問いしるべ
問いから始める物理 仕事とエネルギー

仕事とエネルギー

保存力とポテンシャルエネルギーの演習

著者:柚木芹香

ポテンシャルの値と差を区別し,力の仕事へ結びつけてみましょう.往復の仕事や偏微分を使って,保存力の意味を確かめます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 3.0kg の荷物を,高さ yA=1.0m から yB=4.0m へ運ぶ.g=10ms−2 とする.

  1. 床を基準とするポテンシャルエネルギー UA,UB と重力の仕事を求めよ.

  2. 高さ 2.0m を基準に変えた場合を求めよ.

  3. 途中で高さ 5.0m を通ってからBへ下ろすと,重力の仕事は変わるか.

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考え方 基準の変更は全ての位置のポテンシャルに同じ定数を加える操作である.仕事には差だけが現れる.

  1. UA=mgyA=30J,UB=120J.重力の仕事は Wg=UA−UB=−90J である.持ち上げる手の仕事と符号を取り違えない.

  2. 新しいポテンシャルは U新=mg(y−2.0m).したがって U新,A=−30J,U新,B=60J となる.差は −90J で変わらない.負のポテンシャルは基準より下にあることを表し,それ自体に矛盾はない.

  3. 上る部分の仕事は −3.0×10×4.0=−120J,下る部分は +3.0×10×1.0=30J.合計はやはり −90J.距離ではなく始点と終点の高さだけで決まる.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

軽いばねの一端を固定し,自然長からの伸びを x とする.ばね定数は k=100Nm−1 で,負の x は圧縮を表す.

  1. x=0.20m と x=−0.10m の弾性エネルギーを求めよ.

  2. 前者から後者へ移る間の,ばねの仕事を求めよ.

  3. さらに元の位置まで戻したとき,往復全体のばねの仕事はどうなるか.

圧縮と自然長と伸長.固定ばねの圧縮位置x<0,自然長位置x=0,伸長位置x>0を同じ水平軸に示す. 圧縮と自然長と伸長.固定ばねの圧縮位置x<0,自然長位置x=0,伸長位置x>0を同じ水平軸に示す.
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考え方 ばねのエネルギーは伸びの2乗に比例し,伸ばす場合も縮める場合も増える.ばねの仕事は終点のエネルギーを始点の値から引く.

  1. 自然長を基準にして U(x)=kx2/2.したがって U(0.20)=2.0J,U(−0.10)=0.50J である.圧縮だから負になるわけではない.

  2. W=2.0−0.50=1.5J.自然長まではばねの力と変位が同じ向きで +2.0J,自然長から圧縮される部分では逆向きで −0.50J となり,足しても同じ値である.

  3. 帰りの仕事は 0.50−2.0=−1.5J なので全体では0.途中で手がどのように力を加えても,ばねそのものがする仕事は両端の伸びだけで決まる.手の仕事とばねの仕事を分けて考える必要がある.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の物体を粗い水平な台上で,点Aから距離 L 離れた点Bへ滑らせ,別の外力で向きを変えて同じ道をAへ戻す.全行程で動摩擦係数は μ′ である.

  1. 往路,復路,往復全体の摩擦の仕事を求めよ.

  2. 摩擦に対して位置だけで決まる U(x) を定義し,常に W=U始−U終 と書けるだろうか.

  3. 折り返しを含め,始めと終わりを同じ速さにしたとき,摩擦以外の水平な外力の仕事の合計を求めよ.

往路と復路の摩擦.水平な台上にAとB,距離L,往路と復路を別の段に示し,各段で運動と逆向きの摩擦を示す. 往路と復路の摩擦.水平な台上にAとB,距離L,往路と復路を別の段に示し,各段で運動と逆向きの摩擦を示す.
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考え方 帰りには変位だけでなく摩擦力の向きも反転する.閉じた経路の仕事を調べれば,位置だけのポテンシャルが作れるか判断できる.

  1. 各片道で力は運動と反対向きで,N=mg.往路も復路も −μ′mgL,合計は −2μ′mgL となる.変位の合計は0だが,道のりは 2L である.折り返しが瞬間的でも,そこでの摩擦の仕事は移動距離が0の極限で0である.

  2. もし U(x) があれば,一周の仕事は U(A)−U(A)=0 のはずである.実際には負なので矛盾する.したがってこの摩擦を位置だけのポテンシャルで表すことはできない.

  3. 始めと終わりで ΔK=0 より W外−2μ′mgL=0.よって W外=2μ′mgL.失われる力学的エネルギーを外から補っており,往復したから投入エネルギーも0とはならない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

1次元の力が F(x)=A−Bx で与えられる.A,B>0 とし,A は力,B は力を長さで割った次元をもつ.

  1. U(0)=0 としてポテンシャルを求めよ.

  2. 力が0になる位置 x0 を求め,U を (x−x0)2 を用いて書き直せ.

  3. x=0 から x=2x0 までの仕事を求め,前半と後半に分けて符号を説明せよ.

直線的に変わる力.Fとxのグラフに直線F=A−Bxを示している.縦軸切片Aと横軸の0,2A/Bを表示する. 直線的に変わる力.Fとxのグラフに直線F=A−Bxを示している.縦軸切片Aと横軸の0,2A/Bを表示する.
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考え方 F=−dUdx の負号に注意して積分する.定数は基準条件で決め,平方完成で形を読み取る.

  1. U(x)=−∫0x(A−Bξ)dξ=−Ax+Bx2/2.微分して負号をつければ元の力に戻る.

  2. x0=A/B であり,平方完成すると

U(x)=B2(x−AB)2−A22B

となる.つり合い位置を基準に変えれば最後の定数項は消せるが,力の式は変わらない.右へずらすと F<0,左へずらすと F>0 で,つり合いへ戻す力が働く.

  1. U(2A/B)=U(0)=0 より全仕事は0.前半では U が A2/(2B) だけ減るため仕事は正,後半では同じ量だけ増えるため仕事は負である.合計が0でも,途中の速さが一定であるとは限らない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

平面全体でポテンシャル U(x,y)=k2(x2+2y2)+cxy が定義される.k>0,c は定数で,どちらも単位は Nm−1 である.

  1. 力の2成分を求めよ.

  2. O(0,0) から B(L,L) への仕事を求めよ.

  3. Oから (L,0) を経由する経路の線積分で確かめよ.

ポテンシャルと積分経路.xy平面にO,(L,0),B(L,L)と,軸に平行な経路を示している. ポテンシャルと積分経路.xy平面にO,(L,0),B(L,L)と,軸に平行な経路を示している.
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考え方 片方の座標を固定して偏微分する.仕事はポテンシャルの差から求め,区間ごとの積分と照合する.

  1. Fx=−kx−cy,Fy=−2ky−cx である.混合項 cxy は両方の成分に寄与する.例えば x で微分するとき,y は定数として残る.

  2. U(O)=0,U(B)=(3k/2+c)L2 より W=−(3k/2+c)L2.c の値によって仕事の符号は変わり得るが,保存力であることとは矛盾しない.

  3. 最初の区間は y=0 なので W1=∫0L(−kx)dx=−kL2/2.次は x=L なので

W2=∫0L(−2ky−cL)dy=−kL2−cL2

である.和は (2) に一致する.各区間で変位が0の成分の力は仕事に入らない.保存力かどうかを2経路だけで推測したのではなく,平面全体で同じ U が与えられていることが経路によらない根拠である.

ポイント 教える人へ

  • 基準を変えたときに何が変わらないかを,数値と言葉の両方で答えさせる.

  • ばねの圧縮でエネルギーが負になるという誤解には,仕事を自然長の前後に分ける方法が有効である.

  • 摩擦の復路では,変位だけでなく力の向きも変わることを図で確認する.

  • ポテンシャルを求めた後,必ず微分して力へ戻す検算を習慣にする.