問いしるべ
問いから始める物理 仕事とエネルギー

仕事とエネルギー

エネルギー保存の使い方

著者:柚木芹香

問い

ジェットコースターには,多くの場合エンジンがありません.最初にゆっくり高い所まで引き上げられたあとは,坂を下る勢いだけで走ります.コースの途中には,垂直なループがあります.ループの頂上で落ちずに回り切るためには,出発点を最低どれだけの高さにしておく必要があるでしょうか.

考えてみる

エネルギー保存則から考えてみましょう.コースがなめらかなら,出発点の高さ h の位置エネルギーが,ループの頂上(高さ 2R)での位置エネルギーと運動エネルギーになります.素朴には「頂上まで届けばよいので h=2R」と考えたくなります.この場合,頂上での速さは 0 です.

しかし,頂上で速さが 0 の物体は,その場で落ちてしまいます.頂上は円運動の一部なので,向心力が必要です.頂上でちょうど落ちないために必要な速さは,エネルギー保存だけでは決まりません.円運動の条件(運動方程式)と組み合わせる必要があります.

エネルギー保存で解く手順

エネルギー保存則を使う問題は,次の流れで解きます.「図・原理・式・検算」の枠組みに沿っています.

ポイント 手順

  1. 図:始点と終点を決める.物体にはたらく力をすべて描き,高さの基準を決める.

  2. 原理:力を3種類に分ける.保存力(位置エネルギー U で表す),仕事をしない力(動きに垂直な力.固定点からの糸の張力や固定された面の垂直抗力など),仕事をする非保存力(動摩擦力など).

  3. 式:始点と終点で E=K+U を書き,非保存力の仕事 W′ を含めて立てる.

  4. 検算:単位,符号(W′<0 なら E が減る),極端な場合を確かめる.

非保存力がはたらくとき,式は次のようになります.仕事と運動エネルギーの定理 ΔK=W保存+W′ に,W保存=−ΔU を入れて導けます.

法則 力学的エネルギーと非保存力の仕事

ΔE=Δ(K+U)=W′

W′ は,保存力以外の力がする仕事の合計.動摩擦のように W′<0 なら E は減り,減った分は内部エネルギーなどに変わる(この章の「エネルギーの諸形態」の節と第16章で扱う).

静止した面の上を物体が滑り,動摩擦力の大きさ μ′N が経路上で一定のとき,動摩擦力の仕事は,動いた道のり s を用いて W′=−μ′Ns と書けます.道のりであって変位でないのは,動摩擦力が常に面に対する滑りと逆向きだからです.曲面などで N が変わるときは,W′=−∫μ′Nds と積分で求めます.

束縛と組み合わせる:ループの最小の高さ

問いに戻ります.ループの半径を R,質量 m の台車(乗客を含む)は摩擦なしで高さ h から静かに出発し,ループの最下点を基準の高さとします.

高さhからループへ入るコース.なめらかなコースが高さ \(h\) の出発点から下り,最下点で半径 \(R\) の円形のループに入る.出発点,ループの最下点,頂上の位置を示す. 高さhからループへ入るコース.なめらかなコースが高さ \(h\) の出発点から下り,最下点で半径 \(R\) の円形のループに入る.出発点,ループの最下点,頂上の位置を示す.

ループの頂上では,重力 mg と垂直抗力 N(どちらも下向き,円の中心向き)が向心力になります.運動方程式は

mv2R=N+mg

です.N は面が物体を押す力で,負にはなれません.面から離れる限界が N=0 です.したがって落ちない条件は N≥0,つまり

v2≥gR

です.

ループ頂上での力.ループの頂上にある台車にはたらく力を示している.重力 \(m\vec{g}\) と垂直抗力 \(\vec{N}\) が下向き(円の中心向き)で,速度 \(\vec{v}\) が水平であることを示す. ループ頂上での力.ループの頂上にある台車にはたらく力を示している.重力 \(m\vec{g}\) と垂直抗力 \(\vec{N}\) が下向き(円の中心向き)で,速度 \(\vec{v}\) が水平であることを示す.

次に,出発点から頂上までに力学的エネルギー保存則を用います.コースは固定されているので,垂直抗力は動きに垂直で仕事をしません.

mgh=mg(2R)+12mv2

これに v2≥gR を入れます.

h=2R+v22g≥2R+R2=52R

最小の高さは 52R で,ループの頂上の高さ 2R の 1.25 倍です.頂上でちょうど N=0(速さは gR)の状態です.たとえば R=8.0m なら h≥20m,そのときの頂上の速さは約 8.9ms−1 です.

検算します.h は長さの次元です.半径が大きければ高い所から出発する必要があり,結果もそうなっています.質量 m が式に残らないのも,重力と慣性が同じ m に比例するからで,自然です.

エネルギー保存は,時間を知らなくても高さと速さを結べる点が強みです.反対に,始点と終点のエネルギーの式だけでは「何秒かかるか」は分かりません.時間を知るには,速度と時間を結ぶ追加の計算が要ります.たとえば1次元の保存力による運動で,向きが変わらない区間なら,エネルギー保存から得た v(x) を使って t2−t1=∫x1x2dxv(x) と求められます.一般には運動方程式に戻ります.

エネルギーと運動量の使い分け

運動量保存則とエネルギー保存則は,どちらも使えるときと,片方しか使えないときがあります.

運動量保存

エネルギー保存

成り立つ条件

外力の合計が 0(または衝突の瞬間など外力が無視できる短い時間)

保存力だけ(または非保存力の仕事を足す)

向き

ベクトル(成分ごと)

数(スカラー)

向く場面

衝突,分裂,内力が複雑な系

高さと速さの関係,道筋が複雑なとき

衝突では運動量が保存しても,運動エネルギーは保存しません(非弾性衝突).弾丸が木片に刺さって一緒に動く場合,刺さる瞬間は運動量保存で扱い,そのあと振り上がる運動はエネルギー保存で扱う,というように段階に分けて使います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 手順は「図・原理・式・検算」.力を保存力,仕事をしない力,非保存力に分けて,ΔE=W′ を立てる.

  • 非保存力の仕事は,大きさ μ′N が一定の動摩擦力なら −μ′Ns(s は道のり).

  • ループなど面に束縛された運動では,エネルギー保存に運動方程式の条件(頂上で N≥0)を組み合わせる.

  • 運動量保存は衝突などの短い時間,エネルギー保存は高さと速さの関係に向く.組み合わせて段階に分ける.

  • 問いの答え:頂上で v2≥gR が必要なので,出発点の高さは h≥52R.頂上の高さ 2R では足りない.