭素の場合はOが円の内部,水素の場合は円周上にある.左右の端点を示すが,求める速さやエネルギーの値は記さない. 炭素の場合はOが円の内部,水素の場合は円周上にある.左右の端点を示すが,求める速さやエネルギーの値は記さない.
  1. 1回の衝突後の中性子の速さの最大値と最小値を求めよ.1回で失うエネルギーの割合は,最大でどれだけか.

  2. 重心系での散乱の向きが全方向に等しい確率で起こるとき,衝突後の運動エネルギーの平均値は,衝突前の何倍か.的が水素の原子核(質量 1.0u)ならどうか.

  3. 平均の運動エネルギーが衝突前の 110 以下になるまでに,炭素と水素でそれぞれ何回ほど衝突が必要か.

解答を見る

考え方 原点 O は円の内側にあり,中性子の速さは OB1 の長さである.B1 が円周上を回ると,OB1 は最大と最小の間を動く.

  1. M=13u なので OG=113v,円の半径は 1213v である.最大は 1213v+113v=v(χ=0,変わらない),最小は 1213v−113v=1113v≈0.85v(χ=180∘,はね返り)である.エネルギーの最小は (1113)2=121169 倍なので,失う割合は最大 48169≈0.28 で,4m1m2(m1+m2)2=48169 と一致する.

  2. 三角形 OGB1 の余弦定理から,OB12=OG2+GB12+2OG⋅GB1cos⁡χ である.χ が全方向に一様なら cos⁡χ の平均は 0 なので,OB12 の平均は OG2+GB12 である.炭素では 1+144169v2 だから,エネルギーの平均は 145169≈0.86 倍.水素では OG=GB1=12v なので 12 倍である.

  3. 1回ごとに平均が (2) の倍率になるので,n 回で倍率の n 乗である.炭素:(145169)n≤110 より n≥ln⁡10ln⁡(169/145)≈15.03,つまり16回である(15回では約0.1005倍で,まだ 1/10 より大きい).水素:(12)n≤110 より n≥3.3,つまり4回である.

例題 3

オリジナル ★★★★☆

質量 3m の粒子が速さ V0 で飛んでいて,質量 m の破片Aと質量 2m の破片Bに分裂した.粒子と一緒に動く系で見ると,Aの速さは V02 だった.

[図:動く崩壊の円]

初期分裂方向は100°.Gを中心とする半径V₀/2とV₀/4の円上で,破片A,Bの先端は反対側に並ぶ.スライダーで上の軌跡と下の速度を同時に変更できる.

  1. 分裂で解放されたエネルギー Q を求めよ.

  2. 実験室系で,Aが飛ぶ向きは粒子の進行方向から最大で何度か.そのときのAの速さと,Aの速さの範囲も求めよ.

  3. 実験室系で,Bが飛ぶ向きの最大角を求めよ.

  4. 解放されたエネルギーが4倍だったら,AとBの最大角はどうなるか.

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考え方 重心系では運動量の和が 0 だから mvA′=2mvB′.破片の先端は G を中心とする円周上にあり,原点から引いた接線で最大角が決まる.

  1. vA′=V02 なので vB′=V04.

Q=12m(V02)2+12(2m)(V04)2=316mV02

粒子は重心系で静止していたので,運動エネルギーの和がそのまま Q である.

  1. 速度空間で OG=V0,Aの円の半径は V02 で,O は円の外にある.接線のとき sin⁡θA,max=V0/2V0=12 なので θA,max=30∘.速さは接線の長さ V02−(V02)2=32V0≈0.87V0.速さの範囲は OG から円の半径を引いた長さと足した長さの間で,12V0 以上 32V0 以下である.

  2. Bの円の半径は V04 なので sin⁡θB,max=14 で,電卓で角を求めると θB,max≈14.5∘ である.

  3. Q が4倍になると,重心系の速さは 4=2 倍で,vA′=V0,vB′=V02.Aの円は原点を通るので sin⁡θ=1,角度の上限は 90∘ である.ただし,原点に来る破片の速さは0で方向が定まらないため,動くAは 90∘ 未満の前方へ飛び,直角は極限としてのみ近づける.Bは sin⁡θmax=12 で 30∘ である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 的が静止した弾性衝突では,的の円が原点を通る.m1>m2 の入射球には最大散乱角 sin⁡θmax=m2/m1 があり,これを測れば的の質量が分かる(m2=m1sin⁡θmax).

  • 1回の衝突後の入射球の速さは OB1.重い的ほど最小値が v に近く,減速が遅い.等方散乱なら平均エネルギーは m12+m22(m1+m2)2 倍になる.

  • 分裂した破片は,速度空間で G を中心とする円の上に,G をはさんで正反対に乗る.0<v′<V での最大角は sin⁡θmax=v′/V.v′>V なら全方向に飛び,v′=V なら前方へ飛ぶ(直角は速さ0へ近づく極限).